「ちょ、ちょっとちゃん?!新八くんも・・・!どうしたのそれ!?」

真選組屯所の門前で、山崎は大きく声を上げた。
それも仕方ないことである。
買い出しに行ったはずの親友が、かすり傷だらけの新八に背負われて帰って来たのだ。
さーっとひく血の気。

「どっか、怪我したの・・?」
「わ、私は大したことないの。新八くんの方が・・」
「僕もかすり傷だけですよ」
「ほんと、ほんとごめんね、ありがとう・・」
「もー、良いですってば。それより、また今度遊びに来てくださいよ」

姉上がさんに会いたがってるんです。
あはは、と笑う新八に、背負われた娘・・・は、真っ赤になって頷いた。







**何事も受け身では身につかない**







つまりはこういうことだった。
買い出しの帰り、ガラの悪そうな男達に囲まれどうしようもなくなった所を、偶然通りかかった新八に助けてもらったと。
山崎はの足に湿布を貼りながらため息をついた。
逃げようとしたところを足をかけられ転ばされ、傷はないもののうっすらと腫れている。
新八はを送り届けると直ぐに帰ってしまった。
の分の買い物袋を受け取る時にちらりと見えた彼の買い物袋の中身。卵が割れていた。きっと見かけた瞬間大慌てで助けに飛び込んできてくれたのだ。

「7つも下の子に助けてもらった上におぶられて送ってもらって、自分が情けないよぅ・・」
申し訳な下げに俯いてしまったに山崎が困り果てていると、すっ、と障子が開いた。

「事情は分かったぜちゃん」
「きょ、局長っ!」
「そう言うことなら、俺達に任せなせェ」
「沖田さん!」

「ここで働く以上、ある程度自分の身を守る術を知っていて損はないだろう」
近藤、総悟、更には土方までもが障子の向こうから現れて、山崎は思わず叫んだ。

「アンタら自分の仕事ほっぽり出してちゃん心配し過ぎ!!」

が怪我して帰って来たなんて聞いて、救護室の前でそろって聞き耳を立てているくらいなのだ。
そう言われても、しかたあるまい。




「よォし!じゃぁこれから護身術の稽古を始める!」
「よ、よろしくおねがいしますっ」
「道着似合わねぇー」
「サイズ合ってないからしょうがないですよ」

一番小さなサイズの道着をぶかぶかにして着こなして、雑用娘は頼りなさげに夕方の道場に立った。
・・・本当に大丈夫なのか?眉間にしわを寄せた土方が苦々しくこぼす。
真剣は勿論のこと、竹刀は愚か短剣だって危なっかしくて持たせられる気がしない。
大丈夫でさ土方さん。と返すのは総悟。

何も戦闘のイロハを教え込む訳ではないのだ。ほんのちょっとでいい。相手を怯ませて逃げるチャンスを作る程度の策と、少しでも怪我をしないような護身術を身につけてくれればいい。
その心得があるかないかでは、実際ピンチに陥った時の心の持ちようも変わるだろう。
パニックになるよりも、周りを見る余裕があった方が幾分かマシ。

「姉さんもそんなに気負わねーでくだせェ。何も難しい事やらせようってんじゃねェんだ。んなの誰もアンタになんか期待してやせん」
「は、はい・・」
「まァ物は試しだ、俺が見本見せてやるから真似してみてくだせェ」


「まず、右手をこう、ピースにします」


はい??
何を教えようとしてるんだ?と頭を捻る土方と山崎の前で、は素直に総悟を真似て恐る恐るピースを作る。
それを見て総悟は「おー上手い上手い、その調子でさぁ」なんていつも通りやる気なーい感じで答える。

「アンタ才能ありまさァ」
「え、えぇ?ピースしただけじゃないですか、えと、それで、これからどうするんですか」
「まァまァ慌てずに。右手をピースにしたら、次は・・・こうします」

ドスッ。

「ぎゃぁああああああああ!!」
「これが『眼潰し』です」
「局長ォォオオオオオオオ!!!」

瞼のすぐ上(一応微妙に外したらしい)に“ピース”した人差し指と中指をぶっすりくらって、近藤は目を押さえて道場を転がった。

「さあ姉さんも土方さんでレッツプレイ」
「レッツプレイじゃねェェェェエエ!!」
「こんなにピースフルじゃないピース初めて見た!!」
「近藤さんはわざと微妙にずらしたから大丈夫でさァ。さあ姉さん、土方さんには手加減入りやせん、思いっきり両目にぶすりと」
「オイィィィィいいいい!」
「相手が瞬きした隙を狙って迷いなく両目を潰すのがコツです」
「何気に高度な事言ってますよ隊長」

しょうがねェなァ、じゃぁ・・。と言って、総悟は今度は山崎の股間を思いっきり蹴りあげ・・・ると見せかけて、寸止めした。
さーっ、と山崎の血の気が引く。

「寸止めしましたが、これが『金的』です」
「隊長ォォォォォ!ほんと、ほんとやめてくださいよぉぉおおお!!」
「寸止めでも結構キます」
「死んだかと思った!俺死んだかと思った!!」

「これなら簡単でしょ、さあ土方さんでレッツプレ・・ぎゃん!!」
「え?」

“らしくない”叫び声を上げて崩れ落ちる総悟の後ろで、土方と山崎は顔をひきつらせた。
え?え?だ、大丈夫です?そんなに痛いの?なんて、きょとんと瞬きを繰り返すのは。
・・・・総悟に見事な『一撃』をお見舞いした、その人である。

うつぶせに丸まって震える総悟に、自業自得だとは思いつつも憐みを向けずにはいられない。

「沖田さん?沖田さん大丈夫ですか?」
「な、ん、で・・俺・・・つか・・、今迷いもためらいもなかったよなアンタ・・・」
「え?泣いてるんですか?そんな痛いものだとは思ってなくて・・・沖田さんこういうのあんまり効かなそうだと思ったから・・」
「俺を、なんだと、思ってんの・・・効くに、決まって・・・」
「ご、ごめんなさい」
「・・・・・いてぇぇ・・!」

激痛に一粒涙がこぼれる。それを見た雑用娘は青くなった。
この男が痛みで涙を零すとか、それこそとんでもないダメージを自分は与えてしまったのでは?!

「ごめんなさいごめんなさい!ど、どうすればいいですか?」
「や・・・優しく、さすってあげて・・・」
「は、はい」
「・・・・イヤ、背中じゃなくて・・・・こっち・・・」
「どこさすらせようとしてんだお前はアアアア」

どさまぎでとんでもないところをさすらせようとしている少年の魔の手から、山崎がを引っ張り起こす。
ゴチンと言う音が聞こえてが振り向けば、大きなたんこぶから煙を上げながら総悟が沈んでいた。
・・しばらくは(股間のダメージも合わせて)復活できないだろう。
土方と山崎はお互い顔を見合わせて・・・・はあ、とため息を吐いた。
攻撃技はとりあえずはおいておいて、今度こそ身を守る術だ。


「じゃぁ、ここからは俺と副長で『受け身』を教えるね」
「うけみ?」
「壁や地面にぶつかった時に上手く衝撃を逃す方法だよ」
「お前は何かと転んだり巻き込まれたり吹き飛ばされたりするからな」

一朝一夕で上達するものでもないけれど、基本だけでも知っておいて損はないからね。
見本を見せるか、と土方が山崎の腕をとって懐に潜り込み、体の向きを変え背中で相手の体を持ち上げて、前方に投げ飛ばす。
柔道で言う一本背負いだ。山崎も特に驚いた様子もなく受け身をして起き上った。は思わず拍手を送る。

「凄い、今の痛くないの?」
「全く痛くないってわけじゃないけど、見た目ほどは」
「ほれ、やってみろ」

『受け身三年』なんて言葉がある通り、極めるには相当の訓練がいる受け身だが、
やり方だけでも知っているか知っていないか、不完全でもやるかやらないかでは大きな違いだ。
を寝かせた隣に寝転んで、衝撃の逃がし方、手を付くタイミング、頭や急所の庇い方などを叩きこんでいく。
時に厳しく、時に手とり足とり。何度も胸倉を掴まれ、何度も投げ飛ばされ、何度も頭をぶつけ。
真選組副長と監察によって受け身講座は続き、はみっちりしごかれた。


その結果、
全然上達しなかった訳で。


「あああもう、へったくそだなお前」
「ふえ・・す・・すみませんんん・・」
「副長、もうふらふらですよ彼女。休憩しますか」
「イヤ、こういうのは体に覚え込ませた方が早え・・・、もうちょっと頑張れるか」
「い、いえっさー・・」
「よし。いい子」
「完全に躾けモードですね・・」

ああもう!だから違えって。
手首を掴まれ引っ張られて、はハッと気づく。そして心臓が飛び上がった。
イヤ、イヤ、コレよく考えたら、押し倒されてるポジションじゃね・・?
掴まれた手首がぐい、と土方の胸に押しあてられる。反対の手首も掴まれ道場の畳に押し当てられて。

タイミングはここだ。あとてのひらだけじゃなくて、腕全体で・・・・なんて言葉、もはや耳に入って来ない。
「てのひらが〜」のくだりで撫でられたてのひらに、半身にかけられた体重に。
かああぁぁ・・・と頭に血が上るのをは感じた。
がし、とその頭が片手で抱えられる。

「オラ、首は起こせ痛めるぞ」
「ふあ!?は、はい」
「おい真面目にやってんのか?」
「や、やってますやってます!」


「あぁ?がっちがちじゃねェか、もっと力抜け」
「ひ、ひ、土方さ・・ち、ちか、近い」
「はあ!?オメーがヘタクソだから体使って仕込んでやってんだろうが!文句あんのか」
「ひ、ひぃぃぃぃぃ・・・!」
「おら立てェ!もう一回だ!」
「うきゃあああああ!」

あ・・?
そこでようやく土方もの異変に気づく。何でコイツこんなに顔真っ赤なの。
そして自分の手元を見て・・・・・凍りついた。
男子の柔道を見たことがあるだろうか。道着の合わせ部分は常に掴まれ引っ張られを繰り返す場所。
簡単に言えば。ヤツら、結構肌蹴てるよね。

「うわー・・・」

そんな声にばっと振り向けば、復活した総悟が畳にうつぶせになりながらじと目でこちらを見つめていた。
隣には同じくうつぶせになった近藤。そして正座した山崎。

「トシ・・・」
「副長・・・」
「土方さん・・・女の胸元おっ開けながら『体使って仕込んでやる』だなんて・・・・・変態」
「い、イヤ、これは、違、」

姉さん、ピースですぜ、ピース。
そんな総悟の言葉通り、の右手の指はゆっくりとピースを作った。


道場から副長の断末魔が聞こえたと言う話が、話題になったとかならなかったとか。









はいお疲れ様でした!10000hitリクで「屯所の猫で護身術を習ってみるヒロイン」でした!
総悟はしょっぱなから眼潰しとか教えたりするんでしょうか、とのことだったので、お望み?通り(笑
原作ではおそらく見られない(きっと需要がない)総悟くん“に”金的。やっちゃったねーヒロイン。
というかヒロインがおいし過ぎる話なのですがどうしたものか。まあいいか夢だし!
こんなものでよろしかったら貰ってやってください。リクありがとうでした!


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