忙しい人のための見回組動乱編
前回までのあらすじ。
それは、華やかなイルミネーションに粉雪の舞い散る季節の事。見廻組局長佐々木異三郎の身に事件は起こっていた。
事の発端は年末の慰安旅行。温泉につかりながらブログ用の写メをとろうとしたところ取り落としたケータイが湯船に着水。
急いで最寄りの携帯ショップに持ち込めば、「乱暴に扱い過ぎだ」と怒られた。「携帯電話は直せばまた使えるが人間はそうはいかねェ」「心配には及びません、エリートは同じ過ちを二度は繰り返さないものです」などというやり取りをして、ふと目に留まった黒色のケータイがなんとなしに気に入った佐々木はショップ屋のオヤジの忠告もそこそこにそのケータイを代替機としてしまったのだった。
「は?一体なんのはなし
なんとその代替機は『呪いのケータイ』だったのである・・・・
引きこもり携帯電話依存症オタの息子が修学旅行だけに行きたいとわがままを言った事で母親の怒りを買って斬り殺された時そのケータイに怨霊が宿り、一度腰に帯びた者は●ちゃんねらー息子の怨念によって魂を喰われていき、メールでの口調がもれなくねらーに成り果てる。
ただししょこたんも可。
このままではエリートコック兼参謀の伊西鹿太郎に見廻組を乗っ取られると危機感を感じた佐々木は恥を忍んでいつもお世話になっているbocomoショップへと足を運んだのであった・・・。
「・・・・。“お客さま”」
「おや、貴女さては信じていないんですね。まったく、人を信じることをしない、ひねた方だ」
「修理に出されていたお客様の携帯電話は無事直って帰ってきましたよ。さっさとデータ移し替えて帰ってください。どうもありがとうございました」
ぺこり。ひきつった笑みで頭を下げられれば、机を挟んで向かいに座った男は「おやあ。もしかして拗ねてらっしゃるんですか?」とわざとらしく口元に手を当てて見せた。
口調は驚いた様子を装っているが目も驚いてなければ表情を作る気も感じられない、いつも通りの無感情無表情。
エリートたる者自分の感情をたやすく表に出すことはしないとかなんだとか、きいたことがある。
ちょっとマテ。
私は文字通りここのケータイショップの店員で、彼は文字通りお客さん以下でもなく以上でもないはずだ。
ぐるぐる回転する頭は普通にしているだけであまりの重さに傾いてしまいそう。お客さんの前だからさすがにそんなまねできないけど。
は静かにしかし大きなため息を吐いた。
「そういうワケで、このケータイを手放せなくなってしまったんです」
「そんなワケないでしょう。元使ってた方が使い慣れてるはずですよ。それか、それと同じ型のものに機種変されますか」
「コレがいいんです」
「それは駄目です。代替機だから返して頂かないと」
このくだりは一体何度目だろうか。こんなことをしている間にエリートコック兼参謀の伊西鹿太郎先生はやく見廻組をのっとってやってください。
先生ならできる。諦めたらそこで試合終了です先生。
つか参謀兼コックって何よ。そこ兼ねる必要性あるのか。
こちらのお兄さん佐々木さんは、ここらじゃ知らぬ人のいない、エリート警察見廻組の局長さんだ。
そんな彼は大層携帯カラクリが好きなのか、よくよくショップに現れては最新機種をチェックしている。そんな時彼の対応をするのは大体の仕事だった。
見廻組局長だなんて大物、新人バイトに任せるのは荷が重すぎるし、だからと言って食わせ物で知られる彼の相手なんて店長も正社員の連中もしたくない。
歴だけ無駄に正社員よりも長いベテランアルバイトはここが辛い。
「何をどうして私が拗ねなきゃならないんですか」
「しょうがないじゃないですか壊れてたんだから、電話に出られなくてすみませんでした」
「大丈夫かけネーヨ(^ω^#)」
「すみませんでした」なんて口では謝りつつも指先も視線も自分の手元の黒い携帯電話に釘付けだ。謝る気もそぶりさえもうかがえない。
案外本当に呪われてるんじゃないか、なんては思った。いかにも。そもそもこの男が携帯依存症なのはそれこそ生まれつきだが。
「・・・朝起きたらケータイの中にカワイイおにゃのこがいて僕を見つめていたらいいのに・・」
「大丈夫です。そういうアプリあります」
「早くしないと上がり時間過ぎてしまいますよ」
げんなりと頭を垂らしながら机の上に置かれた時計を見る。19時55分。20時上がりはエリート様にはお見通しのようである。
手に持った佐々木の元機種をじいっと見つめた後、は目の前の男に向き直った。
と、同時に、ブーブー、と手元の携帯電話が振動する。修理を終えて帰ってきた佐々木のものだ。
修理に出したときチップごと預けたようで、今もそのケータイは自分あてに飛ばされたメールを優秀にキャッチしている。
人のものとは知りつつも携帯を交換する気がないのだから気兼ねする必要もないだろう。ため息を吐いてパカリとその携帯電話を開けば、案の定目の前の男からだった。
『真面目に聞いて欲しいお』
『バロス。』
ぱたん。携帯を閉じる。
返し刃で送られてきたメッセージに目の前の男はピクリと少しだけ片眉を上げた。ザマミロ。
カチ、コチ・・・時計の針は進む。
どうしてくれるんだ、絶賛残業代の付かないサービス残業時間にどっぷり突入してしまったじゃないか。
べつに早く上がらないと用事があるとかではないが、残業代の付かないくせに長々と面倒くさい他人の相手をするのは真っ平御免である。
さっさとアレを取り上げておかえりいただかなくては。
隙を見てばばっと伸ばした手はむなしく宙を掴んだのみだったけれど。
「もう、いい加減にしてください。呪いのケータイなんて、嘘ばっかり」
「嘘じゃぁありませんよ。どうしてあなたにそんな事言い切れるんですか」
「それは私がケータイショップの店員さんだからです。刀で言ったら刀匠と同じですよ」
「じゃぁケータイの声とかも聞こえたりするんですか」
「・・・聞こえます」
プッ、
聞こえるか聞こえないかわずかな音量で、向かいの男が無表情のまま微かに笑う。うっとおしい。
この男はいつもそうだ。何を考えているのか悟らせないような無表情で無感情。
それでも最近やっとほんの少しは心の内を見抜けるようになってきたというのに。
「じゃぁその私の携帯は何て言ってるんですか?」
視線は手元のケータイからそらさず、見回組局長佐々木がさして興味もないように漏らす。
煽られてるのは分かった。でも、いい加減我慢できなくて、は唐突に手元の白いケータイを握りしめた。
高速でカチカチとボタンを入力する。
それまで、自分の手に持った黒いケータイしか見ていなかった佐々木が、初めて視線をあげてこちらを見た。
ぴろりろりん。黒いケータイに白いケータイからメールの着信音。
『この浮気者!』
『私だけって言ってくれたのに、他の女(ケータイ)とイチャついちゃって!』
『そんなにその子の事が気に入ったの!そんなに私よりスマ子がいいのっ?!』
「・・・・・・・・・・」
スマ子って誰だ。
そんな一人ツッコミが脳内に響き渡るが、は止まらない。
『そりゃ、スマ子はいい女よ!大きな画面にタッチキーボード、ネットはさくさく!アプリも無限大!
私なんて所詮アイデンティティのかけらもない同デザインの組織用業務ケータイ。スマ子とは大違いよ!
・・でもね貴方の事を誰よりも想ってた。最初はイケ好かないムッツリ男と思ってたけど、そばにいるうちにその考えは変わって行った。
実はちゃんと人間味もあって、自分の仕事に誇りを持ってて、強い芯を持った素敵な人だって。
この人だって、そう思ったのに!私を捨てて他の女のところに行くのね!バカっ・・!
私はこんなにもまだ貴方を想っているのに』
「あの、さん。・・すいません、長い」
「アナタに言われたくないですッッ!!」
思わず大声でツッコミをしてしまった。
ぜーはー息を乱すの前で、何を思ったか佐々木はニヤリと口角を持ち上げる。
はっきり言って、不気味だ。
「もう一回言ってもらえます?最後の。出来たら、メールじゃなくて、口頭で」
「・・・・・!」
悔しそうに顔を真っ赤にしたの返事を聞いて、見回組局長は今度こそ歯を見せてにやけた。
・・よかった。
「それは寄りを戻してもらえると受け取って構わないんですよね?」
「イブが終わるまでに仲直りできてよかったです」
そう言って白いケータイをもった男が店を出て行って数秒も立たないうちに、の“私物”のケータイがぶるぶる、と懐で震える。
『裏で車停めて待ってるお〜。雪降ってきた!外ギザ寒す!
(×画像)
予約してたホテルが無駄にならずに済んでよかったお(^ω^)<ギザセーフ!
たん大好きだお(^ω^*)』
『(*^ω^*)<ギザうざす』
ぱたん。閉じたケータイを握りしめながら、ケータイショップの店員さんは嬉しそうに微笑んだ。
back