武士の魂、刀。
・・・とかいうけれど、武士が刀を打ってるわけではない。
更にいうと、刀屋だからと言って刀が作れるわけではない。
一本の刀を作るにはいくつもの工程がいる。
刃の部分を鍛える鍛冶、一本一本の刀身に合わせた鞘、柄や鍔、紐を巻く職人だって。
様々な刀匠の手をめぐって、一本の刀は完成する。
そして、完成してそこで終わり、ではないのも刀なのだ。
これはその刀を扱う武装警察の男と、とある職人のお話。
「はぁぁぁーー・・!こんなに沢山の刀に囲まれるなんて、幸せ・・・」
「誤解を招くような言い方はヤメロ。奇声をあげるな」
「今回はいつになく多いじゃないですか、何かあったんですか?」
「まァちっと大きいヤマがな。・・どれくらいかかる?」
「目利きにはそんなに。どれくらい避けるかわかんないですけど、明日の朝までには砥げるかと」
「そうか。じゃァ今回も頼んだぞ。必要なもんがあれば呼んでくれ」
「わかりました」
「あんま散らかすなよ」
そう言って部屋を去って行く咥え煙草の副長さんを見送って、は部屋にずらりと並べられた何十本もの刀を見渡した。
むふっ、と笑みがこぼれる。
「ハァ・・ハァ・・さァみんな・・まず検分するから、とりあえず剥き出しになってもらおうか・・」
「キモッ!!相変わらずキモッ!!」
振り返れば、部屋の入り口でこちらを眺めている薄茶色の青年と目があった。
「あら、沖田さん」
「アンタが来てるって聞いて。一本増えちゃ迷惑ですかィ」
「とんでもありませんわお客様っ。大歓迎です!順番に見せていただきますので、ささ、こちらに・・」
「アンタそれ刀見ると変態オヤジになり下がるの止めなせェ。ぜってーモテねェだろ」
「ワァー鐺ボロボロ。また鞘を地面に絵書くのに使ったんですか、やめてあげてくださいよ」
「話聞けよ」
嬉しそうに刀を畳の上に置くに一つ舌打ちを打って、総悟はその場にどっかりと腰をおろした。
は真選組がいつも利用している訪問型の砥ぎ師だ。商売道具とその身一つで客の元を訪れ、刀の手入れをするのが仕事。
・・・と、そんなモノは建前で、このへんてこな女は単純に極度の変態刀フェチなのである。
頬を染めながら刀身をうっとり眺めるのはまだまだ序の口、
欠けた刃には『可愛そうに・・いろいろあったんだね・・!』などと号泣したり、
『ごめんね!ちょっと濁るけど、あとでピカピカに磨くからッ』と謝ったり、
『いつみてもカッコいいよ・・』などと刀身にキスを落としていたなんて話も噂されるほど。
それでいて腕は確かだからたちが悪い。
真選組はただでさえ帯刀を許されている限りある機関。大切な刀を預けて攘夷浪士に売られでもしたら一大事だし、打ち直しまで行かない刀なら直接来て砥いでくれるを利用しているのだが。
「あ、沖田さんまだいたんですか?」
全然気づかなかった、と言うように、ふと我に戻ったような声でが総悟に視線を向ける。
「いちゃ悪ィーんで」
「私は構いませんけど・・そんなに早くは直りませんよ」
「どれくらいかかるんで」
「うーん、明日の朝くらいですかねぇ」
・・・・。
「じ、じゃぁ、今晩は泊まってくんですかィ」
「ええ。今回はいつもより量が多いですからね、申し訳ないですけれど、それくらいかかっちゃいます」
「へぇ。そう・・」
「じゃー、寝る部屋はもう聞いてんですかィ。まさかこんな部屋で寝ることもねェでしょう。あと飯はどーすんで?何か持ってきてんの?なあ」
完全にさぼりスポットと見た総悟が話しかける向こうで、すらり、とが一本の刀を鞘から抜いた。
まつげが触れるか触れないかまで顔を近づけて、刃先の欠け、刀身の歪みや重心のズレを確認していく。
しばらくじっくりと眺めると再び納刀して、いくつかのグループに仕分けして次の刀へ。
スラリと覗くは別の刀の白刃。水平にして覗いたり垂直にして眺めたり。ゆらゆら振って重さを確かめたり・・・
「うん、君は健康だね。ご主人に感謝しなよぉ」
「聞けよ!!!」
「うわっ!何?ごめんなさい、私に何かおっしゃってました・・?」
「おっしゃってやした!あのさ!二人しかいねーんだから聞いてなくても耳に入ってきててもいいんじゃねーの?」
「集中すると周りの音聞こえなくなっちゃうタイプで・・」
「あっそ」
「・・・・」
「・・・・」
「あ・・や、でけー声出してすいやせん」
「・・・」
「・・あの」
「・・・・・(カチャ)あー・・この刀は・・」
「聞けよ!!!」
ずどん!と座ったまま畳にかかとを振りおろす。大きな音が鳴ったところで、総悟はハッと青くなった。
そうだ、会話中に余所事するとは社会人として全くなっていないところではあるものの(自分の事は完全に棚上げである)、間違ってもこのが今手で扱っている物は刃物なのだ。
驚いた拍子にどこかを切ったら・・かすり傷で済めばいいものを誤って目なんかに入ったら・・・
「・・・」
「えェ?!今の音も聞こえねェの?!」
「・・・」
「オイ!」
いい加減イライラむず痒くなって、総悟はすっくとその場を立ちあがった。
そして、刀を鞘に納めた時を見計らって後ろからに抱き着く。
「おい。サンよォ」
「きゃっ?!ちょっと沖田さん、一応刃物扱ってるんですから危ないですって」
「・・・俺は、前回の時の返事聞きに来たんですぜィ」
ぴたり、の動きが止まる。
そうなのだ。先月彼女が同じように刀砥ぎに来たとき、
『返事は直ぐじゃなくて構いやせん』
総悟はこの娘に想いを伝えたのだ。
それは、真選組が結成してまだ間もない頃。
それまで利用していた鍛冶屋が、真選組が刀を預けたのを見計らった攘夷浪士の襲撃に会い、の刀砥ぎを初めて利用した時である。
あの時は驚いたものだ。これまで見てきた刀匠はみな熟年ばかり。
にもかかわらず、自分と相対して年も変わらないような若い娘がたすきで袖をまくりぺこりとお辞儀をする姿を、今でも覚えている。
そして総悟が培ってきたものすべてをぶち壊してしまうような騒動が起こったのである。
『失礼します。副長さん、砥ぎ終わりました』
『ご苦労、早かったな』
『刀は部屋に立ててあります・・あの、大変出過ぎた真似は承知なのですが』
『?』
の手には一本の刀があった。差し出されたそれを土方が受取ると、
『その刀の持ち主に話がしたい』とは言ったのだ。
刀は総悟のものだった。訳も分からぬまま副長室に呼び出されたかと思うと、娘は総悟を上から下まで眺めた後、「やっぱり」と口を開いた。
『もっと自分の身長に合った刀を使ってください』
『すり減ってる位置も重心もバラバラ。3pは短くした方がいいです』
ピシィ・・・ッ
ギョッとした表情の土方の前で、総悟は耳まで赤くなって顔をひきつらせた。
実際、身の丈より長めの刀を扱っている自覚はあった、が、不便と言うほど不便ではなかったし、
折角真選組が結成した時に近藤が選んでくれた刀に文句をつける気も起きなかったし、刀が高いのは知ってたし、
そもそも長身の局長や副長その他もろもろの隊士が使っているものと比べて自分のが短いのはなんだかおもしろくないと思っていたし、長い方が強そうだし、
今までの稽古や討ち入りでだって、近藤も土方も、それにそれまで使っていた鍛冶屋だって、そんなこと言わなかったし。
それにそれに、
刀の長さは身長に合わせたものを。コレが常識なのは知っている。
他人に手入れに預けた先で、(あっ、この刀の人背小さいんだなァ〜)とか思われるのは物凄く嫌だ!!から!!
だから、隠してたのに!
『へ、へェ〜・・それは、俺がチビだって事ですかィ』
『・・は?』
『き、気のせいじゃねェですか。今だって別に不便ねェですし』
『嘘つかないで』
ぱしっ、と右手のひらを取られる。
ハッと顔をあげれば思いのほか近くにあった娘の表情が思いのほか真剣で、総悟は息をのむことになる。
『見て、手のココの痣。納刀する時に無理な体制してるから鍔が当たってんの。あと脇にもあるんじゃない、痣』
『いでっ!』
『ほら、絶対柄も長すぎる。それに、肩も痛めてるでしょ。3pあると振った時の重さだってだいぶ違うのよ』
『切先だってよく地面に擦るからガタガタになってたんだから。あと、鯉口も、傷だらけ!』
痛いところを次々抉られ、完全に不利になった総悟は何も言えない。
『成長期なんだから年々合う刀が変わっていくのは当たり前です。真選組は幕府直下のくせにそんなお金もないんですか、どうなんですか副長!』
土方までもたじたじになったそこに局長近藤が入ってきたところで、試合終了となった。
「・・え?返事?何のですか?私何も質問されてませんけど?」
「ハァァ?!イヤ俺先月お前にゆったじゃん!お前「はい」って返事してたじゃん!」
「はぁ・・ごめんなさい、私集中すると周りの音聞こえなくなっちゃうタイプでして」
「聞いてねえなら中途半端に相槌残すなァァァ!!」
ハァ・・・どっと疲れを感じながら、総悟はの腰に腕を回したまま畳にうつぶせになった。
この女はいつもそうだ。こうなると刀関連以外の話題は耳に入っちゃ来ない。悪気があってじゃないところがタチが悪い。
実際、に言われて刀を変えてから、ものすごく楽になったのだ。
楽になったというか、それまで「若くして才能有る将来有望株」だったのが、一気に「真選組最強」になってしまったのである。
もちろん刀の長さが変わればそれまでとリーチが違う。小回りの良さも違う。だから実践で慣れるまで沢山稽古した。
あのころと比べて身長も伸びた今でこそ思えば、「あの刀は長すぎだろう」とは思えるものの。
『刀変えたのね。今度はばっちり!こんなにきれいな剣捌きの人の初めて見た』
私にはわかるよ、たくさん練習したんだね、凄いね!
刀を見ただけで物凄くうれしそうにほめてくれた、この娘の顔が頭に残るようになったのはいつからだったか。
「サン、この一本だけ避けてある刀は何ですかィ」
「え?刀?・・ああ、刃の芯がちょっと歪んじゃってるから、鍛冶屋に持ってって打ち直した方がいい奴ですよ」
「刀だけ拾うのかィ。・・そっちのは?」
「こっちは今日と明日で私が砥ぐ分。分かりやすいように段階によって分けてるんです」
「そーやってちゃちゃっと見ただけで分かるモンなんですねェ」
「あはは、そりゃそれが仕事ですから」
「それにしても、鍛冶屋に預けるとなると時間がかかるでしょう。んな残念な奴は誰でしょうね」
「ああ、その人、いっつも力任せに振るんだから。きっとパワフル系な人なんですね」
「は?」
ふっと表情を和らげて、は周りに置いてある刀に指をさしていった。
毎月来ていれば、刀匠は見た刀を忘れない。何度も見ていればその人の刀の使い方も分かってくる。
「そっちの人は慎重に丁寧に刀を振ってる人です。でも防御が多いから結構荒れてますけど」
「こっちの人も太刀筋はいまいちだけど、血振りをしっかりしてるからキレイ好きなのかな」
「んなことまでわかるんですか・・」
「・・・・・」
「・・・・チッまた無視かィ」
「でも・・わたし、沖田さんのが一番好きです」
いつの間にか山のようにあった刀も綺麗に仕分けされていた。
残った最後の刀を見ながらうっとりと頬をゆるませるを後ろナナメ下から見上げながら、総悟はその表情から目が離せない。
「どんな時でもしっかり基本ができてる太刀筋、こんなにきれいにすり減ってる刀なかなか見れません。100%刀の能力を使いこなしてくださってるのが見て取れて、刀も喜んでるの、分かります」
ちゅぅ、うっとりを通り越して恍惚とした表情で刀にキスを落とすに、
キスされたのは総悟じゃなくて総悟の刀なのに、不覚にも恥ずかしくなってしまう。
「アホかやめなせェ。上のお偉いさんと違ってこっちはガチで人斬るのに使ってんでィ、汚ねーぞ」
「あら、沖田さん手入れもほんとしっかりしてらっしゃるんですもの。大事に使ってくれてありがとうね」
やわらかいけれど細かな傷も多い、そんな優しいてのひらが上から降ってきて、
総悟はうつぶせの体制のまま耳まで真っ赤にした。
覚悟を決めて、口を開く。
「なあ、刀の事でちょっと聞きたいことがあるんですが」
「えっ、刀?どうしました?」
「俺と付き合ってください」
ぽけぇ、と口を半開きにしたまんま固まる表情。
よっしゃ、今度こそ、捕まえられますように!
お疲れ様でした!3周年リク
『趣味に没頭するヒロインにかまってもらえず拗ねる沖田さんの話』でした!
趣味じゃなくて、限りなく趣味に近い仕事になりましたがwwまあこんな感じでw
リクエストありがとうございましたー*^^*
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