「銀ちゃん」
「銀ちゃんてば」
ふんわりほんわか、まるで冬のひだまりのようにあったかい声とともに、体が揺らされる。
ばふっ。
ぐふ、と息が詰まって重たい瞼を開けると、目と鼻の先に不機嫌そうな顔。
「うあ・・今何時」
「2時」
「夜中じゃねぇか・・」
「違うもん、真昼間だよ」
ねぇねぇ、寝てないで手伝ってよう。
不機嫌な顔はパッと離れてパタパタと走り去ったかと思うと、少しもたたないうちにまたパタパタと帰って来る。
そして今度は明らかに狙ってみぞおちにダイブしてきやがった。
「うぶごっ」
「ねーえー!起きてー!」
「あー!うっせー馬鹿猫!」
「馬か鹿か猫かどれかにしてくださいぃー」
「休みの日くらいゆっくり寝させろよォ」
「ゆっくりにも程がありますぅー」
「なに」
「あのねあのね」
むすっとしていた目の前の顔がぱあっと明るくなる。
半身を起した銀時の前にちょこんと座った少女は、ひょい、と手の中に持っていたものを持ち上げた。
手のひらにすっぽり収まるような小さな小瓶。その中には細かいラメの入ったスカイブルーのとろりとした液体がキラキラと輝いている。
「これ、ぬってー」
にこっと笑った顔に、リンっと鈴の音が重なった。
**絶対切れないリードの出現条件**
「なに」
「マニキュアー!あのね、姐御のおふるなの!」
「知ってる。そーじゃなくて、ナニ?なんでこんなモンつけんの」
「いいじゃんたまには。私一人じゃぬれないの、銀ちゃん、ぬって」
はい!と開いた両手を差し出して来る少女・・・に、銀時はため息をつきながらマニキュアの蓋を捻り・・・
・・もう一度閉め直す。
「お前、今日どっか行くの」
「そうだよ」
「誰と。どこに」
「総悟がご飯奢ってくれるって言うから、夕方から出かけて来る」
「・・・・・」
「総悟ね、明日仕事休みなんだって」
「泊まりなのか?!」
「えぇ?違うよう。ちゃんと9時までにウチに送ってくれるって言ってたもん」
「信用できねえ!」
イヤ信用しろって方が無理な話だよね?!俺許さないよ?寧ろ俺にも何か奢れあのくそガキ!
そんなことをぐるぐる考える銀時の前で、は「あ、そうだ」と懐をごそごそとあさりだす。
取り出したのは一枚の封書。
「総悟がね、銀ちゃんにって。出かけてから読んでって・・・あああ!何今から読んでんの!」
「出かけてから読んだら手遅れだろうがそれ確実に!!」
「あーもう・・また怒られる・・・」
広げた紙には丁寧な文字で「旦那へ」から始まる文章がつらつらと書かれていた。
『旦那へ。
お宅の娘さんの事なら何も心配いりません。
沖田総悟の名にかけて、夜9時までには万事屋にお送りいたします。
――― ただ、夜9時と言うのは今晩の事なのか、明日の晩の事なのかは、俺にも分かりません。
何も心配いりません。
沖田総悟の名にかけて、明日夜9時まではは俺のものだ。
沖田総悟』
「予想通りじゃねーかァァァァァアア」
ばりーんと破かれた文は散り散りになって布団の上に落ちる。
あの男ふざけやがって!
そして!銀時はを睨みつけた。「お前ものこのこ付いてくな!」
「えー?」一方睨まれたは不貞腐れた表情。折角久しぶりに遊べると思ったのに。
「つかなに?アイツと会うために爪に色なんか付けちゃったりしちゃったりするワケお前?何で?何であんなドSと会うのにめかしこむ必要があんの」
「女になるからには外出する時くらい身だしなみを整えて来るもんだって教えてもらった」
「それ明らかに女の前にカッコで(おれの)が入るパターンだよね?!」
「いいからぬってよー。私じゃ上手にぬれないの。お願い銀ちゃん!ほら準備しないと待ち合わせの時間になっちゃう」
「チクショー!男と会うために時計を気にするなんて女らしいことしやがって!」
「はやく!」
うぐぐ、銀時は奥歯をかみしめた。だからと言ってここで怒鳴り合えばに風のごとく逃げられるのは必須。
くそ、あのドSめさてはあの文面も早めにが銀時に見せることを見越した上での文面だな!馬鹿のくせに小賢しい!!
ふぅぅぅ・・・大きく息を吐く。
この娘は本気になれば絶対に逃げられる必殺技があるのだ。これ以上刺激するのは危険。
銀時はやれやれと言った表情でマニキュアの蓋を開けた。「手、出してみ」
は、やった!勝った!と嬉しそうに両手を差し出す。
素直にぺたぺたとぬってやれば少女はくすぐったそうに喉を鳴らした。
「もう、銀ちゃんたら心配性ね。私だっていつまでも総悟に良いように扱われてばっかりいないのよ」
こないだだって出し抜いてやったんだから!と自慢げに言う娘に、手はふさがっているから頭突きで攻撃する。もちろん軽ーく。
「アホか。そーゆう自信過剰なのが既にフラグなんだよ!」
「ふらぐ?フラグって何?死亡フラグ?」
「知ってんじゃねーか」
「死亡フラグしか知らない」
「それ本当に知ってんの?」
試しに使ってみ、と言えば、はしばらくうんうんうなった後に、
「・・・・今日死亡フラグが安売りしてて・・」
なんてこぼしたものだから、銀時は噴き出した。つられても笑う。
やっぱり知らねぇんじゃねェか!!あはははは!知らない!でも今の使い方はおかしいのは分かる!
両手が濡れたのでそのまま小さな体をひっつかんでひっくり返す。
「きゃっ!」
「足もぬれっつんだろ」
「乱暴しなくても出せって言ってくれれば出したのに!」
「布団につけんなよー。付けたら最後一生布団を引きずって生活する事になるぞ」
「ええっ!マニキュアってそんなに強力なの?!」
適当に言いくるめてやればはあおむけで布団につかないよう手足を伸ばしたまま動かなくなる。
ふん、チョロイもんだぜ。
「ねー銀ちゃん、コレ渇くのに何分くらいかかる?」
「一時間」
「そんなに?!嘘!!」
「イヤこのマニキュアは特別な奴だから。綺麗な色な代わりにぬるのにも手間がかかるんだよ」
両足の爪も塗り終わると銀時はくしゃりとの頭を撫でた。
気持ちよさそうに目を閉じるを見て、銀時も目を細める。
「なー、銀さんとお昼寝しよーぜ」
「えー?銀ちゃんさっきまで寝てたじゃない。まだ寝るの?」
「イヤ?」
「んー・・でも・・」
手のひらはピンと広げたまま、眠そうに手の甲で瞳をこするは、「総悟と約束あるし・・」と悩んでいる。
久しぶりに兄貴分に遊んでもらえるのが相当嬉しいらしい。
もうちょいか。ごろんとの隣に横になった銀時はそのまま隣の娘の体を抱きしめた。
「あっ!銀ちゃんっ」
「何その必死な声。何もしてねーだろ俺」
「くっついちゃう!」
「・・・・あー・・」
「きゃあああ!何触ってるの!一生引きずることになるよ?!」
「いーだろ、一生くっつくのが布団じゃなくて銀さんなら」
「むぅ・・・」
「まぁアレ嘘だけどな」
「えー!」
あーあ、べたべた。ぬりなおさなきゃ。何て言いながらも、寝ころんで抱きつかれたは既に腕を銀時の腰に回している。
「なーなー。今日新八も神楽もいねーじゃん?俺一人で晩御飯食べるの寂しいんだけど」
「でもいないってことは、ちょっとくらい夕飯遅くなっても良いってことだし」
「ひと眠りしたら、何でも好きなモン作ってやるよ?」
「デザート付き」
ぴくぴくっ。その言葉に、の頭は反応し、黒髪のはねっ毛が耳のようにぴょこんと動く。
ゆっくりと顔を上げる。きらきら輝く瞳が銀時をとらえて、銀時は心の中でにやりとほくそ笑む。
こうなったら、勝ちだ。
「プリンとババロア、どっちが良い?」
「ババロア!!」
「あ、アイスも乗っけるか?」
「アイス?!」
「そーだよー、前100均でキレーなグラス買ったろ?それにーババロア載せてー、アイス乗せてー、ホイップ」
「ホイップ?!パフェじゃんっ!?」
「そーそー、自作パフェ。あ、この前新八が買ってきたウエハースがあったなーそれさしたらぽくね?」
「ぽい!!」
「ほい、ケータイ」
「わあー!ぱふぇ!」
銀時の腕の中で瞳をキラキラさせながらオトモダチに断りのメールを送る娘を見ながら・・・、
銀時はに見えないようににやりと歯を見せて笑った。
計画通り!!
「あ、でも総悟怒るかなぁ・・」
「銀さんが一緒に怒られてやるから」
「本当?」
「ん。じゃーお昼寝すっか。起きたら買い出しな」
「うんっ!」
元気よく返事をしては銀時にしがみつく。その声は鈴の音が響くようにりんっと跳ねた。
from:
title:ごめん!!
本文:
今日晩御飯パフェだから行けなくなっちゃった!!
また今度遊ぼうね!
from:そうご
title:Re:ごめん!!
本文:
なんで?!
パフェくらい俺が食わせてやらぁ
from:
title:Re:Re:ごめん!!
うーん、でも、銀ちゃん作のパフェだから!!!
世界に二つとない苺チョコが乗ったパフェらしいから!!!!!
あ、やべぇ。コイツめちゃめちゃ興奮してやがる。
びっくりマークの量がそれを物語っている。
それにしても。流石は旦那。畜生。
美味い甘味屋を探さねば、旦那じゃ食わせてやれねーような高いとこ!
携帯をしまった一番隊隊長は、とりあえずこのむしゃくしゃをおさめるために、目の前の上司にバズーカの照準を合わせる。
はいお疲れ様でした!10000hitリクで「銀ちゃんとまったりイチャつく」でした!ひっさびっさの銀スプヒロイン!
あ、知ってます?鋼の錬金術師書いてた人が今サンデーで連載してるお話の名前も銀のスプーンなんですよね。びっくり。
正確には「銀の匙」ですけど。
あ、コレも言いましたっけ?銀スプ2を書こうと思ってるんですよね。実は。むふふ。
リクエストありがとうございました!こんなものでよろしければ貰ってやってくださいまし!
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