・・・むぁ。
吸い込む乾いた冷たい空気。鼻先をくすぐるじれったい感覚。
うっすらい開いた瞼のまつげの先を、柔らかい猫っ毛がさらりと撫でた。
**秋の夕日に照焼秋刀魚**
最近は日が落ちるスピードとともに、朝晩の寒さもぐっと強くなった。
昼間の温かい日差しにうとうとと昼寝を始めたのを先ほどの事のように思い返しながら、結構本気で眠りに落ちていたのかと総悟は驚いた。
さら・・と、再びまつげの先を撫でる細い猫っ毛に、目を瞑る。
もう一度うっすら目を開けば、目の前に見知った顔が、すやすやと寝息を立てていた。
廊下と接している背中はひんやり冷たい。
ここまで気温が落ちるまで自分が目を覚まさなかったのは、おそらくこの見知った顔のせいだろう。
いつの間にかかけられているこの薄手の毛布と、この温かくて柔らかい枕と。
総悟を膝枕して自分もそのままうとうとと寝こけてしまったのか、ちょうど総悟の目の前に来る形で垂れた頭が寝息に合わせてこくり、こくり、ゆっくり動く。
丁度沈んでいく最後の夕日が差し込んで、彼女のまつげを少しだけオレンジ色に染めた。
自分にとっては珍しく無防備な・・・
・・いや、こちらがやってやろうとその気を出せば特段難しくもないのだが、こうやって間近でまじまじ眺められ(見上げられ)ていることも知らずにはのんきに寝息を立てている。
なんだかおかしくて、思わずふっと息が漏れた。
(・・まつ毛俺の方が長ェや)
折角なのでもっとよく見てやろうと、かけられた毛布から片手を出しての後頭部へ手を伸ばす。
ほんの軽く引き寄せれば完全に力の抜けている頭は簡単に言うことを聞く。
重力に従って垂れ下がった前髪が総悟のほほを撫でた。
互いの鼻と鼻がくっつくほど間近で眺めても、は起きる気配は無い。
対して総悟は好奇心の塊だ。前髪の生え際に小さなほくろがある、とか、右頬に擦り傷がある、またどっかで転びやがったな、とか、やっぱりまつげは自分の方が長い(優越)とか。
は寝るときうっすら口を開くのか、とか、普段に輪をかけて子供っぽい寝顔だとか。
この娘は時々(いやいつも?)年齢を疑いたくなるような幼い反応を見せる。実年齢より幼く扱ってしまうのは真選組はおろか、その外の彼女の知り合いの対応を見てもうかがえることだ。
それはガキっぽい笑い方だったり、ちょっとしたことに大げさに驚くことだったり、すぐ泣くところだったり。
最初はそれだけの、ただの世間知らずのガキな奴だとばっかり思ていたのだが。
『沖田さん』
自分の名を呼ぶこの娘の声が、姿が、脳裏によぎる。
もう出会って1年以上の時が過ぎたのか。
自分を呼ぶフレーズは変わらない。でも、何も変わっていないわけでは決してない。と、思う。
「ねーさん」
自分がこの娘を呼ぶフレーズも、しかり。
もう少しだけ腕の力を強めれば、ついに瞼と瞼がくっつくほどに彼女の頭が低くなる。
よくこの体制で寝れるな、この女。呆れ半分でクスリと息をもらし、総悟は自分の唇をの耳元に近づけた。
「いい加減にしねーと、そろそろ食っちまいますよ、」
「姉さん」
出会った時から変わらない、その呼び方に含まれるものが、
出会った時のままであるとは、残念なのか喜ばしい事なのか。確実、嘘にしても厳しい。
耳元でささやいても彼女は全然、変わらず夢の中だったので、
つまんね、と総悟は回していた腕をぱっと放した。
降りてきていたの頭は遠のき、総悟の掌は少し冷たくなる。
自分の言ってしまったことに妙に照れながら、総悟は自分の頭が落ち着くようにゆっくり息を吐き出した。
「ぷあ?!」
「よーやくお目覚めですかィ」
「沖田ひゃ?!な、何やって・・・ふがが!?はにゃしてください!」
寝たまま鼻をつままれたが息苦しさに目をさまし、目の前に総悟の顔があることに(自分で膝枕なんてものをしてやがった癖に)仰天する。
「寒っ・・!うわ、もうこんなに暗い」
こんなに眠るつもりはなかったのに!とわたわたするだが、膝の上に相変わらず総悟の頭が乗っているので動くに動けまい。
「イヤどいてくださいよ!まだ畳んだ洗濯物届けてないのに!」
ぎゃんぎゃん鳴く子猫の鳴き声にへいへいと適当に相槌をうってのんびり頭を持ち上げた総悟は、
んっ、と伸び。ひょいっと起き上がってくしゃくしゃと自分の頭を掻いた。
被っていた布団をにぺいっと押し付けて、そろそろ夕飯かー、と歩き出す。
ふと、が付いてきていないのに気が付いて振り向けば、彼女は廊下に四つん這いになったまま動かずにいた。
「あっ・・・足が、しびれて・・!」
「馬鹿じゃねーですかィ。年?」
「誰のせいだと思ってんですか!」
「重かったって言ってるんですかィ?そりゃ俺にだって脳みそ詰まってんですぜ、勘弁して下せェ」
「私に詰まってないみたいな言い方やめてもらえますっ?!」
日も落ちてしまって、夏の過ぎた今の季節は冷えるのが早い。
隣にしゃがんで、立ち上がろうと必死なを眺めながら総悟の両手はポケットの中だ。温かい温かい。
もで総悟が手を差し伸べてくれることなど期待していないので、無様な体制は諦めてゆっくりゆっくり足に力を込めていく。
「今ぐしゃぐしゃにしてましたけど、この毛布今晩沖田さんが使う奴ですからね」
「はァ?そりゃひでーや。アンタが使う予定だった分と交換して下せェ」
立ち上がって布団を抱え、不服そうな顔をするにはんっと息を吐いて総悟も立ち上がる。
「メシ行きましょうメシ」と歩き出した総悟のすぐ後ろで、にゃっ、と小動物のような悲鳴が上がった。
「うおっ」
「ぎゃん!」
踏み出した一歩のバランスに失敗したに巻き込まれて、総悟も体制を崩す。
ゴチン!と倒れざまに柱に頭を打ち付けたのは不覚としか言いようがない。
いってぇ・・、
うっすら目じりに涙を浮かべながら開いた視界に映った光景に、総悟は一瞬息がとまることになるのだが。
若干青くなったが総悟の腰のあたりに馬乗り。
頭を打った総悟に大丈夫かと心配して手を差し出すはそのまま体重を移動してきて、押し倒されてのしかかられているような体制だ。(イヤ間違ってないんだけど)
「大丈夫ですか?!たんこぶ、できてない?どこですか?」
「・・・・」
間近で見つめられる、顔。
距離的には先ほど総悟がを眺め倒していた時と変わりないのに。
さら、と髪の中にの手ぐしが入って行って、総悟の頭をたどる。
鼻の頭がくっつきそうなほどまじまじとぶつけたところを見られて、あと触れられて。
・・・それと、いい加減目をそらそうと視線を移した先に、自分の腰の上で揺れるの着物の裾が見えて。
「むぎゅっ?!」
「平気でさァ。重い」
自分との間に毛布があってよかった。
「また何かやってんな」
「あ、土方さん」
「ひぃぃ!土方さん!助けてください!降ろしてェェ!」
「どうした、いい車乗ってんじゃねーか」
「足痺れて満足に動けない間抜けな姉さん専用パトカーでさァ」
「パトカーて。どっか連行されるのか」
タクシーじゃないのか。目的地決定で連行か。
背中に担いだを振り落とさんとばかりのスピードで廊下をかけていく総悟を見送って、
いつもの事だと土方はゆうゆう煙草の煙を吐き出した。
はい、おつかれさまでしたー!
大変お待たせいたしました!リクエストで「子供っぽいヒロインの大人っぽい一面に沖田さんがうろたえるお話」・・・のつもりでしたが読み返してみるとあんまり応えられてないかも・・ごっ、ごめんなさいorz
そのかわり(全然変わりじゃねーよ)ちょっと甘め(と言っていいのかも不明だよ!)にしてみたつもりです。
ねこたさんリクエストありがとうございましたー!そしてお待たせして本当ごめんなさい><
えへへ楽しく描けました!これからもよろしくお願いいたしまーす!
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