万事屋さんの仕事は不定期だ。
その日もちっとも依頼の来る気配がなかったので、留守番を子供たち二人に押し付けてぶらぶら散歩。
気圧が不安定だとかで、お日様は見えているが雲行きは怪しい。
風も生ぬるく、一雨でも振りそうだ。
コンビニ傘程度なら買えそうな金がポケットにあることを確認して、銀時はジャンプを立ち読みするために自動ドアをくぐった。
**それは雨が降ってたから、つい**
予想通り、空からバケツをひっくり返したかのような大雨。
ジャンプの代わり傘を買ってコンビニを出た銀時は、買ったばかりのビニールを外しながら忌々しげに空を見上げる。
ざあざあ叩きつけるように降る雨はいっそ悪意でもありそうだ。
こうやって屋根の下にいても、地面から跳ね返った水滴がズボンやら着物の裾やらを茶色く濡らす。
それでも帰らなくてはならないので、下半身は諦めて雨の中を進んだ。
いつも通るかぶき町の商店街は野良犬一匹見当たらず、数メートル先も雨筋で霞んで見えやしない。
ふと、呼ばれた気がして銀時は立ち止まった。
耳を澄ませど聞こえてくるのはざあざあ雨音のみ。
気のせいかと足を踏み出そうとしたところで、微かにぱしゃんと水の跳ねる音が聞こえた。
「銀さん!」
今度ははっきり聞こえた。しかもこの声には聴き覚えがある。
お江戸を守る幕府組織真選組の雑用娘、の声だ。
こんなところで会えるとは。台風接近中とのニュースを見て少し迷ったが、散歩に出かけてよかった。
そんな事を考えつつ振り向いた銀時はぽかんと口を開けたまま固まった。
散弾銃の如く降り注ぐ大雨の中をこちらにかけてくるは、傘もささずに全身ずぶ濡れだった。
「銀さん!あぁ、あの、こんにちは。凄い雨ですね・・」
「すごい雨ですねじゃねーよ!どしたの?びっしょびしょじゃねーか」
とりあえず腕を掴んで自分の傘の中に引っ張り込む。掴んだ腕が思いのほか冷たくて驚いた。
「拾ってください」と書かれた段ボールの中でこちらを見上げる捨て犬の瞳、とはこのようなことを言うのだろうか。
見上げるの瞳は完全にこちらを頼り切っていて、ぞくぞくす、イヤ違う!
肩はおろか胸まで湿って色の変わった着物。べったり濡れた前髪が頬に張り付いてぽたぽたとしずくが落ちている。
「あぁ・・いいですよ私もう濡れてるし、あんまくっつくと銀さんまで濡れちゃいます」
「そう言う問題じゃねーの。あーもーべったべた」
「わぷっ?」
「なに、傘忘れちまったの?」
狭い傘の中、が濡れないよう肩に回した手を引き寄せる。
おかげで銀時の背中が微妙に傘の外だが、気にしない。
いきなり引っ張られて銀時の胸に頭から突っ込んだは少し慌てたが、この天気で人通りもないからか大人しく傘の中にお邪魔になっている。
大人しく腕の中のになんだか嬉しくなって、頬に張り付いた髪をはがしてやろうと触れれば、娘はくすぐったそうに首をすぼめた。
若干申し訳なさそうにこっちこっちとに引かれるまま歩みを進めれば、シャッターの閉まった古着屋の前までたどり着く。
店先のテントの下でがうずくまる、彼女の足元を見て銀時は呆れたように溜息を吐いた。
おずおずと見上げられて今度はぷぷっと噴出す。彼女の足元には文字通り「拾ってください」と書かれた段ボールが置いてあった。
「神楽かオメーは・・」
箱の中にはニャァニャァとちみっこい鳴き声が二つ。声色からしてかなり小さそうだ。
「今日、会議に出すお茶菓子予約に来たんです」
「ん?ああ」
道端で子猫を見つけて、雨も降りそうだったのでは持っていた傘を立てかけてやったのだ。
拾ってやりたい気持ちはあれどこちらも仕事中だし、何でもかんでも拾っていったら土方さんに怒られる。
例え降ってきたとしても、自分は少々濡れながら走って帰るつもりだった。
「でも、急に振ってきたでしょう?雨脚も強かったし・・きっと誰かが持って行っちゃったんでしょうね」
雨ざらしになっている仔猫を放っておけずに、ずぶ濡れになりながらここまで避難してきたと言う訳か。
この季節の雨は思っている以上に冷たい。どれだけ濡れたのか、ダンボールはふにゃふにゃにしけっていて、中から聞こえる鳴き声も弱弱しい。
「ごめんなさい、ご迷惑とは分かってたんですけど。銀さん見つけて・・思わず飛び出しちゃいました」
「・・・・たくほんと、オメーはよぉ・・」
ぽたぽたしずくを垂らしながら顔をあげないの隣にしゃがんで、その頭をぐっしゃぐっしゃ撫でてやる。
「悪ィがウチじゃ飼えねぇからな。凶暴な犬とガキに食われちまわァ」
「・・・飼い主探しなら万事屋銀ちゃんが手伝ってやるから。元気出せ」
「・・銀さんってすごいですね」
私が考えてることなんてすぐばれちゃうんだもん。
そう言って見上げたはニコリと笑った。
「あのクソジジィ、こんな時に限っていねーとかよ」
「きっと私たちと一緒で、この雨で身動き取れなくなってるんですよ」
寺の境内で、屋根の下コンビニ傘をに手渡した銀時は、持っていたダンボールを賽銭箱の隣に置き、自分もその隣に腰をおろした。
銀時から受け取った傘を閉じて、も同じくよじ登ってくる。
たまたま最近依頼を受けた寺の住職が猫好きで、野良猫も何匹か面倒を見ている、というのを思い出して訪れてみたが、あいにくの留守。
まぁ商店街のテントよりは雨宿りにはなるだろう。
縁側によじ登り損ねているを引っ張り上げてやる。
が心配そうに子猫の段ボールを覗き込んだ。随分濡れたようで、二匹固まって震えている。
申し訳程度に下に敷かれたタオルも、絞れるほど湿っていた。
懐から取り出したハンドタオル(こっちも多少濡れているが)で子猫の毛を拭いてやるを見て、銀時は呆れた。
行動は分かるが子猫の前に自分を何とかしろと言いたい。
全身濡れて完全に色が変わってしまった女中着のたもとは、絞れば絞っただけ水が出てくるだろう。
髪だって。
頬に張り付いたところから透明な筋が伸びて、顎を伝ってぽたぽたと寺の縁側に染みを作る。
かんざしも滑って落ちて、おろされた長い髪が背中にも濃い染みを広げて。
へくしっ!
大きなくしゃみをするの視界が、白くて暖かいもので覆われた。
「うわ?!わ!」
「あーもーコラ。大人しくしてろ」
「何ですかコレ?何してるんですか?」
「ナニお前銀さんの着物がくせーっての?仕方ねーだろーが我慢しろ」
「ええ?!」
膝の上に抱えた仔猫を落とさないようにしながら、はわしゃわしゃ頭を撫でる感覚に体を揺らす。
チラリと後ろを振り向いたときに見えたのは黒のインナー姿の銀時で、いつもの白い着物は今現在自分の髪を拭くためのタオルになっていると知る。
遠慮しようともがいたが、首が折れるかと思うくらいの力でぐい、と前を向き固定されてしまった。
「お前、寒いだろ」
「えっ?!べ、別に平気です。銀さんこそ、半袖で寒いでしょう」
「こちとら一身の都合上年中この格好だよ。痩せ我慢しやがってバレバレなんですぅ、オメー絶対風邪ひくぞ」
「うう・・」
しばらくガシガシ擦られて、ようやく満足したのか頭から手を離した銀時は、今度はの着物の裾を絞り出す。
すこし湿気った渦巻き模様の着物は、子猫たちの新しい布団と化した。
「流石に脱げとは言えねえからなあ」
「言われても困ります!」
しとしとしと。
幾分か小降りになった雨を眺めながら、銀時とはお堂の縁側で並んで座る。
こうやって二人っきりで世間話をするのも久しぶりだとか、最近起こった事だとか、最近屯所の悪餓鬼の悪戯が酷いとか(でも今まで聞いた話と統合するに通常運転じゃね?とか)、この雨で邪魔が入ることもなく時間を忘れて話した。
仔猫二匹は丸められた銀時の着物の中で、すーすーと寝息を立てている。
悪くない感じで会話も途切れ、二人の間を心地よい沈黙がつつむ。
しとしと降リつづける雨の音が鼓膜を震わせた。
がくしゃみをしたので座った間を詰めてやれば、嬉しそうに冷たくなった体重を預けてくる。
「あったか・・コレが糖尿病の前触れってやつですか」なんて笑う娘の頭を、銀時も笑ってはたいてやった。
しとしとしと。
雨音は続く。
自分がこの娘を少なからず好いている自覚は、ある。
そんな事を思いながら、銀時はくぁ、と欠伸をもらした。
チラリと斜め下をうかがえばも欠伸をかみ殺していて、なんだかおかしくて喉の奥で笑う。
だからといってこの娘をどうこうする気はないし、まだしばらくは関係も変える気もないし。
が自分の事をそう言う目で見ていないのは聞かずとも明らかだし、彼女には大切にしてくれる輩がたくさんいる。
考えを巡らせながらじっと見つめていたようで、気づいたが首をもたげた。
交わる視線。
訳もなく胸が熱くなる。青春か俺は。
「どうしました?」の唇が動いた。
見上げる視線は潤んでいて、湿気を持った猫っ毛が銀時の首元をくすぐる。
「・・銀さん?」
「えっ、お おう」
「なんですか?何か、ありました?」
「い、いや?あー、そうだ、あの・・・・」
「・・?」
どうどうせいどう落ち着け俺。
何にって、過ぎ去った青春の1ページのように心ときめく自分に一番焦って、
おとずれた今度はよろしくない沈黙にしどろもどろになりながら、動揺を紛らわすように隣の娘の頭をぐしゃぐしゃとかき回す。
この沈黙はいかんやつだ。えーっとえーと、何でもいい、適当でもいいから気をそらす話題話題・・
「はい、あの、銀さん?」
「アレだアレ・・・・そだ、、あのよ」
「はい?」
「えーっと、アレだ・・・キ、キスしていい?」
「・・・はい??」
何でもいいとは言ったけどォォォ!!
自分の口から出てきた自分でも予想外の台詞に、
口を開けたままぽかんと固まる目の前の娘がとても印象に残った、雨の中。
ふははーい、お疲れ様でした。
リクエスト「屯所の猫で銀さんと友達の域を出ないギリギリのところでラブラブ」でした。
大丈夫。出てない出てないギリギリセウトのハズ(笑
こないだ雨猫占いやったばっかりだけど(それでも見て見たら3か月前だったよオイ
銀さんは雨の日に会いたいですね。イヤ晴れの日でも風の日でも雪の日でも良いんですけど!
個人的に着物脱いだインナー姿の銀さんにはトラウマがあるので自分で書いててハァハァしました(変態
たくましい二の腕、良いです。志木さん!リクエストありがとうございました*^^*
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