★☆★前回までのあらすじ★☆★

舞台は江戸。
就職氷河期を見事勝ちぬき上州から上京して来た私、 は、
ひょんなことから江戸を守る武装警察・真選組の屯所で住み込み雑用として働くこととなった。

局長の近藤は心も体も大きく、とても楽しい人だ。
副長の土方は「鬼の副長」なんて呼ばれているけれど、頼れるしとっても優しい。
監察の山崎は江戸に出てきてから知り合ったとは思えないほど信頼できる大親友。
そして一番隊隊長の沖田総悟という人物は・・・・、
事あるごとに悪戯や嫌がらせを仕掛けてきて、が嫌がる姿を見て笑っている。
イヤ、一種の友好表現であるのは分かっているのだが・・・。

そんなこんなで粉雪の舞う季節、主人公である私、 は、
見事にインフルエンザにかかり、倒れてしまったのである。
そして、
目を回して寝込む彼女の隣には、恐るべき屯所の悪意、沖田総悟の姿があったのであった。







**パンデミック-フェイズ2**







「なんですかィその悪意のこもった前説は」

総悟は大きくため息をついた。
自分が彼女に対して行ってきた数々の仕打ちを否認するわけではないが、現在の虫の息状態の彼女に何かしら仕掛けようなどとは思っていない。
イヤ、まだ彼女が働き出して間もないころならまだしも。
あれからまだ一年は立っていないとしても、色々あったのだ。
色々あって、自分も大人になった。少なくとも一年分は仲良しになった。

「もうそろそろ、ちっとは信用してくれてもいーんじゃねぇですかィ」
「しんよ・・・して、な・・・け、じゃ、な・・」

信用してない訳じゃないですよ。天井を見たまま、多分はそう口を動かして、それきり何も言わなくなった。
何か言うにも辛いのだろう。
総悟はそんなをちらりと見やった後、再び視線を自分の手元に落とした。
の寝ている布団の側にねっ転がり、彼の周りには単行本の山。
「スモモモ!!〜史上最長の都市電鉄〜」
首なしライダーが最強の武術家になるためサイコロを振って全国のターミナルを回って行くというお話だ。
特に今総悟が呼んでいる4巻は熱い。毒を飲まされた主人公、余命一週間。はてさてどうなってしまうのか。
最初にマンガ本を大量に部屋に持ち込んできた時は、やれ仕事行けだの今日は悪戯は我慢しろだのわめいていたのだが、
総悟が黙って漫画を読み始めると、も諦め、大人しくなった。

仕事なら心配いらない。
元々今日は屯所の雑用は山崎がやる日だし、昨日仕事を休んだ分を取り返すべく、我らが副長がひえぴたおでこに隣の部屋で奮闘している。
こんな日に更に面倒事を増やされてはたまらないと、総悟は緊急時以外は屯所待機なのだ。

げほっげほっ、
喉の皮がカラカラに乾いているかのような、苦しそうな咳。
しばらく続いたので、読んでいた本を開いたまま畳に置いて体を起こす。
ちらりと様子を伺えば、は真っ赤な顔をして眉を寄せていた。
「ねーさん」と読んでも返事はない。寝てるのか。
掌をほっぺたに当ててやってもピクリとも動かなかった。熱い。
ひえぴたがはがれかけていたので、綺麗に貼り直してやって、総悟は再び単行本に手を伸ばした。




うー・・・。
もぞもぞと布団が動く気配を感じて、総悟は7巻に伸ばそうとしていた手を止めた。
主人公の毒薬事件もひと段落し、新キャラを迎えた新展開。
布団の方を振り向けば、がふらふらしながら布団から這い出していた。

「どーしやした」
「トイレ・・・」
「ついてってやろーか」
「いいです・・」

よろよろと障子へと向かう。寝転がった体制はそのまま、足を延ばして障子を開けてやる。
はそんな総悟をじー、と見やって、真っ赤な顔で咳をしながら息を吐いた。

「寒いから、マンガ読むにも布団かぶって読んでください。ね、お願い」

「な、」
総悟は僅かに目を見開く。その後むぐぐ、と口をつぐんだ。



部屋の扉を開けた先にいた、トイレから戻ってきたを見て、総悟は持っていた7巻を閉じて床に置いた。
その顔は不機嫌そのもの。
じい、とを睨みあげながら一言。

「なんでィ、それ」

障子を開ける反対側のの手はお盆を持っており、その上にはおにぎり、あったかいお茶、薬の袋とスポーツドリンクのペットボトルが乗っている。
は首をかしげながら布団に戻り、傍らにお盆を置いてひとつおにぎりを手に取った。
「楽になったうちに何か食べておこうと思いまして」

「薬も、飲んで・・・早く治さなきゃ」
「そーゆーことを言ってるんじゃありやせん」


薬や、飲み物一つとって来るのにしてもそう。
何故頼らない。
直ぐ隣に総悟がいるのに。
何のために俺がいると思ってるんだ。

そりゃぁ、年下の男の子に、しかも上司に頼み辛い気持ちもあるのかもしれない。
でも今、は病気で倒れている最中だ。
もし、
こうやって寝込んでいる隣にいるのが総悟でなく土方や山崎だったなら、もっと素直に・・、


『いいから寝とけ』
『そ、そんな・・お手を煩わせなくても、平気ですよぅ・・・げほ・・』
『丁度煙草が切れたんだ。何か食いたいもんないか?ゼリーでも買って来てやるよ』
『・・・じゃぁ、お言葉に甘えて・・』


『遠慮しないでよ、ちゃん。ほら、口開けて』
『ごめんね、退くん・・・』
『全然。それに、ごめんじゃなくてありがとうって言って欲しいな俺は』
『・・・ありがとう』
『ふふ、どういたしまして』


そんな会話が、想像に難しくない。
総悟だって頼って欲しいのに。
その癖隣でマンガを読んでいる自分には、「寒いから布団をかぶれ」と気を使ったりして。
気にくわない。

がしがしと頭を書きながら黙り込んでしまった総悟を、は不思議そうに見やりながらこくりと喉を鳴らした。
が自分でもってきた薬を、スポーツドリンクで流し込む音だ。

「沖田さん・・・?どうしました、げほっ、・・ごほ」
「・・・・・・薬飲んだなら、寝てなせェ・・」
「・・・・・?」

そのまま黙りこくって「スモモモ!!」7巻をめくりだした総悟に、は構うだけの体力も残っておらず、再び布団に頭をうずめた。



はぁはぁと、規則正しい苦しそうな掠れた息が部屋に響く。
総悟は肩肘を畳につけてその掌で頭を支えながら、もう片方の手でぺらり、と手もとの単行本をめくる。
はぁ・・・・暇だ。
今読んでいる7巻に出て来る、お気に入りの「惚れ薬」のお話も、今はいたってつまらない。
さらっと読み飛ばして8巻を手に取る。修行編突入か・・・少年漫画にありがちだ。

「沖田、さん・・・」
「んぁっ?」

はっと顔を上げる。今日初めての方から声をかけてくれたような気がする。
は半分開けた目で天井を見ながら、「暇じゃないですか」と言った。

「別に。暇じゃねぇです」
「お昼・・食べてないでしょう・・お腹すいてない・・?」
「んー、そこまで」



「元気な人は、ちゃんと食べなきゃ、だめ・・、よ・・」
「・・・・・・・」



一瞬、言葉に詰まる。
げほげほとが咳をした。

(・・・・・・・・人の過去読めるのか?この女・・・)

ちィ、と聞こえない程度に舌打ちを打って、総悟は立ちあがった。
最近はあんまりなかったのだが・・。
この“モード”の「姉さん」には、敵わない。

「んじゃお言葉に甘えて・・・・・・ちゃんと寝ててくださいよ」

苦しそうな表情の中、が驚いたような顔をした。
そしてにっこりとほほ笑む。女の人の笑顔が綺麗だと思ったのは、生まれて二人目かもしれない。

「・・・・はぁい・・心配してくれて、ありがとう」

そんなに嬉しそうな顔をして。
一体どんな顔をしていたんだろう、自分は。




遅めの昼食をとっての部屋に帰ってきた総悟は、部屋の入り口で立ちつくした。
布団はもぬけの殻だ。また厠にでも立ったのかもしれないと思ったが、その考えは直ぐに消去される。
衣類ダンスが開いている。それに、いつも部屋の隅にあるあるものがない事に気づいて、総悟は部屋を飛び出した。
あンのアホおおおおおおお!!!

ばぁぁぁぁああんんん!
開け放った扉の向こうに、目当ての人物は予想通りの身なりで、予想通りの態勢でうずくまっていた。
流石に病人にキレるのはどうかと思えど、そろそろ我慢できない。

「何やってんだアンタ!」
「あ・・う・・沖田さん・・」

いや・・・いけると思ったんですよ・・・。
申し訳なさそうにこちらを見るは真っ青で、カタカタと震えている。
寒さのせいもあるだろうが、その震えは総悟が今現在物凄い殺気を発しているからである。
つかつかと歩み寄った総悟は無言でを担ぎあげると、
傍らに置いてあった・・・・「湯浴み用の桶」をひっつかんだ。

「なんで熱ある時に風呂入るんだよ!」
「いや・・・だいぶ、楽になってたし・・凄い、汗で・・」
「着替えるだけにしとけやァ!」
「す、すいません・・・」

あーあーあー、超イライラする。
時刻はまだ昼下がりを過ぎたあたり。今の時間なら浴場を利用する隊士らもいないだろう。
それは逆に言えば、例え倒れていても誰も気づかないわけで。

「だって・・沖田さんずっと私の部屋にいて・・に、臭っちゃ申し訳ないと・・・」
「どこに気ィ使ってんの?!つかどうして気ィ使うんだ!?」
「そ、そんなに、怒んない、で・・・げほ」

そうか、お前は、俺が心配してずーっと側にいたことすら、逆効果だったんだな!
一言総悟に言ってくれさえすれば、沸かした湯とタオルくらい持ってきたのに!
スパァァン、と片足で荒々しくの部屋の障子を開ける。
投げ捨てずに布団に寝かせてやった自分をほめてやりたい。
まさかの総悟のマジギレに、は頭まで布団をかぶってがたがたと震えていた。
ほうほう、そっちがその気なら、こっちにも考えがあるってモンだ。

びくっ、と布団が震えて、恐る恐るが顔を出す。
視線の先には、睨みだけで電線に止まった数十羽のカラスを飛び立たせることが出来そうなほどのオーラをはらんだ総悟が、の腹の上に馬乗りになっている。
は布団から顔を出した事を後悔した。
素早く伸びてきた彼の腕が、がしり、との頭を捕まえる。


「おいテメェ、ちょっと面貸せや・・」
「ひぃぃぃぃ・・!」


見たことないくらいの怒りを向けられて、はぎゅぅ、と目を閉じた。
ごすっ、・・・・なんて音が部屋に響く。
殴られたにしてはそんなに痛くない・・・なんて思いながらそーっと目を開ければ、目の前に不機嫌な少年の顔があった。

「やっぱり」
「・・・ぅ、ぇ・・?」
「熱上がってんじゃねェか」

すい、とくっついていた頭がどけられて、の頭の上に総悟の手が伸びる。
枕元に置いてあった新しいひえぴたのフィルムをはがされ、優しくおでこに貼られた。
・・・かと思ったら、その上からデコピンされる。
思わず「いたっ」と言えば、総悟は苦笑いをしながら息を漏らした。

「あのな」

包み込むように両頬にあてがわれた掌が冷たくて気持ち良い。
覗きこむように顔を近づけて、総悟が口を開いた。

「どうしたらアンタはもっと俺に頼るんでィ」

困ったように視線を泳がせるに呆れたため息を吐きながら、総悟はくすりと笑った。
「まァいい」

「流石に今回はアンタも懲りたろう。こっから先はぜぇんぶ俺が面倒見てやりまさァ」
「ぜ・・ん、ぶ・・??」
「そう。食うのも、飲むのも、」

薬も、厠だって・・・あァ、前まで付いて行くだけでさァ。
言いながらどんどん総悟の顔が下がって来る。このままいくともう一度おでこがくっつきそうだ。
しかし今度はその頭は途中から方向修正をして、最終的にの頭の横におさまった。


「(そ れ に、“着替え”もなァ)」


耳元でささやかれたそれは、掠れた乾いた空気だけの音だったにもかかわらず、
凄く、湿っていたような気がして。


くらりと眩暈がしたのは、きっと熱が上がったからだ。





はい、お疲れ様でした。20000リクで「屯所猫総悟メインで“報われる”お話」のつもり、でした。
見事におとといのお話の続きですが、ご容赦くださいませ・・・へへーっ!(土下座
最後の「着替えもな」を耳元でささやかせたかっただけでございます。
というかこれは果たして報われていると言っていいのやら・・・。
普段から総悟のが立ち位置が上のはずなのに、“逆下剋上”みたいな、なんか謎なシチュエーションになってしまいました。
でも、かけて満足です。こんなものでよろしければ貰ってやってください。


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