じりじりじり・・・・
じりじりじり・・・・

日が暮れてもセミが鳴いてんじゃないかと思うような暑い梅雨明けの晩。
土方は自室ではたはたと団扇で自分を仰ぎながら書類に筆を走らせていた。
「あっちぃー・・・」話す相手などいないことは分かっていても不満が口について出てしまう。
しかしその土方の「あっちぃ」にまるでこたえるかのようなどんぴしゃなタイミングで、障子の向こうによく知る気配が現れた。

「土方さぁん」
「何だ」
「入ってよろしいですか?」
「どうした」

控えめに開かれた障子の向こうから現れたのは、よく見知った笑顔。
照れくさそうにえへへ、と笑って、雑用娘はニコリと首をかしげた。

「えへへ、冷たいお茶なんていかがですか」







**恋とは、時に食欲増進・滋養強壮・ダイエットにも効果があります**







「ほんと、一気に夏になったって感じですねぇ」
「そうだなァ」
「お疲れ様です」
「ん」

「あ、そういえば今日ね」
言いながらは持ってきたお盆から氷の入った湯呑をおろす。
「・・ふふ!庭の池。見ました?あはは!近藤さんがね」

「誰かと思えば近藤さんの仕業かよありゃぁ」
「近藤さんだけじゃないですよう」

「待機だった七番隊の隊士さんとね、こうも熱くちゃ池の鯉がボイルになっちまうーって!」

はそれはそれはおかしそうに、くすくすと笑いながら話を続ける。
あまりの陽ざしに池の鯉を心配した近藤が、隊士たちと一緒に劇的ビフォーアフターに乗り出したのだ。
雨傘を改造して柄の部分伸ばして池の周りにパラソルのように生やし、涼しげな感じが出るように〜なんて言ってそれぞれの傘に違う色の風鈴をつるしてみたりして。
挙句の果てに、配給室の冷凍庫から氷を持ってきて池に投げ込む輩も。
ラーメン屋で貰った団扇片手に「そよかぜ部隊」まで編成された。
かと思えば、ふと拭いた風に揺られてなった風鈴の音がキラキラときれいだと言って、一生懸命池を仰いでいた隊士たちは次第に仰ぐターゲットを風鈴に移し、空前絶後のキラキラ合唱が屯所の庭を包んだり。
「いやァ!いい汗かいたなァ!休憩にするか!」
元気いっぱい、健康的な汗をぬぐいながら大声で笑う局長は、まるでどこぞのガキ大将った。


「でもですね、いい汗かいたご褒美に皆でかき氷でもかくか、って話になったんですけど、冷凍庫もうひとかけらしか氷残ってなかったんですよ」
「・・アホか」
「あははは、あー思い出しただけで笑っちゃう!あ、ごめんなさい、お茶、お茶」

パッと一瞬ぱたぱたと両手のひらを上下に動かして(謎の動きである)、は慌てて水差しを取り出し茶を注ぐ。
どーぞ!と笑顔で湯飲みを差し出すを見て、土方は思わずふ、と笑みをこぼした。
本当にお前は・・・・

「・・いらしーやつだな・・」
「え?」

可愛らしい奴だな。
小さくそうつぶやいて笑いをかみ殺した後、見上げれば、はぴしりとその場に固まっていた。
どうかしたかと土方は首をかしげる。みるみる真っ赤になっていく
その手は震えていて、落ちそうだと思い土方は差し出したまま停止している彼女の手からありがたく冷たい茶の入った湯呑を受け取る。
あー、あついあつい。
こんな時は冷えた麦茶がいちばん・・・・

「・・・・かっ・・・かわ、いい・・・?」
「あ?」

赤くなりすぎて煙でも吹き出しそうになっているを怪訝に眺めて、その湯呑の中のお茶をぐいっと一気に流し込み・・・・


“カワイイ”


ん?!
ぐふっ!!

盛大に頭の中が逆流した。
口の中も逆流しそうになったがそちらは意地で飲み込む。
お茶の味なんてわかるわけないそんな余裕もない。ごほごほと思いっきりむせながら、いやいやいや!と土方は心の中でぶんぶんと頭と手を振った。
違う違う!
確かにの事は可愛いとは思うけれども。
彼女に対して自分が思う「可愛い」は、男が女に向けて言うものとは根本的にベクトルの方向が違う。
例えて言うなら、一人で起き上がれない赤ちゃんがじたばたもがいてるのを見て「かわいー」と思うような、ねこが自分のしっぽをふんずけて転んで「かわいー」と思うような、そんな感情である。
不意に持て余してしまったシチュエーションに土方はたいそう慌て・・・・・る事も無く。

「だだ、大丈夫ですかっ」
「・・・お前・・・・アホか」
「でででですよね!ごごめんなさひ・・・」
「言葉のアヤだ、アヤ」
「あははは・・!びっくりしたァ・・・そして恥ずかし・・」
「バァーカ」
「むううー!」

どう説明しようか、悩む間もなくは一人で辿り着いた正解に納得している。
一応娘の方だって土方がそういう感情を自分に持たないことくらい心得ているのだ。びっくりした。恥ずかしい。
むせた時に床に落ちていた土方の団扇を拾い上げてせっせと自分を仰ぐ。
「あー暑い暑い・・・」はたから見ているととても面白かった。

しかし。
ぱたぱたと仰ぐ風にふわりと上がった前髪に、土方は顔をしかめた。

「おい」
「え?」
自分でも驚くほど。本当にうっすら、たったそれだけで、こんなに不安になる。

「目の上、切れてんぞ」



「劇的ビフォーアフターのときですかね?トンカチも使ってましたから・・」
「おいーもうちょっと気をつけろよ。目に入ったらえれぇ事じゃねェか」
「・・お母さんみたい」
「んだとォくそ猫」

多少暑苦しかったが膝の上に座らせ、前髪をかき上げて傷をよく見る。
何か刺さっているわけでもないし、金槌をふるった時にたまたまとんだ小さな砂利がかすっただけか。
はぁ、土方は小さく息を吐いた。こんなモン、唾付けときゃ直る・・・・・まぁ、だからと言って早まっての額を舐めるなんてことはしないが。
俺の膝の上で警戒すんな。なんて何とも横暴な考えがよぎる。

「・・何ともなってねーよ」そう言ってポンポンと頭をたたけば、多少名残惜しそうには膝の上から退いた。
ウン、流石に暑い。どいてくれ。

「・・わ、ととっ?」

しかし、馬鹿というか間抜けというか阿呆というか。立ち上がろうとしたは自分の裾をふんずけてがくんと前かがみにバランスを崩した。
これこそ先ほどのアレだ。猫が自分のしっぽふんずけて転んで「かわいー」となる。・・・・・・まぁ、時と場合には寄るが。
残念ながら今回はこの“時と場合”に見事に当てはまった。大きくよろけた先には土方の頭。
二つの頭がくっつく。生易しいものを想像しないでほしい。くっつくなんてレベルの話じゃない、衝突だ。交通事故レベルだ。
とりあえず鬼の副長である土方の目の前に星を飛ばす程度の威力は少なくともあった。

「・・・・ってぇぇぇ・・・!!」

激突した額がじんじんといたむ。石頭かテメェは!
「オイ」と声をかけれども返事はない。疑問に思ってゆっくり下をうかがえば。
土方の胸にもたれかかるようにして、頭から煙を出しながらが完全に伸びていた。
・・・・・・。
石頭は土方の方だったようだ。



はぁぁ、大きくため息をついて。土方はその手を動かして、気絶した娘の髪を撫でた。
オーイおきろー。呆れ半分で呼びかける。が夢の中な理由が多少違えどほぼいつもどおりの光景。

それが崩れたのは、


本当に唐突だった。


・・・・・・?
撫でる手はそのままに、反対の手を自分の口元に持っていって唇をなぞる。
なんか・・・・ひりひり?するよーな・・?
ヒリヒリというよりはジンジンと熱くひりつくような感触に、土方は純粋に頭をかしげた。なんで唇??
何かしたか・・・?
ふと浮かんだのは先ほどの交通事故。おでことおでこをしたたかぶつけたのだ。勢い余って多少はに触れただろうが・・・・

(・・・・いや、ねぇだろ)

おや。そこで土方は新たに気付く。
運動直後じゃあるまいに、土方は自分が口で息をしていることに。それと同時にの頭を撫でていた自分の手が視界に入ってきて、驚いた。
・・・凄い汗。

「・・・ん・・?」

思わずぱっとから手を放せば、がもたれかかって密着している胸から腹のあたりの熱がことさら際立つ。
・・・否。際立つどころの騒ぎじゃない。

(あれ・・・?なんか、俺・・・・めっちゃ、汗かいてね・・?)

暑い。熱い。
に触れているところを中心に、体中が熱を持っているよう。
それなのに一番熱いのは唇ときた。これは一体どういうことだ??
嫌な汗なのか、純粋に暑さから来た汗なのか、一筋つぅ・・と土方のほほを伝う。じんじんと唇が熱い。に触れた、そこが、熱い。
なに、これ・・・。ばくばくと心臓が変な音を立てながら動いている。とりあえず心拍数がいつもの2割増しだ。
これは・・・も、もしかして・・・

「あ・・・暑い、から・・・これは暑いから、デス・・」

応える者など誰もいない中ひとり呟く。何故か敬語。
こくり。つばを飲み込めば、喉の奥もひりひりと乾いていた。つい先ほど冷たい飲み物を流し込んだばかりだというのに。喉が渇く。からからだ。

「おっ・・・おい、・・・起きろ・・・は、早く・・」

訳が分からない。今までだって何ともなかったのに。
を見ているだけで、体にこもった熱が逃げて行かない。動悸が収まらない。
しばらく迷った末に、土方はを起こすと決めた。汗だらけの左手をごしごしと乱暴に着物で拭いて、のその肩へ。

「んぅ・・」
「どァ?!」

伸ばした手が、が寝返りを打ったことではからずともその頬に触れる。温かい。つか熱い。
寝ているとはいえ、大好きなそのぬくもりを見つけたは嬉しそうに土方の手へすり寄った。ぎゃぁぁぁぁぁ。

「お、おおおおーいさーん・・・ままま、マジ起きてくださーい・・・」
「ぅ、んむ・・・ひじかたさぁん・・む・・」
「・・・・ぐ・・!」

本気で勘弁してほしい状況になりつつも自分のほほは微妙に緩んでいるのに気づき、末期かもしれないと思う。
ぅむむぅ・・・?腹の上のがもぞもぞとうごめいて、ぱち、と焦点の合わない目を開く。
「ふにゃ・・?」なんて言いながら顔を上げ土方と視線を合わせたは、ごしごしとその眼をこすった。
すいません、・・いたた・・凄い痛かった・・・ちょっと、気を失って・・・?
そのまま、視線を合わせたがじーっと土方を見つめる。
そして、

ずいっ。
「うわ、わ?!」
「土方さん・・・・顔・・・真っ赤ですよ・・・・?」
「ち、ちけーよバカ!」
「・・・・?なんかすっごいドキドキ言ってるし」
「・・・!」

もしかして、熱あります・・?夏風邪・・・・?
そんな見当違いなことを言いながらの頭がぐっと近づいて、こつんとおでこ同士が当たる。
のどがカラカラで声も出ない。
コレは・・・もしかしたら、認めざるを得ない・・・のかも・・・

土方の前髪をかき上げたの指がたんこぶに当たった。つーかたんこぶになってるよさっきの・・・
と視線を合わせられなくてわずかに目線をそらせば、その唇からそらせなくなった。一番痛いのはいまだジンジンと痛むたんこぶなのに、一番熱いのはそれよりじんじんと焼けるようにひりつく唇とは。

「すごい、汗」「大丈夫ですか」
ゆっくりと動く唇に吸い寄せられて・・・・
ハッ!土方は大きく目を見開いた。



「こんばァーす。失礼しやーす」




迷いも戸惑いもなくスパンと障子を開けた総悟は、座って向かい合っている土方とをじろりと眺めて眉をひそめる。

「あら、沖田さん」
「どーもねーさん。なんか面白い子と起きませんでした?」
「??お昼のこと以外でですか?いいえ?」
「・・・ふーん・・」
「???」

土方さァん。なんか起こりませんでしたかねィ。
今度は土方に向かって問うてくる総悟に「別に何も」と土方が答えれば、総悟はあからさまに肩を落とした。
なーんだァ・・・つまんねーの。

あ・・あ・・・あっぶねぇぇぇえええ!!
何ともない顔で総悟を見やりながら、土方は心の中で盛大に息を吐く。気づくのが一瞬でも遅かったらを引き離すのが間に合わなかっただろう。
こんな暑い日にさらに爆薬なんて浴びたくない。

じとー・・・・。総悟は納得いかないというように二人と・・・・その傍らにある湯飲みと水差しを見て、大きく息を吐いた。
全く。邪魔が入ったせいで。


「せっかく姉さんがもってくお茶に粉末唐辛子仕込んでたのに、邪魔(女中のおばちゃん)が入ったせいで中途半端に終わっちまったィ!」


・・・・は・・??
総悟の言っている意味が分からず呆然とする土方の隣で、ハッとした表情のは怒りに震えている。
よりによって!私がもっていくお茶に!しこむなんて!!なんてたちの悪い!!
そんなは無視して、総悟は土方に向かってあっかんべーと舌を出した。

「火ィ噴き損ねたなァ土方ァ!この次は容赦し・・・・」


総悟が言い終わる前に、土方の顔がボッと火を噴いた。












お疲れ様でした!
一周年フリリク第八弾「土方さんとのほっこりしつつも、キュンとなるお話」でした!
ほっこりっつーかポカポカしてもらいましたwキュンとなるっつーかきゅんとなっていただきました!
(あれ、リク応える気あるの?あります!!ごめんなさい!!
ここの土方さんがヒロインに「恋愛感情」を持つ日はやってくるのでしょうか・・・やってきてくださっても面白そうですけどね!昼ドラ突入ですよ!(笑
こんなものでよろしければもらってやってくださいっ。リクエストありがとうございました!


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