雑用娘はいつも忙しい。
いや、一番隊の悪戯っ子による妨害さえなければ、休憩中の親友とミントンをしたり、万事屋によって雑談したり、お友達のお家に遊びに行ってお団子を食べたりするくらいの余裕はある。
俗に言ってしまえばさぼりなのだが、やることをやった上でこっそりなら、副長からのお叱りも少なかった。
そして今日も。

街を破壊したとかでまた新聞沙汰になった総悟を、近藤と土方が一生懸命説教している。
恐らく無駄だろうが。
まあそんなわけで、本日の雑用業務は彼が拘束されていたため驚くほどスムーズに進んだ。

買い物も済ませて帰ろうと歩く途中、ふと気になったのは。

・・・例の神社。







**風に舞う木の葉が蝶に見えたある日**







時間もあるし、ちょっとだけ覗いて行こうかなんて、いつもより中身の少ない買い物袋を持ち上げて階段を上る。
登りきったは神社の拝殿を見やって・・・・・目を見開いた。

・・・・・いた。

賽銭箱の置いてある拝殿の縁に腰かけて煙草をふかしていた包帯の男は、を見やるとにやり、と笑い、「よぉ」と小さく言った。
はこの男には数回会ったことがある。
一回目は雷の中傷口の消毒に、二度目はなんとなく気が向いて向かったところで、
どちらもこの神社での出来事だ。それからも1、2回会った。それもここ。

前述の通りハイレベルな悪戯っ子との戦闘に追われて、または優しい親友や飼い主が買い出しに付き合ってくれて、一人でのんびり外に出ることなんてめったにない。
それでもたまにそんな珍しい日があると、は決まってこの神社に顔を出した。
願い事をかなえてもらうには安過ぎるお賽銭を賽銭箱に投げ入れ、周りの人の健康を祈り、しばらくボーっとして帰る。
そんな中、10回に1回くらいの確率でこの男はいた。

「こんにちは。まだ地球にいたんですね」
「・・期待して来たくせによく言う」

この男も普段は忙しい身のようで、詳しくは聞いていないが宇宙を飛び回る仕事をしているよう。
たまーに空いた時間があるとなんとなく江戸の町を散歩しているのだそうだ。
そして、この神社は人気も少なく静かに煙草を吸うにはうってつけの場所らしい。
神社に吸い殻を捨てちゃいけません、なんて言えばあからさまに嫌な顔をしたが、次からは携帯灰皿を持ってくるようになった。
男はが近付いてくるのを見ると、吸っていた煙草の灰を捨てて煙管を隣においた。

「前会った時、そろそろこの星を出るって言ってたから」
「まぁな」

明日にでも出発する。
男が言って、は素直に笑う。
そうなんですか、じゃぁ最後にあえてラッキーだったなあ。
男はそんなを見て僅かに目を細め、くるりとに向き直った。

「・・おい」
「はい?」
「包帯巻き直せ」
「え?でも今日救急用具持ってなくて・・」
「俺が持ってる」

そう言われてぽいと投げ寄こされたのは新しい包帯とガーゼ。
え?イヤ、なんで準備してんの。私に巻き直させる事想定してたの?
しかし目で訴えても(その訴えを明らかに受け取った上で)無言で見つめ返してくる。
この男はこういう奴だ。必要な事を必要な以上に言わない。
はあ、とため息を吐いて、は立ちあがった。

手水舎で綺麗な水を汲んでこなければ。




「わ、結び目適当っ・・普段はご自分で巻いてるんですか」
「・・あぁ」
「明日から出発でしたっけ。それで私に巻かせようと包帯常備してたんですか」
「・・あぁ」
「・・・私に、巻いて欲しかったんですか?」

ちょっと踏み込んだ質問だとは思いつつも、さりげなさを装って聞いてみる。
予想はしていたけれど男は黙りこむ。気まずい沈黙。
ああ、機嫌を損ねてしまったかな、なんて思っていると、男が口を開いた。

「・・そうだ」
「は?」

「オマエが結ぶと、ほどけにくい」
顔色一つ変えずにそんなことをさらりと言う男に、は何も言い返せず、再び沈黙となった。

包帯の巻き方一つとはいえ滅多に頂けないお褒めの言葉にそぐうべく、しっかりときつめに包帯を巻き直す。
「出来ました」と手櫛ではねた髪をといてやると、男は次の行動を開始した。
とき終わって離れた手を掴み、再び髪へ。
しばらくその髪に押し付けられて、は観念して男の頭を撫では締めた。
男は満足そうに喉を鳴らす。
この男、何だかんだ言って本当の目的はコレのような気がしてならない。怖いから言わないけれど。

「次はいつ地球に戻って来るんですか」
「・・さァな」
「そうですか。あの」
「あ?」
「今私が巻きなおしても、今日の晩お風呂に入ったらまた巻きなおさなきゃいけないんじゃないですか」
「・・・・」

ごもっともな質問を受けて男が黙る。
何だか微妙に勝った気分になり、心の中で笑みを抑えていると、突然撫でていた手をがしり、と掴まれた。
そのままぐいと頭から引きはがされる。
え、ああ、ちょっと。怒らせてしまっただろうか。
恐る恐る見上げた男の瞳は、射抜くようにこちらに向けられていた。

「そうだな」
「え」
「そうだ」


「明日からも巻き直せ」
「・・は、い・・?」
「俺と来い」


・・・・・。
ぱち、ぱち、ぱち、とは何度も瞬きをした。
なんか、イヤ絶対含まれる意味は違うんだけれど、何だかこの言い回し、聞いたことがある。
毎日俺に味噌汁を作ってくれ、みたいな?プロポーズですか?!
イヤ本当そういう意味は一切含まれていないことは確実なのだけれど。
自然と頬に熱が集まるのを感じ、は慌てて頭を振った。

「え?あの、それは、困ります・・・私も、お仕事があるので・・」
「辞めりゃいい」
「いや簡単に言わないで下さいよ・・それに」

私の職場にもいるんです。貴方みたいにとんでもなく我儘の横着さんが。


それを聞いて、男の目がすぅ・・と細められたのを、は見つける。
ぐにゃり、と口の端をゆがめ、僅かに覗いた犬歯がギラリと輝いた。
口元は笑っているのに、目が、背筋が凍るほどの狂気をもって爛々とゆらめく。
「わかった」


「じゃァ・・俺がそいつら『壊し』たら、一緒に来い」


低く、獣が唸るようなかすれた声で小さくそう言われて、理由も分からず体がびりびりと痺れた。
知らないけれど、おそらく、多分、これが“殺気”というものなのだろうか。
物凄いプレッシャーに体は動けず方は震えたが、それでもはその男から目がはなせなかった。


欲しい者は力づくで奪い取る。
邪魔をする者はすべて壊す。

知り過ぎている誰かと、重なってはなれない。

触れたもの全てを傷付けてしまうような、
触れたもの全てに傷付いてしまうような、
野生の獣のような、凶暴で、荒々しくて、孤独で、真っ直ぐで。


突き刺さるような殺気がおさめられ、怪訝な表情で男が見降ろして来る。
自分でも驚いた。あれだけ強烈なプレッシャーをかけられておいて、自然と、頬が緩んでいたなんて。

「あの人たちは壊しちゃ駄目です。もう、何でもかんでもすぐ壊すとか」
二言目には斬るとかぶっ殺すとか、そんな横着な。
「あの人」も、確かにそんなんだった。


「でも、嫌いじゃないです、そういうの」


ぽかん、と開く方の目をまん丸にして見つめられ、は笑った。
いつも余裕なこの男でも、虚をつかれてこんな顔もするんだ。
どうしました?とにやける頬を押さえられずに尋ねれば、男は驚いた表情のまま口を開いた。

「・・平和主義者ヅラして、随分凶暴な考え持ってんだな・・意外だ」
「私が凶暴なんじゃないですよ?そういう考え方してる人も、嫌いじゃない、ってだけです」
「ほぅ」

そう言って目を伏せた男は、どこか嬉しそうだった。




「そう言えば、何度も会ってるのにまだ名前も知らないんですよね、私」

「もうしばらく会えないんでしょう?お名前、教えていただけませんか」
そんなことを聞けば、男はしばらく考えた後でふっと息を吐き、「好きに呼べばいい」と言った。

「・・・・・お兄ちゃん、って呼んでも良いですか」

僅かに開いた男の目がそう言ったをとらえ、次の瞬間、男は声を上げて笑いだした。
この人こんなに大きな声出たんだ、と思うほどの高笑い。
笑ってても妖しいのは流石としか言いようがないが。
何がそんなにおかしかったのかと眉をしかめるに、男は笑いをおさめ、歯を見せてにやりと笑った。

「オマエのお兄ちゃんは、もういなくなっちまったのか?」

笑いながら聞く台詞じゃねぇよ。なんて思いながらも、は頷いた。
ちらりと浮かぶのは土方の姿。
土方さんは土方さんだ。お兄ちゃんとは・・・もう違う。
「あの人」は、もう、いない。
くっくっく・・・と妖しげな笑みを零しながら、男が笑った。




「じゃァ俺はオマエを『ねこ』とでも呼べばいいか?」




・・・・・・・・・え?
息が、出来ずにいた。
今、この男は、何て言った?

なんて、言った??

「おい、
突然のキラーパスに追い付かず、ぐっちゃぐっちゃに混乱した頭のすぐそばで、今度は名前を呼ばれる。

「いつでも来い、歓迎してやる」

そう言い残して、男は去って行った。
ざあ、と吹いた初冬の風が、集めてあった枯葉をぶわりと巻き上げた。
それはまるで今の自分の心を映しているかのようで。



その後僅かに硬い表情をした総悟が迎えに来てくれるまで、は一歩もその場を動けず呆然としていた。
「何かあったのか」と聞く彼の声は少し緊張しているようだった。

何度コールをしても、その着信音にも気づかなかったなんて。









はいお疲れ様でした!10000hitリクで「高杉さんと」でした。
ちょ、おま。新章突入フラグびんびんですが。おい。何してんだねこォォォ。
ありがちっちゃありがちな流れですが、少しでもドキドキワクワクしていただけたら嬉しいです!
こんなものでよろしければ貰ってやってください。リクありがとうでした!


back