さんさん」
「あら、永倉さん、どうされました?」
「沖田隊長見てませんか?探してるんですけど・・」
「ああ、沖田さんなら、私の部屋で寝てます」

「・・・・・・・・・・え?」
ピシリと固まり動かなくなった永倉の言わんとすることに思い当り、は顔を真っ赤にして慌てて首を振った。

「ハッ・・!ちっ違います違います!寝てるって言うか寝込んでるって言うか、どっかでウイルス貰ってきたみたいで」
「病気なんですか・・?・・そんでなんでさんの部屋・・?」
「凄い頻度でお呼びがかかるので・・・ほら、私と沖田さんの部屋って一番遠いでしょう」

だから、面倒なので私の部屋に移しました。
そんなことを言うに永倉は「おつかれさまです・・・」と心中で囁きつつ、うーんと顔を顰めた。
「凄く失礼ですが、それ、仮病じゃないですよね?」

「いえ、結構本気で重症ですね・・・何度かもどしてますし、ご飯も食べれないし」
「うへぇ・・・そりゃ辛そうだ」
「永倉さんや他の隊士さん達も気を付けてって言っておいてもらえませんか?」
「そういうさんもね」

私は大丈夫です!インフルエンザワクチンちゃんと打ちましたから!
そう言って、一礼をして去っていく雑用娘を見送りながら、
そうか・・、隊長は馬鹿じゃなかったんだ・・・と失礼な事を考えた、真選組二番隊隊長、永倉新七であった。







**インフルエンザ・パンデミック(※ゲロ注意!)**







「生きてますか」
「うぐへぇ・・・・し、死んでまァす・・」

自分の部屋の障子を開けたとたんに聞こえる嘔吐音。
はぁ、と一つため息をついて、はバケツに顔を突っ込んでいる少年の背中をさすってやった。
ぜーひゅーと息を荒くする少年の顔は真っ青で、その癖目元は真っ赤に腫れあがって熱を持っている。
水を渡してうがいを指せると、持ってきたお湯でタオルを絞り口元を拭いてやった。

「全ッ不調ですね」
「寒ィ・・・頭痛ェ・・腹痛ェ・・・気持ち悪ィ・・・」
「熱測りました?」
「38度9分だった・・・」
「うわ・・」
「うわ、とか言うな・・・ちめてぇっ」

干からびたひえぴたをはがし、新しいものに変えてやる。
買って来たうぃだーのキャップをパキ、と外せば、総悟は申し訳なさそうに眉を顰めた。

「後でじゃ駄目ですかィ・・」
「駄目。いい子だから、頑張って飲んで。何か食べて、薬飲まないと直りません」
「ちょ、と・・マジで待って・・・気持ち悪い・・」
「あらら」

再び枕元のバケツに手をかける総悟に、は持っていたうぃだーを置いてその手を再び彼の背中に伸ばした。
ふらつくその体を、こちらの体を使って支えてやる。ぶるりと身震いしたのでその肩まで毛布をかけてやった。

「す、すいや、せん・・」
「何がですか」

何がって、全部ですけど・・・。ぐあんぐあんと鳴り響く頭で、総悟は考えた。
実際、頼るとか甘えるとかいう次元じゃなくて、多大に迷惑をかけている。
少なくとも総悟だったら自分の部屋で他人にゲロ吐かれるとか、相手を切り捨てたいレベルだ。
インフルエンザを舐めてた。ごめんなさい。
まさかこんなにキツイとは。

「直ったら・・・・何でも好きなモン食わせてやりまさぁ・・・」
「楽しみにしときます。早く直してくださいね」

そう言って頬を包んでくれた手は、冷たくて気持ちが良かった。




さて、あれの入ったバケツを持って厠へと向かったは土方とばったり出くわす。
嘔吐物は汚いとか気持ち悪いとかじゃなく、それだけで感染源なのだ。トイレに流そうと思っていたのだが。

「・・・・・土方さん・・?」
「・・・んぁ・・?か・・どうだ総悟の様子は・・」

・・・・・・・・・・。
鼻にかかった上ずった声、腫れた目元、荒い息、ぐず、と鼻をすする音。
まさか、この人・・・。

「うぷっ」
「きゃああああああ!」

突然真っ青になって前屈みになった土方に、は咄嗟に持っていた総悟のバケツ(笑)を付きつけた。
お前もかいぃぃぃいいい!!



ばんっ、戸開いたの部屋の扉に、うぃだーを口に咥えた総悟がゆっくりと振り返る。
「・・・どーしやした・・」
空けた障子は開けっ放しに、ずかずかと部屋に入ってきたは何故か布団と毛布を抱えている。
総悟の隣にそれを敷くを眺めながら、開いた障子の先に見知った体が転がっているのを発見して、総悟は黙り込んだ。

「信じらんない!!」
「ぐふぅ・・」
「ひ、土方さん・・・」
「土方さんも沖田さんも、真選組の大幹部なのに、なんで予防接種受けてないんですか?!」

ずるずると敷かれた布団の上まで土方を引きずってきたは、その上に毛布と布団をかけて、ぜいぜいと息を乱した。
額にはうっすらと汗がにじんでいる。流石に小柄な娘にとっては筋肉の付いた大人の男を一人引きずって来るのは大仕事だったと見える。
一方土方はと言えば、真っ赤で真っ青な顔をしてぐるぐると目を回していた。
ぐったりと力の抜けきった体は、今なら楽に殺せそう・・・・げふん、とても辛そうだ。

「だ、て・・・予防接種って・・注射じゃん・・・」
「小学生か!!!我慢しなさい!!」
ちゃぁーん、ちょっと副ちょ・・・副長ォォーーー?!」

退くん!!
開いた障子の隙間から部屋を覗き込んだ山崎をガバリ!と振り返ったの顔を見て、
大まかな事情を悟った山崎は、心の中で合唱する。
ああ、ちゃん・・・・ごめんね・・ありがとう・・・!

「入っちゃ駄目だよ、退くんも染っちゃう」
「俺は多分大丈夫だよ・・・一応予防接種受けたし・・」
「・・・!!退くん・・・・!!!」

がしっ、とその手を体の前での両手に握りしめられた。
偉いよ、隊長や副長より退くんの方が超偉いよ!アンタ偉いよ!!

「真選組の中で流行してるみたい。局長もかかったらしくて・・・・」
「近藤さんも?!大丈夫なの」
「志村の姐さんとこに看病してもらうんだって言ってさっきふらふら出かけていって・・止めたんだけど・・」
「まじですか」

頭を抱えて悩むこと10秒。ちらりと後ろで唸る二人の幹部を見やる。

ごめん!お妙ちゃん!!アレだ!
メールが来たら迎えに行くから!メールが来るまで放置する私を許してくれ!!

「退くん、局長がいないところ副長も倒れちゃって、だから・・・ハッ・・!」

弾かれた様に土方に飛びつき、がバケツをあてがったとたんに、げほげほと見たくない光景が広がる。
泣きそうな表情で山崎を見上げながら、は続けた。

「だから、他の隊長さん達と話し合ってなんとか、今日一日隊全体の指示出せないかなッ?」
ちゃん・・・・!!大丈夫、こっちは大丈夫だからァ・・!!!」
「退くんん・・・・・!!お願い、任せた!」

と山崎の心のきずなが5深まった!




ぶるりと身震いして目を開ければ、見知った天井が見えた。
節々が痛む体をなんとか動かして横を見れば、布団の上に半身起き上った総悟がに薬を飲ませてもらっているところだった。

「寒ィ・・・」
「あ、土方さん!起きました?」

落ち着いたら何か食べてもらいますからね。
先程もどしたものを見る限り、朝から何も食べていないのだろう。もしかしたら昨日の晩から。
「無茶し過ぎです」といえば、申し訳なさそうな声で「悪ィ・・・」と帰ってきた。

「寒ぃ・・」
「姉さん、俺が今使ってる湯たんぽ、土方さんにやってくだせェ」
「沖田さん・・・」
「俺は代わりに姉さんが湯たんぽになってくれればいいんで」
「もう元気みたいですね」
「寒ッッ!」

がばりと総悟の布団をはぎとって湯たんぽを取り出したは、総悟の冗談に反応を示すこともなく立ちあがった。
いかん、かなりイライラしてるこの娘。
「お湯入れて来ますから、ちょっと寒いですけど我慢しててくださいね」
換気だと言って障子を開けっ放しでは部屋を出て行ってしまう。
外は吹雪が舞っていて、ビュオオオオオ、という音とともに冷たい風が室内に入って来た。
凍えるかもしんねェ!文字通り、身も心も!
ビュオオオオオオ・・・、
おあとがよろしいようで。



「姉さん、マジ寒ィんで、一緒に寝てくだせェ」
「ちょっと待って下さい、本当に今忙しい・・・土方さん?土方さーん?」

温めてきた湯たんぽを土方の布団の中に突っ込んだは、出ていく前に突っ込んでおいた土方の体温計を見て絶句した。
大変だ・・・!なんて呟きながら、部屋の隅にある薬箱の中身をあさりだしたは、戻って来るとべしべしと土方の頬を叩く。
湯気が出るんじゃないかと思うほど顔を真っ赤にした土方は「ふぇぁ・・」と情けない声を上げた。

「起きてください、大丈夫ですか?生きてますか?」
・・・」
「40度越えてます」
「40・・・・」

言葉を聞いただけでふらふらしそうな中、は土方の前に一粒の錠剤を置いた。
菌を殺すために高い熱が出るのだが、ここまで高いと逆に体に悪い。脳味噌が死んでしまう。
「とりあえず、薬飲むためにもいったん熱下げないと」

「座薬。自分で出来ますよね?」
「・・・・えぇ・・」
「氷枕持ってきますから、それまでに刺しといてくださいよ?・・・沖田さん。見張っててください」
「えええーーーーー?!」

有無を言わせずが部屋を出ていって5分後、
戻ってきたが部屋を開けると、布団の中でうつぶせになった土方と、その奥で真っ青な顔でぐったりしている総悟の姿があった。
どうやら、言いつけはきちんと守ってくれたようである。




・・」
「なんですか?」
「悪ィんだが・・・水、飲みてェ」
「はい、ここにあります。自分で飲めますか?」
「大丈夫、だ・・」

はぁはぁと息の荒い背中をささえてやれば、隣の布団でこれまた真っ赤な顔をした少年と目が合う。

「姉さん・・」
「どうしました?」
「悪ィんですが・・・隣で、寝てくだせェ」
「はい、忙しいので、後で」
「酷ェ・・・」

無事土方を横たえてから、は部屋の隅で隊服をたたみ出す。
自分の仕事もサボるわけにはいかないと、でも副長と隊長を放っておくわけにもいかず、乾燥機で乾かした洗濯物を自分の部屋に持ってきて畳んでいるのだ。

ちなみに、真選組の方は山崎と隊長らが協力して回している。
お妙ちゃんからはメールが来ないのをいい事に、局長は放置だ。
きっと何だかんだ言ってケツにネギでもぶっ刺してもらっていることを祈ろう。

この二人ほど重症ではないにしろ、他の隊士らも何人か寝込んでいるので彼らの面倒も見て、
山崎と雪の中スーパーに大量にスポーツドリンクを買いに出かけ、(私事だけどパトカー使っちゃった)
帰りに薬局でマスクと消毒薬を買占め、(市民の皆様ごめんなさい)
屯所に帰ってきたら嘔吐物の処理。

「今度、お互い有給とってゆっくり温泉でも行って来ようか・・」「あッ、イイねェ・・それ・・」
「なァんにも考えないでさ、ただ湯船につかるの」「美味しい料理も食べたいねェ・・」
最終的にそんな会話まで飛び出た。

「姉さん、一緒に寝」
「えええい!やかましい!」




夜も更けた真選組屯所。
風邪を悪化させた局長も無事帰って来て、今は安静に寝込んでいる。お妙ちゃんマジごめん。
雪も積もっているので屯所のシャワーを借りて、はげっそりと自分の部屋・・・・の隣、副長室にやって来た。
土方の許可は貰ってある。今夜一晩ははこの部屋で寝させてもらうのだ。
荒々しく予備の布団を押し入れから引っ張りだし、疲れ過ぎてきちんと敷く気力もないままその上に横になる。
疲れた。超疲れた。
でも二人ともタミフル飲んだし、明日には治っていなかったとしても随分楽になるだろうと目を閉じる。
ぎし、と廊下がきしむ音がして、は気だるげに眼を開けた。

「・・・沖田さんですか?」
「・・当たりでさァ・・・」

障子を開けて副長室に入ってきた総悟はの姿を見ると、げほげほと咳をしながら眉間にしわを寄せる。
「そんな格好で寝たらアンタが風邪ひきますよ」

「疲れてるんです、誰かさんのせいで」
寝巻に薄手の毛布一枚で布団に突っ伏している彼女の上に布団をかけてやると、総悟はそのままの布団の中に入り込んできた。

「えぇ・・・・疲れてるんですってば・・」
「昼からずっと言ってるのに無視し過ぎでさァアンタ・・」
「大の大人何人も看病するこっちの身にもなってくださいよ」
「へいへい、すいやせんでしたァ」
「あっ、ちょ、冷たっ、沖田さん足冷たい」
「足は冷たくとも、俺の心はいつも真っ赤に燃えあがってまさァ」
「貴方ほど心が真っ黒な人もなかなかいませんよ」
「そいつァ光栄でさァ」
「褒めてないです・・」

口ではそう言いながらも、布団の中ではは総悟を抱きしめてやっていた。
薬によって下がってきたとはいえ、うっすら熱を持つ体は温かい。
ため息をつきながら「疲れたぁ・・」と総悟の前髪に顔をうずめれば、胸の上で総悟がくすくすと笑ったのを感じた。

「お疲れさん・・・わァ、相変わらずちっせぇ乳してんなァ」
「放り出しますよ」
「勘弁してくださァい」

「おやすみ」と言って、は意識を手放した。



再び意識を取り戻したのは次の日の朝である。
目の前にひえぴたをおでこに貼った土方と総悟の姿。どちらとも隊服である。
そしては・・・・う、動けない。
何か喋ろうとしたら、ひゅーひゅーと掠れた呼吸音しか響かなかった。
・・ちょっと待って、鼻がつまって口でしか生き出来ないんですけど。

「な・・・・な・・・ぜ・・・」
「見事に染りやしたねィ」
「インフルエンザのワクチンは、型が違うと効果がないらしいからな」

土方の掌が額に触れる。冷たい。
ひえぴたをしているのだから彼もまだ熱があるはずなのに冷たく感じると言う事は、今の自分はもっと熱があるのだろう。

「因みに山崎は、季節性A型・季節性B型・新型・鳥インフル全てを受けてたんで、今もピンピンしてまさァ」
「そ・・・・ん、な・・・・」
「過信するからだ。ホラ見ろ、やっぱ予防注射は当てになんねェ」


そんなマイナーなインフルエンザにかかって来るな!!
心の中で叫んだだけなのに、反動でめまいがした。





はい、お疲れ様でした。リクエストで「お馬鹿な総悟をどうしよう」だったのですが、
バカって言うよりタダの甘えん坊の子供になってますね。むー!ご、ごめんなさい・・。
これでインフルエンザになったヒロインを総悟が看病するお話はまた次のリクで・・・(だからリクをリンクさせるなとあれほどry
あー、本当リクエストにこたえられているかどうかが不安です!ごめんなさい!
あと看病して染る展開が2回目ですみません。だってあるあるなんですもん。
リアルでインフルエンザが流行しているので、皆様もお気を付け下さいまし!
こんなものでよろしかったら貰ってやってください*^^*


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