真選組副長の毎日は、朝から晩まで忙しい。
ようやく戻ってきた自室で腰をおろし、一息つくまでもなく。
「失礼します」と廊下から聞こえてきた声に返事をすると、報告書の束を片手に山崎が現れた。
「副長、夕飯前に報告終わらせていいですか?」
「ああ、ご苦労」
「そう言えば、明日副長非番ですよね」
夕食前に持ってきただけあって特段動きのない報告は直ぐに終わった。
山崎のそんな声にちらりと壁のカレンダーを見れば、確かに明日は土方の非番となっていた。
あぁそうだっけ。毎日の忙しさで自分の休みの日すら覚えてないとは。
「副長も大概働き過ぎなんですから、休みの日くらいゆっくり休んでくださいね」
「気づかいする心があんなら仕事サボんじゃねーよ。始末書増やすな」
「あはは、それは沖田隊長に言ってくださいよ・・」
「あら、」
夕飯の時間だったのでそのまま山崎と連れ立って副長室を出れば、丁度お盆に二つのグラスを持ったと鉢合わせた。
はこの屯所で働く雑用娘だ。彼女の部屋は副長室のすぐ隣。
山崎が報告書を持って副長室に入っていったのに気づいて飲み物を用意してくれていたのか。
何だか悪いことをした気分になる。
「悪ィ、終わっちまった。ありがとな」
「ありがとうちゃん、ここで頂いていい?」
「あ、えと、うん」
ひょいとの盆の上からお茶を持ち上げて口へ運ぶ。
そんな土方と山崎を見つめながら、はほんの少し頬を赤らめて地面を見た。
「土方さん、明日非番なんですか」
「うん?ああ、自分でも忘れてた」
「そうですか・・・」
「どうした?」
「い、いえっ別に!あ!配給手伝わなきゃ!失礼します!」
真っ赤になってぴゅー!と去って行く可愛らしい子猫を見つめながら、
土方と山崎は顔を見合わせ、そろって首をひねった。
**ひじかたさんっ!!**
次の日の朝。
ごしごしと目元をこすりながらそれでも定時に目が覚めた土方は、げんなりと溜息を吐きながら着物に着替えて食堂へと向かった。
非番の前日の晩だというのに始末書という名の悪魔は攻撃の手を緩めてくれない。
ほぼ徹夜で何とか仕上げた書類を思い浮かべながら、機能の山崎の言葉を思い出す。今日は一日ゆっくりしよう、そう決めた。
朝稽古上がりの隊士らがちらほら見える食堂で席に着けば、いそいそと向かいの椅子を引く子猫が一匹。
「おはようございます、あの、ご一緒して良いですか?」
「ああ、どうした?今日はいつもより遅いな」
「はい、私も、お休みなので」
ああ、なるほど。そう言われれば今日はこの娘の週1日の休みの日。
シフトを組んだのは自分の癖にすっかり忘れていた。自分と休みが重なるとは珍しい。
「あのう、土方さんも今日お休みなんですよね?お暇だったら、えっと、一緒にお出かけしたいなぁって・・」
「あー・・・・」
悩む。返事にとても悩む。
「公園のそばにね、新しくクレープ屋さんができたんですって」なんて可愛らしく頬を染めるの願いはかなえてやりたいのはやまやまなのだが体力的に持つかどうか。
ぶっちゃけものすごくだるい。眠い。起きたばっかりなのにつかれがピークである。
朝食を食べに来たのだってそのまま二度寝に突入したら夜になりかねなかったからだし・・。
「・・あら、土方さん・・?」
途方に暮れていると娘の方が土方の異変に気付く。
もしかして土方さん、お疲れですか?
・・この娘のこういうところは本当に助かる。
「今気づいたら、すごいクマ」
「あぁ・・昨晩・・休み前なんで丁度溜まってた書類をかたずけとこうと思って・・」
「あ、あぁ、じゃぁ今日はゆっくりしてた方がいいですよ!」
「・・本当、すまん。今度必ず」
「いえいえお気になさらず!」
お気になさらずと言いつつ目に見えてしょぼんと首を垂れるに罪悪感が膨らむが、時間が開いたときにでも付き合ってやろうと心に決めて無理やり米をかき込む。
目に見えないしっぽをずーんと垂れて、雑用娘は食堂を後にしてしまった。
思いのほか時間をかけて食べ終わった朝食に疲れを自覚しながら食堂を後にする。
の誘いも断ってしまった事だし、自室で大人しくしていよう。
何ならこんな日くらい二度寝でもするかと廊下を歩いていると、向かいから近藤がやってきた。
「よォトシ!今日は非番か」
「ああ、まァな」
「お前野球は嫌いだったかな」
「?」
「観戦チケットが2枚あるんだが、なんか前回の事もあるからってお妙さんに断られちまってなァ」
「はあ」
「良かったら一緒に行ってくれねーか?ホラせっかくの休みなんだし、羽伸ばしてパーッとさ」
ああ・・・、適当な返事をもらしながら頭の中で考える。
確かに、近藤と土方が二人で出かけるなんてお上の会合でもない限り中々ない。
昔みたいに友人として弟分として接してくれるのはなんだか久しぶりでくすぐったい。まぁたまにはそういうのもいいか・・・と思ったところでただならぬ気配を後ろから感じた。
「!!」
ちゅどーん!
「うおあ!あっぶねェ!!」
「ひーじーかーたァー!姉さんの誘いを断るたァ何事だァ!!」
「おっ総悟じゃねェか。え?なにトシちゃんから何か誘われてたの?」
「コースにあらかじめ張り巡らせてた罠が無駄になる俺の気持ちにもなってみやがれィ」
「怒るポイントそこォ?!」
「副長ー!」
ぎゃいぎゃい廊下で騒いでいるところに一人の隊士がかけてくる。
「副長!お忙しいところすみません!」
「お忙しくさせてんじゃねーよ今日は俺ァ非番だよ!」
「はい、しかし・・副長に客人が見えております」
「客人んん??」
「万事屋の旦那が、今日家賃の取り立てだからこの間酒の席で約束した金を貸して欲しいと・・」
「追い返せ!!」
「ハイ!」
土方は決意した。上等だ、本日の休暇は誰にも邪魔させはしない!
「あらあらみなさんおそろいで。どうされたんですか?」
ほんわか間延びした声が廊下に響く。
その声の主は土方を見つけると、ぱぁっ、と先ほどのしょんぼりを持ち直すように笑顔になった。
「あのっ土方さん!今日お昼は屯所でですよね?何か食べたいものありませんかっ?」
「あっ、姉さん姉さんっ!」
総悟が駆け寄って、ごにょごにょとに耳打ち。
「・・・・え・・?土方さん・・お出かけなさるんですか・・・?」
「イヤしない!しないから!」
いつもにこにこ明るい笑顔がすぅっ、と冷めるように暗くなる。
イヤお前どんだけ物凄くクレープ屋さん行きたかったの?!
「トシ!!俺だって物凄く野球観戦行きたかったんだぞ!!お妙さんと!」
「知らねェよ!本人誘え!!」
「土方さん!俺だって苺ソースだと思って食べたらタバスコだった時の土方さんの顔見たいでさァ!」
「オメーは仕事行けェェ!!」
「あットシ!!」
俺は非番を満喫するんだ!!
だッッ、その場を走り去った土方は全速力で自分の部屋へと向かう。
非番、ああそれは何て甘美な響き。
昼まで寝てても怒られない。いつも追われている仕事から解放される。自分へのご褒美に美味しいものを食べに行く。
本日土方にはそのすべてを手に入れる権利があるのだ。
誰にも俺の非番を邪魔させない!
バァン!
叩きつけるようにして開いた自室の中には、くりりんと大きな目をしたさわやかマガジン系小姓が、
さわやかすぎる絵がを笑顔を振りまいて正坐していた。
彼の隣には山積みになったフルカラー雑誌たち。
「あッ副長!お疲れと聞いて、コレ自分の集めたコレクションたち・・・ゆっくり疲れを抜いてくだ・・」
すぱこぉぉぉん!!
思いっきり閉めたら片方の障子が外れた。
「ふくちょー!非番ならちょっと俺とミントンの相手してくださ」
「今すぐ切腹しろ!!」
「酷ッ!?」
庭からとんでくるうきうきとした声に、視線もよこさず吐き捨てる。
「頼むよォ土方くんん〜マジやばいんだって、お宅らのダイスキな殺人事件起きちゃう系なんだって!」
「不法侵入すんなァァ!!」
「チョットだけでいいから、さ、ホラトッシーになった時助けてやっただろ?」
「いつの話を持ち出すんだテメーはァ!俺は今日非番だっつってんだろ!!」
「ひでぶ!」
「俺のラケットがァァーー!」
囲いの塀をよじ登って助けを求める金欠侍には、ちょうど足元にあったバドミントンのラケットを攻撃用ブーメランが如くお見舞する。
「チクショーこうなったらしょうがねェ、土方さん俺と公園行って下せェ」
「行くかァァァ!!」
「トシぃぃ!どこ行くの?!」
我らが大将のそんな声を聞き流しながら土方は駆け出した。
もう嫌だ!全然休まらない、ぜんぜん癒せない!屯所に至ってぜんぜん疲れとれない!
どこに居ても邪魔が入る!何分もたたないうちに刺客が襲ってくる!
自室の戸棚から財布を引っ付かんで、一目散に玄関へ。
人目につかない静かな場所を目指して屯所の外へ踏み出した一歩は、そのままぴたりと静止した。
「土方さん・・・」
「・・・・・いや、あの、その、」
顔を引きつらせる土方のすぐ前に立ちふさがるは、
目に涙をいっぱいためた、昼食材料の買い出し帰りの屯所の猫の姿。
「おひる・・・ぐすっ・・屯所で食べるって言ったのに・・」
泣くなァァァーーーーー!!!
「どこ行くんですかっ、誰と行くんですかっ。私の誘いは疲れてるからって断った癖にぃ・・!」
「私だってお休みの土方さんとお出かけしたかったのにー!」
「ちょ、おま、待・・ごあしゃ」
結局、その日土方は外出することはなかった。
そして昼食は土方の顔面によって粉々になった卵で作ったオムライスだったそうな。
ちなみにその日の午後は、顔面卵パックアタックを繰り広げ我に返ったが、
半日中土方について身の回りの世話、邪魔者の排除などに尽くしてくれたため、とってもゆっくりできたとか。
はい、お疲れ様でした!
リクエスト「土方さんがひたすらいじられる話」でしたー!結局のところ「土方さんがひたすらモテモテな話」です(笑
持てる男はツライ典型的パターンですww
立花くんリクエストありがとうございましたー!*^^*
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