「どっ、どうしたんですか副長」
「・・・イヤ、何でもない」

ビクゥッ、と青い顔をして飛びあがった山崎に、土方はつとめて冷静な声で返した。
ぱちん!と少々力強く携帯電話を閉じる。
そろそろ真選組もスマートフォンに乗り換えの時期か。

『今日の仕事が思いのほか早く片付きそうだったので今晩寄る』

と、半刻ほど前に送信したのは土方だ。
相手は言わずもがな、彼の恋人である。

江戸では中々有名な大手旅館。そこで接客をしていた彼女と初めて会ったのは、客として出向いた時だった。
まぁ初対面でいろいろと印象深かった彼女といわゆる「オツキアイ」の関係になって、
それでまたその大手旅館が実は攘夷浪士との繋がりがあったりなんかして。
・・・まぁ、彼女は全くの無関係だったのだけれど。
今は別の旅館で仲居をしているなんて話を聞いた。

自他ともに認める仕事人間の土方とオツキアイなんて、あの女も相当変わり者だと思う。
実際一か月に1日休日が重なればいい方だし、今日みたいに少しの時間顔を出すのだって数日あるかないかのレベルである。
寂しい思いをさせている自覚はあれど、生活を変えることはできない。
自惚れと言われようがそれを彼女は理解してくれていると思うし、そう言うのも含めて自分に好意を持ってくれていると思う。
もちろん自分から手放す気など毛頭ない。
・・・と、そんな愛する彼女から、先ほど思わず部下を縮み上がらせるような反応を土方がせざるを得ないようなメールは送られてきたのであった。


『来んじゃねーよばぁぁぁぁか。土 方 死 ね』






**私の心の取り調べ**






土方だって馬鹿ではない。
ああもちろん件のメールがから来たものだとは思ってはいまい。
問題なのは真選組随一の問題児が何故彼女と一緒にいるのか。彼女へのメールに勝手に返信しているのか。
そもそも最大の問題はそのメールが来た時刻が完全に彼の見回勤務の時間まっただ中なことにあった。
が、こちらも生憎暇ではない。
仕方なくからのメールを閉じ、問題児へのメールボックスを立ち上げて「仕事をしろヴォケが」とだけ入力して送信。携帯を閉じた。


その夕方。
仕事着から着物に着替えて屯所を出る。
そう言えば、は本日は休日だったのだっけ。向こうも向こうで不定休なので分かったもんじゃない。
せっかくの休日に気遣いの気の字も知らぬドSの悪魔と鉢合わせるなんて、ついてない奴だ。
せめて出来るだけ早く着いて部下の非礼を詫びようと、彼女の住む部屋への道を急いだ。

のだが。


「はいはーい・・・アラァ?土方のクっっソヤローじゃねェですか」


彼女の部屋のチャイムを押して出てきた見知った顔に、チャイムを押したそのままのポーズで脳内がフリーズする。
イヤ、イヤ。コイツとが面識があるのは知っている。
の働いていた旅館が摘発された時、彼女の取り調べを担当したのがこの男だった。
それ以来たびたび連絡を交わしているようで、彼女が口にする話題にもちょくちょく出てきて(本当に変わり者だと心から思った)、まぁ友人としてそこそこの交流があることは知っていたが。

「・・・・・なんでお前がここに居る?」
「メールも読めねェ土方さん。ここァもうアンタの来る場所じゃねーんですよだから今日はさっさと帰り道の途中で浪士に襲われて死んでくれませんかねェ」
「うるっせぇよ!!オイ!出てこいコイツ何とかしろ!」
「そー言って出てくるワケがねェでしょうが。何なんですかバカなんですか死ぬんですか」

うっとぉしぃぃぃ見下しまくった虫けらでも見るような目でメンチを切ってくる総悟にこめかみをひくつかせながら、土方は少しだけ開かれた扉の隙間にガッと片手をかける。
するとそのまま手ごと挟み千切らんばかりに内側の総悟が扉を閉めてきたので、片足ともう片方の手も使ってそれを防衛した。

「チッ!往生際が悪いですぜえ!」
ー!オイィ!無事か!無事なのか!ふぐぐ・・!」
「アンタが呼んだところでこねーよ!俺が出た時点で帰れっつー拒絶なのわかんねーんですかィうぐぐ・・!」

さーん、さん。ちょっと出てきておくんなせえ!
純粋な力比べでは不利と感じた総悟が部屋の奥に向かって呼びかける。
自分の呼びかけでは反応すら見せなかったくせに。ひょこ、と控えめに顔をのぞかせたを見て、土方の中の血管が盛大に切れた。
の目元は真っ赤だった。

「オ、イィィ〜?総悟ォ・・テメェ何人の女泣かせてんだァ・・ぶっ殺すぞ・・」
「は!アンタには滅多に拝めねェ涙の一つや二つねぇ、俺の前じゃ見せてくれんですよォォ」
「ハァァ?!」

今の自分はどれだけそれはそれは恐ろしい顔をしていたのか。
こそこそ出てきたは土方を見てビクッ!と真っ青になり、総悟の陰に隠れる。
ぼそぼそ総悟が後ろのに話しかけて、伸びてきたの手はガチャン、と、
ドアチェーンをかけた。

なんでぇぇぇぇ!?

ふゥ、助かりやした。部屋戻ってていいですぜ。
なんて額の汗をぬぐいながら総悟が言い、こくりとが頷く。
なんで!?何で友達とは言えオトコ家にあげといて、彼氏である筈の自分が締め出されるの!?
ポム、の肩にその手を置いて、人の神経逆撫でる選手権で堂々一位をもぎ取りそうな勢いの表情で総悟が土方に向かって吐き捨てた。
「そーいうことで。あんまりしつこいと警察呼びますよ」

なんでお前は当たり前のように肩ポンしてんだァァァ!そーいうことってどういうこと?!
警察呼ぶって、オレもオマエも警察ですけどォォォ!!
どがん!ドアにたたきつけたこぶしの周りに嫌なヒビが入る。

「オイィ!開けろ!コラァ!!総悟ォ!開けろォォ!!」
『(部屋の中から)キャーコワーイ』
「ふざけてんじゃねーぞてめー!いいから開けろっつってんだろーが!!帰らねーぞ俺は!」

「いいから開け・・・」
「ちょっとちょっとキミ、いいかな?」
「あァ!?」

「静穏妨害、脅迫、器物損害の現行犯ね。詳しいことは後で聞くから、とりあえずついてきてもらおうか?」

振り向けば、『御用改』の文字が赤く光る提灯片手に並ぶ黒隊服の男たち。
相手は土方であることは分かっているだろうに、それをあえて「大丈夫です副長、俺達仕事とプライベートはキチンと分別つけるんで」みたいな淡々とした口調で罪状を述べる気遣いが痛い。

ほっ、本当に警察呼ばれたァァァーーー!!!




カッ!!
まばゆいライトを攻撃的に照らされて、目の前の机がダンッ!と鳴った。

「こちとら証拠は挙がってんだよォォ。さっさとゲロして楽になっちまいなァ!切腹の際の介錯は引き受けてやらァ」
「・・・・・・」

真選組屯所取調室。
まさか自分の家で自分の仲間から取り調べを受ける日がこようとは。
目の前でどこぞのヤンキーのように唾を吐く子供から目をそらして、土方はマジックミラーの奥、取調監視室を見やった。

「・・総悟」
「舐めてんのか土方コノヤローアーン?」
「オメーがいるっつーことはアイツも来てんだろ」
「俺の大事なさんの事アイツとかやめてくれませんかアーン?」

うっ・・・・ぜ!うっぜ!!あり得んほど腹立つコイツ。
だがしかし。
何なんだろうこの気持ちは。土方は苦々しい表情をしながら考える。
確かに総悟の言葉に腹は立つが、コイツとがどうこうなっているなんてみじんも思わない。思えない。
それはが自分より総悟の言葉に動いたときだって、家を閉め出されたときだって、はたまた泣き顔を見たときだって。
自惚れ過ぎだろうか。
こんなことまでなっても、が自分を嫌うはずがないという自信がどこかにある自分が。
訳が分からない。
そんな土方の目の前で、再び取り調べの机がバン!と音を立てた。

「ニブチンのアンタの事でさァ、どーせさんが泣いてた理由も思い当たらねェんだろアーン?そんなんだから愛想尽かされんでさアーン」
「いつまで続ける気だその喋り方」
「うっせェ引っ込みどころがつかめなかったんでィ」


「いいから自分の胸に手を当てて、自分の心に本気で聞き取り調査してみろってんでィ阿呆土方!」


「よーく考えて、一発でそれが答えられりゃ今晩は釈放してやりまさァ」
偉そうに総悟がふんぞり返った。が泣いていた理由・・・。
先ほどの部屋の前で、総悟に言われた言葉がよみがえる。

『アンタには滅多に拝めねェ涙の一つや二つねぇ、俺の前じゃ見せてくれんですよ』

総悟の言うとおり、付き合って今までは土方の前で泣くなんてめったにしたことなどなかった。
イヤ、そもそも土方に女を泣きわめかせて楽しむ嗜好はないし、喧嘩だってほとんどなく、例えしたとしても悪かった方が直ぐに素直に謝るので長引きもしない。
しかし先ほど目を真っ赤に腫らしていたの原因が土方にあるとしたら、残念ながら重い当たりがあり過ぎるのだ。

仕事仕事でろくに会うための時間も作らず、かと思えば今日のように気まぐれで突然現れたりして。
もともとそう言う性質ではないというのは笑えるほど言い訳だ。何も文句言わないに甘えて気遣いの言葉一つかけてやれなくて。
それが当たり前とすら思い始めて来ていて。


『ねぇ、十四郎くん。私の事好き?』
『あたりまえだろ』


『・・えへへ、嬉しいな』


そんな言葉で伝えた気になっていて。
自分が情けなくなると同時に腹立たしくなってくる。
これでは愛想を尽かされてもしょうがないと納得・・・


・・・出来るわけねェだろうが。


「オイコラ阿呆がァァァァ!!聞いてんだろうがクソォォォ!!」

ガタタッ!
突然腹から叫びだした土方に、目の前の総悟もさすがにギョッとなる。
姿は見えないがマジックミラーの向こうでもビクッと跳び上がる気配がした。

「テメーなァ・・・何年俺と付き合ってんだァ。俺が、そう言うの疎いってもうとっくにわかってんだろーがテメーはよォ!」

・・こんなの、果てしもない八つ当たりだってわかっていても。
『私の事好き?』
『あたりまえだろ』

「俺が、どんな想いであれを言ったかなんて、お前には分かってんだろ!!」

『・・えへへ、嬉しいな』
・・の憤りが、至極まっとうで当り前なものだったとしても。

「そんな事でいちいち悩んでんのかオメーは!!ちまちま気にしてんじゃねえよ!ちゃんと・・・」


「ちゃんと・・っ、好きだよ、お前の事ォ!デケー声で言わせんじゃねェェええ!!」


こんなの自分のエゴだって、わがままだってわかっているけれど、それでも。
・・・お前ならわかってくれるって、そう思っちまうくらい、惚れ込んでいるのだ。馬鹿な自分は。


ぱち、ぱち、ぱち、
ぽかーんと口を開いたまま、目の前の総悟が感心したように手をたたく。

「すげェや土方さん・・今この瞬間に限り素直に尊敬しまさァ」
「総悟・・」
「良かった。これで晴れてナカナオリですね。最後にお詫びの言葉をどうぞ」

お詫び・・!そうだ、と土方はごそごそと懐を漁った。
そう言えばちょうど、苦労して手に入れたチケットがあったのだ。


ぱさ、机の上に差し出された1枚のペアチケットを見て、なんて準備がいいんだと総悟が目を丸くした。

「来週、お前の休みの日でいい。俺が有給使う。一緒に出掛けねェか・・マヨネーズ工場」
「アンタ最悪でさァなんにも分かってなかったんだな本当マジで最悪死ね感心した俺が馬鹿みたいでした」
ええぇぇぇぇええ?!


さんんあんな奴放っておいて帰りやしょう、大丈夫今晩は俺が隣で寝てやりまさァ」
「ちょっとマテェェェェ!!なに?!ちょっと、さっきの感動的な空気どこ行ったの!?」
「はァ・・・?」

ミジンコでも見るかのような目で、総悟は息だけで吐き捨てた。「死ねよお前」
えええぇぇぇぇええええ!?




土方十四郎がマヨラーであるのは周知の事実である。
その日も訪れたの家で料理にぶっかけるさまを見て、は微笑んだ。
「十四郎くんって、本当マヨネーズ好きね」
「あぁ、コレがないと生きて行けねーわ俺」
「ふふ、でも取り過ぎは体に良くないから気を付けてね」

恋人には「好きが当たり前」に対してマヨネーズが「無いと生きていけない」とはどういうことか。
え?・・・・で?と首をかしげる総悟に、は真っ赤になって首を振った。
分かってる。十四郎くんが悪気無くそんな言い方をしたのも、そもそも他人に「好き」というような性質でもないことも分かってる。
でも。
本当に、自分でも自分の子供っぽさに涙が出てくるほど、それが気に障ってしまったのだ。
土方を責めるつもりもないし責めたくもない。こんな阿呆らしいことで責めたくない。
本当に本当に馬鹿らしい。子供。こんな状態で会ったら絶対顔に出る。イヤ。恥ずかしい。もう自分が嫌だ。

「ゲッ?!なんでアンタ泣いてんの?」
「だめぇ・・・こんな状態、見せられない・・やだぁ・・恥ずかしいぃ・・」
「今日断ればいいだけだろ?!貸してみなせェ!」

それはそれは、子供っぽい嫉妬。
以前十四郎くんの隣を歩いていた、知らない女の人には嫉妬もしなかったのに。
物に。しかも彼の好物に嫉妬するなんて・・・!!

恥ずかしい・・・!



「そんな事でいちいち悩んでたのかオメーはァァァァァ!!!??」

次の日、一晩をブタ箱で過ごした土方の怒声が取調室に響き渡った。










土方「そしてお前に関しては何一つコトと関係してねェじゃねーか!」
沖田「イヤだなァ大事な友達の悩み事ですぜ?阿呆らしいと思いながらも相談のってやるのが友達ってモンでしょ」
土方「相談のるっつか全力でノリノリじゃねーかアアア」


はいお疲れ様でした!
リクエスト「取り調べシリーズ」ふたたび!でした*^^*あるきさんありがとうございます!
いつもしっとりしたお話が魅力のこのシリーズ、久しぶりということもあって(そう言う問題じゃないかもしれませんが)大変なことにww
あれ、なんか、すいませんww
そして最近出番キラーのキラー率がひどくてほんとすいま(ry
あ、ありがとうございましたー!


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