遥か昔にどこかの教祖様が誕生した日をお祝いする日。クリスマス。
でもなんか、別に生まれた日と言う訳じゃなくて、降誕した日、らしい。
正確には24日の日没から25日の日没までを意味し、24日の日没以降の時間は「クリスマスイブ」なんて言うんだとか。
子供たちはいい子にしてれば、次の日の朝には親・・げふんげふん。サンタクロースさんから、プレゼントをもらえる特別な日。
でも、サンタクロースは別にキリストと関係ない。
完全な別人だ。だからサンタさんがクリスマスにプレゼントを配るとか、なんかちょっとおかしい。
サンタさんの記念日は別にあるらしくて、それは12月6日で。
そもそも考えてみればおかしな話である。何故、キリストさんの記念日にサンタさんが出張って来るのか。
しかしながら、私はキリスト教の人間じゃないし、そう言う厳密な話はあまり関係ない。
あの子もあの人も、みーんなそう。
見事に商社の思惑にこぞってはまって、キリストさんに何を感謝するでもなく。
プレゼントを交換し合う。
愛の言葉を交換し合う。
あはは。なんだか可笑しな話だねえ。
伝説上の聖人「サンタクロース」を、「コイビト」に置き換えてみたり。
今日はクリスマスイブ。
恋人達の季節。
ピピピピピ・・・、とタイマーが鳴って、パソコンの画面で「wiki」を調べていた私は顔を上げた。
パタパタと台所にかけていけば、蒸し鶏のほんわかいい香り。
タイマーを止めて、コンロの火も止めて、蒸し器の蓋を触って・・・・「あちち」と直ぐに引っ込めた。
緩む頬。いや痛みが快感にとか、そんな特異体質を私が持っているわけではない。
ちらりと時計を見る。
その針は午後6時を指していた。
今年のサンタは何をくれる?
真選組に年中行事の休みはない。
そりゃそーだ。クリスマスだから今日は一日警察はお休みです、なんて事になったら、
クリスマスは祭りどころの騒ぎじゃない。いや違う意味での祭りが起こる。犯罪祭りだ。
そんなことにならないよう、我らが真選組は今日も職務を全うしている。
「トシ!飲みに行くぞ!!」
がしり、と肩を掴まれたのは、日も沈んだ後だった。
どうして・・・なんて聞かなくても分かる事。
よせというのに聞かずバラの花束を持って求愛相手のもとへ出向いた近藤は、ぽっぺたに真っ赤な花を咲かせて見事撃沈して帰って来た。
涙声で「行こうよぉ〜」なんて仔ゴリラのような声(聞いたことないけど)を出されて、土方はうーん、と唸る。
俺達友人だろ?!心の友だろ!!と掴まれた方をぐあんぐあんと前後左右に揺すられ、わかったわかった、となだめれば、近藤はぱあっと目を輝かせた。
「心の友よ!!」
「心の友ってぇんなら俺を除け者はひでぇですぜ近藤さん」
「総悟」
「俺も行きまーす!」
「お前は未成年だろが」
「来い来い!!今日は飲むぞォ!」
「オイ!」
ひょっこり顔を出した総悟も混ざって、結局TOP3は近くの居酒屋に飲みに行く事に。
昔馴染みの相手とあって、3人で行ったくせに飲み屋では大いに盛り上がった。
俺んち気分で脱ぎ始める近藤を必死に止め、酒も入ってか珍しくからみまくって来る総悟をいなし。
二人から飲め飲めと酒を勧められて、自重しながらも土方も酒をあおった。
(イヤだって、自重しなかったらどうやって潰れた馬鹿二人の面倒を見ろと)
結局一番初めに潰れたのは近藤で、まあたくさん飲んでたからなぁ。
笑い上戸に突入してご機嫌まっしぐらの総悟をひっつかんで店を出た。
霜の降りた冷たく静かな夜道を、ふらふらしながら男三人で歩く。
「お妙さァん・・」なんてむにゃむにゃ言いながら近藤は既に夢の中。
そんな近藤を担ぎながら、はあ、と吐いた土方のため息は真っ白な煙になって澄んだ空気の中へ溶けて行った。
遠くの方ではにぎやかなクリスマスのメロディーが聞こえて来る。
「土方さーん、ゴチになりやしたァ!」
「ふざけんな割り勘だアホ。つか近藤さん重ぇ!オイ代われ総悟」
「イヤでーす!」
「・・・たくこの酔っ払いが・・・」
「土方さーん」
「ああ?」
全くこの餓鬼は、こんな時だけうきうきとしっぽを振ってきやがって。
とててっ、と何歩か先にかけて行った総悟は振り向きざまににやけた顔で言った。
「元気、出してくだせェよ。まーそんな時もあらァ」
「ハア?」
土方は顔を顰めた。元気出す?そんなときってどんな時だ。
怪訝な顔で見つめれば、総悟はぱちぱちと目を瞬かせながら、「あり?」と笑顔を引っ込める。
「え?だって・・」「てっきりご傷心なのかと・・」とか、ぼそぼそと呟く総悟を見て、ふと土方も足をとめた。
「アレと約束してたんじゃねーんですかィ?俺ぁてっきり振られたのかと・・・」
「え?」
「・・・・え?」
「・・・あ?」
「・・・・・・・・」
ああああああ?!
思わず担いでいたゴリラを落とす。
思い出した。仕事の山とゴリラの面倒ですっかり忘れていた。
・・・・なんて、完全ないい訳だ。彼女と会う予定をすっぽかすなんて。
突然叫び出した土方に、びくりと総悟は飛び上がった。その顔は、土方を映したかのように真っ青だ。
「あ、アンタ・・・馬鹿?」
「・・・いや、だって、メール・・・」
慌てて懐を探り携帯を取り出せば、画面は真っ暗。
「やべ、充電・・・」「あーもー!本当馬鹿だなアンタってお人は!貸しなせェ!」
走り寄ってきた総悟が携帯を取り上げ、自分の携帯のバッテリーを代わりに差しこんでくれる。
なんか、ずっと餓鬼だと思ってた奴が初めて同期の「友人」に見えた瞬間だったりしたのだが、あいにく今はそんな感傷に浸っている暇はない。
しかし、再起動した携帯電話を見て、土方と総悟は冷や汗の数を増やした。
新着メールや着信は一件も入っていなかった。恋人が待ち合わせ時間になっても来ないのに、連絡の類一切ナシ。
・・・・それは、逆に、怖い。
「うわ、重っ」
「・・・何してんだ総悟」
「見ての通り、これから近藤さん担いで屯所まで帰るんでさァ」
「・・お前」
「良いですかィ土方さん。言い訳はするな、ひたすら謝り続けなせェ」
「・・・・ァァ・・」
「ほら走れ土方!さっさと走って行って振られて来なせェ」
「うーあー、すまん総悟!」
ダッシュで走り去る土方の後ろ姿を見送って、総悟ははぁとため息をついた。
その息は12月の冷たい空気にひとつの白い円を描いて消えていく。
「・・アレじゃァ案の定プレゼントも用意してねェんだろーなァ・・」その顔は、どこか緩んでいたような。
は土方十四朗の恋人であり、今は江戸の隅っこにある小さな旅館で働いている。
以前は江戸の中心部の大きな宿で働いていたのだが・・・・まあ、色々あったのだ。
この季節旅館は大忙しなのだが、奇跡的に休みが取れたが、
「仕事が終わってからでいいから、うちにおいでよ!えへへ、ごちそう作って待ってる」
なんて可愛い事を言って来たのが先週の頭。
プレゼントでも買ってやるかなんて思っていたのは最初のうちだけで、仕事仕事ですっかり忘れ去られていた。
真選組の隊士達が予定もないのにクリスマスイブはシフトを空けたがって、結局ばたばたしているうちに当日になってしまった。
イヤ、もう既に当日ですらなくなろうとしている。
辿りついたのマンションの前で、土方は肩で息をしながらインターホンを鳴らした。
返事はない。
仕方がないので持っていた合鍵で鍵を開け中に入った土方は、絶望にも似た気分になった。
家の中は真っ暗。
玄関から通路を通ってリビングに出れば、そこも暖房すら付いていない。
でも、そのリビングの机の上に冷たくなったごちそうが手つかずで残っていて・・・・
・・・心臓がぎゅぅ、と締め付けられるのを感じた。
「・・・・・?」
きょろきょろとあたりを見回す。
寝室の扉が僅かに開いているのを見つけて、土方は早足でその部屋へ入りこんだ。
彼女は寝室のベッドで丸まっていた。
すやすやと聞こえて来るのは寝息。枕元にはスクリーンセイバー状態になったパソコンが置いてある。恐らくインターネットをしながら寝てしまったのだろう。
頭のすぐそばに携帯電話が置いてあって、物凄く申し訳ない気持ちになった。
きっと、ずっと待ってたのだ。自分が来るのを、飯も食わずに。
そう思うと堪らなく愛おしい気持ちがあふれてきて、土方はの枕もとに起こさないようそっと腰を下ろした。
その髪をさら、と撫でてやる。
・・・・イヤ、なにムラっとしてんだ、俺。謝るんじゃなかったのか。
そうは思いつつも、寝ているのを起こすのも忍びないし、の寝顔が可愛いしで体は正直に動く。
両手での頬を包み、その顔にそーっと自分の顔を近づけたところで、「むぅう」と娘が身じろいだ。
ぱち。
「ぎゃあああああああああああああああっっんむううううううう!!!!?」
「ばっか!てめーの彼氏だアホ!!通報されるような悲鳴あげんな!!」
「と、十四朗くん?!あれ?!いつの間に?!手ぇ冷たっっ!」
目覚めた先に他人の顔があって絶叫するの口を慌てて押さえつければ、は目をこすりながら起き上った。
「今何時?」
「・・・0時・・」
「そっか、ゴメンね、寝ちゃってた」
んー!と伸びをしながら、ベッドの上にちょこんと座った姿勢のまま土方に向き直ったはにっこりと笑った。
土方の目の前に、小さな箱を掲げながら。
「おかえり!メリークリスマス!」
ぽかん、とする土方の両手をとって、自分のほっぺたに押し当てる。
「冷たっ」なんて言いながら。そりゃそうだ。こっちはおかげで物凄くあったかい。
ひっくり返して手の甲もそのほっぺたで温めながら、は上目遣いで聞いてきた。
「あったまった?へへ、じゃー開けてみて!」
言われるがままに箱の包みを広げれば、出てきたのはゴールドの懐中時計。
「あのね、最初は腕時計にしようとしてたんだけど」
刀使う人ってそういうの駄目って言うじゃない?
だから、これなら仕事中も持っててもらえるでしょ。時間が分かって便利!
・・・・え、携帯で見る?そんなこと言わないでよう・・。
きゃいきゃいとはしゃぐに、いい加減我慢が出来なくなった土方は思いっきり抱きついた。
「・・・・・ありが「酒臭い」
・・・・・・・・・・・・・・・・。
「すいまっせんでしたアアアアアアア!!!」
土下座である。
総悟に言われた通り、言い訳なんざしない。許して下さいごめんなさい。
しかし、それに対するの対応は驚くほど肩すかしなものだった。「いいよー」
「え・・・いいの、か?」
「うん。待ってて、今リビングの暖房かけて来る。あ、ご飯食べちゃった?」
「イヤ、そうじゃなくて」
掴んだの腕をぐい、と引っ張って胸の中に包み込む。
・・・許してくれるのは嬉しい。こっちの都合に理解を示してくれるのは有難い。でも。
そんなに簡単に許せるくらいの、ちっぽけな存在なのだろうか、自分は。
理由も聞かないなんて。どうでもいいって思ってるってことじゃないだろうか。
何だか顔を見るのが怖くて、土方は耳元で囁いた。
「ごめん、あの、約束・・・忘れてて」
「いいよ」
「近藤さんと、総悟と、飲みに行ってた」
「うん」
「近藤さんが、ひとり身は寂しいから付き合えって」
「うん」
「でも、飲みに行った店はキャバクラとかじゃなくて、全然普通の店で」
「うん」
「・・・あのさァ」
ちょっとくらい、怒れよ。
もしかして他の女と・・・とか、疑えよ。
そう言う自分は結局は言い訳の塊だ。
許すって言ってるのに、いちいち説明して、
仕事だっていっときゃばれないだろうに「忘れてた」なんてハッキリ言って。
「・・・ほんとに俺の事好きなの、お前・・?」
そんな女々しくてみじめな言葉を発すれば、はあはは、と笑った。
土方の胸に顔を押し付けられながら、伸ばされた手のひらで髪を撫でて来る。
まるで大きな子供をあやすみたいに。
「十四朗くんがそんなこと言うなんて初めてだねぇ。酔ってるの?」
「なあ、答えて」
「はいはい。十四朗くんに別の女がいたとしても好きかって?」
ふと、撫でられた手が離れて土方の肩に置かれた。
ぐい、とはがれたいように肩を押され、ちょっとだけ傷つきながらも抱きしめていた小さな体を解放する。
なんだかすごく名残惜しい。
「ねえ、先に私からも質問」
上目遣いで見上げて来るに、ごくり、と喉を鳴らしながら頷けば、
「私の事好き?」
「当たり前だろ」
「私って、意外とサイテーな女だよ?」
「んなことねぇ」
「・・こないだだって、総悟くんに「浮気してたら相手の女の人抹殺して欲しい」って頼んじゃったし・・」
「・・それでも、好き?」
「・・・・・・・・」
「ちなみに、任せてくだせェ、って言われちゃった(笑)」
「・・・・・はァ・・」
「ねー、まださっきの答えいる?」
・・・もうイラネ。
ぎゅっと抱きしめれば、くすくすと腹の上から笑い声が聞こえてきた。
さてと。
もう一つだけ、謝らなければならない事があるのだ。
「・・・・あのさ、俺クリスマスプレゼント・・・」
「ねえ、前私の働いてた宿が摘発されて、総悟くんが取り調べ担当してくれた時あったじゃない?」
「?あぁ・・」
「あれから、結構わたし達仲良くなったのよ?」
「じゃーん」
そう言って土方の目の前に差しだされたの小指には、きらりと光るリングがはめられていた。
「クリスマスにこーんな素敵なプレゼント貰えるくらい」
「・・・何貰っちゃってんのお前ェェ?!」
そしてなに勝手に人の女に指輪プレゼントしてんだあのガキ!?
拳を握りしめる土方の前で、無邪気な顔で娘はきらきらと笑う。
「隣の指にはめる奴でもいいんだぜって言われたんだけど、あ、勿論冗談でね?」
「でも、ほら、その指にはめるのは、一番大事な人からもらったものが良いじゃないって、遠慮しちゃった」
ん?
「文句はないけど。十四朗くんの事なんだからプレゼントなんて用意してないんでしょう」
「あ、ねえ知ってる?でもね、ほんとのカトリックのクリスマスは、プレゼントは実は12月25日じゃなくて、1月6日に貰えるんだよ」
これって。
「・・・・今年のサンタさんは何をプレゼントしてくれるのかなぁ」
逆プロポーズ?!
「十四郎くんって、言っちゃ悪いけどそうゆうトコヘタレだよね」
「・・・・うるせ」
「そんなところも好きだけど」
「うるせえ!1月6日っつったか?せいぜい楽しみにしてろコノヤロー!」
土方は苦々しくつぶやいた。なんてこった。
今年のサンタめ・・・・とんでもねえプレゼント寄越しやがって!
・・・・・・・・・。
真選組の頭脳を甘く見るなよ。ぜってえ断れないシチュエーションをプレゼントしてやらァ!!
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