それは、とある特別な日の朝だった。

ばたばたと廊下を慌ただしく通過するいくつもの足音に、閉じていた総悟の片目がゆっくりと開く。
むぁ、と大きく伸びをしてのそりと起き上がる。寝相はいい方だ。
といっても昔・・・武州で過ごした幼いころはよく隣で寝ている近藤の腹を枕にしたり、土方の首にかかと落としを食らわせたりして騒ぎになっていたりもしたっけ。
本日総悟は昼からの番。まだまだ寝坊しようと思っていたのに。
からり、障子を開けて外をうかがえば、通りかかった隊士がわあ、と驚いた後、元気にあいさつをかけてくれた。

「おはようございます隊長!お誕生日おめでとうございます!」
「ん。何でぃこの騒がしいの」
「あ、そーなんですよ隊長!ここひと月集計してた「にんきとうひょう」ってのの、結果が出てるみたいで!」

食堂前に結果が張り出されてるみたいなんですよ。
そう答えた隊士を追い越しざまに、別の隊士が振り返る。「オイ早く見にいこーぜ!あ、隊長おめでとうございますっ」
おう、ありがとさん。未だ半分寝起きな若干低い声で返しながら、総悟は連れだって言ってしまった隊士を眺めていた。
「にんきとうひょう」の結果発表ねェ。
とりあえず、お前らはランキングに参加すらしてねーだろうが。

そうは思えども総悟にだってわからぬことではない。奴らが気になっているのは、それこそランキングに参加している総悟や土方、はたまた万事屋の旦那などの順位なのだろう。
用は賭け事だ。楽しみの少ないこの仕事、貴重な遊びのネタをみすみす逃すような奴らではない。

「お前誰にかけた?俺副長ー!」
「俺は隊長だなァ、やっぱ出番の多さはデカいでしょう」
「ばっか、てめーら分かってねーよ。要は組織票がデカいほど勝つんだよっ、俺は万事屋の旦那かな」
「大穴の局長は?」
「一枚も売れませんでした」

そんな会話が気にしないようにしようとも耳に入ってくる。屯所の敷地は広いとはいえ真選組は狭い。
綺麗に畳まれたズボンを身に着け、ぴしっ、シャツの折り目をただす。
そのまま二度寝の気分でもなかったので、総悟は着替えて部屋を出た。

すれ違う隊士たちはおのおのに総悟に祝いの言葉をかけてくれる。まあそうはいいつつその意識の半分ほどが総悟でなくこれから見に行く結果に行ってしまっているのが見て取れるが。
おう。とか、ん。とか適当な相槌をうちながら、総悟は一人考えていた。
一か月前から始まった、本シリーズのキャラクター人気投票。
その結果発表の日に指定したのは・・・・・本日、7月8日。出来過ぎている。
ふっ、と総悟は鼻だけで小さく笑い捨てた。あのやろ・・・・・・・駄猫の分際で、ナカナカ粋なことを。
まあでも、そこまで期待されちゃァ仕方ない。今回くらいは乗ってやるのもいい。

「はっきり目に見える形で示してやりやしょうかねぇ」

食堂前には人だかり。彼らは総悟が到着したと知ると一気に総悟に見えるように道を作って開けた。


俺のミリョクの前にひれ伏すがいい愚民どもが!








第110訓 **人気投票なんて鼠に耳かじられてどら●もんになればいい**








あー・・・・・
ねぇわー、まじねぇわー。
ここは江戸の中心街。見ているだけで目が回りそうな歩行者天国スクランブル交差点を眼下に眺めながら、2位は窓沿いのカウンター席に腰かけていた。
ぶくぶくと手元のキャラメルラテにストロー越しに人工呼吸。はあ。大きなため息。

「すいません、隣良いですか?」
「あー、どーぞ」

視線も動かさずに適当に答えれば、失礼しますと隣に腰かけた男も小さくため息を吐いた。
ちらりと目をやれば、2位の隣に腰かけた男の手には「ちょこれーとちっぷすとろべりーくりーむふらぺちーの」。乙女かオマエは。
やっていた視線を再び戻して、2位は窓の外を見つめた。
隣の輩と特段会話などしたいわけではないのだが、自然に言葉がこぼれる。
「・・・人気投票って、なんなんでしょうね」

組織票ありっつーことはそれだけ頑張って応援されたキャラクターが上位に輝くということだ。
しかしここで大切なことは応援する人の数と応援された票数が必ずしも一致することではないということ。
いつぞやどこぞの「コイルが2位」騒動ではないが、一部の、ほんの一握りの人間が本気を出すだけで世論というのは簡単にひっくり返るものなのである。
今回の結果に疑いを持つわけでもないが・・・・・いや、やっぱり疑いの目をかけずにはいられない。
「あんだけでけぇこと言って見栄張っといて、ふた開けてみたらコレじゃねェ・・・・こんな時、どんな顔すりゃいいのかわかりやせんよ」

「・・・・笑えば、いいと思うお・・・」

それまで黙っていた隣の男が口を開く。ふわりと揺れるのはピンク色のリボン。
視線をよこせば、男は何の感情も悟らせないポーカーフェイスでもって、反対側の隣を目で示した。

「・・・・こちらの方のようにね・・」
「ぶわはははははははははははははははは!!ぎゃははははははははは!!うけ、うけwるw魔法少女ギザワロス!!!」
「・・・・・・・・・はァ・・」

ピンクのひらひらに包まれている男の頭には同じ色のつばの長い三角帽子が乗っかっており、その両側からにょっきーんと大きな猫耳が突き出している。
すとろべりーふらぺちーのを黄昏つつ啜っていた8位は、無感情のまま2位に向き直った。

「・・・おや。私の魔法少女姿を見ても不動とは・・流石、真選組一の剣の使い手は精神力も違う」
「・・・・・・俺の心は今んなモン見ても笑えねぇほど傷ついてんでさァ」
「どあはははははははは!!ひぃいいいいいい!!お腹痛いいいいいいいい!!」
「・・・・・その女うっせぇんですけど」
「これは失礼。9位さん、これでピーナツバタードーナツでも買って来なさいな」
「ありがとう、行ってくる」

瞬時に8位の手から紙幣を奪い取りレジにかけて行った長髪の少女を見送って、8位は大きく息を吐いた。

「2位なんてすごいじゃないですか」
「やめておくんなせェ。それを言うならアンタだって、比較的新キャラなのに頑張ったんじゃねェですかィ。代表的主要キャラのすぐ下につけてんじゃねェですか」
「その結果がこれですけどね」
「・・・・・・・」
「獲得票数の差見てくださいよ。あなたが羨ましい。そんなにあるならほんの93票でも私に分けてほしいくらいですよ」
「・・・・つか、本当何してんですかアンタ・・」

見廻組の局長ともあろうものが。なにきっかり8位とってんですか。
無感動にクリームから突き出したストローを咥えポツリポツリとつぶやく8位を見やれば、8位はふ、と疲れ切った笑顔で微笑んだ。

「これは・・・べつに、あれなんですから。エリートとして、みんなの期待を裏切るのがためらわれただけなんですから・・」
「・・・・・・」
「9位も7位も女性キャラなんですよ。彼女らでいいじゃないですか、この服着るの。あの子でいいじゃないですか。こういうの、好きですよあの子」
「ただいま」
「おかえりなさい9位さん一つ言ってもいいですか。お前買い過ぎだお」

帰ってきた9位はトレイに山盛りのドーナツを積みながらご機嫌そうに8位の隣に腰かけなおす。
そんな彼女は好物を与えられた子供のように大人しかった。隣を見て何度も笑いをこらえていたが。
2位とちらり目が合って一言。

「1位3位とトップを取り合ってくんずほぐれつ票が乱れていくさまを実際の姿に置き換えて見てたら、なかなか萌えたわよ?」
「黙れ腐女子が」





「じゃぁ、まぁ、お互い頑張りましょう」
そんなことを言って(多量のドーナツを協力して消費している)8位9位を残し、2位は店の外に出た。
どんよりジメジメ湿った空気。梅雨はまだ明けない。はーあ・・・。
気分転換にと、2位はかぶき町にあるお気に入りの団子屋に向かってみることにした。

のだが。

「あら、沖田さん!いらっしゃいませぇ!」
「・・・・・・・・・・・・」
「どーぞおかけになってくださいな!今お茶をお持ちしますね!」

いつもはきはきと元気な店員さんは健在だ。彼女の手腕ではりつくようなうっとおしい湿気も店の周りだけは和らいでいるかのよう。
しかしその店の一角で、彼女の手には負えないほどの暗くじめっとした空気が渦巻いているのを見やってポーカーフェイスの2位のほほもわずかにひきつる。
ことり、隣に湯気の出る入れたてのお茶を置きながら、団子屋の店員さんは諦めたように疲れた苦笑いをこぼした。

「なんか、さっきからずっとああなんですよ・・・」
「何してんのあいつら」
「さあ・・・?こすぷれって奴ですよね?なんか異様なオーラが漂ってて大抵のお客さんが逃げてっちゃうんですよ・・・」

二人の視線の先にいるのは二人の男だ。
彼ら・・・・・・・・12位と13位は、梅雨の湿気をさらに増大させるような負のオーラを吐き出しながら、団子屋の表の隅の席に腰かけている。
眺めていると、やがて二人はそろってため息を吐いた。

「1位だ2位だって何がうれしいのだか・・・まったく・・」
「あー本当にねェー、まぁ、僕らくらい大人になると正直どうでもいいですよねェそういうの」
「全然低くて構わんし。むしろ1位も2位もかわらんしィ」

一人は派手な紫色の着物をはだけ気味に着こなし、煙管を咥えている。
もう一人はチャイナ服。短いスリットから除くたくましい太ももがなんとも毒々しい。

「あァ、どうせ見てくれと原作とのギャップだけで選ばれた薄っぺらいランキングだァ」
「正直勝手にやってくれって感じだよねー」
「まァア?上位とろうと思えばとれますしぃ?あえてとってないっていうかァ?」
「勝手にやってくれって感じですよねェ」

普段は天敵同士がこういうときだけは息が合うらしい。
攘夷志士のトップを前に殺人的チャイナ服で挑むとは。うちの局長も大概変わっている。
「まったく・・・・どいつもこいつも、人気投票謎に踊らされ過ぎだとは思いませんか」「わーかぁーるぅー」などと女子高生のイロコイ談義的な口調で会話を繰り広げる二人の背中を、蹴り飛ばしたい感覚に襲われつつも2位は眺めていた。
「ほんと、踊らされ過ぎよねェ、だってコレ・・・」
チャイナ服の13位がペラリとチラシを持ち上げる。

「4位とか意味わかんないですよね。何もやってませんよコイツ?ただ包帯巻いてるだけで4位ですよ。どーせ大した理由ない癖に巻いてんでしょォコレ、ファッションでしょコレェ」
「その通りだ。同じ攘夷志士なのに包帯巻いてるだけでおよそ47.6倍の獲得票数ですよ・・・・ま、俺は結膜炎だがな」
「この6位、妹差し置いて88.8倍の獲得票数ですよ。しかもこいつこそ本当に何もしてませんよォ?チャイナ服着てヒロインぶっ飛ばしただけでしょ?」
「ま、俺は今日は真選組チャイナ服DAYなだけですけどね」

とりあえずツッコませろ。真選組にそんなDAYはねぇ。俺の誕生日を勝手にチャイナDAYにすんじゃねぇ。
「あのう、2位さん・・・よかったらあれ、なんとかしてくださいよう・・」
団子屋の店員さんがおずおずと聞いてくる。ここにも通い慣れているため顔見知りだ。
しかし、
2位は立ち上がってさっそうとその店を後にした。

「2位さん?!ちょっと、2位さんんっっ!!?」

後ろから助けを求めるように上がった店員さんの声は、12位と13位の「人気投票爆発しろ」談義によってかき消されてしまった。







続きません(笑

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