「諸君、我々真選組には、江戸の平和を守るという使命がある。何時如何なる時でも、我々はこの手を休めてはいけない」


黒尽くめの隊士達がひしめき合う屯所の会議室。彼らの食い入るような視線の先には、何時になく神妙な面持ちで語る局長・近藤勲の姿があった。


「世間が浮かれている今こそ、犯罪者どもは人々の背後から忍び寄り、人々を恐怖へ陥れようとするだろう。我々は、奴らの愚行を断じて見過ごしてはいけない!」


近藤は拳を強く握り締めると、伏せていた瞼を上げた。


「故に、我々にはクリスマスなどというものは存在しない! 決して彼女がいないとか、お妙さんに振られたとか、そんな下らない理由で不貞腐れてるわけでは決してないのである!」


「そうだろう!? 皆の衆!?」そう言って近藤が両腕を広げれば、隊士達はそれに呼応して一斉に立ち上がり、湧き上がった。隊士達の全身からほとばしる殺気……否、活気を感じ取った近藤は、目尻に涙を浮かべ満足げに頷いた。


「すべては俺達真選組の手に懸かっている! 俺達は、この誓いの言葉の下、今日から2日間の聖戦を何としても生き抜くのだ!」


近藤が握り拳を高らかに天井へと向かって掲げると、隊士達もまたそれに倣い、近藤に続いて声を張り上げた。


「リア充爆発しろおおおおお!」
「「リア充爆発しろおおおおお!」」
「クリスマス爆発しろおおおおおお!」
「「クリスマス爆発しろおおおおお!」」


近藤を中心に隊士達は、目を血走らせ、喉がつぶれそうな程の声で叫び、熱い団結式を繰り広げ始めたのであった――

一方、そんな彼らを、部屋の隅から冷静な目で見つめる人物が2人いた。
副長・土方十四郎と、一番隊の平隊士・である。


「……副長、いつから真選組は宗教団体に変わったんですか」
「やらせておいてやれ。モテない奴らが現実逃避してるだけだ」
「いや、でも平和を守る人達が、率先して爆発とか物騒な事言ってますけど」
「どうせ口だけだ。放っておけ」


我関せず煙草をふかし始める土方とは対照的に、は目の前の異様とも云える光景に、ただ苦笑いをこぼすしかなかった。

本日は、クリスマスイヴ。
クリスマスとはそもそも、イエス・キリストの誕生を祝うキリスト教の記念日・祭日であり、イヴはその前夜を指す――が、恐らくこの江戸で、本来の意味で過ごす人々は少ないのではないだろうか。
特にイヴは、恋人と過ごす日、と考えている者が多数を占めている。イルミネーションで飾られた町は、恋人達で溢れ、普段の何倍も賑やかで甘いムードに包まれるのだ。
しかし一方、恋人のいない者達は、目のやり場に困りながら、非常に肩身の狭い思いをして、一日を過さなければならない。一人でレストランやバーに入ろうものならば、イチャつくカップルに囲まれて切なさが倍増し、涙の混じった水を一杯口にして、即行退席する事になるだろう。そして、その悲しみはいつしか妬みへと変わり、幸せな人々を逆恨みするようになるのである――丁度、今の近藤らのように。


「そういえば副長は、輪の中に入らなくていいんですか?(入られても困るけど) 副長も彼女いないですよね?」
「俺は女なんざ欲しいと思わねぇからいいんだよ」


……これがモテる男と、モテない男の違いか。
近藤達と土方へ交互に目を向け、妙に納得してしまったは、それ以上何も言えなかった。


「つーか、お前こそ、いねぇんじゃねぇのか?」
「副長、そういうのセクハラですよ」
「てめぇが先に聞いてきたんだろうが」


もっともな切り返しをされて、は口籠る。
……しまった。大して興味もなかったのに(失礼)聞くんじゃなかった。
鬼の副長の鋭い視線には動揺するも、わざとらしく咳払いをして気を取り直し、「今年はいいんです」と腰に手をあて胸を張った。


「確かにいませんけど、今年はいいんです」
「……
「ちょ、憐れみの目で見ないでくださいよ!?」


「無理すんな。お前も一応女だし色々あるよな」と、何時になく優しい口調で気遣われ、は怒りで震えた。しかし、言い返す言葉も見つからず、耐え忍ぶしかない。
……はいはい、どうせ職業柄か、彼氏の一人もできませんよ。毎年クリスマスは率先して仕事してますよ。

でも、今年はそれでいいのだ。開き直りでもなんでもなく、言葉通りそうだった。
何故なら――


「土方爆発しろおおおおお! 土方爆発しろおおおおお!」


その時、近藤や隊士らの魂の叫喚に交ざって、聞き慣れた声がの耳に届いた。
瞬間、の顔は真っ赤に染まる。断っておくが、決しては、物騒な台詞自体にときめいたわけではない。
ドキドキと胸を高鳴らせながらゆっくりと目を向ければ、隊士達の間に、モテない男の部類からは程遠い端正な顔立ちの青年が、無表情のまま拳を天井に突き出して叫んでいた。


「土方爆発しろおおおおお! サンタ服のように真っ赤に染まれえええええ!」


挑発的な言葉に「上等だ総悟おおおおお! てめぇを血祭りにしてやらあああああ!」なんて刀の束に手を掛け怒鳴る土方が視界の端に見えたが、の意識はすでに、声の主である青年・沖田総悟にしか向けられていなかった。

沖田総悟――18歳という若さでの所属する一番隊隊長を務める青年。
そして、何を隠そう彼こそ、の好きな人、であった。


「てめぇらも、いつまでボサッとしてやがる!? とっとと仕事に戻れ!」
「「は、はいいいいい!」」


鶴の一声ならぬ鬼の一声で、アンチ・リア充を叫んでいた隊士達は、一目散に部屋を出ていく。そして、土方に鋭い眼光で睨まれた沖田もまた、面倒くさそうに頭を掻きながら気の抜けた返事をして――に顔を向けた。半ば夢心地で沖田を見つめていたは、沖田と目が合うと、ハッと我に返って姿勢を正す。


「そういや、。今日はあんたと見廻りだったねィ」
「は、はい! よろしくお願いします!」


すかさず敬礼をして答えれば、相変わらず固ぇな、なんて優しげに目を細めて笑われては顔を真っ赤にして硬直してしまう。ズルイ、今のは不意打ちだ。


「じゃ、俺達は行きまさァ」
「あ! お、沖田隊長、待ってください!」


さっさと部屋を出てしまう沖田を、は慌てて追いかける。勿論、近藤や土方に一礼をして退室する事は忘れない。背後から土方が「クリスマスに沖田が一緒とは、も災難だな」などと憐れむ呟きが聞こえたが、とんでもない! 今日だからこそ意味があるんです! と、は声を大にして答えたかった。

と沖田の関係は、只の上司と部下。
そこには甘い雰囲気なんてものは存在せず、当然沖田から「クリスマスは、2人で過ごしやしょう」なんて夢のようなお誘いがある筈もなければ、から声を掛ける勇気すらもなかった。
だが、数週間前、何気なく見廻り表を確認したに奇跡がおきた。
12月24日の日付の隣に、と沖田の名前が並んでいたのである。
見廻りは、同じ隊の者同士がペアになって行われるもので、その組み合わせもどの日に配置されるかもランダムだ。つまり、にとって、沖田と丁度クリスマスという特別な日にペアになるなんて奇跡に等しかったのである。
そう――が「相手はいないが、今年はいい」と土方に言っていた理由はコレだった。


「あー外はさみぃなァ。適当にブラブラしてさっさと帰るか」
「っ! だ、駄目ですよ!? お仕事なんですから!」


屯所を出て早々やる気のない発言をする沖田を、は慌ててたしなめる。仕事だからというのも本音だが、今日は私情も含んでいる為、普段以上に力がこもる。
すると、沖田が少し呆れた顔で振り返った。


「こんな日も仕事熱心だねィ。ちったぁ肩の力抜きなせェ」


宥めるようにの肩をポンポンッと叩き、沖田は踵を返して再び歩き出した。
……ああもう。早速顔がニヤけてしまう。我ながら単純だ。
沖田の後ろ姿を愛おしい気持ちで見つめながら、は彼の後を追った。

1年に1度しかないクリスマス。
好きな男性と――沖田と一緒に過ごせるだけでも、にとっては十分に嬉しい事だった。
勿論、仕事上ではなくかつ恋人としてだったら天にも昇るような気持ちかもしれないが、高望みしてはいけない。

は知っているのだ。不平不満を口にしながらも、沖田の一番はいつでも近藤であり、土方を含めた真選組を大切にしている事を。
普段は不真面目な態度で怠け者のように振る舞う沖田だが、いざという時は率先して刀を握り、戦いに身を投じている。また、己が悪と呼ばれる事を厭わず汚れ役を買って出て、仲間の盾になろうとする事すらある。
はそんな沖田をいつしか慕うようになっていた。そして、だからこそ、この恋が叶う事はないだろうとも思っていた。――でも、それでいいのだ。
例え一隊士としてしか認識されてなくとも、時折見せる優しさに触れられるだけでいい。
例え肩を並べて歩けなくても、こうして真っ直ぐ進んでいく沖田の背を追い、彼を守れる立場にあるだけでいい。
勿論時々思わず沖田に手を伸ばしてしまいたくなる時だってある。行き交うカップルを羨ましいと思わないわけではない。――でも、これがの選んだ道だ。


「お、いいもの発見」


と、その時。前方を行く沖田の足が、ふいに止まった。彼の視線の先には、ほかほかと白い湯気が立ち上る何段も重なった蒸籠。のぼり旗には大きな文字で<肉まん・あんまん>と書かれている。
まさかと思えば、案の定。沖田は、先程のようにの肩を叩いた。ただ一つ違うのは、彼が嫌な笑みを浮かべている事だ。


、ゴー。肉まん3つよろしく」
「(やっぱり!)で、でも今は仕事中で」
「ほーら、10秒以内にいってこーい。間に合わなかったら罰ゲームな。はい、10、9、8」
「ちょ!? ま、待ってください! 早いですって!」


普段から躾けられてしまっているは、逆らう事もできずに店へと走り肉まんを購入。再びダッシュで沖田の元へと戻る。


「よっしゃ……じゃねぇや、残念。15秒でさァ。お前後で罰ゲームな」
「り、理不尽…っ」
「……あり? 4つ入ってるけど?」
「あ、それはお店のお兄さんがオマケしてくれた餡ま――」


ん、と言い終わる前に、餡まんは剛速球で空の彼方に放り投げられた――って、え!?


「ちょっと!? 隊長、何してるんですか!?(私の餡まん!)」
「ふぅ……危ねェ所だった。、実は餡まんの由来は、キリストが十字架に磔にされながら食べさせられた毒饅頭なんでィ。ほら、見た目は真っ白なのに、中は真っ黒だろィ? だから、クリスマスの日に餡まんを食べるのは禁忌とされ、これを犯した者は切腹しなきゃならねぇんでさァ」
「いや、何とんでもない嘘でっち上げてるんですか!? 見た目真っ白で中身真っ黒って、隊長の事でしょ!?」
「まぁまぁ、カリカリすんな。仕方ねぇからコレやらァ」
「……」


「感謝しろよ」と、目の前に差し出されたのは肉まんだった――1口サイズの食べかけだが。……あれ? なんで私、この人の事好きなんだっけ? 前言撤回したいんだけど。さっきまで真面目に語っていた自分を消し去りたいんだけど。
は、思わず飛び出そうになった不満を呑みこみ、その肉まん…の皮を口に入れた。


「さーてと、そいじゃあ、罰ゲームだけど」
「げほっ! 本当にやるんですか!?」
「当たり前でィ。俺を誰だと思ってんだ」


返す言葉もない。


「知り合いのいい店があるんでさァ。とりあえずそこに行きやしょう」
「え、いや、でも、だから今は仕事中で――っ!?」


問答無用で腕を掴まれてしまえば、は、為すすべもないまま何処かへと連れて行かれるしかなかった。




*****




「……沖田隊長、私、何かしましたか?」
「どうしたんでィ、急に。お前は立派に一番隊を務めてるぜィ」
「……言ってる事とやらせてる事が乖離してるんですけど」
「いやぁよく似合ってますぜィ――サンタさん」


ニヤリと嫌な笑みを浮かべる沖田の視線の先には、いわゆる女性用サンタコスチュームに着替えさせられたの姿があった。
知り合いの店、と言ってが沖田に連れられてきたのは、所謂コスプレ店だった。どこでどうやって何故知り合いになったのかを聞くのは怖いのでやめておいた。


「うう……こんな丈の短いスカート……っ」
「……俺グッジョブ」
「はい?」
「いや、なんでも。んじゃ、着替え終わった所で、とっとと行くぜィ」
「え、あの、まさかこのまま、じゃないですよね?」
「……え?」
「え、って、え!? 何、意外そうな顔してるんですか!?」


「本気でセクハラで訴えますよ!?」と、更衣室に入って勢いよく扉を閉める。
無言になった沖田に、言い過ぎたかと不安になったが、しばらくして沖田と店員が「アレと同じの買います」「まいど」なんてやり取りしている声が聞こえてきて、はガックリと項垂れた。

だがしかし、店は店だが”2人で買い物”と考えれば、なんだかデートっぽいな――と、乙女思考が働いているのも事実。コスプレも抵抗はあったが、沖田が似合っていると言ってくれたのならば良しとするか、と思えてしまう。
更に、手早く着替えて「お待たせしました」と駆け寄るに、沖田が「んじゃ行くか」と微笑めば、いよいよ口元の緩みが抑えられなかった。
……まぁ、これくらい楽しんでも、許容範囲内だろう。(沖田の手に握られた紙袋は見なかった事にする)

それから店を出て以降、相変わらずは予測不可能な沖田の行動に右往左往させられた。しかし、それでも、元々クリスマスに一緒にいられるだけで良かったにとっては、ふいに見せる沖田の優しさや無邪気な笑顔を見る事ができただけでも、十分すぎるくらいに楽しい時間だった。(見廻り中に不謹慎かもしれないが)

そうして日も暮れかかった頃、は、周りの人達が同じ方向に向かっている事に気付いた。


「何かあるんでしょうか?」
「ああ、もうすぐクリスマス限定イルミネーションの点灯式があるんだったねィ。ついでに見てみるか」
「え、でも」
「まぁまぁ、ちょっとくらい構わねェだろ」


そう言って笑みを浮かべる沖田に掴まれたのは、今度は腕でなく、手だった。
思わぬ沖田の行動に、は本日一番の動揺をするが、沖田はそんなの気持ちなど当然気付かぬまま、しっかりと手を握って飄々と進んで行く。
繋がれた温もりと先を行く背中を交互に見やり、の心に嬉しさと、胸が潰されそうな苦しい気持ちが複雑に絡みながら沸き起こった。

……こんなふうにされちゃ、期待しちゃいますよ。沖田隊長。

家族連れや恋人、友人同士で楽しげに騒ぐ人々の中で、そのどの部類にも当てはまらない自分達が、手を繋いで煌びやかに町を彩るイルミネーションを見上げている。そのアンバランスな事実は、を居た堪れない気分にもさせた。
更にはここへ来て沖田が急に静かになり、妙な沈黙が2人の間を流れていた。碌な会話もないまま、時間だけが過ぎていく。早く見廻りに戻り屯所へ帰ろうと促すべきかと思うが、そうする事で繋いだ温もりが離れてしまうかと思うと、自分から会話を切り出す事が中々できない。

叶わぬ恋と知りながらも、こうしていると期待してしまう。
せめてあと数秒だけでも、なんて、欲張ってしまう。

我ながら矛盾してるな、と、は自嘲気味な笑みを浮かべた――その時。ふいに強く手を握り返され、ハッと目を見開き我に返った。同時にドキリと胸が高鳴る。そのままゆっくり顔を上げれば、何時になく真剣な表情で前を見据える沖田。
急にどうしたのかと声を掛けようとすれば、前のめりに倒れ込みそうになる程勢いよく手を引かれる。そして、それから沖田は人々の喧騒からどんどん離れ、人気のない路地裏へと入っていった。
困惑し呼び掛けるに反応すらせず、沖田は背を向けたままふいに立ち止まった。


「……隊長……?」


沖田が無口であればある程、ドキドキと自分の鼓動が速くなっていくのが分かった。あんなに冷えていた指先が今は熱く火照って、繋がれた部分が汗ばんでいるのが恥ずかしくて仕方がなかった。
すると、しばらくして沖田がようやくへと振り返った。真っ直ぐな彼の瞳がを捉え、の緊張はピークに達した。やがて沖田の顔がゆっくりとに近付いてくる。


「たい、ちょ……」
「……


すぐ目の前で甘く名前を囁かれ、顔に熱が集中し、足が鉄の棒になったように動かなくなった。ズルイズルイ。なんだこれは。
更に寄せられる綺麗なそれに、いよいよ耐え切れなくなったは、思わずぎゅっと目を閉じた――そして。







――6人でィ」







急速に、現実に引き戻された。







キョトンと沖田を見つめながら目を瞬かせた後、彼の鋭い視線の先をゆっくりと追う。


「真選組の沖田だな? 悪いがその命、頂戴する」
「こんな日に、あんたらも暇だねィ。一日中俺達を追いかけまわして、楽しかったかィ?」


呆れた口調ながらも、その紅の瞳を光らせ口元に弧を描きながら、沖田はスラリと刀身を引き抜いた。そして、切っ先を、前方に――現れた数人の攘夷志士達に向ける。
だが一方、は信じられない気持ちで、沖田の言葉を反芻していた。


『一日中俺達の後ろを追いかけまわして、楽しかったかィ?』


……つまり、何も知らずに楽しかったのは、だけで。


「オイ! 女の方からやっちまえ!」


手を繋がれて、ドキドキしたのも全部――の勘違い。


「……しろ」
「ん? 何かコイツ、ぶつぶつと言って――」







「リア充爆発しろおおおおお!」
「え!? ぎゃあああああ!?」







恥ずかしいいいいい! 今なら羞恥心で死ねるううううう!







「うわああああああん! どうせ私はエセ・リア充ですよおおおおお!」
「ちょ、コイツ、なんか泣いてるぞ!?」
「おーおー流石、気合入ってんなァ」


馬鹿馬鹿。本当に私ってば馬鹿。


「だから俺ァ、お前に安心して背中預けられるんでィ」


そしてこの人は――本当にズルイ。


「さっさと片付けるぜィ、


……もっと勘違いして、戻れなくなる前に思い出せて良かった。
そう、これは叶わぬ恋。
例え一隊士としてしか認識されてなくとも、例え肩を並べて歩けなくても――


「っ、はい!」


貴方に認められ、貴方を守る剣になれるなら――それで、いい。




*****




事後処理を済ませたと沖田は、屯所への帰路についた。
日はすっかり暮れ、寒さがより一層身に染みる。
の前を行く沖田は、ポケットに手をつっこみ、時折ぶるっと身体を震わせ鼻をすすりながら「寒い寒い」とずっと文句をたれている。
そんな沖田の背中を見つめながら、はくすっと笑みを浮かべると、先程言おうと決めた事を口にした。


「隊長、その、失礼しました」
「あ? なんでィ?」
「私、攘夷浪士達の存在に気付かなくて……てっきり隊長は本気で遊んでいたのかと思ってました。全部、敵を欺く為だったんですね」
「……」
「それなのに私……あの、実は、普通にちょっと、楽しんじゃってました」


かじかむ手を擦り、はぁと息をかけながら、は苦笑いをこぼす。


「仕事なのに不謹慎ですよね……すみません」
「……わざわざ謝る事じゃねぇだろ。真面目だねィ」
「す、すみません。でも、本当の事なので……色々ありがとうございました」


変に思われるかと思いつつも、その背に向かって礼を言う。沖田からの反応は特になかったが、それで良かった。本当に言いたい言葉は「色々ありがとうございます」じゃなくて「一緒に過ごせて嬉しかったです」なのだから。

それからしばらく、また妙な沈黙が流れた。ちらちらと沖田の様子を窺っているとふいに、先程手を繋がれていた事やその後の出来事が脳裏に蘇り、再び胸の鼓動が速くなるのを感じたは、慌てて頭を振った。
いかんいかん! この空気がいかんのだ! 部下として、何か話題を提供しなければ!


「た、隊長! あの、その、イ、イルミネーション綺麗でしたね!」
「ん? ああ、そうだったねィ」
「やっぱりカップルが多かったですね! 近藤さん達が見たら発狂しますね!」
「はは、違いねェや」


わ、笑った!? よ、よし、この調子で畳み掛けるぞ!


「で、でも、私もちょっと羨ましかったです! ら、来年は、私も頑張って恋人作って見に行こうかな〜なんて!(勿論嘘だけど)」







「…………………………は?」







あれ?







妙な空気から穏やかな空気に変わり、そして更に一転。
突如足を止め振り返り、やけに久しぶりに見たように感じる沖田の表情や放たれるオーラは、それはそれはクリスマスに相応しいとは云えない物騒なものだった。


「え、あの……た、隊長……?」
「ったく、てめぇはよぉ……どこまでしてやらぁ気が付くんだ?あぁ!?」
「ひぃいいいいい!?(柄悪っ!)」


本能で、殺される!?と身の危険を察したは頬を引き攣らせながら、思わず一歩下がる。ニヤリと嫌な笑みを浮かべた沖田が指をパキパキと鳴らしながら、ゆっくりと近付いてきて、はよく分からないまま「ごめんなさいいいいい!」と叫びつつぎゅっと目を閉じた――そして。







「いい加減、思い知れ、鈍感」







ぐっと顎を掴まれ持ち上げられると、唇に柔らかい何かが押し付けられた。
何事かと反射的に瞼を上げれば、1ミリの隙間もないくらい間近に沖田の顔があった。







「良かったなァ、。エセ・リア充じゃなくて」


……今、何が起きた?
温もりと共に離れていく沖田を茫然と見つめれば、彼はニヤリと口の端を吊り上げ、クリスマスプレゼントだと、ミニスカサンタ服の入った紙袋を押し付けてきた。「明日の朝、それ着て起こせよ」なんて訳の分からない要求をされるが、の頭には反論の言葉すら思い浮かばない。


「ほら、いつまでもボーッとしてねェで行くぜィ」


いつもみたいに、ちゃんと追いかけてこいよ――


背を向ける直前に見えたその顔は、ひどく優しいもので。


「え? え?」


えええええ!?





リア充満タンでございます。
(来年は下手な細工せずに、有給とるかねィ)




++++++++++
※リア充=現実の生活(リアル)が充実している事。


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