「あれ?」
時刻は昼下がりも過ぎたころ。
大江戸マートのかごを片手にぶり下げて、新八は通り過ぎた棚の列をあわてて引き返した。
ひょこっと顔をのぞかせた向こうには、同じく大江戸マートのかごを片手にぶら下げた見知った顔。
いつもの黒い隊服ではなかったので一瞬気づかなかったが。
じぃっと調味料のパッケージを眺めていたその男は、やがてそれをぽいとかごに放る。
と、同時にこちらにも気づいたようだった。
「あれ、新八くんじゃない」
「こんにちは、山崎さん。買い出しですか?」
お互い周りに気を使う苦労性ポジション同士微妙に親近感を覚えている新八は、山崎の眺めていたカレー粉の棚の前まで移動して挨拶をする。
若干期待に胸を躍らせ、きょろきょろとあたりを見回した後に新八は訊ねた。
「今日は、おひとりですか?さんは?」
買い出しのとたびたび顔を合わせることのある新八にとっては別段何気ない話題のつもりだった。
新八からしたら随分と年上だが笑顔で人懐こいあの娘は話していてとっても和む。
子供の用にはしゃいだり、歯を見せてはにかんだり、ころころ変わる表情は眺めているだけで癒される。
真選組屯所で住み込み雑用をしている彼女はよく山崎を連れて買い出しに来るから。(男ばかり大世帯は何かと荷物が多いのだ)
・・今日もそうなら、一言挨拶くらいしたいなぁ。
付き合いもそんなに短くはない。慕っている娘を想ってわくわく話しかける新八に、山崎もわずかに表情を和らげたあと・・・
・・・チッ、と、顔に影を浮かべて舌打ちをうった。
えええええええ?!
**俺プロデュース、ふわとろオムライスの上手な造り方**
「やあ新八くん、見ての通りだよ」
「見ての通り、ですか・・・」
穏やかに微笑んでいる普段は地味の監察青年に、新八はびくびくと身構える。
どうしよう、おそらくでなくても確実に、今自分は声をかけるべきでないときに彼に声をかけてしまった。
普段の人当たりの良い、平凡と言えば言い方が悪いが万人受けする柔らかな表情はそのままに、
目が笑ってない。目が笑ってないです山崎さん!
「見ての通り、俺の格好、分かんないかな?」
「・・・し、私服、ですか?」
「そ、私服」
だからね、俺今日、非番なんだよ。
ニコニコと効果音は聞こえてきても細められた瞳が完全に無感情な山崎は「あはは、」と声だけ笑って言葉をつづけた。
非番。だから俺がおひとりで買い出しは普通は考え難いわけ。
買い出しは雑用娘の仕事。しかし彼女にも休暇は必要だ。
ちなみに彼女の休みの日はもっぱら山崎が彼女の仕事を変わっている。
「つまり、普通に考えると俺が非番ならあの子は仕事で、それは本日の買い出しも彼女の仕事ってわけだ」
「はあ・・・あの、じゃぁ、さんもいる、って事ですね?」
「・・・・」
「・・違うんだなぁァ、コレが・・」
「ぞくっ!」
低い、地の底から漏れたような低い声に新八は飛び上がる。
やだ何コレもうこの人イヤだ。帰りたい。
す、すみません!となぜか謝る自分が情けない。
「ごめんなさい、ハイ、さんはいないんですね」
「何言ってんの新八くん?」
「え?」
「・・・君のせいだよ?」
僕が何をしましたかァァーーー!
僕がァァーーーーー!心の中で泣き叫ぶ新八はよそに、彼を前にした山崎ははああ、と大きなため息を吐いた。
「ーーー!!」
「助けてよだんんんーーー!!」
「わきゃっ?!ど、どうしたんですか?」
山崎とが買い出しへの道を歩いていると、前から突然万事屋の旦那とチャイナが現れた。
涙鼻水垂れ流しにした神楽に突進されて、よろけながらも抱き留めてやる。ちなみに同じことをしようと試みる旦那からは山崎が死守した。
ぐすぐす鼻をすする神楽の涙をハンカチで優しく拭いてやりながら、が訊ねた。あらあら、どうしたの神楽ちゃん?
「・・・ぐすっ、このままじゃ、ケーキが食べられないヨ!」
「へ?ケーキ??」
こっくり。神楽は頷いて、ごそごそとポケットから一枚の紙切れを取り出した。
『ケーキバイキング特別無料券』その紙にはそんな文字がでかでかと書かれており、その下にはつい最近オープンした話題のケーキ屋さんのロゴが印刷されている。
再びごそごそその紙を大事にポケットにしまって、改めて神楽はもう一度の胸に抱き着いた。
「〜」すりすりと(泣いてるくせに)嬉しそうに腹に頭をこすりつけるその様は、彼女のいつも連れている大きな白い犬を彷彿とさせた。
「ケーキ食べたいアルゥ!っ助けてヨ!」
「えっ?さっきの券じゃ食べられないの?」
「あの券実は3名様限定クーポンだったアル!騙されたヨ!」
「新八君は?」
「今日は出かけてていないネ。まったく役立たずのダメガネアル・・〜・・」
ひしっっ、けなげな少女に抱き着かれて、きゅーん、と胸の詰まったは(傍から見てて分かった)ぎゅうぅっと神楽を抱きしめ返してやる。
ちなみに同じことをしようと試みる旦那からは山崎が(ry
「、仕事中アルか・・?」
「え?うん、まぁ・・・これから買い出しで、それが終われば上がりだけど・・」
「・・・・ぅぅぅうう・・!!」
「あぁああ、それじゃ間に合わないのね!!それじゃ、どうしましょう。誰かその辺の糖分摂取しなきゃ死んじゃいそうな人を誘って・・・」
「そんな銀ちゃんみたいな奴ゴロゴロ転がってないネ!・・・それにっ、」
「?・・神楽ちゃん?」
「・・・知らないヤツと行くくらいなら私はっ・・・・と、ケーキ食べたいヨ・・」
「はきゅぅぅぅん!」
どうするあいふる並みに胸を撃ち抜かれる。
「・・・銀さんもっ・・と、ケーきごはッ!」
「黙ってください旦那」
同じことをしようと試みる旦那(ry
「さっ、退くんんんんーーー!!!ちょっとお話がァァ!!」
ほっぺを真っ赤にして、目元に涙なんてためちゃいながら申し訳なさそうに山崎に向かい合うに、山崎はため息を吐いた。
・・・この際チャイナっ娘は許してやろう。しかし。
終わったら連絡するからッそれまで時間つぶしててもらうことはできないでしょうかぁぁぁ、なんてぺこぺこ頭を下げるの後ろで、無邪気に喜ぶ神楽、の頭を怪しくヨシヨシと撫でながら、キモイにやけ顔でガッツポーズをかます銀髪の天然パーマに果てしなく殺意を覚えながらも。
「・・・もう、ちゃん。そんなに必死に頼んでくれなくても平気だよ、行っといで」
のお願いを山崎がむげにできるわけなどないと知りつついたいけな少女をダシに使って勝ち誇ったようにこちらにほくそ笑む銀髪の天然パーマに果てしなく殺意を覚えながらも。
「さっ、退くんん・・・!!」
アリガトー!ちょっとだけ行ってくるね!と言うに、
「食べ過ぎてお腹壊さないようにね」と(に対しては笑顔で)言って、山崎はを見送ったのだった。
はぁ、と溜息。おそらくチャイナ娘の持っていたバイキング券は商店街の福引で当てたものだろう。
山崎も当てたらと行こうと思っていたから。
「・・期限は随分先だし、3名様"まで"使える特別優待券をねぇ・・・」
「ひぃぃぃいいい!!」
微妙に涙目になりながら、新八は神に祈ることしかできなかった。助けてェぇ!
・・と、ブルル、と山崎の懐が振動する。
携帯電話を眺めて再びしまった山崎は、先ほどまでの殺気を収めて呆れたように息を吐いた。
「ビビってる場合じゃないでしょ新八くん。何気にきみケーキ食べ損ねたんだよ?」
「あー、美味しかったねぇ!」
「つってもオマエ全然食ってなかったじゃねーか」
「あんまり食べちゃうと夕飯が入らなくなっちゃいますもん。・・その点二人は凄かったですね」
「っ、ー!これからウチに来るヨロシ!」
腕によりをかけたシェフ自慢の宝石(ケーキ)たちをまさにバイキング(略奪者)のごとくかっさらって店員を涙目にさせ伝説を作った的な。
そんな先ほどまでの、超大型胃袋によるケーキ駆逐パーティーを思い返して笑いをもらすに、ばふんとご機嫌な神楽が飛びつく。
「でも、退くん待たせてるし・・」
「買い出し済んだらあがりなんだロ?それからでいいネ!ウチで夕飯食べてけヨ」
もちろん山崎に全部させる気満々である。
既にお分かりと思うが、実行犯は神楽、糸引き役は銀時の華麗なる「今夜はをバイキング(略奪)」作戦の一幕であることは言うまでもないのだが、
しかしながらはなかなか首を縦に振らなかった。うーん、とか、でも・・とか。
「〜〜」
「コラ神楽、あんましつこいとも嫌がるだろ・・(ちらちら」
「え、そんな、嫌がってなんてないですよう。ホントよ神楽ちゃん」
「じゃぁ来るアル!夕飯もと食べたいネ!」
なんとか山崎と合流する前までにを落とさなければっ、と意気込む銀時と神楽。
その前に現れたのは、買い物袋を両手に下げた、新八であった。
「銀さん!神楽ちゃんにさんまで」
「あれ?新八くん・・今日は用事だったんじゃ、」
「うおおおおい!そうだった!用事ついでに買い出し頼んでたんだった!」
「新八ィ!今日の夕飯は銀ちゃんがふわふわオムライス作ってくれるってヨ!卵の準備はいいカ!」
「ごふゥ!何故言いながら僕に攻撃をッ!」
「牛乳もちゃんと買っただろうなァ!」
膝パーンを食らわせてくる銀時と神楽に、新八はあぁ、と考えた。
銀さんがオムライスか。確かにこの男は手先が器用なところがあるし、きっとそつなくこなすのだろう。
出来上がった料理も・・・牛乳の代わりにイチゴ牛乳とか使わない限り、美味しそうだ。
そしてさらに新八は考える。しかし・・・・―――、
「あっ退くん!」
「ちゃん。どーだったケーキは」
「げっ」
「ヤバ」
新八の後ろから出てきた山崎にが飛びつく。
「待たせてごめんね・・あっ?!もしかして買い出しも済ませちゃった?」
ごめんー!本当ごめん!と謝るに、山崎は人当たりの良い、感じのいい柔らかい笑顔で「いいよ」と答えた。
「ところで」
「さっきオムライスがどうとか話してたけど、夕飯も旦那の家でよばれるの?」
「え?あぁ、銀さんと神楽ちゃんがね、誘ってくれたの」
「ふーん、そう」
ちらりと万事屋を見やった山崎の視線に、新八は飛び上がって慌てて目線をそらす。
そらした先では神楽と銀時が(食べに来い〜ウチに食べに来い〜〜!)と、に念を送っているのが見えた。
「旦那のところでよばれるんだったら、俺から副長に言っておこうか?」
それがいい!!そう声を出そうとした銀時の口元を、新八が慌てて覆う。
何も知らないとは恐ろしいことだ。先ほど山崎から聞いた話を思い浮かべて、新八は頬をひきつらせた。
「とんでもないっ!!」
・・・え?
の即答に、銀時も神楽もポカーンとする。即答?即答??
何も言えず頭に?マークを浮かべる銀時と神楽に向き直ったは、それはそれは嬉しそうにデレデレと頬をゆがませた。
ごめんなさい銀さん、およばれはまた今度で・・・。
「今日はね、退くんが私だけに特別でぃなーを作ってくれるって・・・えへへぇ」
「ちょっとォちゃん、いくらなんでもデレデレし過ぎだよ」
「だってぇ!わたし今日と言う日を楽しみで寝れなかったもん!さっきのケーキバイキングだってね、お腹減らしとかなきゃーって、そればっかり考えちゃって、1個しか食べてないの!えへへ楽しみー」
「へ・・・へええーー、どんなあんぱんが出てくるんだろうなァ」
「何故にあんパンリミテッド?!」
「今日は退くんがね、パカって開いてトロトロ〜って出てくるふわとろオムライスを作ってくれるの!」
「なにィィ!あの高難易度の!!?」
じゃぁ銀さん、神楽ちゃんに新八くん、またね!
そう言ってきゃいきゃい山崎と仲睦まじく去って行く屯所の猫を見送りながら。
『ほんと、何も知らないって恐ろしいよね』
俺が“”のお願い断れないのと同じで、
『“”が俺のお願い断れないなんて、当たり前なのに、ねぇぇ』
「さてと」
しょんぼり耳を垂れる女の子とオッサンに、にっこり笑みを振りまきながら。
新八は両手の邪魔な買い物袋をいったん地面に置いて、体の前でぽきぽきと指を鳴らして見せた。
「3人で行こうって、言ってましたよね?ケーキ?」
「「バイキングゥゥウ!!!」」
はい、大変長らくお待たせいたしましたー!
いちおうこれでリクエストお話は最後となります!美緒様より、「闇崎さんが銀さんに炸裂する話」でしたー!
本当お待たせしてごめん・・・考えるのに時間がかかった割に、書き始めたらぽんぽんかけましたw
調子に乗ってあっちこっちに細かいネタとか言葉遊びがw
調子が出てきてよかったwコレも退くんのおかげです!(え?
ではでは素敵なリクエスト、ありがとうございましたー!
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