「来週の月曜、有給とれ」
夕食後。テレビを見ながらデザートの桃をぱくつきつつ唐突に吐き出された要求に、は洗い物に勤しんでいた手を止める。
来週の月曜日は確か七夕の次の日だ。
想いあたりは、ある。・・・が素直に頷きがたくて。
「・・なに。無言てぇのは了承ととらえていいんで?」
「駄目、いや、予定を教えてもらわないことには恐ろしくて有給出せない」
「予定は未定でィ」
ん、手の甲に垂れてしまった果汁をぺろ、と舐めとりながら、のらりくらりと総悟は言う。
そうしたところで、先ほどまでの話題が「誕生日に何が欲しいか」ということだったのを思い出した。
「それが俺の希望。ん、ご馳走さん」
「誕生日プレゼント?それだけでいいの?」
「え、まだなんか他も強請っていいの」
「いや、失礼ながら殊勝な要求だと思って。本当に他に欲しいものとかないの?」
「俺は結構ダイレクトな要求だと思うけどねィ。他に何もいりやせん」
「うわ!うまいこと言った感のドヤ顔うっとおしい!」
らしくない!そう言って自分の肩を抱きしめるに桃の乗っていた皿を返して、総悟は壁にかかっていた(がかけた)ジャケットを肩からかけて玄関へと向かう。
慌てて濡れた手を拭いても追いかければ、それを見越したかのように急遽スピードを緩めた背中に危うくぶつかりそうになった。
「ん・・!」
やってる行為自体は甘くても、どうにもやり方が手荒で敵わない。
髪を掴んで持ち上げるようにした体制のまま唇が降ってくる。イヤ、歯が降ってくると言った方が語弊が少ない。
男が使ってるのは片手だけ。あとは自身の身体と壁で器用に女の動きを封じれば。
「・・た、ぁ・・」
「んん・・?」
「ぃたぃ・・・!」
「んー」
「痛いってば!」
おかしいなぁ・・・・
「行ってらっしゃいの張り手」を食らって痛む頬を抑えながら、首をかしげつつアパートを後にする総悟を見送ったのが、週末金曜日の事だった。
**ちゃんとした「らしくない」の使い方**
月曜。要望通り有給をとったは自宅の玄関のドアを開けて大きく瞬きする。
9時に迎えに行くと聞いていた総悟からに着信がかかってきたのは10時半の事だった。
「もしもし?」
『こんにちは、初めまして。いつも隊長がお世話になってます』
「・・え?」
『すみません、ちょっと今隊長が電話できる状態じゃなくて・・・中通まで来てるんですけど、どこで曲がればお宅に辿り着きますか?』
「本当すみません、こんな状態でお邪魔させるのは気が引けたんですけど、どうしてもって聞かなくて」
そう言って人のよさそうな男の人がペコペコ頭を下げながら去って行く。
それを見送って、は隣の男をおずおずと見上げた。
むすっとしかめっ面で不機嫌そのもの。明らかに顔色の悪い彼を直射日光の中そのまま放置するわけにもいかず、は早足に総悟を部屋の中に招き入れた。
「珍しいね。らしくないじゃん」
「・・・るせ・・」
「風邪?」
「・・ん」
ベッドと迷ったが、とりあえずソファに案内する。
けほんけほんと辛そうに咳をすると、総悟は「あー」と言って横になった。
折角の自分の誕生日に体調を崩すなんて残念な人だ。腰を浮かせてソファから離れようとすれば、「どこいくの」と小さく呼び止められる。
「化粧落としてくる。外出しないなら、いいでしょ」
「へぇぃ」
「朝ごはん食べた?」
「食えねェなら連れてかねェって言われたから、食った」
「そう。今日は一日大人しくしてた方がいいね」
「くしゅん!」
「寒い?」
「あちい・・・げほ、げほっ」
「・・・ー」
寝室で化粧落としを染み込ませているとのろのろと総悟がやってきた。
その顔が思っていたよりしんどそうで、はコットンをゴミ箱に放りながら「横になりなよ」とベッドをたたく。
次の瞬間視界が反転した。
「あ・・ワリ・・加減が分からねェもんで」
「病人なんだから今日くらい大人しくしてなさいよ・・」
押し倒されたと理解するのに時間はかからない。いつもの事だ。
でも、押しつぶしてくる体重がいつもの比ではなくて、見た目に寄らず意外とこの男は体重があるのかとか、あれでもいつもは加減してくれているのかとか考える。
自分の体重を支えるのも辛いようで、重くのしかかった体重のまま総悟が唇を合わせてきた。
「今日だからでィ、風邪ごときで最強の免罪符潰されてたまるか・・」
「普段から絶対王政が何を言うか・・・んんっ」
「・・ん・・ちょっと黙んねえ・・・?」
熱い息とかすれた声を吐き出しながら、高温に浮かれる体はを押しつぶしてくる。
いつもより乱暴さに欠ける動きで口内をまさぐった舌は、一息ついてからいったん離れて肩口へ。
ぺろりと舐められて、諦めたように浅く息を吐き出したを確認して、総悟はその肩に歯を立てた。
「・・んぁ、」
おもわず漏れた声色に、自分でも驚く。
「・・何でィその声・・・まさか目覚めた?ついに?俺が?ついに目覚めさせてしまっ」
「んなワケないでしょ・・」
完全否定だが総悟は気にしたそぶりもなく、他の場所にも歯を立てた。
普段よりも数段控えめのソレは、ちゃんとした甘噛みだ。普段に慣れてしまっているせいか、妙にくすぐったい。
身をよじるに総悟は「痛え方がいいかィ」と笑った。
痛いのが好きと言う訳じゃない。寧ろ嫌い。は残念ながらM体質ではない。
でも、痛いと思うほど噛まれるのはそれほど嫌いではなかった。
いやもちろん好きではないのだが。
不器用な総悟が、それでも対等に遠慮なくぶつかってきてくれるのは、嬉しくもある。
「辛そうだね、代わろうか」
しょうがないけれど、今日はこう見えて彼が主役の日だし。
らしくない提案に「らしくない」と総悟は笑って、大人しくその場を退いた。
「早く入れてぇ」
「熱でまともに立ちもしないくせに」
辛くないように枕にもたれかからせて、は総悟の身体を抱きしめた。
「んあ、」こちらを見ながら口を開けた相手の催促を読み取って、その唇に舌を這わせる。
好き勝手動き回る手は潔く甘受してやることにした。
がぶりと歯を立てられたが(いつもに慣れてるせいか)痛くもなんともない。
それどころかいつもと違う甘ったるい刺激にばかりが翻弄されているみたいで。
逆に、いつもこの男はの痛みに歪む顔を見て興奮しているものだと思っていたから、
「もっと痛がる顔見せろ」とか、ドが付くほどのSっ気持ちである彼だから、満足なのかと不安になる。
「んんっ」
「・・・っ」
動かしていた腰に体重を込めて根元まで咥え込めば、急激な圧迫感に涙がにじんだ。
構わず腰を浮かせれば、大きな腕にそのまま押さえ込まれる。
咳交じりに漏れた笑い声。
「らしくねーことしてんな」
「・・総悟」
「」
「ん?」
「お前、テメーが痛がってねーと俺が満足しないとでも思ってんの」
「は」
「ちゃんと躾けてきたつもりだったが、俺もまだまだだでィ」
「もっとキモチイイ顔見せなせーよ」
耳元でそうささやかれて、おそらくその一瞬は総悟よりも熱が上がった自覚はある。
「あ、っや、めてよ 馬鹿。らしくないこと言わないで」
「やァだね。こんな日くらい、かわいい恋人に素直になってもらおうと思いやしてねィ」
「ばか」
「ほーんと、アンタは素直でいい子でィ」
「ばか」
「ひひ、分かりやすい子猫ちゃんでさァ」
にやにや笑みを漏らす、総悟のその言葉がすでに怪しいのは本能の知る限りだ。
そんなこと言われて大人しく素直ないい子になるではないし、
それでもゆらゆら突いてくる身体に合わせて腰を浮かせてしまうのはどうしようもない。
ぎゅっと目を閉じれば「痛い?」と下から声がかかって、
薄く首を振って総悟の上に体を重ねたは、彼の耳元へ唇を寄せた。
「そうご」
「す――――ッごく、キモチイイ」
「・・・・・わかりやすっ」
「だまれ・・」
体の中で明らかに形を変えた気配に素直に感想を言えば、いつもよりは弱弱しい、
しかしちゃんとした男の人の腕で視線を動かせないよう固定されてしまった。
「らしくねーこと言うんじゃねーやァ」
「総悟、おめでとう」
「あーもううるせえ黙れって、」
案の定彼が風邪をこじらせたのは言うまでもない。
リクエスト(文)第一弾が裏という罠。
秘部の名前とか出てきてないから注意書きで表に置いちゃうめんどいしげふげふ。
当日に間に合わなかったけど、おめでとう!
沖田さんのくせに(くせに!?)幸せすぎる罠(罠でも何でもねえ)。
あっ、ちなみにお題は「ちゃんとした躾けシリーズのドS沖田さんでお誕生日。甘々」でした。
ドS沖田さんドコーーーーー!!(雄叫
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