お邪魔しますとも言わず、はいつものように「じゃーん」とケーキ屋のロゴが入った箱を掲げて万事屋に上がってきた。
その姿がまるで狩ったねずみを自慢げに見せびらかしてくる猫のようだったので銀時は心の中で笑った。
スポーツマンシップにのっとれ!
「あ、いま銀ちゃん笑ったでしょう」
「笑ってません〜」
「笑ったよ絶対。何か馬鹿にされた気がする」
内心ドキリとしたが表情には出さないよう努めた。読心術でも持ってんのかコイツは。俺が今考えてる事もお見通しなのか。普段エロいことばっか考えてんのも筒抜けなのかァァ?!
平静を装って俺は「馬鹿にしてない。馬鹿には」と否定した。
「あ、やっぱり何か考えてたんだ。ま、どーせエロいことだろうけど」
「だからおまえは何なの!人の心を読むな!プライバシーを侵すな!」
「心を読むというか、銀さんがただ単純なだけなんだけど」
絶対ポーカーフェイスとか出来ないよねぇ、なんて言いながらはケーキを取り出す。結構酷い。
今日の土産はモンブランとショートケーキのようだ。俺はお茶を淹れながらショートケーキは俺のもの、と狙いを定める。
「銀ちゃんはショートケーキがいいよね?」
「・・・・・・いや、今日はモンブラン気分」
へぇ、珍しい、とは目を丸くして盆の上にケーキを乗せ、居間へ向かう。俺も湯飲みを両手に、の後を追うようにして台所を出た。
「ショートケーキかと思ったのに」と悔しそうに呟くは俺がもっと悔しい思いをしているのを知らないだろう。
やっぱり読心術は使えねーんだな、と俺は結論づける。もし使えていたら、いやらしいドヤ顔で、勝ち誇ったように俺の前にショートケーキを置くに違いないからだ。
モンブランも好きだし、つーか本当にモンブラン気分になってきたしぃぃぃ?!とムキになってに牙を剥きだす。
・・・・ ここまで自分は負けず嫌いなのか、情けない。たかがケーキで。
と、思うほど俺は大人ではない。なんかむかついてきたからの分まで食べてしまおうかと、向かい側のケーキを虎視眈々と狙っているくらい子供だ。
もちろんはそんなことを知る由もなく、のんきに茶を飲みながらテレビを見て笑っている。
取れるか?
気がつかれたら二個目のケーキを獲得する可能性はゼロになる。そしたらそこで試合終了だ。
―――ケーキは一日一個まで
が決めたルールである。
それに大人しく従ってきていた俺も我ながらすげぇと思うが、まぁそれをしたらただ単にの分が無くなってしまうからというのが一番の理由だ。はしっかり人数分しか買ってこない。
なんたって俺はジェントルマンだからね。英国紳士もびっくりなナイスガイだからね。え、一日一個でも十分多い?まぁ気にすんな。そーじゃなきゃ俺死ぬから。定期的に糖分をとらなきゃ死んじゃうか弱いヤツだから。
モンブランをペロリと舐めるようにして胃に納めた俺はがテレビに夢中になっていることをもう一度確認すると、そうっと彼女のショートケーキの皿に手を伸ばした。
慌てるな。気配を消せ。ミスディレクションを発動させろ。そう、空気になるんだ。
今日ぐれーいいだろ?今までよく我慢してきたと思うよ。ご褒美ってことにしませんか、さん。いーじゃん、クリスマスの日ぐらいさぁ。
心の中でぶつぶつ呟きながら(声に出したら気が付かれる)伸ばした手が皿に触れた。 すると、
「っあでぇぇぇっ!!?」
手の甲に稲妻が貫いたような鋭い痛みが走った。そしての低い声。
「・・・・・・・・銀ちゅわああん?・・・・何をしようとしてるのかしらねぇ、この手は?」
「フォークっ!フォーク刺さってる!!血ィ出てるっ!おま、フォークで刺すとか反則だろっ!バイオレンス!レッドカード!退場ぉぉぉ!」
「人のおやつを横取りしようなんて良い度胸してるのね。私にスティールなんてこざかしい技が効くと思って?無駄に気配まで消しちゃってさぁ・・・」
「分かってたのに気が付かないフリしてたのか!性格悪っ!」
「盗みを犯そうとしていた人にだけは言われたくない」
「ぎゃあ!ぐりぐりするのやめろっ!やめてください!結構痛いからっ」
「・・・・・ヴァイオレンス?レッドカード?退場?・・・何スポーツマン気取ってんのよ?これはれっきとした『正当防衛』。坂田家の食事は弱肉強食。強い者のみが生き残り、弱い者は食いっぱぐれる。情けをかけるくらいなら餡子をご飯にかけて食え。これは誰が言った言葉でしたっけねぇ、坂田さん・・・・・?」
「すいませんでした!反省しております!だからもうフォークで攻撃はしないでください!てかお前キャラ変わってるっ」
「変わったんじゃない。坂田家で食事をする上で変わらざるをえなかったの・・・・・・生き残るためにも」
分かった?これは私のショートケーキだからね?と語尾にハートマークを付けたの台詞は、気迫に満ちていなければとても可愛らしく聞こえたに違いない。
「ケーキは一日一個まで。いやだったら週一にしてもいいんだよ?」
とメガンテを繰り出されたあかつきには、大人しく手を引いて、ひたすらすみませんでしたと謝る他に俺の生き残る道はない。
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