俺の名は山崎退。
鳴く子も黙る武装警官、真選組の監察だ。
敵から情報を聞き出すのはお手の物。
表情、
仕草、
そのタイミング。
ヒントはいくらでもあるのだ。

ずばり、当ててみよう。

彼女は今、物すっごく機嫌が悪い!!





「うあーん!ああもうどうして!あんな上司の下に付いたのが運のつきだよーっ!」
「ちょ、ちょっとちゃん、落ち着い・・・ごふっ」
「山崎さん!山崎さんだけは私の味方だよねえっ?!」
「うん、うん、ちょっと、落ち着こうか、ね?飲み過ぎだよ君」

ぐひゅっ、と大きく鼻をすすって、涙でぐしゃぐしゃになった顔を両掌で覆いながら机に突っ伏す彼女に、
俺は顔に叩きつけられたお絞りをはがしながらその背中を撫でてやった。
彼女、 は、俺の友人である。
友人と言うか、飲み友。“そういう事”になっている。
実は俺が彼女に心を寄せているという事は、知られてはならない。
玉砕するのが怖いからとか、逃げだとか、どうとでもいえばいい。
振られて関係がおじゃんになるくらいなら、今のままの方が何倍もましだ・・・。



彼女との出会いは、丁度一年前の今頃だった。

有難い事に、屯所の近くの飲み屋で俺の誕生会が開かれた。
いや、開かれる予定になっていた、と言った方が正しいのか。
局長に急な用事が入ってしまったため(スマイルのポイント二倍デーだったとか)結局は開かれなかったのだ。
そして自分はと言うと。
連絡網が回って来ずに一人で待っていたのだ。真冬の夜の中。

「え、マジで?俺んトコにはメール回ってきたらから・・」(隊士A)
「てっきり幹事がお前にも連絡回してるもんだと思ってて・・」(隊士B)
「わり、全員に送ったつもりだったんだけど、お前だけ抜けてた!許せ!」(幹事H)
「はあっ?!お前一人で待ってたの?超ウケるww」(隊長S)

その時幹事だった原田を俺は一生許さない。あの野郎。友達だと思ってたのに!
あと笑い過ぎて転げまわって、勢いよく柱に頭ぶつけて、それでも笑いが治まらずに涙を流しながら震えていた隊長の事も俺は忘れない。
・・・と、当時のことを思い出すと未だに悲しい気持ちになる俺だが、
その時知り合ったのがこのという女だった。



「つーかさー!マジあのふくちょーがさー!」
「きゃははははは!山崎さんも酔っ払ってるよー」
「中身最悪な癖に顔は良いからさあ、モテるんだよォ。マヨラーのくせにー!」
「ああー!確かにお宅んとこの副長さんかっこいー顔してんねえ。ちょっと怖いけど」
「そりゃーもー、鬼の副長ですからァ」

言いながら俺はぐっと手に持ったジョッキを傾けた。
なかなか酔いも回って来ている。

「あぁんだよぅ・・・結局はちゃんも顔なわけぇ?」
「カッコイイって言っただけじゃん。私は山崎さんもイイ男だと思うよぉ」
「う・・・うぇ・・ありがとーー!」
「あははははは!泣き上戸だ山崎さーん!あははは!」

そう言って、笑い上戸のが声を上げて机を叩く。
俺はと言うと内心ドキドキものだ。
酒の力も相まってハンパないドキドキだ。

「今更言い訳臭いんだけど、」
「は?」
「一年前初めて会った時、私すっごく酔っ払ってたでしょ」
「ああ、うん」

突然話題を変えてきた彼女に、少し遅れて俺も頷いた。
思い起こされるのは、彼女と初めて会った時の事。



「一人ですか?」
「え?」
ひっく、と喉を鳴らし、既に出来上がっていた彼女は、じゃーこの店付き合ってください。と無理矢理俺の肩をひっつかんで店に入って行った。
いい加減皆が来ない事を感じ取っていた俺は、変な女だと思いつつも一緒に飲み、泣いて、愚痴って、店を出るときには笑顔で彼女と肩を組んでいた。
要するに、ものすごーく気が合ったってこと。
お互い似た者同士で、聞き上手な癖にため込んだストレスを発散する場所が周りにない境遇だったため、俺の愚痴をが聞いて、の愚痴を俺が聞いた。

「また一緒に飲もうよー」
「おうっ、絶対だかんなー」

なんて、呂律も回らないまま店の前で別れて、その後お互いの連絡先も聞かなかった事に気づいてへこんだっけ。
祈るような気持ちで次の日同じ店に行けば、目を丸くする彼女がいて、
「やっぱり似た者同士は考える事も一緒だ」なんて笑って、改めて連絡先を交換した。


あれから一年。
俺達はお互いの都合が合えばこうして会って互いの愚痴をぶちまけあっている。
「時がたつのは早いもんだねぇ」俺はぽつりと零した。

「私お酒飲んだら誰にでもからんでいくような女じゃないのよ?」
恥ずかしそうにつぶやいた彼女に、俺は笑顔で返した。「そんなの知ってるよ」
この一年一緒に飲んできたが、は酔っ払ったからと言って通行人に絡んでいくような女ではない。

「時効だから言うけど、あの時はちょっと、心が不安定だったんだよ。その、振られてさァ・・!」
「あぁぁぁ、どうどう。そかそか、大変だったねぇ」
「うん、世界なんて滅んでしまえとか思ってた」
「怖ろしい事言うねキミ」
「酔っ払って正常な判断が出来なかったとはいえ、あの時声かけた相手が山崎さんで、本当に良かった」
「なんじゃそりゃ」

「こんな事言えるの山崎さんくらい。ありがとう」そう言っては俺のグラスに自分のグラスをカチンと当てた。
「お、お互い良い人とくっつけるといいね」
照れ隠しに視線をそらしながら俺が返せば、は眼を大きく開けて、食いついてきた。
「お互いって・・・山崎さん好きな人いるの?」

「え?あ、いや、いたらこんなところで君と飲んでないっつーの」
「そ、そーだよね・・ごめんなさい・・」
「え!あ、ご、ごめんね。良い方悪かった!ちゃんはほら、気になる人とかいないの?」

突然むすぅっとして黙りこんでしまったに、俺は慌てて謝る。
喋りかけても反応なし。ヤバイ、これはやばい。怒らせちゃった?
気になる人なんて、直ぐ出来るって!!
ホラ、俺、応援してるし!ちょっとォ親父!この子にハイボールお代わり!

「・・・・けど・・」
「・・え?」

拗ねてしまったの機嫌を何とか取り戻そうと、わたわたしながら肩に手を回し、カツンとグラスを鳴らしたところで、ぼそりとが呟く。
聞きとれなくて聞き返せば、酒で真っ赤になった顔はもごもごと口を動かした。

「気になる人・・いた、けど、眼中になかったらしい・・・」
「(うおあ・・・マジか・・・!)」

ぽろりと彼女の瞳から大粒の涙がこぼれおちる。
なんてタイミング悪いんだ俺!
つーか好きな人いたんだ!ショック。
さっきまでの笑い上戸から一転、ぐずぐずと泣き出してしまった彼女の頭を撫でながら、俺はしょんぼりした気持ちで彼女の話を聞いてやった。
そして、だんだんイライラしてくる。

どうやらその男、散々にいい顔して気があると見せておいて振ったらしい。
いつも笑顔で、優しくて、がどんな我儘な事を言っても呆れずに聞いてくれて、
その人と一緒にいると素の自分でいられるような、そしてそれは向こうも同じだと思っていたのに。

「なんて最低な奴だそりゃあ!!」
あああ、イライラして来た。
散々愚痴って泣きわめくもこの一年で腐るほど見てきたが、今みたいに、
鳴いてる理由が、酒じゃなくて一人の男だって言うところが我慢できないほどに腹立たしい。


「こんなイイ女泣かせるなんて奴ァこの俺がぶった切ってやんよぉ!」


「まったく、もったいない!」
思わず立ちあがってしまっていた俺が横を見れば、はぽかーんと口を大きく開けてこちらを見ていた。
その顔は真っ赤。
あれ、俺今何か変な事言った?

と、そこで俺の脳内で、監察の勘が少し遅れて回答ボタンを押す音が響く。
あ、あれ・・?
酒のせいじゃなく、見る見る俺の顔も熱くなる。

「あ、あの・・・」
「はい・・・」


表情、
仕草、
そしてそのタイミング。
ヒントはたくさんあったはずだ。
でも、

いっ・・イヤだってさっきは、その場のノリって言うか、目の前で言えないしって言うか、
まさかだってそんな、なっ、何て言ったらいい?!







=**僕と君と、僕の事情**=





「さ、さっきは嘘付いたけど、じっ実は、俺・・・いるんだ・・・好きな人」
真剣に言えば、に爆笑された。


back