。この歳になって、恋をしてしまいました。
相手方は私の働いている甘味屋に時々顔を出してくれる、黒い服を着たお侍さん。
整ったお顔、凛々しいお声!
ああ、もう!
毎晩貴方のことを考えています!
沖田 総悟。俺ともあろう者が、恋をしてしまいました。
相手は江戸の隅っこにある甘味屋で働いている店員さんで、顔見たさに時間を見つけてはついつい顔を出しちまう。
明るい笑顔、優しい視線!
ああ、もう!
毎晩貴女のことを考えています!
大好き!!
(土方さん・・・・!)
(佐倉さん・・・・!)
その日も俺は、公務をすっぽかして甘味屋を訪れた。
「あら、沖田さん。いらっしゃいませ!お仕事お疲れ様です」
にっこりと笑いかけてくれるのは、先ほども出てきた自分の想い人、佐倉 桜子さんである。
相変わらずの華が咲いたような頬笑みに、思わず緩みそうになる口元を必死で引き締める。
「コーヒーと、この抹茶プリン。食ってく」
ぶっきらぼうに言うのが精いっぱい。
ぷいとそっぽを向いて、店の中に数席しかない客席へと足を勧めた。
腰をおろしたのは自分だけの秘密の特等席。
この席からなら、外の雑踏を見るふりをして、ガラスに映った先にカウンターが覗き見れるのだ。
土方辺りが知ったら幽霊でも見るかのような視線で見られ熱でも測らされそうだが、
キャラじゃないと言われようが、今の俺は恋する青少年。
彼女のことをもっともっと知りたい気持ちはあれども、こっそり見ているだけで幸せなのです。
「あ、あの、おっ、お待たせいたしましたっ!」
ふと顔を店内へ戻して、表情はそのままに、俺の心はあからさまにがっかりした。
プレートに乗せたコーヒーと抹茶プリンを持ってきたのは、佐倉さんとは違う奴だったからだ。
彼女の名は 。佐倉さんと同じくこの店で働く店員なのだが、俺は最近コイツから妙な視線を感じ取っていた。
「あり、こっちのは頼んでねーんですが」
「あ、そ、そっちは・・・おまけです・・沖田さんにはいつも、ご贔屓に、してくださってるから・・」
「・・・ふーん・・・じゃ、遠慮なくいただきまさァ。さん」
「えっ?!あ、は、はいっ!ごゆっくりっ!」
は突然名前を呼ばれた事に驚きながらも、かすかに嬉しそうに、踵を返して去って行った。
そんな奴の姿を睨みつけながらも、俺は「おまけ」の苺大福を一口で口に頬張る。
彼女の名前を覚えていたのは、なんてことない。最近俺が佐倉さんを追う視線の中に、ちょろちょろと紛れ込んでくるうっとおしい輩の名を、知らず知らずのうちに覚えてしまっていただけである。
つか俺の名を気安く呼ぶんじゃねェ、馴れ馴れしい。
むぐむぐ、ごっくん。そこまで考えて俺はハッと気づいた。
最近アイツから感じる妙な視線の正体。
・・・アイツ、俺に惚れてやがる!
沖田総悟に名前を覚えてもらっていた私は、そそくさとカウンターの中へ逃げ帰った。
友達の桜子ちゃんがニヤニヤしながら「なに?あの人狙ってんのォ?」何て小声で聞いてくるが、とんでもない。
私が今現在恋しているのは、沖田総悟の上司であり真選組副長という大役を任されているナイスガイ、土方十四朗さんに他ならない。
気安く私の名前を呼ぶんじゃないわよ、馴れ馴れしい!と、思わず言いそうになってしまった。
彼にこっそりおまけを差し出したのは、彼がここに長居をすればするほど、土方さんが怒って迎えに来る確率が上がるからだ。
この間なんて、
「いつもいつも総悟がすまねェな」
「とっ、とんでもございません!お、お仕事お疲れ様ですっ」
「俺もたまに来るんだが、ここの和菓子は中々旨いな。また来させてもらうよ」
「は、ははいっ!お待ちしておりましゅ!」
なぁあんて、二言も「会話」してしまった!嬉し過ぎて噛んでしまったのは今でも恥ずかしい。
本当、沖田総悟さまさまだ。
しかし、最近彼とたびたび視線が合うようになった。
私としては、是非彼とお近づきになった末に土方さんの情報を少しでも引き出したいので、その機会を虎視眈々と狙っているのだが。
明らかにこっちを気にしている。今だって、ほら。
外の雑踏を見るふりをして、窓の反射を使ってこっちを伺っているのがバレバレなんだよストーカーめ!
ハッ、そこまで考えて私は気づいた。
何故ヤツがこちらを気にするのか。ひいては何故こんなに頻繁にヤツがこの甘味屋に顔を出すのか。
・・・アイツ、私に惚れてやがる!
はてさて、そうなると困った事になった。
佐倉さんとは仲の良い友人のようだし、仮に向こうが告って来たとして俺が手酷く振ったりなんてしたら。
その事が佐倉さんの耳に入りでもしたら、自分の印象が悪くなるのは必須。それは避けたい。
しかし待てよ?
友人と言う事は、に聞けば佐倉さんの彼氏の有無、ひいては男のタイプなんてのも聞き出せたりするのではないか。
それは、イイ。乗った!
後は、ヤツには申し訳ないが俺のことを諦めてもらわねばならない。
一晩寝てやって満足してもらおう。
折角利用させてもらうのだ、少しは良い思いをさせてやっても良いだろう。
そこで俺は、とある日の閉店直前、にこっそりと、
「今日、仕事上がったら少しばかり付きあって欲しい」と声をかけたのだった。
返事?勿論OKだったに決まっている。
勿論返事はOKだ。
全く、男ってのはどいつもこいつもそういうことしか考えてないのか。
いや、土方さんだけは違うはずだ。私はそう信じてる!
というわけで、本日、ついにヤツが動いてきた。
気色悪くも耳元で囁いてきたヤツの声が妙に色を含んでいたことから、「付きあって欲しい」先がどういう事なのか私にだって理解できる。
要は、「一発ヤらせろ」と言う事なのだろう。ハン、男ってのはァ・・。
無論バッサリ切り捨ててやることも出来たのだが、そうしなかったのは。
ここでヤツに借りを作らせておいて、副長との仲をバックアップしてもらおうという邪な考えがあったからだ。
土方さんとのハッピーライフのためだ、一晩くらい我慢してやろう。有難く思え沖田総悟!
その晩、総悟とはかぶき町のとある連れ込み宿の前に立っていた。
双方とも覚悟は決めたと言っても、些かの緊張は隠しきれない。
「入りやしょうか」
「は、はっはい・・」
「そんなに緊張しねーでくだせェ。悪いようにはしねェよ」
キショイんだよ沖田総悟ォォォ!!しかしここは我慢よ!土方さんのために!
佐倉さんんんん!!俺は今からこの女と寝ますけど、本命は貴女ですんでェェーー!
いざ、決戦の時!!
“周りの人には見えない”吹き荒れる嵐、ぴしゃーんと落ちる雷の中、
総悟とはお互いに顔を見合わせ、にやり!とほほ笑み合った。
(周りからしたら、初々しいカップルがはにかみ合ってるように見えたそうな)
一発やって、大人しく俺(私)に協力しろやああああああ!!!
=**愚か者達よ、何処へ行く。**=
数日後、江戸の街中で、首輪を付けた彼女とリードを持った彼が並んで歩く姿を目撃したと言う人が相次ぐ事になる。
彼らは二人して、「あれ・・」「なんでだ・・」「何故こうなった・・」とぶつぶつ呟いていたという。
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