梅雨も終わりからりと晴れ渡った青空。気持ちがいいくらいの洗濯日和だ。
洗濯かごの中から最後のタオルを干し終わって額の汗をぬぐった山崎は、ふう、と一息吐いた。
ふうー!いい汗かいた!
そして何も気づいていないていを装いつつも慎重に背後の気配をうかがう。

先ほどからずっと強い視線を感じているのだ。痛いくらい。
しかも視線は一つではない。もう一つは鋭く突き刺さる殺気を込めて。
意を決して、山崎はゆっくりと縁側へと振り返る。
廊下の柱からこちらを覗いていた娘ははっと目を見開いた後、真っ赤な顔をして引っ込んだ。
そしてその向こう、廊下の角からその様子を眺めていた薄茶色の髪をした少年の、ちょうど手の位置にあった柱が。
ミシッと音を立てて、微妙にヘコんだ。







**お呼びでないですよ、サラマンダーさん**







ここ数日、総悟は特別休暇をもらっていた。
本来なら重要人物である隊長などには回ってこないまとまった休み。
近藤はともかく、仕事の鬼である土方までもが甘んじてそれを受け入れてくれたのは。
自分たちの分も総悟に任せてあるからだ。年に一度の姉の墓参り。お盆はさすがに忙しいから少し早めに。
近藤さんも一緒に来ればいいのに、と思わないことはない。流石に言わないけれど。
総悟だって互いの立ち位置が分からぬほど幼くはない。でも近藤さんも来てくれた方が姉上も喜んでくれるとは思う。
土方は別にいいけど。どーせ隠れてこそこそ行ってんだろう。うぜえ。
行ってなかったら行ってなかったで張り倒してやりたいのだけれども。土方のくせに生意気だ。

まぁ、でも。
代わりとか、そんなんじゃなしに。今回は真選組屯所の住み込み雑用娘が里帰りについてきてくれた。いったいどんな手を使ったのやら。
ついてきたはあったこともない姉の墓の前で難しい顔をして手を合わせていた。
弟さんは立派にやってます。でも最近悪戯が度を越して酷いです・・・・・
そんなつぶやきがもごもごと隣から聞こえてきて、総悟は慌てて横っ面をひっぱたいて黙らせたのだった。
ななな何つーことを報告してくれてんだこの女!

まあ、旅の全容はまた別の話で。
とにかく、屯所の奴らへの武州土産とは別に、が仲良しのユージン(男)に土産を買っていたのを総悟はちゃんと見逃さない。
ほほう、地域限定猫饅頭ねェ。一口サイズで1箱6個入り。なるほどなるほど。
というわけで。
帰りの電車、がうとうとしねこけてしまっている隙に、総悟の無駄に器用スキルが火を噴いたのだった。


皆様ご存じ「惚れ薬」。
大抵のソレは効果が表れて最初に見た人物にたちどころに惚れてしまう代物だ。今回総悟が盛らせていただいたのもその類い。
何故いちいち他人への土産に、なんていうのは愚問である。フツーに自分が渡してもこの娘は口にしないからだ。
最近それ系の勘がコレは発達してきたようで、うまいこと工夫しないとたくらみがばれてしまう。
相手があの地味監察なら、は疑いもなくこの饅頭を食べるだろう。そんで食べたところを部屋に乱入して姿を見せると。これで完璧だ。
包み紙を綺麗に元通り張りなおしながらそんなことを考えくっくっく・・・と含み笑いをもらしていたというのに。

「・・・まさか俺が土方さんにバズーカぶっ放して叱られている時に食うとか・・・・!」
「完全にお前が悪いよねそれ。自業自得だよね」
「薬仕込むのにかけた労力も、土方さんにブチ込んだバズーカの弾も全くもって無駄じゃねェか!叱られ損でィ勿体ねェ」
「一番損してるの俺だからね!?土方さんバズーカぶちこまれ損だからね!?」

危うく命が勿体ないことになるとこだったからァァ。
騒がしく隣で吠える黒焦げの犬は置いておいて。総悟はぎりりと悔しそうに歯を食いしばりながら恨みがましく視線の先の女を睨み付けた。
完全に「恋する乙女モード」になったが、ほわわんと点描の効果背景を身にまといながら洗濯を終えた男を見つめている。
両手のひらで両方のほっぺを覆い、「やだ・・うそ・・・かっこいい・・・・!退くんなのに・・・っ」
イヤさすがにその言い方は「退くん」に失礼じゃねェのか。

「うーん・・・まだフィルターかかってるみたいだねぇ・・大丈夫ちゃん?」
「はうっ?!あ、あ、は、はひっ・・・ご、ごめんなさい!つい、見とれてて・・!!」
「・・・・・・」

う、うーん・・・。
微妙に複雑そうな表情をして、縁側に上がった山崎は息を吐いた。なぜこんなことに。
朝食後、お土産だよーと箱の中から二つ取り出した饅頭の内の一つを渡されて、その場で二人で食べた。
残りは休憩のときにねー!このおまんじゅうかわいいでしょーなどとかわいらしいことを言っていたその口が、まんじゅうを食べた次の瞬間ぽかーんと開きっぱなしになる。
不審に思って「どうしたの?」と声をかければ、彼女はかああああ!と頬を真っ赤に染めて、慌ててうつむいてしまったのだった。
その後総悟のたくらみを知る。まぁ身内の犯行でよかったというべきか。悪い病気とかじゃなくてよかった。いや、ある意味悪い病気なのだけれども。

はぁ。一つ息を吐いて、山崎はに手を差し出した。彼女の傍らにはかごに入ったまだ干していない洗濯物。
今日は山崎が休みで洗濯を手伝っていたのだが。手を差し出されて、洗濯かごの存在を思い出したは慌ててかごを持ち直す。
が、あまりにも慌てていたために取り落として床にぶちまけてしまった。
・・・・ここまで地に足付かずでは早く終わらせてお茶しに行くのは難しそうだ。

「ごごご、ごめんうぇっっ」
「はあ・・・一体今の君に俺はどんなに映ってるわけ・・」
「あうぅ・・・と、とりあえず外見だけで言ったら、土方さん沖田さんを上回る美青年にみえてますぅぅ・・」
「・・・まじか」

もともとの人格のベースが変わってしまったわけではない。ただ山崎の姿があり得なくかっこよく映ってるだけで。
性格はおいておいて顔であの屯所のイケメンらを上回るとか。それもう山崎退の原型留めてないんじゃないのか。フィルターっつーかもはや別の画像見せられてんじゃねーのか。
真っ赤になって落とした洗濯物を拾い集めるの前にしゃがんで、山崎も落ちた洗濯物を拾い始める。
と、その指先が偶然触れ合った。


「あ・・・っ・・」


乙女か!!!
耳まで真っ赤にして、慌てて引っ込めた指先を胸の前で大事そうに抱え目を細めて視線をそらすに、大きくツッコミを入れたのは土方だった。
キメェ!!!
その横で総悟も叫ぶ。どこの少女マンガだどこの!

「オイ、!いい加減にしろ。さっきから見てりゃぁ全部山崎にやらせてんじゃねェか」
「あっ、ひ、土方さん」

めちゃめちゃ仕事に支障きたしてんじゃねーか。ンな状態なら手伝いなんて頼むな。
土方がそう言えば、ははっとして泣きそうになった後、あろうことか山崎に抱き着いた。
だだだ、大丈夫ですよ!全然ふつーですよ支障きたしてないですよ!いつも通りですよ!
全然平気ですからね、いつも通りこれくらいのスキンシップも普通にできますからあああ!!

だから・・・・!

泣きそうな顔で山崎にしがみつきながら見つめられて土方はどうにも動けない。
そして山崎は微妙に所在なさそうに目をそらす。
これくらいのスキンシップはいつも通りだが、しがみつくの腕がいつもよりも力弱い・・というか、遠慮しているというか、恐る恐るというか。
それでも押し付けられた彼女の胸からは(まァこれも動揺するほど慣れていないことではないにしても)、普段よりも数段階早い鼓動の音がばっくんばっくん聞こえてきて。
なぜか妙に恥ずかしくなって、山崎はうつむいて黙りこくってしまった。




「ほんと、調子悪いなら頑張らなくても、俺やっとくよ?」

悪いのはどう考えても怪しい薬を盛った一番隊隊長なのだ。は別に悪くない。
客間の壺を磨きながら、山崎はこちらをちらちらと気にしながら机を拭く後ろのに声をかける。
だだだ、大丈夫だよっ!退くんばっかっ、そもそも私の仕事だし・・・!!

「退くんこそ、あ、ありがと・・・!私一人でやっとくから、休んでて・・!」
「・・・・・なんかなぁ・・」
「え?」
「・・いや」

そこで会話を終了させて、山崎は再び手を動かし始めた。
いつものだったら、素直に甘えてくれたかもしれない。それだけ遠慮なしに扱ってくれる普段がなんだかいとおしい。
山崎だっての事は少なからず想うところはある。一緒にいると楽しいし、声を聴くだけで心躍るし、その笑顔を見るだけでとっても癒される。
つまり大好き。でもその大好きが恋愛感情かどうかは別だ。とどうこうなるつもりもないが、時たま思う傍に居たい、彼女に触れたい願望が恋心から来ている恋愛感情なのかどうかは自分にもよくわからない。まぁ大好きなのに変わりはないんだけれども。
それでも。
もしも今のの状態が「恋愛感情」だというのなら。
お断りだ。山崎はつまらなそうにため息を漏らした。少なくとも自分はに今みたいな状態の扱いをされたくないということだけは確か。
知ってる?「 はわがままだ」だなんて思ってる輩、きっと世界中で俺一人だよ。
そんなの誇りにこそ思えど迷惑だなんて思ってもいないのに。こんなに「遠慮」される関係、つまらない。

ちゃん、俺に遠慮しないでよ」
「えっ?あ、あの・・・ごめんなさい・・・」

彼女に背を向けたまま発した言葉に帰ってきた返事に、山崎はがっくりと肩を落とす。
「ごめんなさい」は「結構です」と同義だ。
「ありがとう」「じゃぁ遠慮なく甘えちゃうね」そんな言葉が欲しかった自分に気づいて、内心苦笑い。
休憩にしよっか。
そう言って立ち上がった山崎に、はおろおろと何かを言いかけたが、結局何も言わずにもじもじとうつむいてしまった。



惚れ薬。その類いのものは大抵効果は凄いが一定時間がたてば自然と効果は消滅してしまうものだ。
今回ののソレも然り。
山崎がもってきたお茶と饅頭(土産の残りである)を二人して囲んで一息ついていると、がこちらを向いて笑っているのに気付いた。

「そのお土産、美味しい?」
「ん?うん。つーかやっと効果切れたんだね」
「たぶんねー。もう直視できるし、えへへ。お騒がせしました」
「ほんとだよもー」

冷たいお茶をこくりと飲み込み、はぁ、と一息。あはは、と声をあげて笑うに、山崎のほほも自然と緩んだ。
つか直視できないって。効果がある時マジでいったい俺の顔はどんな感じに映っていたというのか。
目元がりりしくなってたとか。口元が不敵に微笑んでいたとか?瞳や唇から覗いた歯がきらーんと星を飛ばしていたとか?はたまた後ろから目つぶしよろしくなバックライト(後光)がまばゆく差していたとか?それはもはや俺なのだろうか。
ようやく気付いた。事の発端である隊長は妬ましげにしていたが、自分が先ほどまでの「恋する乙女」状態のに興味を持てなかった理由が。
文字通り。直視してくれなかったからである。
山崎を見ているようで、はずっと山崎ではないものを見ていたのだ。そんな感じがしたから、嬉しくもなんともなかった。

「退くん」

じーっと、遠慮もなくこちらを見つめてくる。ちゃんと、俺を見てる。
こっちの方が、断然いい。

「なーに」
「そのフィルターの話なんだけど、あの、かっこよく見えてる時どんなふうに映ってたかの」
「ああ、うん?」

笑わないで聞いてくれる?

「同じだった。効果が切れるまで気づかなかったけど」
「は?」
「退くんてもともとカッコ良かったや」

・・・・・・、
・・・・・・・・・・。

「そんなことも忘れてあんなどぎまぎしちゃってさぁ。あはは、もー恥ずかしい」

にっこりと、“惚れ薬のせいじゃない”頬の赤みをたたえて恥ずかしそうに笑うに。
あり得ないくらいの殺し文句を突き立てられて、山崎の手から半分かじった饅頭がポロリと落ちる。
・・・まぁた君は・・・・!よくもまあ平気でそんなかわいらしーことを・・・・かわいらし・・・・・・
か、かわいい・・・・・・・

・・・・・・・ん・・・?


庭にある灯篭の影、そこから一部始終どころか全部始終見ていた総悟は首をかしげた。
あれ?なんか忘れてるような・・・・・・・・あ。
思い出した。
が山崎に買った土産の饅頭は6個。ハズレを引く可能性を考えてそのうち薬を仕込んだのは2個。
流石というかやはりというか、は一発で当ててくれたようだが・・・・・・

「退くん?」
「え・・・う・・・あ・・・・!」

きょとり、首をかしげたに、山崎はピシリと固まったまま動けない。視線も、彼女に合わせたまま外せない。
傾げた首元に柔らかそうな横髪がさらと流れ落ちて、それをかき上げた拍子にうなじのラインがちらりと見える。
いや!いや!いや!
の髪質が柔らかいのは前から知ってることだし、いつもお団子にしてアップしているからそのうなじだって見慣れてるはず。そう、いつも見てる。
桃色の唇も、よく見れば意外と長いまつげも、女の子らしいその高い声も、別に今更驚くことじゃないのに。

か・・・・・・


カワイイ・・・・!!!のくせに・・・・!!


いやがかわいいのは前から知ってたけど。知ってたけどもっ・・・・・!!
首まで真っ赤になって動かない山崎に、それを見ていたも笑顔のまま固まる。
まさか。


このドキドキが収まったら、俺も「ちゃんは普段から可愛くてきれいだよ」って言えるだろーか。











お疲れ様でした!
一周年フリリク第九弾「退くんまたは屯所の猫に惚れ薬」でした!「本音は両方・・!」とのことだったので遠慮なくw
完全にのろけ話になってしまいましたがあしからず。沖田さんが、沖田さんが!
唐突に出てきた沖田さんの里帰りは・・・まァまたその話は後で考えるとして(え
逆ハーというやつの難しいところは、くっつけたいのに誰にもくっつけられないところですかね(笑
退くんは普段からごっさかっこいいと思うよ!!!
こんなものでよろしければもらってやってくださいっ。愛しのひにゃに捧げます!リクエストありがとう!


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