「銀さん、早く!おいてきますよ、今日も探さないと」

「分かった、オメーら先行ってろ。準備済ませたら直ぐ行く」


カンカンと万事屋の外階段を降りて行く音を見送って、銀時は台所に向かった。
子どもたちは今日も猫探しに忙しい。


溶いた卵を卵焼きにする間に、隣のコンロでウインナーとサケの切り身を転がす。
野菜ジュースをコップに注ぎ、小さなお盆に載せて銀時は台所を出た。
毎日毎日よくもまあ飽きないものだ、あの子らも・・・・・依頼人たちも。


ただいま受け持っている依頼は中々にでかい仕事だ。
何と言っても依頼人が幕府関係者。
しかも知り合いが依頼人と言う事だけあって断れず、こうして毎日毎日地道に聞き込み調査をしているのだが。
なんだかなあ。銀時はのり気ではなかった。


がら、と寝室の扉を足で開ける。

部屋の窓のカーテンは開いていて、外からの日の光が明るく畳の一部を照らしていた。
お盆を持ったまま、銀時はそこからちらりと外の景色を伺い見る。
道の向こう側で写真を手に聞き込みをする「依頼人たち」の姿が見えた。
・・・・毎日毎日、自分達の職務にプラスして、ご苦労な事だ。

銀時はカーテンを閉めた。


お盆を傍らに置き、部屋の一番隅の押し入れをがらりと開ける。

「おら、餌の時間だぞ。出といで」

押し入れの奥にうごめいたのは、一人の娘。


銀時に手招きされて、娘はじゃらりと押し入れの奥から入口まで這い出てきた。
じゃらりと鳴ったのは、娘の左足に繋がれた銀色の重々しいわっか。
娘は何も言わない。

首に包帯を巻いている以外、足枷という異様なオプションは付いているものの、目立った怪我もなく健康的な娘だ。
銀時はそんな彼女の頭をくしゃくしゃと撫でながら、明るくなったカーテンを目で示した。


「中々諦めねーのな。お前ん飼い主」

「・・・・」

「もう一ヶ月にもなるのにねェ、・・お前が失踪してから」

「ね、
そう呼ばれて、撫でられていた娘はピクリと反応した。


「お家に帰りたい?」


困ったような顔をして、こくりと頷く。
銀時はそっか、と笑って、「飯にするか」と側にあったお盆を引き寄せた。

「ゆっくりかんで食べるんだぞ」

差し出した卵焼きを頬張りながらゆっくりと黙々口を動かす娘を見て、銀時は目を細めた。





一か月前。
何が引き金だったかは分からない。

自分にほほ笑みかけるこの娘に、ざあっと脳の一部が犯された。
気づいた時には首輪じゃなくて足輪を付けて、自分の部屋の押し入れに放り込んでいた。


一瞬前まで自分に対して笑顔だった男に攫われたというのに、この娘は随分と従順だ。
大人しくしていろと言えば真っ暗な押し入れの中で物音一つ立てなかったし、
何が入っているか分からない自分の与えるものも、差し出されれば素直に口にする。
本当に愛玩動物を一匹飼ってるみたい。

今だって、
食後の「ちゅう」をして、大人しく銀時の膝の上で撫でられていた。


・・・・・・・・・



まったりと、時間が過ぎる。


子どもたちや依頼人たちは、今日も今日とて「猫」探しに忙しい。




新八は分からないが、同じ屋根の下で暮らしている神楽は恐らく気づいているだろう。
最近二人でいる時に緊張するようになったのが何よりの証拠。
俺が気づいていないとでも思っているのか。
あのびくつきようを見る限り、放っておいても他人に離すことはしないだろうが。

必死に捜索を続ける真選組の面々を見て心が痛まない訳じゃない。

「そろそろ行かねーとな。お前探しに。新八に怒られちまう」

見つかるはずのない娘を、今日も今日とて、自分は探しに行く。
いい子にしてるんだよ、と言えば、娘はまたこくりと頷いた。


「なあ」

「名前呼んで。銀さんって」

「・・・・・・・」


娘は少しだけ表情を変えて、僅かに苦笑いをする。
銀時はゆっくりと指を伸ばして、彼女の首に巻かれた包帯を撫でた。


「もう一回だけで良いからさぁ・・・」


娘は首を横に振る。


彼女を「飼い」初めて真っ先に喉を潰した。

商売がら、表に裏に知り合いは多い。
腕は確かな闇医者の手によってこのとおり。一回熱が出ただけで膿みも感染症もない。

広くない家だ、騒がれたら直ぐに勘付かれる。
そう思っての対処。でも。


「何でかなァ・・・ずっとお前の事見てきたのに。もう、声、思い出せない」
「・・・・・・・」



失ったものこそまた欲しくなる、というのは本当で。
もう一度、声を聞かせて欲しい、と思う。

言って欲しい言葉があるのに。

一言、銀時に向けて放って欲しい言葉があるのに。

もう、一生・・。


喋ってくれたら、お家に返してやるから。
そう言っても、娘は首を横に振った。


「なあ、お願い」


たったひとことでいい。

喋って。


そして、




















「だいきらい」って俺に言って欲しい。



back