銀さんとさんはどこか常識のカップルから外れている。
例えば記念日の約束をすっぽかしたり、互いの誕生日に会わなかったり。
僕の常識がおかしいのか、とたまに錯覚するけれど世の中のカップルは僕の常識通りに過ごしているからこの二人が異常なんだろう。
銀さんに彼女がいると知った時はいちゃつくなら外でやれと僕が言う時もあるのかなぁと思ったりもしたが一向にそんな日はこない。
もしきたとしたらそれはきっと天変地異の前触れだろう。
とりあえずどちらか片方が一概に悪いとは言えない。ぶっちゃけ言うとどっちもどっちだから。
こんなに曖昧なやり取りでよく続くなぁとは思う。
この二人を一言で言い表すとすれば、"熟年夫婦"。
…いや、まだ結婚してないけど。
愛をちょうだい
「…、今日何の日か知ってる?さすがに知ってるよな?」
「そうねぇ、まいちゃんの誕生日だったかしら?」
…また僕の常識からこの二人は外れている。つーか誰だよまいちゃんって。
今日はバレンタインデー。カップルだけじゃなく独り身でさえも浮かれる行事だというのにこの二人は通常運転だ。
…いや、今の銀さんは一般論に当てはまる。さんは揺るがないが。
しかし、ソファでくつろぐさんの隣りで年甲斐もなくそわそわとしている銀さんを横目で見ているとなんだか虚しくなってくる。
「さん、チョコないんですか?」
ひらりと期待をかわされて拗ねる銀さんを見ても眉一つ動かさなかった(正確には少しだけ口元が緩んだけど)さんに耳打ちする。
するとふんわりと笑って中指を柔らかく口に当てた。
「まさか。ちゃんとあるわよ。帰る時に渡すから、新八君と神楽ちゃんとで二人で仲良く分けて食べてね」
「いやそうじゃなくて…」
銀さんには?と遠慮がちに聴くとさんの顔には先程とはまた違う笑みがこぼれた。
「新八君、極限にまで焦らしたら砂が入ったものでさえありがたくいただけるのよ、人間は」
とりあえず、銀さんに合掌。色々含めて。
それにしてもこんな綺麗な笑顔でどんだけ恐ろしい事考えてるんだこの人。
「…あんまり銀さんいじめないでくださいね」
「あら、これでも私達幸せよ?」
どこがだよ。いや、まぁそうなのかもしれないけれど。ただちょっと銀さんが不憫なだけで。
…それにしても、さんはとんでもない策士だ。
こうやって上手い事やってるからあんなちゃらんぽらんとでも関係が続いているんだろうが。
まぁそりゃ銀さんのさんへの執着度だって半端ないしさんだって何だかんだで万屋町に通っているし、やる事はやっちゃってるんだろう。こんな事口には出せないが。
熟年にしろ何にしろ、愛っていいですね。
さんが帰った後、いつにも増して機嫌のいい銀さんの片手に小箱がのっているのを僕はこっそりと確認した。
そして数日後、"お前のチョコのせいで血糖値上がった。俺もうヤバイかも"
"いっそ一回くらい死んできた方が馬鹿も治るんじゃないかしら"
という会話が繰り広げられていた事実は僕の心の中だけに留めておく事にした。
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