副長の俺が、終わった任務の番号を残しておくのは珍しい。
今日もにぎやかな江戸の往来、さぼり癖の抜けない部下の御守りに歩く中。
土方の懐にある小さなカラクリが細かく振動した。
暇だなァ、ねえ土方さん、暇ですよ、なんてぐちぐち零しながら前を歩く沖田が振り返れば、いつの間にか少し距離の空いてしまった後ろで立ち止まって携帯電話を眺めている上司の姿。
「どうしたんです」
「悪いな俺は暇じゃねェ。こっからは一人で見廻りしろ」
さぼるなよ、と念を押して(効果があるかどうかは危ういが)くるりと方向転換して歩き出す土方の姿が見えなくなるまで見送った沖田は、はぁと溜息をひとつついて再び前を歩きだした。
まったくあの人も人の事言たもんじゃねえ。
局長にちくろうかと試案もしたが、向こうが上手く行ってない分面倒くさいことになること間違いなしだったので、あくびと一緒に飲み込んだ。
「駄菓子屋寄ろっかなァー、新作入荷してるかなァ」
「ちょっとさんったら!やっぱり危険よ」
「やめなさい。欲しいものがあれば買ってこさせればいいだろう」
「イヤ。出かけてきます。家の中にばかり閉じこもってたら息苦しくてしょうがないわ」
「!」
使用人に連れられて着てみればこんな場面。
長い長い庭を通って門をくぐり、そこからさらに中庭道を突き進むこと5分。
観光バスが二台も余裕で止められそうな大きな玄関の階段の上からこちらの姿を確認した娘が、こちらを振り向いてニコリとほほ笑んだ。
「あっ、土方さん」
「副長殿?!」
「まあ土方さま!どうしてこちらに?」
「いやまぁ・・・事後経過の様子見に・・あァコレ皆さんでどうぞ」
「わざわざご丁寧にどうも!・・・そうだ、!出かけるなら副長殿についてもらいなさい」
「それがいいわっ、土方さまがおそばにいてくださるなら安心ですもの」
「はァ?いや、その・・」
全然安心じゃないですけど。攘夷浪士とかわらわら寄ってきますけどォォ。
そんなツッコミを内心で叫びながら土方はにこにこと自分を見上げてくる無邪気な瞳を睨み付ける。
体中を光る石で覆われる勢いで着飾った両親とは違い、簡素な白いワンピースをまとった娘は、「まぁそれはいいですわ!よろしくお願いいたします」なんてほざきながら体の前で手を合わせた。
この娘・・・は説明するまでもなくとある富豪の娘。
以前天人から脅迫状が届いたときは真選組の総力を挙げて護衛を請け負ったりもした。
ちなみに土方が彼女の携帯のアドレスを登録したのはその時。
もしも何かあった時は直ぐに連絡しろとよこしたアドレスには、護衛中の一か月ナカナカの頻度で活用された。主に俺をパシらせる意味で。
そしてなぜかそれは今も続いている。
いつのメールのコピペですか?とでも聞きたくなるような定型文「ショートケーキが食べたいので買ってきてください。」でなぜかのこのこ出向く自分も自分だが。
まったくわざとらしいにもほどがある。
そんなことを言えば、今現在隣を歩く娘にクスリと笑われた。
「あら、真選組副長さんの株を考えての事ですよ。ああでも言わないと手土産の一つも買ってこなかったでしょう?うちの両親そう言うのに弱いから」
「いやアンタが食いたかったんじゃねェのかよ」
「大丈夫です。お父さんもお母さんも甘いもの嫌いだから、結局全部私の胃袋に入ります」
「イヤそーいう問題でもなくて」
はぁ、土方はため息をひとつ。
「久しぶりに外の世界を歩けました」
「そうかい・・はぁ・・また何で急に外なんて歩きたくなったんだ」
家の中でも十分事足りるだろうに。
土方の問いにはえーと、と呻った後、
「・・土方さんに会いたかったから・・?」
「はァ?」
「だめですか」
ぎろりと睨み付けれどじっと見つめ返されて、土方はがっくり肩を落とした。
全くこいつは。
「どっか食いに行くか。旨いモン食わしてやるよ」
「ほんとですか。それ私に言いますか」
「うるせぇ。お嬢様は食った事ねェ庶民のご馳走だ文句あるか」
「なんでしょう、楽しみです!」
二つの影が仲良く江戸の町を進む。
ふとぽっけに手をやった土方がもらした「ぁ、やべ。挿し入れの中にマヨネーズ入れっぱなしだった」というつぶやきは、の耳に届く前に消えた。
そのころの家で両親が首をかしげていたのは言うまでもない。
***
お待たせいたしました!糖分控えめでコレステロール大目な感じで(笑
世間知らずのお嬢様に振り回される副長って存外に萌える、ということに気づかされたバレンタイン。
りっくん、本当どうもありがとうございましたー!
back