穏やかな昼下がり。屯所で住み込み雑用をして働くは、本日も客間の掃除がひと段落ついたところで、局長室にお茶を持って行った。
「失礼します」と言って入れば部屋の主、局長近藤勲は難しい顔で頭を捻っている。
「どうしたものか・・・」と頭を掻く近藤に、はお茶を差し出しながら尋ねた。「どうしたんですか?」

「ありがとう、ちゃん。・・・んー・・どこが悪いんだろうなァ・・」
「あら。屯所内での企画ですか?」
「ああ、毎年やってるんだが、どうにも参加者が増えなくてなァ・・・何とかならねェもんか」

近藤が持っている企画書をちらりとのぞく。
もっといろんな奴らに参加して欲しいんだけどなァ・・なんて言う近藤の横で、その書類に書かれた文字を見てはぱちぱちと目を瞬かせた。


『真選組屯所内、腕自慢大会!』






**猫が海老で隊を釣る**







腕自慢大会。その名の通り、屯所内で腕に自信のあるものを集って誰が一番強いかを決める大会だ。
実力主義の真選組ならではの出し物で、上司部下問わず己の力量を直接局長副長に見てもらえる数少ない機会。
優勝者には賞金と、副賞もちゃあんとつく。それでも毎年参加者が少ないのはどうしてか。
局長としては皆にもっと腕を磨いて欲しいし、その磨いた腕を見せつけて欲しいところなのだが。
強制参加の各隊長のみで繰り広げられる稽古の延長で、裏で誰が勝つかのかけごとの種と化していた。これではその隊長格の者たちもやる気が起きない。

頭を抱える局長を横目に見て、は紙の一部を指差した。
参加者が少ない、原因は明らかである。

『副賞として、優勝者は参加者の中から一人選び、一日言う事を聞かせることができる』

どこの小学生ルールだよ?!
例え勝ったとしても自分より上の人間を一日こき使うなんて、普通の隊士は恐れ多くて出来やしない。
局長、副長は不参加との事なので総悟が張り切る事もない。副長が参加するとなったら気合入りまくりそうだが。
というか、自分が一日パシリに選ばれるかもしれないというリスクを負ってまで勝てない試合に臨む気概はないのだろう。

はしばらく考えた後、そーだ、と思い立って、近藤に言った。
私でも、力になれるかもしれない。

「それ、私も参加していいですか?」





「はァァ?!どういうつもりだお前?!」

住み込み雑用=一日奴隷の格好の的、が参加するという噂はたちまち広がり、こんもりと目の前に積まれたエントリー用紙と娘を見ながら土方はため息をついた。
お前、戦えねェだろ。分かってんのか?誰が勝とうが確実に副賞にお前を指名してくるぞ。
住み込み雑用の娘はさらりと答える。別にいいですよ。

「女は参加できない、なんて規約ありませんし。おかげでこんなに沢山の参加者が募れたんですもん。よかったじゃないですか」
「そう言う問題じゃねェェええ!!」

確かに参加者は多いに越したことはない。やる気もあるに越したこともない。そもそもこの企画は隊士どうしの腕を磨き合うためのものだ。
しかし!
男どうしでは一日パシリで済めども、相手が女となっては別の話と化す。ていうか今回の参加者も確実に下心アリが大半だ。
・・まあ、逆にいえばだれが勝っても副賞は自分にはまわってこないだろうという安心感から、チャレンジしてみよう、と思った隊士も大勢いるだろうが。

「大丈夫ですよ。勝ちそうなところはだいたい予想できますし」
「その勝ちそうなところに一番の危険人物が堂々鎮座してんじゃねェかァァアア!!」
「じゃぁ土方さんが出場して一番とってください。近藤さんもいいって言ってましたよ」
「うぐぐ・・・!」

結局エントリーシートは一枚追加されることになる。
を一日こき使う権利が欲しいわけではない。そんなの副長の自分となればやろうと思えばいつでも出来る。
ただ、他の奴らに・・・おそらく邪な事を考えている奴らにはその権利をやる事は出来ない。

明日から素振りの本数増やすか・・と何気なく考えたところで、そう言えばここ最近稽古に力を入れる隊士たちが増えたことに思いあたる。これか。
真選組としては確かにいい事すっごいいい事。近藤さんも喜んでいる。
ただ、物凄いやるせなさを感じ、土方は何度目としれないため息をついた。




銭湯に行く支度をして廊下を歩いていれば突然後ろから驚かされる。
いつも通りあがる悲鳴。あいつだ。あのクソガキだ(土方のがうつった)。
振り向けば予想通りに総悟がいて、にんまりと頬を緩ませたまま「今から銭湯ですかィ、ついてってやろーか」と言った。

「参加者いっぱいいただろ」
「ええ、期待以上でびっくりしました。流石沖田さん」
「『背中流すまではアリ』って噂流したらほとんどの隊士はエントリーシートに向かってダッシュでさァ」
「どんな嘘情報流してんですか?!!」
「大丈夫大丈夫」

どーせ俺が勝つんで。なんてにやりと口角をあげながら、総悟は黒い笑みを浮かべた。
予想ではおそらく何だかんだ言いながらも土方も参加するだろう。負ける気はしないが。
腕自慢大会に自分も参加しようと思う、と初めて総悟に行って来た時には驚いたが、こんな楽しいイベント心が躍らずにはいられない。


そう、実は総悟は真っ先に取り込み済み。参加すると決めて最初に打ち明けたのが彼だったくらいだ。
『したらお前、俺が勝ったらあんなこともこんなこともありってことですかぃ?』
『私が参加するかしないかは沖田さん次第です。雑用娘ですら参加するって噂を流せば、負けてられないって何人か参加者増えると思うんです』
『ほー。で、俺に噂を流せと。偉そーなこと言うようになったじゃねェか。で、参加者が大勢いれば姉さんも参加するんですよね?』
『はい』
『まかせろ』

「そんで約束の倍の参加者を集めたわけですが。・・もう一回聞きやすが、エロい事はアリなんですよね?」
「約束ですもんね。良心の許せる範囲のえっちぃことならアリです。頑張ってください」
「余裕ですねィ。そんなの直ぐに奪ってやりまさァ、楽しみにしときなせぇ」

互いに(表面だけは)笑顔で和やかに会話を繰り広げながら銭湯に着く。
とりあえず鍛練を怠らず真剣に取り組めば、今のところ優勝に一番近いのはおそらく自分。妙に余裕なところが気にならないでもないが・・・。
さァて、優勝した暁にはどんなことをして嬲ってやろうか。そんな考えにニヤつく頬を押さえながら、が銭湯から出て来るのを総悟は待った。
結果銭湯から出てきたに「沖田さんにやけすぎ、怖ッ」なんて指をさされることになるのだが。





そして迎えた大会当日。
屯所の中をざわめきが覆う。無理もない。なぜなら・・、

「なっ・・・なんでテメェがここにいるんだよ!!?」
「はァー?うっせェな、の代理だよバカヤロー」
「チッ・・・余裕の正体はコレか」

隊士たちに混ざって白髪のテンパ頭が一人。
万事屋、坂田銀時である。

「あら、代理を立ててはいけないだなんて規約もありませんでしたよ。ねぇ?近藤さん」
「ま、まァ、そうだな」
「それにそもそもここは隊士さんたちの腕を磨き合う場でしょう?戦えない私が挑むより、つよい人に稽古付けてもらった方がいいと思って」
「つーわけだ。お手柔らかに頼むよォ、おにーちゃん(笑)」
「てんめ・・・!」

参加者総数去年の約5倍という異例の事態から、予選と題して人数減らしのサバイバル戦が行われることとなった。
ルールはいたって簡単で、背中から付けた風船を割られないように守りながら相手の風船を割っていくというもの。
ただし、このルールには穴があった。
要は制限時間30分の間、自分の風船を守ればよいのだ。勿論逃げる、隠れるはアリ。そして・・・。
誰かと手を組むなんてこともありなのだ。
例えば、『有力候補』VS『その他』みたいに。

「まぁ、圧倒的な力の差がある敵を前にした時は、その実力差を覆すには数に頼るのが一番ですからねィ」

何十もの竹刀を向けられた先で、どっかで行ったことのあるようなセリフを総悟がぽろりとこぼす。

「嫌われてんねェ。流石鬼の副長に、サド隊長」
「バカ言え。信頼の表れだこれは」
「そうでさァ、土方さんはともかく」
「土方さんはともかくじゃねェよ。オメーよりはマシだよ」
「どっちもどっちだと思うよォ〜?」
「テメーは黙れ!」




「あわわ・・・良いんですか?何だかあの3人の稽古みたいになっちゃってますけど」
恐れ多くも局長の隣で座布団に腰かけるは近藤を見上げる。近藤は「そんなこたァねェよ」と笑った。

「あいつらなりに実力者を見極め、少しでも生き残るためにこうじた策なんだ、サバイバル訓練としちゃ上出来じゃねェか」
「そういうもんですか?」
「どっちにしろ1対1じゃ勝てねェんだ。まァ・・・・」

相手があいつらじゃ、荷が重いだろうがな。
近藤がそう言い終わらないうちに、総悟が数人を吹き飛ばし、銀時が相手の風船だけを綺麗に何人分も割って見せた。
・・・普段ならまだしも、今日のあいつらは気の入れ方が違い過ぎる。

「ほらほら、今日のために稽古してきたんだろ、どんどん来なせェ」
「沖田くーん、コレ片付けるまで俺らも組む?」
「させ、ねえよ!」
「うお」

ぱあん!と風船が割れる。振り下ろされた土方の竹刀を避けつつ、後ろから飛び込んできた隊士の風船を斬り捨てた。
一瞬できた隙を逃さずに、土方はそのまま踏み込んで銀時を思い切り蹴り飛ばす。

「ってーな、何ですかコノヤロー」
「この場合総悟よりもテメーが危険因子何だよバカヤロー。どうせまたアイツと変な約束事してんだろ」
「へー察しが良いことで。そーいう訳だ今日の俺はちょっと本気だよ?前みたいに無様に負けたくなかったら大人しくしてなさい多串君」
「冗談。テメーだきゃァ俺がリタイアさせてやんぜ」

銀時と土方の竹刀が荒々しくぶつかり合うのを横目で見ながら、総悟はおお、と息をもらした。
有力候補同士がお互い潰しあってくれるとはなんとも都合がいい。
確かに銀時は正直自分も勝てるか怪しいものだ。ならば。
この機に土方に加担して二人で畳掛け潰しておくか?そこまで考えていやいやと総悟は首を振る。

・・・・・背中がガラ空きですぜ、土方さん!

やはりというからしいというか、総悟は土方をターゲットに絞って駆け出した。大方こっちも片付いたところだし!
しかし、一歩踏み出したところでぴくり、と目を見開く。弾かれた様に振り返りざま竹刀を振れば、総悟の風船めがけて飛んで来ていた石ころがパシンとはたき落された。


「・・・邪魔すんなィ山崎・・」
「申し訳ないですが、俺は今回は副長の肩を持ちますよ」
「へー、俺とやろうってのかィ。山崎のくせに言うようになったじゃねーか」
「ははっ・・・正直、今隊長と戦えるの、ワクワクしてんですよ、俺」
「へえ」
「・・アンタ超えられずにあの子を守りたいだなんて、飛んだ笑い話ですからね」

「確かに。飛んだ笑い話だなァ・・」
にやりと笑いながら、総悟は山崎に竹刀を向けた。口元は笑っているが、目は真剣である。
男らしいじゃないか山崎のくせに。
強くなろうと努力する奴は嫌いじゃない。ここは上司として、ボコボコに叩きのめしてやるべきだろう。
ほら、刀はたたけばたたいただけ強くなるって言うし。

「退くんーーー!頑張って!!勝って私を一日好きにしてェ!」なんて聞き捨てならないような声援が響き渡る。
ちらりと伺えばが真っ赤になって手を振りながら山崎を応援していた。山崎はにこりと笑ってそれに答える。
・・・・というか本当に聞き捨てならない。

「姉さん!俺にもおんなじ台詞で応援よろしくお願いしまさァ!」
「銀さーん!頑張って!!勝って私を一位にしてェ!」
「おうよ!そんかわりお前は一日俺の言うこと聞くんだからな!」
「姉さん!!俺もおんなじ応援、て、ん」
「え?」
「あ?」

総悟も、隣の山崎も、銀時に向かい合っている土方も、間抜けな声を出した。
視線に気づいた銀時は、おやぁ?と片眉を上げて見せる。


「あれあれぇ?聞いてない?・・・俺の依頼達成時の報酬(笑)」


何ィィィィイイいいい!!!


さて、勝ったのは誰か。










はいお疲れ様でした!10000hitリク「屯所の猫で運動会的な」でした。運動会と言うか腕自慢大会と言うか。
野心バリバリな下剋上退くんマジイケメンです。そして何と言う中途半端なところで終わるのでしょうか。
勝つのは誰なんでしょうねェ。今後の総悟の身の振り方によって勝者が変わって来るかもしれませんw
副長につくか、万事屋さんを放置するか。はたまた悩んでるところを監察に隙を突かれるか(笑
こんな中途半端なものですみません><よろしければ貰ってやってください。

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