「土方さーん。アンタもクジひいてくだせェよ」
「総悟、なんだ、ソレ」
「なにって、豆まきの『鬼』決めのクジでさァ。今年は誰がなるんでしょうねィ・・ねぇ?『鬼』の副長?」
なんて、なんとも愉快そうな表情で二本残った割り箸を差し出して来るのは、
彼もまた、ドSの『鬼』である。
「イヤ、それじゃなくて・・・・もう片方の手に持ってる物騒なモン、それなんだ」
「アア、これですかィ」
「知り合いのカラクリ技師に頼んで作ってもらった、『対エイリアン用マシンガン式豆まき機』でさァ!」
得意げに、肩腕に担いだ見た目からして凶悪な機関銃をガチャリと抱え直して得意げに鼻を鳴らす彼は、『鬼』すら泣いて逃げ出しそうな程真っ黒な笑みを浮かべていた。
今日は節分。
一年の無病息災を願って『鬼』に豆を投げ付ける、素敵な素敵な日なのです・・・。
ちなみに、「豆まき」は『鬼』を“追い払う”ものであり、『鬼』を“仕留める”ものではない。念のために。
**豆で『鬼』は殺せない**
「心配いりやせん、今日のために用意したこの武器で真選組の『鬼』という『鬼』を仕留めてやりまさァ」
「明らかに俺に言ってるだろうお前!」
「充填出来る豆の量はおよそ2000粒。普通の人間なら殺せるほどの威力でさァ!」
「殺す気満々かお前ェェェ!!」
「なァに言ってんですかィ」
土方さんは普通の人間じゃないから死にませんぜィ、きっと。試してみましょうよう。
そういう総悟は今にも試してみる気であふれている。
「早くひけ」と言わんばかりに付きだして来る鬼決めクジ(残り二本)は、どう考えたって明らかにイカサマセッティング済みだ。
真選組の年中行事、毎年恒例の豆まき大会。
去年もこうやって総悟にはめられて、それはそれは死にそうな目にあった。
全員が全員、日ごろの恨みをぶちまけるかのような殺気のこもった全力投球。一球入魂。一粒一粒の豆がめちゃめちゃ痛い。
親の敵のように思いっきり投げつけやがって!
しかし、今年の土方は違う。
鬼になった者は大人しく皆から豆を投げ付けられなくてはならない、そんな『鬼』に土方を指名しようと良い事良からぬ事を企みまくっている総悟と、そんな総悟を見て見ぬふりをする隊士達のなかで、土方の味方になってくれる『福の神』が今年はいる。
「残念だったな、総悟」
にやりと土方が笑うと、むっ、と総悟は顔を顰めた。
「俺はもうひいた」
「え?」
「あー!沖田さん沖田さん、あとひいてないの私だけです。ひかせてくださいー」
な、何ィィィィィ!!
この男、真選組住み込み雑用の娘を使って!
自分に従順な飼い猫を使って、俺を嵌めてきただとォォォ!
笑顔で走り寄って来る雑用娘を見た瞬間顔をひきつらせた総悟を、内心で土方はせせら笑った。自業自得だザマァミロ。
「ごめんなさいね沖田さん。さっきのは土方さんに俺の分ひいて来いって言われて。改めて私の分ひきますね」
鬼、まだ出てないんですよねぇ。わあ、私になったらどうしよう。
真選組で働くようになって初めての節分を迎える彼女は、勿論このあと戦場と化す「豆まき」のことなんて知る由もない。
「え?戦場・・・?」「豆まきって戦争だっけ・・?」なんて声が聞こえてきそうだが、それはこの際どうでもよいのだ。
とにかく、真選組の「豆まき」は毎年戦場なのだ!
ぴっ、と一本の割りばしを引き抜いた彼女の顔が驚きに染まる。
「わっ!割りばしの先っぽ真っ赤ですよ!あの、あの、コレって、あれですか。私が鬼ってことですか?」
「・・・・ちィ・・」
土方を力の限り睨みつけた後、総悟は諦めたように肩を落とした。
自分の手に残った割り箸の先をチラリと見る。
「残念ですが違いまさァ姉さん」
「え?違うの?」
総悟は最後に残った割り箸をため息交じりに娘に見せた。
その先は青いマジックで印がつけてある。
自分だけが投げつけるならともかく、皆から豆を投げつけられる役がコイツなのは、ちょっと、可哀そう。戦場だし。
「『
ちなみにこの二本の割りばし以外は、なーんのマークも付いてませんでした!
「折角用意したのに使えなくて残念だったなア、『対エイリアン用マシンガン式豆まき機』」
にーっこり、と、仏も泣いて逃げ出すような純粋さのかけらも残っていない笑顔で土方が笑う。
「でもォ、折角だから俺が使ってとことん根絶やしにしておいてやるよ、屯所の中の『鬼』という『鬼』!な!」
な!と言いながら、ガシャコンと構えられた『対エイリアン用マシンガン式豆まき機』に、総悟が固まる。
彼に、スーパーで買ってきた福豆に付いていた厚紙で出来た『鬼』のお面を付けてあげようとしていたは、冷や汗を流す山崎にひきつった笑顔で引き寄せられた。
いつもは逆なのだ。イヤ、いつもは逆だからこそ。
「オォォオオオニはァァァァァああああそぅとォおオオオオオオオオ!!!!!」
「ギャアアアアアアアアアアア!!!」
「開始ィィィィィィィイイイ!!!」
「行けー!」「開始だー!」「やっちまえェェェェ!!」
機関銃と『鬼』の悲鳴、近藤の合図をきっかけに、文字通り「豆まき戦争」の火ぶたが切って落とされた。
「死ねェェェェェ鬼ぃぃいいいい!!」「そっち逃げたぞオオオオ!!」「死にさらせェェェェェエエエ!!」
など、今までが経験して来た「豆まき」では聞いた事のないような掛け声で、殺気だった男達がそれぞれに持った豆を一心不乱に『鬼』に投げつける。
その情景を何もできずポカーンと見守っていると、ちょいちょい、と後ろから山崎に肩をつつかれた。
「・・・僕らは、普通に、やろうか」
「・・・・・うん・・・」
逃げた鬼を追いかけてほぼ全員の隊士が去ってしまった真選組の門の側で、
と山崎は控え目に、おしとやかに、「普通」の豆まきを行うのだった。
鬼はー外。福はー内。
「そっち行ったぞオオ!!」
「ぜってえ逃がさなねえ!!」
「でたらめに追うな!挟み撃ちにしろ!3番隊は倉庫側からターゲットを追いこめ!5番隊は拷問部屋からだ!」
「「ハイ!!」」
「7・8番隊は俺に続けェ!密に連絡を取り合え、少しずつ追いこめ、絶対に逃がすな!何としてでも!殺せ!!」
「「おおおおおお!!」」
「残りの隊は突破された時に備えて後方支援んんん!!」
「ちょっとォォォ土方さんん!ちぃとばかし本気過ぎやせん?!」
「相手は総悟だ!少しでも気を抜いてみろ!命を落とすぞ!!」
完全に“狩る”眼で来ている土方の腹から出した指示に、隊士たちも一丸となって答える。
豆まき!コレ豆まき!!
それでいて実際に土方のその指示はうざいほど的確で、総悟は泣きそうになった。
わあ!土方さんって実はすごい人だったんですね!味方だとウザいけど敵になるともっともっとウザい!!
そんでもってとめどなく投げつけられ続ける豆が地味に痛いんですけど!すっげー痛いんですけど!
やっぱり『鬼』は姉さんにやらせるべきだった!なんて僅かな後悔をしつつも、隊士達の見事な手際によって総悟は中庭の池の前までまんまと追い詰められてしまったのであった。
「追い詰めたぞ『鬼』!!」
「いっせいに『鬼は外』(←技名っぽく)であの世に送ってやんよ!!」
「イヤ待て、様子が変だ」
土方が眉をひそめる。
オイー総悟。テメェ『鬼』ならもっと気合入れて逃げろや。んなトコ突っ立ってたら格好の狙い的じゃねェか。
『鬼』の面を被った少年は何も言わない。ちょっと追い詰め過ぎたか?あの程度で情けない。去年の俺なんて(思い出強制排除)
ふと、面の向こうの眼がにたり、と細められた、気がした。
くっくっくっく、と揺れる肩。漏れる笑い声。
隊士の一人が流石に不審がって、「おーい、『鬼』さーん?」なんて呼びかければ、
とたんに『鬼』の面を付けた少年はふわははははは、とわざとらしい「悪人笑い」で笑うのだった。
「いかにも、私が『鬼』だ」
眼の部分に開いた穴からギラリと赤い眼光が覗いた。
「何だとォ?」
「土方さァん・・・アンタはちいとばかしやり過ぎちまったみたいですねィ・・・」
「アア?」
「もう俺は俺であって俺じゃねェ。」
「節分」と言う今日この日、時節の交わる特別な日に出来た念界の歪みから漏れた闇が、
全国で行われている豆まきの『鬼』という概念を具現化させ、ひとつの自我を持つ一己の思念体として形成し、
沖田総悟という体を乗っ取り支配し、操るまでになったのだ!
そう、もう俺は沖田総悟ではない。
この悲しき『鬼』の面に宿りし思念体に思考、体を乗っ取られた、まさしく『鬼』となったんでさァ!
・・・・・・・・。
「・・なーにを言っとるんだァあいつはァ」
ぼそりと呟いた土方に、傍らの近藤がぼそぼそと話しかける。
「要するに、あんまりにも寄ってたかって豆を投げつけられるから、拗ねてるんじゃないか」
「違いまさア!おれ、あ・・私は、この『鬼』の面につもりにつもった怨念が呼び覚ました闇の記憶・・・」
「面っつってもスーパーに並んでたペラッペラの紙の面じゃねーか!誰の念だ!一体いつの間につもったんだ!」
「せめてキャラ統一しろよ!何がしたいんだお前!」
「てんめーバカ土方!部下をなぶって何が楽しいのかァ!」
「「おめーに言われたくねーよ!?」」
ぽりぽりとと山崎が自分の数え年分の豆を頬張っていると、どたんばたんと騒がしい喧騒が近付いてくる。
「まぁだやってたのかな。ねえ?」なんて言ってが山崎に振り向けば、彼はの背中の先を見て青くなって顔をひきつらせた。
「『鬼』が行ったぞォォォ!!」「「干竿」を持った『鬼』がそっちにィィィ!!」「あっぶねぇぇええええ!!」
「なんかこっち来たァァァァァ!!」
「おっ、沖田さん?!」
『鬼』の面を半分ずらした総悟が、干竿を振り回しながらこちらに突っ込んでくる。数人の隊士たちをなぎ倒しながら。
その奥で『鬼の副長』が吠える。
「山崎ィィィィイイイ!!!」
「何としてでもそいつを、俺達の『福の神』を、『鬼』から守れェェェェ!!」
「え!なに!?なに!?俺分かんない、どういう【設定】っ?!」
「ふははははは!ゲームは俺の勝ちのようだなァ!愚かな『人間』たちよ!」
節分ってゲームだっけ?!
そんな言葉を心の中で叫びながら、山崎の体は宙に舞った。
数メートル飛ばされて「ぎゃぅん!」と地に落ちる。
そんな彼と同じく、全く状況について行けていないは、眼の前に立ちふさがる総悟を恐る恐る見上げた。
「さァ、我と共に来るのだ、『福の神』よ」
「ええーーーー?!」
「させ、ねえっ!!」
すんでのところで追いついた土方が、総悟との間に割って入ってを庇う。
ちィッ、と舌打ちを一つ打って総悟は退いたが、それと同時にどっ、と土方の膝も崩れる。
「土方さんっ?!」
駆け寄ったに半身を支えてもらいながら、土方は息を切らして笑った。
「もう、俺は駄目だ・・・あとは、お前が・・うっ、ぐ・・!」
「土方さんっ!え、どっか怪我してんですか?!頭?!」
「ハァ、ハァ、こ、れを・・・・・!」
凶悪な形をした機関銃を肩から外した土方は、それをに押し付けた。
「お前なら・・・出来る筈だ・・がふっ」
「土方さん!?・・土方さァァァァァんんん!!」
「ふん・・・まだやるつもりか」
機関銃を肩からさげてよろよろと立ちあがったに、総悟がふ、とほほ笑む。
「『鬼』と『福の神』の一騎打ちか・・・・頂上決戦だなァ・・!」
「いっ・・・行きます!」
「ふっ・・・・・来い!!」
「鬼はァァァァァ外ォォォォおおおお!!!」
そしては、機関銃のトリガーを引いた。
「・・・・・・・痛い痛い痛い!!姉さん!ストップ!」
ドドドドドドドドドド!
「ギブだってば!ギブギブ!もう終わり!やめて!」
ドドドドドドドドドド!
「・・・オイィィィィィイイ!!」
「待ってェェェ!止め方分かんない!土方さぁぁああ!」
「ぎゃああああ!こっち向くな!痛ェ!!」
「近藤さぁああ!!皆ぁぁ!」
「ギャァァァァァ!」「ひぃぃぃぃぃいい!」「ぐわぁぁぁぁああ!」
ドドドドドドドドドド!
――――― ・・その年の節分。真選組の『福の神』が、 屯所の『鬼』と『人間』を、全て滅ぼした。(やまざきさがる体験談抜粋)
「いっつぅ・・」
「大丈夫ですか沖田さん」
最後の絆創膏を総悟に貼り終えて、救護室に返しに行ったところで、総悟が「俺も豆まきやりてェ」と言いだした。
「あ、そっか。沖田さん『鬼』だったから、結局「鬼は外」やってないんですもんね」
「これから二人でやりますか」
「マジですかィ姉さん」
「ええ。あ、でももう投げる豆が残ってないですね・・・」
「俺の部屋に一袋とっておいてあるんでさァ」
「まあ。じゃ、豆まきしましょうか」
まったく相変わらず準備のいい子供だ、なんて思いながら、日も暮れた屯所の廊下を総悟の部屋に向かって歩く。
「今度は私が『鬼』やってあげますね」なんて言えば、総悟はご機嫌そうに眼を細めた。
「その必要はありやせん」
「えぇ?」
「アンタはさっきと一緒で『福の神』の役をやっててもらえれば十分ですぜ」
「でも、それじゃぁ「鬼は外」出来ませんよう?・・・おっと!」
「それこそ、心配ご無用でさァ」
ぐい、と引き込まれたのは彼の部屋。
「『鬼』はさっきイヤっつうほど叩きのめして貰ったんで。もういねェよきっと」
総悟が笑う。
そのかわり。
「俺がやりてェのは『福は内』の方でさぁ」
後ろ手でゆっくりと部屋の障子を閉めながら吐き出された声は、甘えて来るようで、
それでいてまるで狩り真っ最中のライオンのようで。
にっこり上がる口元。その曲線をなぞるように、総悟の舌が自分の唇を舐めた。
ハイお疲れ様でしたー!
長くなってしまって御免なさい。リクエストで、
「屯所猫で、屯所で豆まき。鬼に決まって、隊士達に後先考えず思いっきり豆をぶつけられる総悟」
「ラストは「福は内」で甘い感じに、なーんて」なーんて!完璧なリク返し!流石ねこ!!
でもなんか「銀魂」からは遠ざかってるようななんていうか・・。でもたまに本家でもこういう回あるよね!ないか!(爆)
何だかんだ言って皆ノリの良いヤツらなんですよ!こんなものでよろしかったら貰ってやってください><
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