この星が侍の国なんて呼ばれていたのは昔の話。
天人の進撃に廃刀令・・・侍魂なんてものは、人々の心から消え失せようとしていた・・
舞台は江戸、かぶき町。
知る人ぞ知る幕末場のすなっく、その二階に、そこは存在した。
年端もいかぬ女子供をその人情溢れる人となりで惹きつけまとめあげ、探し物から蜂の巣退治まで何でもござれのなんでも屋・・。
若くしてその店の主人を務めるのは、小麦色の流れるような艶のある髪。
整った顔を幼く見せる大きな瞳が赤く輝いた。
「うっせーんでィ、ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー・・・」
「○○○(ピーーー)ですかィ、コノヤロー」
「自重してくださいここ少年誌ですよ」
『万事屋総ちゃん』
その看板は本日もスナックお登勢の上に堂々と鎮座していた。
**特別読み切り!万事屋総ちゃんと屯所の猫**
ここ「万事屋総ちゃん」の主人、沖田総悟は、その幼ささえ感じさせる大きな瞳を半分瞼で隠してジロリと辺りを見渡した。
部屋の中には眼鏡をかけた黒髪の少年と、ピンクがかったオレンジの髪を左右でまとめたチャイナ服の少女。
この万事屋で働く従業員の彼らは、ぱちぱちと瞬きをしながら総悟の言葉を待っている。
・・・・・。
大きく息を吐きながらも無言を貫く総悟に、ついにチャイナ娘・・・神楽が声をあげた。
「どーしたアルかぁ、総ちゃん?」
「だからテメーが総ちゃん言うんじゃねェ!!気色悪ィ!!」
「うわ、びっくりした。もういきなり大声あげないでくださいよ、総さん」
「総さんって何?!俺そんな斬新な呼び方生まれてこの方されたことねーんだけど?!」
「まったく、わがままが過ぎるアル!こちとらだって恥を忍んでオメーの下付いてやってんだよォしっかり職務を全うするヨロシ。総ちゃん」
「だからやめろっつってんだろーがよォ!」
はあぁ、
ため息も出るというものだ。がっくりと社長デスクに突っ伏した総悟は期待外れだというように卓上で頭をごろごろさせた。
「本当、どうしたんですか沖田さん。どういうワケか世界が反転して急に沖田さんが主人公の世界になったっていうのに」
地味なメガネがご丁寧に今の状況を説明してくれる。
そう。気づいたら突然総悟が万事屋の旦那のポジションになっていた。
確認はしていないがおそらく元の総悟のポジションには旦那が入っているのだろう。ぱられるわーるどという奴だ。
銀魂とはいえ少年漫画の主人公。
18歳の青春謳歌する自分にとって「主人公」という響きは中々悪くない。そう思ったりもしてみたのだが。
じっ・・・。じと目で睨み付けたのは、神楽だ。
「何アルか総ちゃん。ハッ・・!主人公と言えば常にそばにいるヒロインアルな!残念ながらオメーに開く体はないアル!私は前々からヒロインだから、ヒロインなんて言葉ちらつかせても無駄アルからな!」
「ちっげーよ出さねーよ悟れよなんでテメーだよそこのポジションはもっとこう・・・(例えば姉さんとか)他のちゃんとした女が居座る席だろうがよォてめーちくしょう」
「失礼アルな。こんな美少女捕まえといて何が不満でもあるアルか」
「あるアルよ!!」
屋内なのに唾でも飛ばしそうな勢いで、ケッ!と総悟は吐き捨てる。
着なれていない和服と洋服の境目のような衣装がうっとおしい。
渦巻き模様の着物を最初きっちり着込めば、子供たち二人から「おかしい」と指摘されて結局片腕を抜いた。
だらしねー。
姉上がいたら絶対怒られる。
「つかよォ、主人公っつっても所詮は万事屋の主人だろィ。屯所の猫的に滅多に姉さんも遊びに来ねーじゃん。つまんねーやる気失せたー」
「せっかく万事屋の主人になったんですもん。こんな時くらいまじめに働きましょうよ・・・って沖田さんに言うのが間違いでしたね」
「総ちゃんちゃんと仕事しなさいヨ!今日は日曜日じゃないのヨもう!」
「いつからテメーは俺のオカンになったチャイナァ。んでもって総ちゃんヤメロっつってんだろィ」
ああ、これならいっそ旦那が羨ましい。
入れ替わった・・とは確定ではないが、きっと屯所へ飛んだ旦那は四六時中と一緒に居られるわけだ。
真選組の居候。住み込みで働く雑用女中。その気になれば一日中傍に居られた、彼女と遊ぶ時間ががくんと減ると思うと。
おそらく旦那なら一番隊隊長のポジションも危険なくこなしてくれるであろうが。総悟のふてくされるこの気持ちも分かってほしい。
その時。万事やの玄関からノックの音。
「ごめんくださーい」
仕事だ仕事だと騒ぐ子供らや犬にげんなりしながら、総悟も重い腰を上げた。
そして、空いた口がふさがらなくなる。
入ってきたのは総悟も腐るほど見覚えがある。真選組の隊服だった。
しかもただの隊服ではない。
限られたものしかその袖を通すことのできない隊長服。ああミニスカでないことが本当に惜しまれるが。
SSサイズの隊長服を着こなしたチョコレート色の髪の娘がじっとこちらを見上げている。
「あなたが『万事屋総ちゃん』?どうも初めまして。真選組一番隊隊長を務めさせていただいております、 です」
俺のポジションまさかのキャストになってんですけどォォォ!!!
唯一の女隊士にして真選組の切り込み隊長、は、来客用のソファに腰かけながら新八の入れたお茶をありがたくすすっている。
いつもお団子にしているチョコレート色の髪は頭の真横でポニーテールにされ、今どきの若者風なたたずまい。
しかしその腰には立派な一物がキチンと手入れをされた状態でぶら下がっていて。
まるでどこぞの初期設定を見ているようだ。
オイオイどーいうこった。旦那はどこ行った。
だがひとまず良しとしよう。なんだかんだでとりあえずこうしては総悟のもとへ顔を出してくれたことだし。
コホン、とひとつ咳払いをして要件を促せば、一番隊隊長の娘は礼儀正しく話し出した。
「はい、実は、万事屋さんに一つ依頼したいことがございまして」
「ほう、なるほど?」
「最近本当、銀さんの悪戯に困り果ててて・・」
ってここで突然旦那の登場ォォ?!
飲んでいた抹茶オレを盛大に噴出しつつ、総悟は顔をひきつらせた。
「ぎ、『銀さん』?・・一体ソイツはどのよーな方なんで?」
「銀時っていう、ウチの屯所に住み込んでるゴロツキ・・みたいなもんです。ソレがもー悪戯好きで」
「へぇ」
「洗濯物補してれば蛇とかトカゲを投げつけてくるわ、畳んだ洗濯物蹴っ飛ばすわ、撫でろ撫でろってワガママばっかりだわ、風呂は覗くわ・・・もうっ、ほとほと困ってるんです!」
一つツッコませてほしい。姉さんアンタ隊長になっても洗濯係やらされてんのか!
そして何だ?つまりは「総悟→銀時ポジション」「屯所の猫→総悟ポジション」「銀時→屯所の猫ポジション」という関係式が成り立ってるっていうことか?
旦那は主人公の立場ほっぽり出してどんだけ美味しいポジション陣取っているのか!
しかも聞いていれば昼夜仕事で忙しい隊長格の邪魔ばかり!挙句の果てに女性の入浴をノゾキだなんて!!
ぷるぷる握る拳が震えるのを止められない。
「あんのテンパァ・・・なんてヤローでィ・・!!」
「まるまるぜんっぶオメーのやってきたことそのまんまだヨ」
「他人のふり見てなんとやら・・ってまさにこのことだね」
なんてガキどものコソコソ話は聞かなかったことに努める。とにかく、許すまじ旦那。
「そんなものだから仕事も進まなくって、だから万事屋さんに依頼をと思いまして・・」
「分かりやした。とりあえず旦那をぶっ殺せばいいんですよね?任せて下せェ」
「警察目の前にして随分物騒な単語飛び出たよ?!殺すはやり過ぎですいくらなんでもっ」
「姉さんは旦那に死んでほしくねェんですか?!」
「ないですよ?!一緒に暮らす家族ですもん」
家族。その言葉にチッと総悟は舌打ちをうつ。
一つ屋根の下共に生活して、わがまま言っては叱られたり、撫でてもらったりして。
その悪戯にほとほと困り果ててはいるものの、と銀時の絆を見せつけられているようで。
「だから、躾けというか説得というか、あんまり仕事の邪魔しないようにして欲しいんです。できますか?」
「ハイつまり旦那をぶっ殺せばいいんですよね?任せて下せェ!」
「ぜんぜんわかってないよこの万事屋さん!?」
「うおあ?!何だテメーら!」
「皆の万事屋そーちゃんでさ。オイタの過ぎるお宅のテンパを洗い流しにきやした。っつーわけでまずはお前だ土方ァァァ!」
「あっぶねぇぇぇ!何コイツ!血で血を洗い流しにきたの?!」
真選組屯所の門前で白刃を光らせる総悟に、庭に遊びに来ていた野良猫たちが一斉に逃げていく。
副長土方が驚くのもわけない。今やみんなの万事屋さんはどこぞの武器商人が如く、凶器を詰め込んだ乳母車片手にまるで幕府警察に殴り込みだ。
凶器と言ってもおぞましいモノばかり。さるぐつわに麻縄、蝋燭、首輪に鞭とアイテムは勢揃いだ。
万事屋とはよく言ったものである。
抜き身の刀を担ぎながらガンを飛ばす総悟の横で乳母車を押す新八。
その乳母車の中で凶器たちと一緒に収まっている神楽は、手足を投げ出しふんぞり返った。
「オラァ!テメーも何か言ってやれチャイナァ!」
「チャーン!」
やってきた問題児たちを制したのは、もちろんだった。
土方さん!この人たちは私が呼んだんです。
「銀さんを本当何とかしなきゃと思って」
「銀・・・?あァ、あのテンパか。・・あの横着に言うこと聞かせようなんざ至難の業だと思うがな」
渋い顔をしながらもその“知ったような口ぶり”に、総悟は無意識に眉を寄せた。
「銀さん?ああ!くるくるの旦那か、今日は見てないなァー?」
「旦那の事だ、どっかで日向ぼっこでもしてるんじゃないか?」
さて念願の処刑タイムだ(殺)と意気込んだはいいものの、総悟たちに恐れをなしたのかなかなか銀時の姿は見つからなかった。
「サイテーアルあのマダオ!毎日に遊んでもらってご飯も困らないなんて!鉄槌が必要ネ!行くヨ新八!」
そんなことを言って(心中大きな屋敷の中を探検する気満々な)新八と神楽とは別行動で、総悟とは中庭が見渡せる縁側に来ていた。
「銀さん、銀さーん!」
きょろきょろあたりを見渡しながら名前を呼びつつ廊下を進む。
旦那は子犬かなんかか、と突っ込みを入れたくなる。
いないですねぇ・・。首をかしげながら縁側に腰掛けたに続いて、総悟も隣に腰をおろした。
「きっとまたどこかで悪戯してるんですよ」
「俺らが来たからビビって隠れてんですかね」
「ふふふ、そうかもしれませんね」
そう言ってくすりと表情を崩すに、総悟は面白くなさそうに内心舌打ちをうつ。
さっきから聞いてりゃ旦那旦那と・・。も、ここに居る連中も。
もちろんこの世界では真選組からしたら総悟が異端なのだろうけれど。銀時が身内で間違いないのだろうけれど。
先ほどの土方の応対も気に障る。あの男のトラブルメーカーはいつもの事だ、みたいな。
またやってるよ、みたいな。しかたねーな、みたいな。
「年齢的には向こうの方が年上なんでしょうけど・・・なんだかんだ言って可愛いもんですよ、弟ができたみたい」
朗らかに微笑むを見て、ぎりりと歯を食いしばった。
くやしい!
あの天然パーマ!同居だけではいざ知らず、
総悟のもつ唯一の「弟ポジション」まで奪っていきやがって・・!
「姉さん」
「はい?」
「俺、旦那のヤロー見かけたら真先に首輪つけやす」
鎖付けて引きずり回してやる!と意気込む総悟をぽかんと見た後、はクスリと息を吐き出した。
あはは、頑張ってくださいね。
「頼りにしてますよぅ?"万事屋"そーくん」
本当に優しく微笑んだその表情に見とれる間もなく、彼女の態度はコロッと変わる。
「うひゃ?!」
「どうしやした?」
「んっ・・・もう・・!急に脅かさないでっていつも言ってるのに!」
「は?」
もう、そんなトコ、舐めちゃイヤ。
くすぐったそうに、でも困ったように頬を緩めるに、総悟は?マークしか出せない。
「癖っ毛がくすぐったいですってば!もう。ほら、撫でてあげる。おいで銀さん」
「・・・・・・・・そ、」
ひくひくと頬をひきつらせながら、総悟は空いた口がふさがらない。
お言葉に甘えての膝枕で気持ちよさそーにふんぞり返るのは、まさに探し求めていた憎き白髪頭。
ふてぶてしい、死んだ目をした、くるくるカールがかった銀色の毛並みのオッサンの・・・・・
・・・・・ねこ。
「来た来た。この子が例の『銀時』です」
「にぎゃー」
「・・・・・・・」
「あれっ?どうかしました?」
「・・・・・・・」
「ほらっ、首輪つけるなら今ですよ!この子気難しがり屋だから、気に入った人しか触らせないんです」
「・・・・・・・」
「にぎゃー」
「アレ?沖田さん?沖田さん?」
ダンナァァぁぁぁっっ!!??
『屯所の猫ポジション』って、そっちィィィィ?!!
はい、おつかれさまでした!
リクエスト「万事屋そーちゃん」でしたw
ちょっとかなりわけわからないことになってしまってごめんなさいww
子猫ちゃんなら躾けたことあれどオッサン猫など躾けたことない沖田さん涙目(笑
モグにゃんリクエストありがとうございましたー!
銀毛並もふもふのにゃんにゃんなら、洗濯物蹴っ飛ばされてもお風呂覗かれても赦しちゃいますよねーっ!
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