日も傾きだした夕暮れ時。
大通りを歩いていると、前方から見回り中だろうか土方と総悟が歩いてくるのに出くわした。
一瞬だがおもちゃを見つけた子供の用に目を光らせた総悟が片手を挙げる。「よ」

「沖田さん。土方さんも。暑い中見回りお疲れ様です」
「全くでさァ。姉さんは、買い出しですかィ」
「ええ。明日近藤さんにお客様がいらっしゃるでしょう?だから、」

が視線をそばに向ければ、つられて総悟と土方も同じ方向を向く。
目の前に広がったのは、熱さにも負けず生き生きと広がるとりどりの色だった。

「お部屋に飾るお花を買いに」

白い小さな花がたくさんついたものや黄色の大きな花、お星さまのようにぱぁっとつぼみを開かせる背丈の高いオレンジのもの等に囲まれて、住み込み雑用の娘が夕日を背に小さく笑う。
どのお花にしようかと並ぶ虹を見回す、そんなにどれどれと(見た目的にはあんまり興味なさそうに)総悟も首を傾ける。
土方も小さく息を吐いて、咲き誇る夏の花々を見渡した。


ふと、気づいたのはたまたまである。
大通り沿いの花屋に向かう三人の後ろを、着物ではなく浴衣を着た何人かの娘が楽しげに通り過ぎて行った。
花屋の花に負けず劣らず、そちらも色とりどりの柄。大きな帯は見栄え重視に結ばれ手には巾着が揺れていた。
夏祭りか。そう言えばもうそんな季節かと、ぽつぽつ通り過ぎていく浴衣姿の若者たちを眺めながら総悟は思った。

そう言えば今年も来たいといった上様の警護に、明日の夜の大江戸納涼祭では真選組も駆り出されるのだっけ。
今通り過ぎていく奴等は皆ターミナルに向かっていることから、きっと隣の地域の祭りにでも行くのだろう。
一日待てばここでもやるだろうに。夏は暇な餓鬼と日が落ちてからのイベントが多くて困る。
花屋の主人から白と黄色の花束を受け取ったが申し訳なさそうにこちらを振り返った。
「ああなんか、待っていてくださってありがとうございます。行きましょうか」
そのにふと悪戯心が首をもたげて、総悟はこっそりと口角を持ち上げた。

「完全に花に食われてらァ」
「?」
「姉さんも悲しいお人だァ。夏と言ったら納涼祭、顔も浴衣も着飾って夜を謳歌するこの季節に」
「・・・」
「ぷぷぷ!相も変わらずいつもと一緒の着物。姉さんだっせぇ。花束全然似合わねーの!」

また一組すれ違った浴衣の男女を、の視線を誘導しながらちらり見やって、総悟はわざとらしく口元を抑える。

「どーしやしたァ?言いたいことがあるならどーぞ」
「・・・・服が一緒なのはお仕事ですもん」
「分かってねェなァ。俺が言ってんのはアンタの私服も含めてんですぜィ。れぱーとりー少なすぎ」
「う・・!」

アンタ今だって化粧もほとんどしてねーでしょう。
わざと追いつめるように間近でじろじろ顔を覗き込んでやれば、ギクリと肩を上げたは慌てて持っていた花束で顔を隠してしまう。うはは!やっぱりこの反応。姉さんおもしれえ。
この娘がちゃらちゃら自分を着飾ることにそこまで興味がないのは知っている。し、総悟も今のが嫌いと言う訳では決してないのだが、せっかくの夏。
上半期のボーナスも入ったことだし、たまには洒落てみちゃどうだろう。それはとっても面白そうだ。
丁度明日はの休みの日。自分も夜番なので夕方までは時間が開いている。

この夏の一張羅を買いに、デパートにでもついて行ってやりましょーか。
もちろんおやつの甘味は持ちで。
あと選ぶのが遅くて総悟がイライラしてきた場合適当に自分が選んだ一枚が決定となるのでご了承ください。
とぼけても無駄でィ。俺知ってるんですよ、前アンタの衣装ダンス覗かせてもらった時に、とっておきのいい着物数枚以外はほとんど普段着のバリエーションが無いこと。
・・え?勝手に人の箪笥の中見たのかって?不可抗力でさァ部屋の中にトラップしかけるにあたって下調べは重要なんですふひひ。

・・・・・・。
ふと自分がしゃべり過ぎていることに気づいて、総悟は嫌な予感にだんだんとから目をそらした。
自分がしゃべり過ぎている理由はただ一つで、がしゃべらないからだ。
イヤこういうのは突っかかってきてくれないと面白くない。
だってそれじゃぁ総悟が一方的に悪意を振りまいているだけになってしまうし、何より反応がなければ明日の予定についてプランが膨らまない。

・・・・・・。

「イヤァ、前アンタの衣装ダンス覗かせてもらったことあるんで隠しても割れてんですぜィ」
「・・・・・・」

そこも無反応なのかっ?!スルーしていいとこじゃねーだろそこは!(自覚有り)
そこでハッと背後にぶら下がる蜘蛛の糸ならぬマヨネーズの糸を思い出して話を振ってみる。
ぼへー、と間抜けな顔で花屋の奥を眺めている男に向かって、「ねっ、ひ、土方さんもそう思いますよねィ」

「・・・・ぁ?ワリ、聞いてなかった。帰るか」

てめぇえぇぇぇぇ!!それでもフォローの男かァァ!
今こそ姉さんを・・・俺を、俺をフォローしろォォ!!
死ね土方!

「・・・・・私、ダサいかな・・・」

帰り道をとぼとぼ歩きながら誰にともなくつぶやくように発されたの言葉にひやひやしつつ、
結局その日は翌日の予定のみならずそのほか一切の会話を、から総悟にかけられることはなかった。







**明るい色の浴衣は若いうちしか着れない**






じっ。
僅かにうつむきがちにじと目で見上げてくる瞳に、新八は所在無さげに目をそらし、隣の銀時はやれやれといったように(でも何故か楽しそうに)苦笑い。
視点からの話を聞いただけではあるが、その分だとその後必死にの気を引こうと話題を投げかける隊長が目に浮かぶ。ざまぁねーな沖田君。

「・・・銀さん」
「お前も面白れェ奴だな。同じ服何十着と着回ししてる銀さんに聞くかソレ?」
「気にすることないですよさん。僕たちも毎回同じ服装ですし。服装変わるとかき分けの出来ない作者は尚更混乱を招くだけですし」
「これはマンガじゃなくて小説だよ新八くん・・」
「ハイハイ、メタ発言はそのへんにしときなさいオメーら」

どっこいしょ、と立ち上がった銀時はが座っているソファの前まで来てしゃがんで目線を合わせる。
「銀さんはそのままでも十分イケると思うけどなァ」まじまじ見られてハッとは顔をそらした。
今日だってそんなにきちんとメイクしてる訳じゃない。最低限のナチュラルメイクしか知らないしやったことない。
髪型だって長いのが邪魔にならないようにアップにしているだけだし・・・あぁ、そんなこと考えてたらまた自己嫌悪に陥りそうだ。

パサリ、
音がして気づけば肩に髪のかかる感触。ん?
視線を戻せば銀時の手には自分のつけていたかんざしがあった。
・・あ?

「ちょ、ちょっと銀さんせっかくまとめてあったのに、なに・・ひゃ?」
「コラ動くな。んー、そうだなァ・・おめーは髪長いから色々できそうだが・・たまには横にしてみっか?」

くしゃ、かき上げられた髪の束を顔の横できゅっと指で結ばれる。
ぽかんとされるがままになっていると、離れた大きな手が櫛で梳くように髪を撫でた。

「ドS坊主もお前がイヤとは誰も言ってねーだろ。要はイメチェンだろイメチェン。ショッピングでーとの誘いなら最初からそう言えよォ断るわけねーだろ俺が」
そう言って笑いながら立ち上がった銀時は、社長デスクの上にある黒電話を持ち上げた。

「おう、お妙かーウチの子ちゃんと大人しくしてる?ああ、実はもう一匹面倒見てほしい奴がいてよォー」





「・・・つーわけで、祭りの警備は私服でやるが・・くれぐれも自分が帯刀してる事忘れるなよ」
「祭りだからってはしゃぎすぎるなよ!お小遣いは一人1000円まで!ヒヨコや金魚はウチじゃ飼えないから捕らないように!以上、解散!」
「オイィィィ近藤さん!なんで遠足みたいになってんだオイ!警備は?警備は!?」

「いいじゃねェかトシ。上様も結局夏風邪で来れなくなっちまったんだ、取り締まりついでに気楽に祭り回れば」
「ついでが逆になってんだろーが!ついでに見廻りみたいになってんだろーが!」
ちゃんも連れてこればよかったなー」
「聞けェェェ!」

がははと笑う近藤に食い掛かる土方を眺めながら、総悟はつまらなそうに小石を蹴っ飛ばした。まったくだ。
自分は一日オフだからって、朝から出かけて行っちまって。誘う暇もありゃしねえ。
つまんねーの、と口の中でぼやけば、転がって行った石ころがたまたま通行人の下駄に当たって、その娘が降り飼った。


「あら、沖田さん」
「・・・・・」


「警備って聞いてたから隊服だと思ってたんですけど、私服だったんですね。通りで真選組の皆さん見かけないと思ったら」

いつもの隊服じゃないから、気づきませんでした!
そう言ってくすくす咽を鳴らすとは裏腹に、総悟の喉はごくりと音を立てる。
初めて見る着物、初めて見る髪型。こっちこそ、話しかけられるまで全然気づかなかった。

改めて身に染みた。化粧の威力は本当にすごい。
暗い色のアイシャドウと淡く効かせたチークが大人っぽい。普段はつけないマスカラのせいか、余計に別人のような感じがする。
桜色のグロスが乗ったくちびるが特に、"いつも"からかけ離れていて、総悟は無意識にぽかんと口を開けたまま首をかしげてしまった。

「・・・アンタ姉さん?」
「え?あぁ、妙ちゃんにお化粧やってもらったし、髪型も銀さんに弄ってもらったから・・・すごいですよね、私も鏡見てびっくりしましたもん」

あの二人が手を組んだらそう言う店でも開けそうだ。そんなことを言いながら笑うのしぐさも、
しぐさは普段と同じなはずなのに、全然違う人を見ているような錯覚に陥った。めっちゃキレイ。
・・・て、万事屋の旦那??

「ちょっとォー。急に手ェはなさないでくれる?危うく流されるトコだったじゃねーか」
「あ、銀さん!ごめんなさい・・・妙ちゃんたちと、早く合流しなきゃですよね・・」
「・・ん、アレ?沖田君じゃん」

人ごみから出てきたのは万事屋の主人だ。こちらもいつもの渦巻き模様の着物ではなく、今日は紺の甚平を身にまとっている。
総悟に気づいた銀時が何を思ったかニヤリと頬をゆがめて優越感たっぷりに見下ろしてきて。
自分だって鈍い方ではない。昨日のやり取りを万事屋に相談に行って、新しい浴衣を飼いに行ったのだと悟って僅かに顔をしかめる総悟を、銀時は笑いをこらえながら見やった。

は紺色の浴衣に薄いピンクと金のグラデーションがかった帯を結んでいた。
柄もそう多くない、決して派手ではないが、足元に大きな花が弾けた様な柄が広がっている。
横髪の下の方でまとめられた髪がうなじを適度に隠し色っぽさを醸し出す。まとめられた紙の上には大きな黄色い花が咲いていた。

「沖田さん見て見てこの着物、一目惚れで買っちゃいました。ボーナスも出たし!どうでしょう?」
「全然似合わない」
「酷ッッ?!」

「大人っぽい色合い着こなそうたァ身の程知らずでさァ。髪型も背伸びしてんのがバレバレですぜィ。化粧だって俺ぁあんま濃いのは好かねぇや。しかし如何してもっつぅんならしょうがねェ、俺リンゴ飴食いたいんで一緒に連れてってやりまさァねえ行こうお姉ちゃん」
「天邪鬼ハンパネェなオマエ!」

言ってることとやってるしぐさ違い過ぎるだろうが!ほほをひきつらせる銀時の横で、はくすくすと笑った。
総悟に言われたことはそこまで気にしていない様子で、向こうに土方と近藤の姿を発見したが笑顔で手を振る。

「お前・・・か、来てたのか」
「いつにもまして別嬪さんだなちゃん!もしかしてお妙さんにやってもらったゴリか」
「そうゴリよ」
「マジでか!ちょっと一緒に回んないちゃん俺もお妙さんに会いたいゴリ!」
「近藤さん姉さんは残念ながら俺"を"売約済みでさァ」
「何そのの方から誘ったような言い方?!もともと銀さんが先なんですけど!」

「・・お前、その柄」
ふと、を上から下まで眺めていた土方が目を止める。
首をかしげるはいつもよりも数段大人っぽくて、"随分と時がたったことを感じさせた"。

「どーせ私なんかが派手な浴衣着てても子供っぽいとか似合わないとか、誰かさんにバカにされると思いましてー」
「何が言いたいんですかィ姉さん。その浴衣だってアンタ、花火見るのに花火柄ってあまりにもひねりがねーや」
「ひねりって・・・違うもん、この柄花火じゃないですもん。ちょっとアレンジされてるから分かりにくいけどこれ・・」
「ひまわりだろ」

きょと、
総悟とが土方を見る。
片手を腰に当て、横に煙草の煙を吐いた土方は改めてに視線を落とした。


「良い柄だな、お前に合ってんじゃねェの」

フォロー落とす場所がちげぇよ腐れうんこー!!という、総悟の心の中は置いておくことにする。
顔を真っ赤にしてぽへぇぇ・・と煙を出すに、呆れたように銀時は息を吐いた。
どうやら、が誰とまわるのか、今の一瞬で決着はついてしまったようである。






「昔の話、なんですけどね」
「あぁ?」

結局みんなと別れて二人で歩きだした露店通り。
一口どうですか、と差し出されたクレープを遠慮する土方に、がふふ、と笑う。

「一緒に連れてってもらったんです、向日葵畑。お兄ちゃんに。土方さん、覚えてたんですか?」
「あぁ・・・イヤ、スマンが・・」
「あはは、なんだ。まぁそんなわけないとは思ってましたけどね!でも、嬉しかったんです」

土方が『お兄ちゃん』だと解ってから、コイツの方から当時の話を振ってくるのは珍しい。
目を閉じて、遠い記憶に思いをはせる。
向日葵畑。知ってる。俺が幼いお前の前で初めて人を殺めた時だ。
先日の花屋でも目に付いた夏の花。

「土方さん?」
「いや、悪ィな」
「ええっ?!や、謝らないでください、ただこの柄が向日葵だって気づいてくれてうれしかったってだけですから!」
「知ってる」
「もう!」

お兄ちゃんってば!
目の前の娘は何も言ってないのに、小さく聞こえた幼い声を振り払って、
土方は煙草の煙を吐き出した。

「あっちーな。かき氷でも食うか、かき氷」
「あっずるい。私まだクレープ食べきれてないです」
「それ食って氷まで食うのかよ」
「んなっ、はんぶんこする予定だったんです!」
「ったく・・貸せ」

の手首をつかんで、ばくりと一口クレープをいただく。
煙草の苦みと生クリームの甘ったるさが何とも残念な味わいを醸し出していたが。


歩き出した土方はやがて自身の左手を包んだぬくもりに目を細めた。









はいお疲れ様でした!
珍しくお洒落した屯所の猫に真選組と万事屋さんがドキドキしちゃうお話、でしたー!
なんか色気とは別の事になってるような気もしないですが、ごめんなさい・・・・汗
バラガキ編を経て土方さんは仔猫との記憶を取り戻しているのですが、ヒロインに言う気はありません。
土方さんですから。

あおいさんリクエストありがとうございます!


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