ほぎゃあああああああああ!!

今日も屯所にひとつの叫び声がこだまする。
庭で(全裸で)素振りをしていた近藤は剣をとめ、苦々しく笑みを零す。
反対の庭で(ミントンの)素振りをしていた山崎も同様にラケットをとめ、またやってらぁ、と同情にも似たため息を吐いた。
副長室にいた土方に至っては動かしていた筆を止め一瞬目線を上げただけで、何事もなかったかのように職務を再開する。
そして自分の部屋の前の廊下に座っていた総悟は、ちまちま作っていた丑の刻参り用の『藁人形土方4号』を放り投げて、叫び声が上がった方向に向けて駆け出した。
純粋無垢な子供のような笑顔で。

真選組の隊服ではない今時の若者の恰好で「今の彼」が街をかけていたら、通り過ぎる人々がこぞって振り返るであろう、とっても綺麗で整った笑顔。
幼さの残るその満面の笑みは「わくわく」なんて言葉がぴったりな、期待に弾んだ表情をしている。
なんだなんだ、今日は何が起こった?
何に引っかかった?何に躓いた?何が落ちてきた?何に宙づりにされて小麦粉が降ってきた?
と、明らかに具体的過ぎる彼のその期待は、意外や意外、前方からこちらにダッシュしてくる雑用娘によって外された。

「沖田さぁぁぁぁんんん!!お願いィィィ助けてェェェ!!」
「は?」

うきうきと弾んでいた足取りは次のの言葉に次第にとろとろと遅くなり、最終的に止まる。
軽蔑すら入っているような呆れ果てた表情で立ちつくす総悟に飛びついたは、「口に出して言ってはいけないあの人」の名を叫びながら、号泣した。


「○○○○が出たぁぁぁぁぁああああああ!!」







**マザー2のあのあれのネーミングセンスは神**







所変わってここはかぶき町。
歓楽街から少し外れた場所に位置するこの通りの真ん中には、馴染みの客らの間で『穴場』なんて親しまれている飲処、スナックお登勢がある。
その二階でいつ営業しているかも怪しげな胡散臭い「何でも屋」なんてのをやっているのが、現在の目の前に座っている銀髪テンパの男。「万事屋銀ちゃん」の主人、坂田銀時である。
銀時はやる気のなさそうな死んだ魚の眼をしながら、明後日の方向を向いてほじほじと鼻をほじった。

「いやァ・・・お前さん腐っても田舎育ちだろォ?別に珍しくも何ともねーじゃん」
「銀さんまで!沖田さんと同じ事言う・・・」

真っ白なもふもふに包まれながらキッ、とが睨む。全然怖くない。
苦笑いをしながら新八が出してくれたお茶を、銀時はため息交じりにすすった。
つまり、アレだ。今話題となっているのは、何のことはない。田舎だけでなく都会でもうじゃうじゃと繁殖を繰り返している、
ゴキブ・・・「わきゃああああああ!言わないでぇ!その名を呼ばないでェェェ!!」・・・まァ、ソレのことだ。

「駄目なんですよう・・・私本当にイヤなんですよう・・・!生理的に受け付けないんですよう・・!!」
「てめーんちド田舎の農家だろ?ぜってー見慣れてんじゃねェか」
「慣れるとかそういうんじゃないんですってばぁぁぁ・・・」

今思い出してもおぞましい・・・!!あれはそう、まだが田舎の実家で暮らしていたころのことだった・・・・
「オーイ。勝手に回想入んなー。ちょっとお嬢さん聞いてるー」
それは、寝苦しいくらいの熱帯夜のことであった。「・・て聞いてねェよコイツ」タオルケットだけ腹にかけて手も足も投げ出して眠っていたは、深夜、ふと煩わしい感触に目が覚めた。
右手の肘より少し下のあたりを、さわさわと何かが触れるような、こすれるような、這うような、そんな微妙にくすぐったくてうっとおしい感触。
完全に夢と現実の狭間にいたはあまり深くは考えなかったが、いかんせんこの微妙にくすぐったい気持の悪い感触は頂けない。寝返りを打つついでに思いっきり右腕を振り払ってやった。
その時、確かに聞こえたのだ。体の近くの床を這う、「カサカサッ」と言う音が。
瞬間ばっちぃんと冴えたは真っ青になってがバリと起き上り、暗闇の中あたりの気配を伺った。
うん、気配なんて分かるワケもない。

「・・・それで、何とか勇気を振り絞って部屋の電気を付けたら・・・いたんですよう・・・部屋の隅に・・・」
「・・・・あー・・・」
「・・それは・・・・・」
「手のひらくらいの大きさの・・・」



「おっきな蜘蛛が!!!」

「「Σゴキブリ関係ねーじゃねェかァア!!!」」


あぁぁああ・・・・思い出しただけでぞわぞわするぅぅぅ・・・!
頭を抱えて身もだえするを、銀時も新八もげんなりした表情で見つめていた。総悟の気持ちも分からんでもない。
『・・ホレ、ねーさん、やっつけてやったぜィ』
『駄目です沖田さん!知ってますか、ヤツら1匹いたら近くに40匹は潜んでんですよ!40匹!全部殺して下さい!!』
『えええーーーーっ!?』
確かに気持ち悪い、不快になる気持ちも分からないでもないが、どうして女はこうも節足動物が苦手なのか。
彼らだって生きているのに!
それに、立ち向かって戦ったとして絶対に負けるワケがないのに。何をそこまで恐れるのか。
はぁ。万事屋の男二人が揃ってため息をついたところで、つんざくような悲鳴が玄関の方から聞こえた。

「ぎええええええええあああああああ!!!」
「きゃあああああああああ!!」
「あーうるせぇー!」

差し迫った神楽の絶叫に驚いたまでもが悲鳴を上げる。本当誰かこの女のビビり癖を何とかしてくれ。
バァンと居間の扉を蹴破って入ってきた神楽は、泣きながら銀時に飛びついた。
「銀ちゃァァァんんん!いた!アレがいたヨォ!!」

「あの、黒くて、ギトギトしてる奴っ!へっ、へっ・・へるぷディぃぃぃいいいーー!!」
「いやヘルプミーだろ。なんでイニシャルDみたいになってんだよ」
「銀ちゃぁぁぁん!助けてェェェエ!!」
「噂をすれば、ですねぇ」
「おめー夜兎だろ、サイキョー種族だろォ?なにビビってんだよォ・・ったく、どこにいたんだどこに」
「私の部屋アルぅ!」

その辺にあったフリーペーパーを片手に、どっこらせ、と銀時は立ちあがった。
面倒臭いけれど、こうも甲高い声二つに騒がれては参ってしまう。
「オイィ神楽ァ、部屋のどの辺だ」
言いながら、スパンと神楽の物置のふすまを空けた銀時の目に飛び込んで来たものは、
かさかさと動く、真っ黒くてギトギトな、頭を押し入れに突っ込んでお尻がはみ出るくらいに巨大な、アレの姿だった。

「おぎゃぁァァアアアアアアア!!!すかるぷディーいいいい!!!」
「いや、ヘルプミーです銀さん」



「デカかった!めちゃめちゃデカかった!想像の域を超えた凄まじいデカさだった!!」
「正直、何かの間違いであって欲しい!!」
「もう・・・銀さんも神楽ちゃんも大袈裟なんだから・・・」

真っ青な顔をして抱き合い震える可愛い女の子と情けないオッサンを一瞥して、ジェット的なスプレー缶を持った新八が立ちあがる。
がしィ、とその腕が掴まれて、振り向けば震えるが新八にしがみついていた。

「し、新八くん・・・・!」
さん?」
「さっきも言ったけど、本当、本当駄目なの私」
「・・・・・・・」
「お願い・・アレをやっつけて・・!新八君だけが、貴方だけがが頼りなのォ・・・」
さん・・」

「へっ・・へるっ・・・、ヘルスプロモーション・・!」
「落ち着いてください、さん」

直ぐ仕留めて来ますから。そう言って新八はキリリと前を向いた。
そこまで頼られては、応えたいと思うのが漢と言うもの。
「新八ィ!」銀時と神楽が揃って戦場に赴く戦友の背中に声をかける。
ふっと振り向いた新八の眼飛び込んで来たものは、真っ青になった銀時に今にも倒れそうな神楽、そしてその横で泡を吹いて既に倒れているの姿だった。
ぞわり、と背中に触れる温度のない“殻”の感触。かさかさと頭上でうごめく長い触角。
おっ・・・・おっ・・・・、
おヴぇえぇぇぇぇぇえええええええええ!!!!??


「ヴィックスヴェポラップぅぅぅぅぅううううううう!!!!」


もはや何の叫びだよ。





ブルルルルル、ブルルルルル、
馴染みの団子屋でみたらし団子を食べながら、看板娘に自分の作った藁人形を自慢していた総悟は、「む」と懐をあさった。
震えているのは彼の携帯電話。パカリと開いてみると、ディスプレイには「ねえさん」の文字。
ちょっと悪ィ、と看板娘に断りを入れて通話ボタンを押せば、「ねえさん」の切羽詰まった声が飛び出してきた。

『沖田さんッ・・・』

その一言だけで異常を感じ取った総悟は反射的に息をひそめる。何があった。
電話の向こうでは恐怖に震える泣きそうなの声と、押し殺したような荒い息遣い。

「・・どこにいる」
『い・・・い、ま・・・万事屋さんに、あっ・・あそびに、きてて・・・』
「万事屋・・・?落ち着け姉さん。どうした、何があった」
『で・・・でっ・・・出た・・!』
ピッ。

総悟は通話を切り、そのまま電源ボタンを流押しして携帯電話そのものの電源も落とした。
「でさァ、中に入ってる髪の毛手に入れるのが一苦労でぇ〜。この間は間違って山崎の・・・・」



「切れた!!酷い!!」
「オイィィィ!!援軍はまだかッ!」
「駄目です銀さん!援軍、見込みありませんッ!」
「何ィィィぃぃい!」
「くッ・・・・なんてこと・・!」

押し入れの二段目から半身を出し、這いあがってこようとする巨大ゴキブリ達を蹴散らしながら銀時は歯を食いしばる。
その後ろ、押し入れの奥には、真っ青になってそろそろ気でもふれて来そうな神楽と、それをしっかりと抱き寄せ震えるの姿があった。
何という事だ。
新八と定春の姿もいつの間にか見えない。うごめく漆黒の巨体の隙間から見えたのは、新八のメガネ。
きっと、ヤツは、もう・・・ッ!

真っ暗な押し入れの中、3人の重苦しい沈黙が続く。
くすん、と鼻をすすって口を開いたのはだった。
「私のせいです、きっと・・・」

「私が、大した脅威もない小さなあの子たちを見ただけでいちいち発狂するから・・・!」
・・・・思いつめんな、お前のせいじゃねェよ・・」
「私の絶叫がアレたちの遺伝子に何かしらの影響をもたらして驚異的な進化を促したとしか考えられない・・・ッ!」
「イヤ落ち着けお前!それこそねーよ!何でお前の悲鳴が「つきのいし」的な効果発してんだよ!」

カサ・・・、
その時、押し入れの壁を小さな黒い影がうごめいた。
一匹のゴキブリである。大きさは普通だ。しかしその背中には何故か「五郎」と書いてある。
それを見ても、もうは驚きもしなかった。巨大なそれに見慣れ過ぎてしまって、今更通常サイズのそれには今やむしろ同情すら感じる。
周りの仲間がこんなにもいっせいに「異常な進化」をとげて、この子はこれから生きていけるのだろうか・・・。

「・・ふふ、君も恐怖の中取り残されてしまった仲間なんだね・・・おいで、一人はさみしいでしょう・・」
「・・・・お前、ゴキブリ苦手なんじゃなかったのかよ・・」

そうは言いながらも銀時もの心の変化を感じ取っていて(だって流石にアレ見た後じゃ普通の奴は人畜無害に見える)、静かに見守った。
呼ばれた「五郎」は、・・まさか言葉でも通じたのだろうか、かさかさと寄って来て、の前で見上げるようにして止まった。

「今更仲直りしようなんて、虫が良すぎる話ですよね・・・」
「・・・そんなことねェよ・・。きっとコイツも・・・「五郎」も分かってくれるはずだ。なァ?「五郎」?」

すっと銀時が手を差し出せば、「五郎」は自らその掌の上に乗った。
身を乗り出すようにして銀時の手の上の「五郎」と見つめ合う
「五郎」はぴくぴくと動かしていた触角の一本を前足で捕まえ、しゃっしゃっと髪をとかすように撫でた。

「・・・っ「五郎」・・・!!」

何かを確かに感じ取ったは、口元を押さえて涙ぐむ。
その時。


「銀さァん!!志村新八、ただ今戻りましたァァああ!!」
「新八くん!」
「新八!お前、生きていたのか!」

突然防護マスクをして転がり込んできたのは、死んだとばかり思われていた新八だった。両脇に巨大な殺虫スプレーを抱えている。
「巨大ゴキブリどもは、全滅させてやりますよ!!人間なめんな!!」
頼もしく不敵に頬笑み、ぶしゅぅぅぅぅ!とあたりにスプレーを振りまきだした新八。
吸い過ぎると毒なので、押し入れの中で待っててください!という言葉に甘えて、銀時が押入れを閉める。
「もう大丈夫だ」そんな銀時の笑みに、もほっと息を吐いた。

「よかったな「五郎」!てめーはこれからもそのサイズのまま生きてけんぞ」
「貴方のおかげで、私も考えさせられました。これからはもう少し貴方達とも仲良くやって行きたいなと思います」
「へへッ、スゲー成長だなァオイ」
「ふふ、はいっ!」


「銀さん!さっき街角のTVで見たんですけど、「五郎」です!背中に「五郎」と名前の書かれたゴキブリを倒せば、この巨大ゴキブリ達は全滅するそうなんです!」

せぇぇぇええいィィィ!!!

どすん!!

「どうしました?!銀さん?!無事ですか!銀さん!!」
押し入れの外で新八が叫ぶ。
押し入れの中、銀時は顔をひきつらせながら隣の娘を見やった。

「やっぱり、貴方達と仲良くやって行くなんて出来ませんわ」


彼の隣では、銀時の腕をしっかりと握ったが、銀時の手のひらごと思いっきり押し入れの壁に叩きつけていた。





はいお疲れ様でした。20000hitリクで、「原作「ゴキブーリ」のお話を屯所の猫バージョンで!」でした!うは、なんだこれww
「ヘルプミー」のくだりは原作で何て言ってたかがあやふやだったので適当に・・・・適当過ぎました本当にごめんなさい。
お気に入りのセリフは「ヴィックスヴェポラップぅぅぅぅ」です。正式名称は「ヴェポラッ“ブ”」だそうです。“プ”だと思ってた。
タイトルのネタ分かる人いるかなぁ・・・・大好きですマザー2。「あれ」「あのあれ」には爆笑しました。ネーミングw
それではこんなものですが、よろしかったら貰ってやってください。


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