「さて、本日は世間で言う『クリスマス』と言うやつだが、」
「恋人がいるヤツは浮かれずイチャつかず、また恋人がいないヤツもむしゃくしゃして道端のカップルを不当逮捕しないように」
12月24日の、いつも通りの隊士達の朝礼。
「他に何か連絡のある者はいるかー」と言う土方に、隊士の一人が「ハイ」と手を上げた。
「土方さァん」
「総悟、何だ」
「今日はクリスマスなので、俺へのクリスマスプレゼントに副長の座をくだせェ」
「却下。おい、他に何か連絡のあるものはいるかー」
「ハイ!副長、俺もクリスマスプレゼントが欲しいです」
「あ!俺も!」
「俺はギンタマン全40巻が欲しいです」
「彼女が欲しいです」
「ひとり身は辛いです。寒さが身に沁みます!」
「自分は、女じゃなくてもいいです、男でも・・・」
「副長ー神山がうざいんで斬ってもいいですか」
「うるせぇぇぇぇなんで俺がサンタクロースみたいになってんだよ!つかテメーら何歳児?!」
総悟に釣られて自分も自分もとクリスマスプレゼントを要求する隊士たちを、土方が怒声で一蹴する。
というか要求されるプレゼントの半分以上が「彼女が欲しい」ってどんだけさみしい集団なんだよ俺達は!
おい近藤さん、モチベーションのかけらもないコイツらにビシッと何とか言ってやってくれよ・・・・。
振り返った先では、我らが大将近藤勲が掌で顔を覆いながらフルフルと震えていた。
「お、お妙さんの心が・・・欲しいです・・・ぐすっ・・・!!」
「切実だなオイ!!」
「土方さん!!俺だって副長の座が切実に欲しいです!!という訳で死ね土方ァァー!」
「だアァァァァ、あっちでもこっちでも!!」
土方が流石に部千切れようとしたとき、突然会議室の障子がスパンと開かれた。
そこに立っていたのは。
「ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー、クリスマスだってのにうるせーんだよ!発情期ですか?このやろぉー!!」
腰の長さまであるオレンジがかったグレーの髪、かっちり着込まれた真選組の幹部服。腰には細身の二本の打刀。
琥珀色の瞳を爛々と輝かせ、その女性は開き気味の瞳孔で自分を見つめていた隊士たちを睨みつけた。
一方睨みつけられた隊士たちはと言うと・・・。
「さん!?」
「げ、が来た!」
「今日は非番のはずじゃ?!」
「非難しろ!波乱が起こる!」
と、こんな始末。そしてトップ3はというと、
近藤は「おはよう!」と笑顔。総悟は無表情で「よう」。土方は・・・・・、
うわー超絶面倒臭ェの来たァ今一番会いたくない顔ベスト3に入る顔来たァ・・・的な表情で、頬をひきつらせた。
真選組一番隊 。
つい半年ほど前に転がり込んできた・・・・・真選組唯一の「女隊士」である。
・・・と言ったら総悟に指摘されるだろう。「あんなの女じゃありやせん」
刀の腕は並み以下だが、刀“以外”の腕が並大抵じゃない、そんでもってここ真選組の幹部のポジションを狙っている、更にその理由が「真選組の幹部服がかっこいいから!」なんていう、ちょっと、いやかなり変わった女だ。
それゆえに総悟(もしくは土方)の首を虎視眈々と狙っている、危険で面倒臭いやつなのである。
“もしくは”で殺されてたまるかと思う。本当に。
そんなことを考えていると、総悟がさも当然のように口を開く。
「だってクリスマスプレゼントに土方さんに死んでほしいよなァ?」
「いつあなたに来やすく呼び捨てで呼ぶ事を許しましたか」冷酷に吐き捨てた後、は形だけにっこりとほほ笑んだ。
「私は土方副長じゃなくて貴方でもいいんですけどね、沖田隊長」
「かわいくねー奴」
「待てぃぃ!!テメその隊服どうしたよ?!」
「俺からのクリスマスプレゼントでさァ」
「はァァ?!勝手にやんな!」
「大丈夫でさァ土方さん。ちゃァんと報酬はもらったんで。「ご主人様」って言ってもらったんで」
「どんな取引してんのお前ら?!!」
「けちけちしないで下さい土方副長。そんなにいらいらしてるとハゲま・・ハゲてください」
「お前はいちいちうっとおしい奴だな!!」
「トシ!!落ち着いて!!血圧あがるから!!」
どうどうと近藤に押さえられて土方は大きなため息をひとつ。
畜生こんな女にペースを乱されてたまるか!(すでに乱されまくりである)
はと言えば既に土方など眼中になく、部屋の隅に避難した隊士達の中の山崎に向けて、もじもじ顔を赤らめながら
「あ、あの山崎さん、これ、どうです?似あいます?きゃっ」なんて言いながら頬を染めていた。
(この娘はどういう訳か山崎に対して怖ろしく従順である。因みに山崎本人はとても迷惑がっている)
全くもってきもい。
「に、似合ってると思うヨ、さん・・・」
「本当ですか!山崎さんに褒めてもらえるなんて、あたし、幸せ・・!あ、さんだなんて堅苦しいです、『』って呼んでくださいっ」
「・・『』」
「アンタじゃないわよドS!」
「おうなんだ、やんのか」
「うっせーーーーーー!!!お前一体何しに来たんだ!!」
「さん、今日は非番でしょう?何か用事?」
土方の言葉はがん無視に、山崎の言葉にハッと表情を引き締めて(ムカつく)ばたばたとは廊下へと飛び出していく。全く忙しい女だ。
そして廊下から引きずってきた巨大な白い袋に、その場にいた隊士達は全員嫌な予感で胸がいっぱいになった。
イヤ、何が、かは分からないが、とにかく嫌な予感である。
「何でィ、それ」その中で唯一僅かに瞳を輝かせながら総悟がたずねる。
はふふんと笑って、あざ笑うかのように腰に手を当て仁王立ちで、会議室の隊士たち全員を見渡した。
「これはクリスマスプレゼントです」
「危険な香りしかしねェ・・・」
「いらない人にはあげません。全員分あります」
「エッ、ってことは、俺の分もあるの?」
「ゴリラの分もあります」
「本当?!」
近藤さん気づけ!アンタ新入りに何気に酷い事言われてるぞ!
「ただし、・・・・・何もせずに貰えると思っちゃ大間違いです、隊長死んで下さいッ」
「アッブネ・・・!」
の正拳突きを紙一重でかわして、(さっそく袋の中を漁ろうとしていた)総悟が後ずさる。
は舌打ちを一つ打った後、「私を捕まえる事が出来た人にだけ、このプレゼントは貰う事が出来ます」と言った。
「おい!んな遊びみたいな真似事で隊内引っ張りまわすんじゃねぇよ!そもそもプレゼントって何だその袋の中身は!テメェの事だ得体のしれないもの貰ってもこっちは嬉しくもなんとも」
「台詞が長いので聞くのが面倒臭いです副長」
「てんめぇェエエエエエエ!!!」
「プレゼントって、何がもらえるの?」
副長の視線を受け取って、恐る恐る山崎がきりだす。全くもって優秀な部下だ。
は山崎の言葉に気持ち悪いくらい(イヤ実際キモイ)笑顔を零し、素直に袋からひとつプレゼントを取り出して見せた。
それは、小さなラッピングに入ったひとかけの茶色い物体。
「ブラウニー?」
「そうですっ!流石山崎さんです!」
「い、いや別に・・・」
「昨日の夜こっそり台所お借りして作ったんです、全員分!すっごい量でした」
「さんが作ったの?!」
「きゃっ、『』って呼んでください」
「・・・・・い、一応聞くけど、味見はした?さん」
「そんなシャイな山崎さんも素敵です」
が夜なべをして隊士たち全員のためにケーキを作っていたという事はそこにいた誰もが少なからず意外に思い、そして少なからず感動した事だった。
しかし、この娘はどう見ても体育会系。そういう人間は限って料理が苦手なんて言うのはよくあるパターンだ。嬉しさを押しのける勢いで膨らむ不安の靄。
「勿論。あたしこういうの得意なんですよ」山崎に対してキモイ笑みを浮かべるにその場の全員の心からツッコミが入る。
その台詞は不安をあおる他ならないです。そう言う事言う人ほど出来ないんです。フラグ臭ばんばんです!
「あっ、勿論山崎さんはご参加していただく必要なんてございませんからね!山崎さんに追いかけられるのも・・・イイけど・・」
ぞくっ、と山崎が体を震わせ、土方はなんとなく哀れに思って心の中で合唱した。
彼の目の前に差しだされているのは(他の隊士たちは)滅多に見られないの満面の笑み、と、ラッピングされたチョコブラウニー。
山崎は・・・・・・ぶはァぁぁぁ・・、と大きなため息をひとつ吐くと、パッと頭を上げた。
その顔には多少ひきつって入るが笑顔。
そして奴は奴らしからぬ、きっと今この時に限り真選組の誰よりも男らしいセリフを吐きやがった。
ソレは死の宣言のようで。
「ありがとう。折角作ってくれたんだし、有難くいただくね」
やっ・・ヤメロォーーー!!無茶すんな山崎ィィィーーーーー!!!
ぱくりと一口で茶色の物体を頬張った山崎がその体制で動かなくなり、永遠にも似た長い時間が過ぎた。
実際は10秒とかそこらだったのだけれど。
その肩がフルフルと震える。
吐くのか?!吐くんだったらここで吐くなよ!?
ここ皆の部屋だから!片付けんの女中さんだけど申し訳ないから!!
そんな土方らの心配を遮るかのような大きな声が、会議室に響いた。
「うっ・・・・−−−−−−−−−−−っまァァァアアアアア!!!!」
ええええぇぇぇぇぇえええええーーーー?!
「本当ですかー!やったぁー!」なんてはしゃぐ。
「ほんとに美味い。めっちゃ美味い。こんな美味しいブラウニー食べたことない!」
「山崎さんっ、良かったらもう一個どうぞ!」
「いいの?ひとり一個じゃ・・」
「はい!副長の分なので」
「待てェェェェええ!!」
あら、副長はいらないんじゃなかったんですか?
見下すようにははん、とせせ笑われ、ぴきり、と土方のこめかみに血管が浮かぶ。
でも、気になるのも事実。そう思ったのは他の隊士たちも同じのようで、本当においしいの?なんて恐る恐る山崎に確認をとったりしている。
参加者達のモチベーションも上がってきたところでがスタートの合図を行った。
その時、彼女の後ろで怪しい影がゆらりと揺らめく。
「じゃぁスタートって言って30秒後から開始ね」
「スター・・・・とぉっ?!」
「はーい捕まえたァ」
合図とともに後ろから羽交い締めの要領での体を捕まえた総悟はやる気なさそーに言葉を紡ぐ。
30秒も待つの面倒臭ェ。これでいーだろ。早くケーキよこしなせェ。
・・・その手はおもいっきり抱きついた娘の胸を揉みしだているワケでして。
局長副長含め、隊士達がガタガタ震えながら見守る中、総悟はハッと目を見開いた。
「お前・・・・けっこう、デカごあしゃ」
「 ――――――― と、このようにフライングしたら駄目ですよ皆さんは」
にっこりと黒い笑みでこちらを振り向くの後ろでは、総悟が、
部屋に飾ってあった大きな壷の、穴じゃないところから頭を突っ込んで(突き刺さって)、微動だにしなくなっていた。
そして、それが大鬼ごっこ時代の幕開けだったのである!(謎)
俺の財宝が、欲しけりゃくれてやる!探せ!この世のすべてをそこに置いてきた
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