だんだんと寒さも緩み始め日中の日向も暖々とぬくくなってきた頃。
ここかぶき町の、知る人ぞ知る変人館・・・・万事屋銀ちゃんに、一人の依頼人が訪れた。

うーん・・どうしたものか。
店主のテンパは渋い顔。目の前のソファに腰をおろすのは、こちらも知る人ぞ知る危険人物、真選組の一番隊隊長。
「サボりなら帰れそして無駄にするなら税金返せ還元しろ」と一度は入店を断った銀時だったが、「税金払ってねェあんたに言われる筋合いは全くありやせん」と極めて的確な鋭い指摘で躱されずかずかと上がり込まれて今に至る。
今日来たのは正当とした依頼でさァ、とのたまう薄茶色の流れる頭は、しかしながらソファに腰をおろしたきり何もしゃべらない。
普段から何考えてるかわからない奴だとは思っていたが、本日は尚更それに磨きがかかっているように感じる。
時たま向かい合った視線をそらしてわずかに眉を寄せて考えている素振り。とりあえず何かの相談に来たのだと察するが、流石に超能力者でもない銀時には総悟が何を依頼に来たかなど知るすべなど持っていない。

「何どーしたの沖田君。黙ってちゃなんの依頼かわかんねーよ、さっさと内容言ってくれよ。銀さん斉木じゃねーんだよ。最近財難してるだけだよ」
「・・・・」
「銀ちゃァん!コイツさっきから私ばっかり見てくるアル!依頼って絶対邪な依頼ヨ!」
「心配すんな金払ってもお断りでィ」
「なんだとぅぅぅおおお!上等だ3万払えヨ!!」

「オイオイ沖田君・・・悪いこた言わねェ。3万あればもっとマシな子とせっ・・・ぶほア!」
銀時のありがたいアドヴァイスは言い終わる前に新八と神楽のダブルセッションによって沈められた。
総悟が重い口を開いたのは、その直後だ。

「オイ、チャイナ。・・ちょっと聞きてーんだけど」
「何アルか?・・・ハッ・・!私のスリーサイズは情報量3万じゃ足りないアル!」
「聞いてねーよ」

「・・・・なんか・・・いま貰って嬉しいモンとか、ねえの」

・・・・・・・。
鼻血を滴らせる銀時、その胸ぐらを掴みあげる新八、そして総悟を振り返った形のまま神楽もぴたりと動きを止める。
そのまま各々考えを巡らせること数秒。
ちょっとタンマねお客さん!!
銀時が叫ぶと同時に万事屋三人はソファの裏にて緊急会議を行う。
キモイ!とのどを掻きむしる神楽の隣で銀時と新八は何となく裏が読めて頷いた。


真選組の問題児に最近の気候と同じく春が来た、というのは実は銀時も新八も知るところだった。もちろんその相手も。
理由はいたって簡単。情報提供の犯人はひと月ほど前に依頼を受けた珈琲店のマスターだ。
依頼の豆を店内に運び込むときに覗いたら、珈琲の香りが漂うカウンターの中で件の店員さんがにっこりとお辞儀してくれた。
確かに可愛かったけど、なるほど沖田君は年上が好みだったのか。
チョコレートの日にコーヒーゼリーでOKを貰ったところまではおしゃべり好きなマスターから聞いていたが、そうかそれからもうひと月になるんだな。
ホワイトデーに何を返したらよいかわからず、手近なところの女性(神楽)に意見を聞きに来たというところだろうか。
ドエス皇子ともあろう男が随分とまあ可愛らしいことを。

「でも沖田さん、ホワイトデーのプレゼントならやっぱり自分で選んだ者の方が相手もきっと喜びますよ」
「ブッフ!」

なんてことを考えていたら空気の読めないダメガネが空気の読めない一発をぶちかます。
思わぬところからのキラーパスに飲んでいたお茶を咳き込む姿は中々レアで楽しかったけれど。
口をパクパクさせながら、顔を真っ赤にしてうろたえる姿はもはやいつもの沖田総悟の面影は残っていない。
弱みを握られたドエスほど見ていて面白いものはないのだ。

「な、ななな、にゃんの事ですかィお、おれは別に何にも別にアレですけど?」
「何言ってるアルかお前。日本語喋れヨ」
「止めてやれ神楽。損で折角だ答えてやれ。見栄でも何でもなく沖田君困ってんだよォ、今までずーっとむさ苦しい男の中で育ったもんだから女の欲しいもん一つも分からずに」
「アンタがやめてやれよ!」
「酢昆布アルー!酢昆布よこせヨコノヤロー!」
「テメーは他にもっと欲しいモンねえのかよ!」
「えーじゃぁ焼肉定食引換券とォ・・牛ホル鍋食べ放題とォ・・あきたこまち1俵と・・」
「食いモンばっかじゃねーか!」
「あ、ねえちょっと待って、メモるから」
「落ち着いて沖田君!?ホワイトデーに「米俵」貰って喜ぶ女なんて普通じゃねーよ?!」
「ナルホド!ホワイトデーだけに白米アルな!」
「てめーは黙ってろォォォ!」

その日の万事屋は随分とにぎやかだったそうな。




結局万事屋を出た総悟の手に残ったのは、まるで今晩の買い出しリストですかとでも言われそうな謎のメモのみとなった。
んなもん自分で考えろ!と銀時は言っていたが、そんなこと言われたってこちとら困る。いかんせん人にものをプレゼントしたことなどないのだ。
加えて若い娘の好みなど自分が知るはずもない。知るはずもない自分でも今持ってるこのメモに書かれた食材がに喜ばれるとはみじんも思えないが。

内容は全く決まっていないが、何かしらはお返ししなければとは思う。
何を隠そうこの自分が、3か月通いに通ってやっとの事落としたものなのだ。半ば無理やりだった様な気もしないが、結果よければ関係なし。
それを。
自分からしつこく言い寄ってやっとの事許しが出たのに、しかもアレなりに考えてコーヒーゼリーなんて洒落たものを出してくれたのに。
これで自分がスルーしてみろ。ただでさえ遠慮がちな彼女の思考に拍車がかかってしまう。
「一か月前のあれは、やっぱり冗談だったんですね」なんて、恐ろしいがあり得てしまう話なのだ。

気づいたら自然と足が向かっていたようで、路地を曲がった先にある渋い緑色の看板が目に入った。
異国化の進むこのご時世だがまだまだ地元の精神は健在。その中で控えめにたたずむ「caffe」の文字。
木製のドアを押して店内へ入れば、カランカランと鐘の音が響き、カウンターでコーヒーカップを拭いていた女性がくるりと振り返った。


「あら、沖田くん。いらっしゃい」


閉店時間も近いのか他に客の姿は見られない。
チラリとの隣のマスターに視線をよこせば、びしっとウインクに親指を立てて、裏手にある貯蔵庫へと引っ込んでいってしまった。
コレもまあいつもの事なのでも気にせず、総悟に「何に致しますか?」とメニューを差し出す。
受け取らずに「いつもの」と頼めば、「かしこまりました」とは笑って、いつものように棚からソーサーとカップをとりだした。

「いつも無理してブラック飲まなくてもいいのに。カフェオレくらいなら作れますよ?」
そう言って“いつも通り”笑うに、総悟は内心舌打ちをうつ。
コレが優しいのは元からだ。先月の14日、晴れて客と店員という関係から一歩進んだはずにもかかわらず、と総悟の関係は相変わらずそれまでと変わらないまま。
毎日立ち寄ってコーヒーを頼んで、取り留めもないことを話して。結局未だ慣れないコーヒーは半分近く残して帰る。その繰り返し。


さん」
「なんですか?」
「ちゅーしてえ」

うわ。
我ながら何ともガキっぽいセリフだと頭が痛くなる。が態度を変えてくれないのは総悟がいつまでたっても子供だからなのは知ってるのに。
ちらりと伺えば、はぱちぱちと瞬きをした後にぷっ、とふきだした。
あー・・・・笑った顔キレイ。

「ちゅーは沖田くんがもうちょっとだけ大人になったらね」
「そーくると思ってやしたよ。何でィ大人って。どうなったら大人なんですか」
「んー、とりあえず私が入れたコーヒーは残さず飲んでくれるようになったらかな」
「・・・・・・・・」
「ふふ、別に砂糖入れてもいいって、何回も言ってるのに」

カウンターに肘をつきながらにこにここちらを見つめてくるに、はからずとも頬に熱が集まってぷいっ、と総悟はそっぽを向く。
これだ。きっとこういうところが子供なんだ。
カチャ、と食器のこすれる音がしてそちらを向けば、丁度が淹れたてのコーヒーを総悟の前に置いたところだった。


「頑張ってね?」


・・・!
くすりと首をかしげたからはふんわりと珈琲の香ばしい香りがする。
ほんとう、ほんっとう、こういうところがガキなんだよ俺は!
目の前に出されたコーヒーカップをつまんでぐびっと一息・・・・は無理だった。ムリムリ熱い熱過ぎる。そして苦い。めっちゃ苦い。いや、甘い。甘過ぎだ。こんな甘い飲み物一気に飲めるか!こんなに甘いコーヒー初めて飲んだわ。すっごい苦い、すっごい甘い。
頑張ってくださーい、と笑うとその後ろに並んだカップの棚を見て、思う。


ホワイトデーの贈り物はコーヒーカップにしようか。
底にマークが描いてあって、頑張って飲み干したらハートが出てくる奴。
ペアで贈って、店に置いて貰おう。総悟専用にしてもらおう。


そんで自分がもっと普通にコーヒーを飲めるようになったら、並んで一緒に飲んでくれるだろうか。
口の中を閉める苦味に眉を寄せながら、そんな子供みたいな甘いことを考えた。





***
気になるあの子のことばっかで振り回される沖田さん、ということで(笑)
このあと照れ隠しに一気飲みしようとして「熱っちィィィ!」とかやってればいい。

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