「うーーーん、どれがいいかなぁ・・これはもう持ってるやつに似てるし・・あ、これ!ねぇ、これ可愛くない?」
「それ、前の誕生日にあげたのと同じやつだよ」
「あー、『ジュエリーキキ』のクリスマス限定ネックレスがせめて残ってれば!もっと早く動くべきだったぁぁ〜」

時はクリスマス10日前。山崎とはお互いのクリスマスプレゼントを買いに来ていた。
山崎は財布であっさり決まったが問題は彼女の方だ。アクセサリー屋をかれこれ6軒ほどハシゴしているが決まらない。指輪は仕事中つけられないし、ピアスの穴は開いてないのでネックレスがいいという。

「退はどう思う?」
問いかけに、若干うつろな目で山崎は遠くを見ながら答えた。

「・・・あのさ・・・もう正直にいわせてもらうとさ」
「うん」
「ネックレス以外のにすればいいんじゃないかな。服とかバッグとかさ」


付き合い始めて最初の去年の誕生日プレゼントはネックレスだった。
その後の去年のクリスマスプレゼントもネックレスだった。
今年の誕生日もまたしてもネックレスだったのに何でさらにネックレス。

「ある程度好みで限定されるんだから、そりゃいい加減デザインもかぶるよ。そんなにいくつも持ってたって首は1つしかないんだよ?マニアなの?コレクターなの??」

マニアでもコレクターでもない事はわかっていた。前にアクセサリーケースがちらりと目に入った時、入っていたのは「お母さんにもらった」というパールのネックレスと「友達からのお土産」というエスニックなやつと、自分が送ったものだけだった。
つまり山崎がプレゼントするまで自分セレクトの物は1つも持っていなかったという事になる。

「・・私、過去はひきずりたくないの」
いきなりネックレスと関係のないセリフが飛び出した。

「う、うん・・?」
「靴とかバッグとか買ってもらって、すごく気に入って愛用しちゃうとするでしょ」
「はぁ・・・」
「そしたらさ、別れた後も使う度に『ああ、あの元彼に買ってもらったやつだわ』って思い出すの嫌じゃない。かといって気に入ってるから捨てるのは辛いじゃない」
「・・・・・」
「アクセサリーくらいなら、別れた瞬間に即捨てしてしても困らないし、捨てやすいじゃない?私元彼に関するものは一切残さない主義なのよ」
「別れる前程でプレゼント考えるのやめてくれるゥゥゥ!!??」





ベンジは来年





24日は携帯ショップ勤務の彼女が奇跡的に休みが取れた(「イブ休暇争奪杯」のじゃんけん大会で勝ち抜けた為らしい)。
山崎は5日間の潜入捜査がちょうど23日の夕方までなので翌日は休み。体力的には少しきついが彼女の為ならば。
昼は応募した四越のフレンチレストランで限定10食クリスマスランチの予約権が当選した、とが大喜びしていた。
夜は電車で一時間半ほどかかる小さな村が、村全体にクリスマスイルミネーションを施して村おこしをかねたイベントをやる、しかも24日の夜のみというのが話題になっていて、もちろんも行くつもり満々だ。
プレゼントはともかく当日の予定は楽しみで楽しみで仕方がないらしい。と、いう訳でイブ当日にのんびりとプレゼントを選んでいる暇はないのだ。
そういう訳で10日前から動き出したのだが。

「なんか・・・もうどうでもよくなってきたっていうか・・」
10軒目を手ぶらで出たところで少し休憩、とカフェに入ったところでがぐったりと漏らした。

「どうでもいいって・・・俺もう決めちゃってるんだから『いらない』は困るよ、だから他のもので考えようよ」
「そうね、消えものならまあ・・『お米券』とかいいかもしれない」
「それクリスマスプレゼントじゃなくてもはやお歳暮ォォォ!!!」

先を期待してないにも程がある。自分が捨てるつもりなのか、いつ捨てられるかわからないと思ってるのか知らないが、確かに先の事を口にする事は滅多にない。
「来週は」くらいなら普通に会話に出る。
しかし「来月」だの「次の夏」だの、1ヵ月以上先の予定は例え「行けたらいいねー」の願望レベルですら聞いた事がない。

結局なんだかんだと言っているうちに山崎の潜入捜査の日が来てしまい、「とりあえず前日の夜連絡するから」というのが仕事前最後の会話になった。



23日夜。
屯所に戻って土方に報告を済ませ、部屋を出ようとすると土方から声をかけられた。

「そういや昼間の火事騒ぎ、巻き込まれた所お前ん所のが働いてる店だろう。大丈夫だったのか?」
「・・え?火事?」

テレビもラジオも一切見ず、帰って即報告書を書き上げて副長室へ直行したものだからここ5日間の世間の動きを全く知らない。
慌てて部屋に戻ってテレビをつけるとアナウンサーが「歌舞伎町の飲食店で火事、裏手にあった携帯ショップも一部延焼、軽傷者が数名出た模様。火事の原因を調査しています」とさらりと流して次のニュースへ移った。
携帯を鳴らすと数コールで出た。

「もしもしー仕事終わったの?おつかれさまー」
「ああ、おつかれー・・じゃないよ!火事って何、大丈夫なの!?」
「うん、延焼っていっても在庫置いてる部屋だけだったし、スプリンクラーがバッチリ作動したから。お客さんと大事なデータの避難が大変だっただけー」
「そっか、それならよかった・・・」
「じゃあ明日、10時半に四越前ね。遅れちゃ駄目だからね!」



24日。

「10時半。・・・って言ってたよなあ・・・」

時計は早11時を回っている。は5分でも遅れそうなときは必ずメールを入れてくる。携帯を取り出してかけてみる。コール音が続き、留守電に切り替わる。
携帯を切ると迷わずタクシーを捕まえてのマンションの住所を告げる。
心当たりがなくもないのだ。は「スプリンクラーが作動したから大した被害じゃない」と言っていた。そして「客とデータの避難が大変だった」と。
タクシーには途中でコンビニに寄ってもらって冷えピタとポカリとウイダーインゼリーを買い込んだ。あとおにぎりとサンドイッチと缶コーヒー。
その袋を下げての部屋のある3階の廊下に出た途端。

「うわぁ、ドンピシャだよ・・・」
思わず空いた手で顔を覆った。

はお出かけ準備万端の格好で、上体だけ廊下に這い出した状態で玄関ドアに挟まれ力尽きていた。
昨日の電話の声も少し違うと思ったのだ。おそらくスプリンクラーから振りまかれる水を浴びながらの避難作業だったはずだ。

大丈夫?意識ある?」
真っ赤な顔でゼイゼイいっているをお姫様抱っこで室内に運ぼうとしたのだが
「いや・・・いやだぁぁ〜〜10食限定のグディズマズダンヂィィィ」
往生際悪く外へ出ようとする。

「『クリスマスランチ』もまともに発音できない状態で出かけられると思ってんの!?」

コートと洋服をひっぺがしてパジャマを着せると布団に押し込んでベチンとおでこに冷えピタを貼った。
普段はほぼ尻に敷かれた状態だが、本気を出せばこれくらいの事を強引に行うくらい訳ないのだ。半死の病人に「本気を出せば」も何もないのだが。

「ポカリとウイダー、どっちがいい?」
「・・ポカリ・・・」

ペットボトルと缶の飲み物に何を思ってストローをつけてくれたのか、コンビニ店員の思考は理解不能だったが病人にはちょうどよかった。
ペットボトルにストローを差して飲ませてやる。

「10食限定が・・去年も応募したけどだめだったんだよぉ・・・当選するのものすごい低確率なんだよぉ・・・」
「まだ言ってるよ。その鼻詰まりじゃ『なんとかのムースなんとかソースかけ』とかいうフレンチもコンビニのプッチンプリンも同じ味だって」

そのうち眠ってしまったのでテレビを見ながらおにぎりとサンドイッチと缶コーヒーでお昼を済ませた。


午後3時を回った頃。

「退・・・」
相変わらずの顔は真っ赤だ。熱で目もはれぼったく潤んでいる。
「ん、のど渇いた?」
覗き込んでやさしくおでこに貼りついた前髪を掻き揚げてやる。

「なんかさ、なんとなくさ、ちょっぴり調子よくなったような気がしないでもないんだけど、夜のイルミネーションとか行けたりしないかなーなんて・・・・
いや思ってないですこれっぽっちも思ってないです今得体の知れない何者かが私の口を乗っ取って心にもないこといいましたァァァ!!」

セリフの途中でみるみる変貌していく山崎の顔を見て、後半であわてて主張を全否定した。

「・・・・・・ウイダー飲んで、寝てなさい」
「はいっ!!」

聞いたこともない低い低い声で命令され、蓋を開けて手渡されたウイダーを一気に吸引して布団にも潜り込んだ。
体がガタガタと震えているのは果たして熱や寒気やらから来たものなのか。
こ、怖かった、マジ怖かった!前髪むしられるかと思ったよおかーさーん!!!
それからまた一眠りしたようだ。


午後5時。
布団の中からグズグズと声がするので、本棚から取り出して読んでいたミステリー小説を閉じてこちらに背を向けているを覗き込んだ。

「うう・・ランチィィ・・イルミネーション・・クリスマスデートしたかったよぅ・・・せっかくお休み取れたのにぃぃ・・」
え、ガチ泣き?

やれやれ、と嘆息しながら立ち上がると山崎は自分のコートのポケットをゴソゴソやりだした。

、ほら」
「?」
「クリスマスプレゼント」
「・・・へっ?」

昼間よりはだいぶいいのか、うつ伏せで肘をついて体を起こすと小さな包みを開けた。
中にあったのは、一番最初にが言っていた『ジュエリーキキ』のクリスマス限定ネックレスだ。

「え、なんで?あんなにお店回っても売り切れてたのに」
「捜査やってた近くにすんごい寂れたアクセサリー屋があってさ。通りのほとんどが閉店してるシャッター通り。仕事の帰りに覗いてみたら残ってた」
「・・・ベンジ」
「え、何?」
「リベンジ!来年は絶対リベンジする!!限定ランチ食べてイルミネーション見に行くからね!」
「・・・ブッ・・」
「ちょっと!何で笑うのよ!?」
「い・・・いや、何でもない。わかった来年ね、来年」

リベンジするには来年もは休日争奪杯を勝ち抜いて、山崎も非番で、限定クリスマスランチを当てなければならないという3つの試練が待ち受けているのだがそれよりも。
「別れたらすぐ捨てるからアクセサリーしかいらない」と、先のことなんて全く期待してないような主張をしておいて来年のリベンジを宣言するとは。
少なくともあと1年はこのネックレスがゴミ箱に捨てられる予定はないらしい。


今度の誕生日プレゼントはいつもが物欲しそうに見ているあの店のバッグでもいいかな、なんて思いながらの冷えピタを貼り替えた。

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