『にプレゼントがあるんでさァ』
25日早朝。その言葉に、ちょっと面白いくらい目を輝かせた私は、さぞかし滑稽に見えたことだろう。
だって、このドS男からのプレゼントなんて、地球が終わるのと同じくらいありえないし、いや、むしろ地球が終わるほうが確率が高い気だってするのに。
馬鹿みたいにその言葉を信じきった私は、「今日は昼まで寝ていよう」と思っていたのにこんな朝にたたき起こされたことだとか。
その際に、ドアを破壊されたことだとか。
寝起きのパジャマ姿を見て鼻で笑われたことだとか。
その他大勢の理不尽をも投げ飛ばして、少し嬉しくなってしまったりしていたのだが。
「はい、これ」
「…えっと、」
「プレゼントでさァ。ありがたく受け取りなせィ」
「……ありがとう、ございます」
無理やり肺の奥から搾り出した声は我ながら酷く棒読みだった。
どうしようどうしよう、全然ありがたくない。
ありがたく受け取るどころか、「お願いします。受け取ってください」と頭を下げられても受け取るかどうか怪しい代物だ。
その感謝の言葉はやはり彼にも棒読みに聞こえたらしく、沖田さんは不機嫌そうに眉をひそめた。
不機嫌になりたいのは私のほうだ。
もらったプレゼントを見て、急に目の輝きを失った私を見て、沖田さんは不機嫌でもなお、楽しそうに笑った。こっちは何も面白くない。
「…、あの、沖田さんは知らないかもしれないですけど。」
「……」
「私、一応、人間なんですよ…!!」
手元に残されるプレゼント、もとい首輪。
ついでに言えば、某猫型ロボットが主人公なアニメに出てくる自称ガキ大将の犬がつけていそうなゴツい首輪。
それに視線を落としながら、私はそう告げる。
こんな首輪。私、犬なんて飼ってないのに。それはつまり、破れかけのオブラートに包んだこの首輪を私に装着させようという真意の表れで。
普通ならありえないその思考でも、目の前で笑う彼なら有り得る、と。私は人知れず体を震わせた。
当の本人はというと、「へェ、知りやせんでした」と涼しい顔で私に対する受け答えを済ませ、やはりクスクスと笑っている。
人間という認識さえされていないなんて。こうやって言葉にしてみると壊滅的だけれど、言葉にしてみなくたって、今、この状況だけでかなり壊滅的だ。
やっぱり、「プレゼント」という言葉をこの男の口から聞いた時点で疑うべきだったんだ。
砂糖よりも甘い自分の精神に喝を入れてみたところで、この男のドSが改善されるわけでもない。
この首輪に、鎖がついていなかっただけマシだ。うん。きっとそうだ、うん。
自分を無理やり納得させてみようとしたけれど、そう簡単にうまくいく訳もなく。
悲しすぎるそのポジティブ思考に私はちょっと泣きたくなった。
「…これ、いらない」「子供は大人しくサンタクロースという幻に浸かっておきなせェ」「子供じゃないです」「精神年齢的に」
少なくとも、貴方よりは大人だと思うのだけれど。
いらない、と口にするまでもつき返すほどの精神も持ち合わせている訳でもなく(あれ、やっぱり子供なのかな。)行き場を失った首輪は私の手のひらにポツンと残された。
今、私に残されている選択肢はおとなしくこの奇妙なプレゼントを受け取ることだけだ。
サンタさんはいい子にはプレゼントを届けるけれど、悪い子には動物の内臓をプレゼントするらしい。
あの白い袋も、本当はプレゼントを入れるためでなく悪い子を連れ去るためにあるのだとか。
私は多分、内臓をプレゼントされた悪い子だ。
イブの夜に、明日の朝、枕元においてあるプレゼントを夢見て。
それで起きてみたら、内臓。落ち込むどころの話ではない。
私のプレゼントは幸い、内臓なんてグロテスクなものではなかったけれど。
首輪なだけ安心できるのかも知れないけれど。
それでも、期待に対する現物への落胆は同じくらい大きいはずなのだ。だから。
「…て、ことでプレゼント下せェ」
天使の笑顔でそんなことを言われた日には驚くどころの問題ではすまない。
かわいらしく、ハイッ、と差し出された両手にはどこか奥底の黒い部分が見え隠れしていた。
こんなの天使の笑顔じゃない。悪魔の笑顔だ。
こんな奴が天使だったら、誰も天国になんて行きたがらない。
「…、私にあんなプレゼント渡しといてまだ要求を…?」
「俺はもらってやせん」
「サンタクロースって幻に浸からせてくれるんじゃなかったんですか。」
「俺はまだ子供なんで」
なんでこの男は都合のいいところで子供になるのだろうか。
どこまでも図々しい自称子供の立派な大人は、どこか面白そうに、笑顔。
実際プレゼントなんて用意していないし、私なんかから貰っても迷惑だろうと言う意識がいつのまにか働いていて。用意しようとさえ思わなかった。
でも私は知っている。相手は「用意してませんでした、すみません」で済まされるほどヤワじゃない。
だからといって、そこらへんにあるものを適当にポイッと渡しても納得してくれない。
「…、何か欲しい物ありますか」
恐る恐る搾り出した声は小さく。自分でも気づかないうちにこの男を恐れていたんだな、と。実感せずにはいられない。私の立場はどんどん降下していくばかりだ。
「俺がに欲しい物を言ったらどうなるんですかィ」
「…たぶんサンタさんが届けてくれます。明日までに。」
「……、プレゼント用意してないなら正直に言ったらどうなんでィ」
バレるよね。うん、バレると思ってた。
けれど、正直に「用意してません」って言ったところで、私のこと張り倒すでしょう、あなた。
自分の未来がうっすら見えるだけに下手な手は取れない。
とりあえず、笑顔で黙秘権を行使しつつまっすぐ大きな子供を見つめる。
怖い。この状況が、怖い。絶対絶命だ。
「まぁでも、俺が欲しい物言ったところでサンタは用意できませんぜ」
サンタさんが用意できない?
金銭的な問題ですか、と尋ねると、そんなこと気にしてたら何も貰えねー、と投げやりな答えが返ってくる。
そんなこと言ったって、サンタさんだってたった一晩でたくさんのプレゼントを配らなければいけないのだ。
金銭面だって、ちゃんと考えてやらないと、きっと大変なことになる。
トナカイだって養っていかなきゃいけないし、そりだってきっとメンテナンスとか必要だし。何よりサンタさんには利益がないのだから。
クリスマスに利益があるのは、ケーキ屋さんとおもちゃ屋さんだけだ。
「じゃあ、何がほしいんですか」
「…、形がないもの。」
形がない?何をたくらんでいるのだ、この男は。
ちょっと考えて、すぐにピンときて、「副長さんになりたいんですか」と尋ねれば。
「そんなの、なりたいときになりまさァ」とちょっと恐ろしい返事。
副長さんの命をちょっと心配したけれど、いまさら手遅れだ。
形がないもの。
まさか、ありえないけど、「死ね」とか言われたら私はどうすればいいのだ。
ありえない、ありえない。
でも、この男ならありえると思えてしまえるのだから恐ろしい。
どうしよう、100歳までは生きようと思っていたのに、この段階で命を失うなんて。
無理だ。考えられない。
「まだ分かんねェんですかい」
「分かりません。教えてください。教えてもらっても、用意できるか分かりませんけど。」
「…言ってるだろィ」
形がないって言ったら形がないものなんでィ。
形がないものをサンタに届けさせるってのも無理な話でしょう。
アンタがサンタになったって、俺が欲しい物用意できなかったら意味がないんでさァ。
サンタなんて所詮幻って言ってるじゃねーか。
つらつらと。私が口を挟む暇も与えず解説を寄こした男は、最後に少し笑って言った。
「だから、」
『好き』をください。
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