女の善し悪しってぇのは、人によって受け取り方が違う訳ですよ。
それだけがすべてじゃないにしろ、顔重視の奴もいれば、おっぱい好きな奴もいるし、逆にブス専門ってのもあるわけで。
だから、今俺がふすまの隙間からこっそり覗き見る先で、真選組の沖田総悟くんが、
向かいに座ってる女をエラく意識してるってのも、なかなかこれが頷ける話なんですな。






彼氏が甘党だとたいへんです






「あの、さん・・・勝手に上がり込んじまっていいんで?」
「気にしないで下さい、大した歓迎は出来ませんけど」
「イヤ、とんでもねぇです。こっちこそ急に来ちまって、すいやせん・・ええと、旦那は?」
「銀さんは仕事中」
「仕事」
「「パ」の付くアレですよ。・・まったく、休日の昼間っから」
「あァ・・・ちなみにソレ「パ」抜きで言ってみてくだせェ」
「え?ええと・・・・・・ぁ、もっもう!沖田さん!」

にやにやと笑う沖田総悟の顔は確かにどす黒さもあれど、純粋にタダただ楽しそうだ。それ以上無理矢理言わせるそぶりもなく、ただの冗談として。
頬を真っ赤にしたはしばらくぷりぷりと怒っていたが、やがてふっと笑みを零した。

「一人ぼっちで寂しかったので、話し相手が出来て嬉しいです。来てくれて、ありがとう」
「・・・・・・・・・・別に」

真っ赤になるのは今度は男の方だ。
ニヤニヤ。を前にして少々緊張気味の沖田総悟は銀時が実はココに潜んでいることなど露ほども疑っていない。
普段のドSで腹黒な奴からは想像も出来ないような、恥じらいつつも嬉しそうな笑顔でと会話する総悟は見ていて飽きなかった。
控え目にゆらゆら揺れる尻尾が目に見えるよう。

なんやかんやの経緯で万事屋で働くことになったこの女、は、背も高くなければ顔もスタイルも並み。
おっぱいだってそんなにでかくはないし、料理が特別得意と言う訳でもないし。
ドジっ子と言う訳でもボクっ子と言う訳でもなければ、今流行りのメガネっ子と言う訳でもない。
笑顔が特別綺麗って言う訳でもないし、仕草が超可愛いってわけでもないし、至って普通。
しかし、中身が格別だ。
銀時はそう思っていた。

いつもニコニコ笑顔かと思えば、大事な時は必ず頼ってきてくれる。「甘えてくれる」と言うのはそれだけで男心をくすぐられるのだ。
一緒にいて飽きない。とっても和む。落ち着く。こちらの細かいところにまで気を使ってくれて、変化を読み取りアクションを仕掛けてくれる。
しかもそれをの方も無意識でやっているから、相手に構えさせない。自然体でいられる。
それに、純粋と見せかけて、意外と冗談も通じるのだ。これは重要。だから沖田君みたいなひねくれ者も寄って来る。
彼のようになまじ顔の良い「イケメン」と言う奴等は、同じ種族であるルックスの良い女子に惹かれると思いきや、
意外とそう言う顔の良い奴等に限って、カワイイだけの女じゃ物足りないものなのだ。我儘め。

さん」
「はい何でしょう?」
「あー・・・、今日が何の日かご存知で?」
「ご存知ですよ。2月14日、バレンタインですね」
「なァんだ、知ってて焦らすたァ意地が悪ィや」
「ふふっ、だってその隣の紙袋、全部チョコレートでしょう?折角作ったけど、これ以上甘いもの貰ってもこりごりかなって・・・」
「つ、作ったんですかィ?」

ええまぁ、歯切れ悪くが返せば、ずい、と総悟がぶっきらぼうに右手を差し出す。
ん、んん、と微妙にのどの調子を整えて、わざとそっけない感じを装おうとしたのが隠し切れてない感じで「くだせぇ」と漏らした総悟に、ふすまの奥で銀時は噴き出すのをこらえるのに必死だ。
な、何必死になっちゃってんの沖田君!いや実際必死度で言ったら銀時の方が上だ。笑いをこらえるのに。

「折角だから貰ってやる」
「無理しなくても」
「無理じゃねェ」
「沢山あるじゃないですか」
「そういう問題でもねェ」
「嬉しいですけど、やっぱりそんなに食べたら体の調子壊しますよ」
「んじゃーコレ全部置いてくんで。旦那にでも食わせてやってくだせェ」
「イヤイヤ、いいんですか?折角貰ったんですし、」

「ああもう!アンタから貰えりゃ他はいらねーんでさあ!」



結局、沖田総悟は手ぶらで返って行った。うきうきと鼻歌なんて口ずさみながら。
実際何度か教えてあげているのだが、浮かれているヤツに声を大にして言いたい。
みたいな女を世間一般で何と言うのか。騙されてるよ、いいようにあしらわれてるよ沖田君。
机の上の空になったお皿とフォークをが片付けていると、ピンポーンとインターホン。
ぱたぱたと玄関にが欠けて行くのを見送って、銀時は和室から飛び出し、居間の隙間から玄関をそーっと見守った。


玄関先にいたのは、こちらも江戸で有名なイケメン、真選組副長土方十四朗の姿である。
気まずそうにそっぽを向きながら、総悟以上の大量に詰め込まれたチョコの山をに押し付ける。
ぼそぼそと喋って何を言っているのか聞き取りにくかったが、「甘ェのは苦手だから」とか何とか聞こえた気がする。

「あ、あんた、この間言ってたろう。チョコレート好きだって」
「わ・・・覚えててくれたんですか」
「たっ・・たまたまだ、たまたま・・」
「でも、折角土方さんが頂いたものなのに・・・」
「いーんだよ。どうせ余っても捨てるだけだ。遠慮なく食っちまってくんな」

あらかじめ布石を仕掛けておくとは中々やるじゃないかの奴。
「ありがとうございます!」と笑顔で大量の紙袋を受け取ったを柄にもなく穏やかな表情で見つめていた土方は、が振り向けばその瞬間ぱっと赤くなってそっぽを向いてしまう。どんだけシャイボーイなんだアイツ。
「じゃ、じゃぁ俺はこれで」去ろうとした土方を、は待って下さいと呼びとめた。

「おぉ?どうした」
「あの、・・・あ、甘いもの苦手、ですか」
「・・・・・・・・!・・あ、いや、まァ、特別好きじゃないってだけで・・」
「あのですね」
「な、なに」
「昨日、ガトーショコラ焼いて、あ、チョコレートのケーキなんですけど」

甘さ控えめにしてあるので、良かったら、どうかなぁと。
無言でこくこくと頷いた土方にはやったぁ、と息を吐いてばたばた台所に向かう。
のいなくなった玄関で、土方は嫌な汗をかきながら、はあ、とため息をついた。
と、その体がびくっと跳ねる。
あ、俺のことばれたな。流石は副長、浮かれてても気配は敏感に察知するか。
のそのそと居間から出てきた銀時を見て、心底気まずそうな顔で土方は目をそらした。

「よォ〜土方君。ナニ?わざわざチョコ持ってきてくれたの?」
「こ、これは・・・アレにゃァ総悟がいつも世話になってるからな・・・」
「アイツがチョコ好きって聞いたのっていつ?どこで?」
「うっ・・・・・!」
「あ〜、もしかしてアレかなァ?こないだ二人でファミレスで・・・・もしかしてお前、」
「うっせぇェェエエエボケぇェェエエエ!!」

「土方さーん!おまたせ・・・・あれ、土方さんは?」

お皿に茶色の直方体を乗っけて現れたは、玄関で独り笑い転げる銀時を見降ろして顔をかしげる。
そこに既に土方の姿はなかった。




「あーあ。折角だから土方さんにも食べてもらいたかったなぁケーキ」
「だっはっはっは!!おもしれえええ!あー!いいモン見たわァ」

未だ笑い収まらぬ銀時の隣で、居間のソファーに腰かけたが土方の分のガトーショコラをはむはむと頬張る。
甘さ控えめのそれはあの人にも喜んでもらえると思っていたのに。(ちなみに総悟には好評だった)
むすぅ、ともくもく口を動かしていると、ガサガサと紙袋をまさぐる音。
ちらり見やれば、銀時がそれはそれは嬉しそうな顔で戦利品の数を数えているところだった。

「10・・・20・・・・うっほぉ、すげぇ数。よーしよしよし!よ、良くやった!」
「食べきれなくても知らないからねぇ」
「いやァ、最高なバレンタインデーだわ!神様ありがとう!!」
「お礼言う相手土方さんと沖田さんだからね」
「食べていい?」
「どーぞ」

わーい!と子供のようにはしゃぎながら、銀時は適当な一つを取り出しラッピングを遠慮なくびりびりと破いていく。
かちゃ、とフォークを置いて、食べ終わったお皿を片付けようと立ちあがった所で、チョコトリュフを頬張る銀時に呼び止められた。

「俺にも持ってきて」
「ん。お茶?」
「違ぇ、お前のケーキ」
「チョコ食べてんじゃん!!」

ああん?おめー分かってねェな。
甘いもの好きの銀さんはチョコが沢山ある事に幸せを感じはするけれど、やっぱり彼女の作った手作りのチョコがいっちばぁんいいわけですよ。
目の前で他の男がうまそうに食べてんの見てるだけとか、地獄な訳ですよ。良く我慢したよ俺。
という訳で銀さんにもちょーだい。お前の作ったバレンタイン。

「だめだよ、残りは山崎さんの分だもん」
「はーァ?なんでジミーの分なんてあんのォ?アイツに貢げるだけのチョコは回ってこねェだろ」
「えーやだ、知らないの銀さん?山崎さんはああ見えて、真選組から一歩出ればお洒落だしモテるんだよ。隠れイケメンってやつだよもってもてだよ。女の子の扱いも上手だし丁寧だし」
「オイ待て。お前アイツとそんなに面識あったの?」
「よくメールしてるよ。こっそり情報交換したりさ、山崎さん情報通だから。たまに当てにならないけど」

はぁー、あのジミーがねェ。もてもてとは。
なんかジミー山崎のくせにと思うと胸糞悪い。

「・・・・・食べていい?」
「イヤだから話聞いてた?つーか何モノローグのあれ!彼女のチョコって、なに私が渡してないみたいになってんの?昨日あれほど食べたでしょうがっ!まだ食べるの?!」
「おうっ!全然食い足りねェ」
「別腹ハンパないな!ほんとにっ・・・・・・ん」


突然塞がれた口元には目を見開いて驚いていたが、ぬるりと隙間からこじ開けて入りこんで来た舌にぎゅぅと目を閉じる。
どろりと流れ込んでくるのは、あまーいあまーいちょこれーと。
・・・・・甘過ぎて、むせそう。
ゆっくりと離れた銀髪の頭は、楽しそうにぺろりと口元についたチョコを舐めた。

「ごちそーさま」
「あま、いってば・・・」
「そーだよォ銀さんはお前にはあまあまなの」
「いや・・そう言うんじゃなくて、もっと何か・・・物理的に甘い・・」
「『もっと』?オイオイ、欲張りだなァおめーは」
「話聞けょ、ぉ、う、んぅ・・・・・・」

ソファーに横たえた上に乗っかって、銀時は机の上にある食べかけのチョコトリュフを一粒、つまんで彼女の口元に持っていく。
食えと。そしてそれを自分が食べるから、くえと。
しぶしぶ開けられた口に、むぎゅぅと甘い塊を詰め込む。そして、その上から丸ごと食い付いた。
目が回る。甘過ぎて。
物理的にも精神的にもこの男は甘い・・・、とか思っているのだろうこの女は。

お前の方が相当甘いわ。

キスだけで既にとろんと目元を潤ませているをにやりと見やり、銀時は楽しそうに戦利品の袋から色々と物色し始めた。
お酒の入ってる奴とかねーかなぁ。沖田君は18だから、あるとしたら副長の方か。
ようやく見つけたそれの包みを開いていると、真っ赤な顔をしたがぎゅうと抱きついてくる。

女の善し悪しってぇのは、人によって受け取り方が違う訳ですよ。
それだけがすべてじゃないにしろ、顔重視の奴もいれば、おっぱい好きな奴もいるし、逆にブス専門ってのもあるわけで。
ただ、一つ言えるのは、今俺の下で真っ赤になってるこの女は、少なくともルックスは普通だし、性格が良いという訳でもない。
いや、イイ性格はしてるけど。

え、俺?俺は何重視かって?


ぐしゃ、握りつぶしたそれから、あまーい香りとともにアルコールのふんわり香る蜜がとろりとあふれた。
とろとろになった指ごとの口に突っ込んでしゃぶらせながら、銀時はぷちぷちとシャツのボタンを外しにかかる。


俺ですか。
そうですね・・・・・
ココロとカラダの、相性重視ってことで!(てへ!)



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