3月。それは組織モノの間では決算月である。
暴れ好きの厄介者たちが集うこの真選組。飛び交う修復費、飛んでいく公費。
ただでさえうるさい勘定方にコレを提出しなければならないと思うと頭が痛い。
しかも奴等始末書の書き方が適当過ぎる。汚い、雑い、読みにくい。
こんなものそのまま提出しようものなら、焼け石に水どころか焼け石をそのまま手渡しで放り込む様なものだ。

カラリ。
障子の開く音。

「失礼いたします、土方副長」
「ああ、お前か。入れ」

そんな土方の悩みを些か改善してくれているのが、この人物。
真選組屯所で働いている女中の一人、名前をと言った。
彼女は字が上手い。お手本のように整った字体はとても読みやすく、読み手に優しい。
ちなみに夏の中途決算の時はこの字が好評だった。予算は増えなかったけど。
どうぞ、と彼女が差し出した清書された書類にぱらぱらと目を通す。

「オーケーだ。助かった」
「とんでもありません。一区切りついたなら、副長も休憩なされてはいかがですか?」
「あァー、そうするか」
「お茶汲んできます。今日は暖かいですし、外でどうですか」

にこりとほほ笑んだ女中が半分障子を開けたまま副長室を後にすれば、暖かい春の光と風が部屋の中に滑り込んでくる。
そこで初めて自分の部屋の空気がひどくよどんでいたことに気づいたのだけれども。オブラートに「換気しろ」と言ってくれたのだろうか。
いずれにせよ悪いことをした。やはり違う部屋で作業させたのは正解だったと、土方は自分自身に呆れながらため息を吐いた。



「副長ー。お疲れ様です、お茶持ってきました」
「・・・・あん?」

副長室の前の庭に向かって腰をおろしていると、やがてお茶と茶菓子を持って現れたのは山崎だった。
コイツがわざわざ茶菓子まで持って挿し入れに来るなんて珍しい。山崎のくせに気が利くなんて気持ち悪い。
なによりが持ってくると言っていたので「俺はいい」と返せば、山崎は「まぁそんなこと言わず」と言ってお盆を土方の隣に置き、自分もその斜め後ろに腰をおろした。

「女中のさんからの挿し入れです」
「・・・・・そう。なんでお前が持ってきてんだ」
「さっき廊下で会って。頼まれたんです。残りの書類早く終わらせないといけないからって」

対して感情もこもっていない風にそう言われて、土方は「ふゥん」と答えながら盆のお茶に手を伸ばした。
内心首をかしげながら。そんなに書類を急かした覚えはないのだが。急がせてしまっただろうか。
折角なら彼女も一息抜けばよかったのに。
そしてこの監察の男は入って一年もしない女中からもパシリに使われるほど立場が弱いのかと。もはや流石、そう言う才能があるとしか言えない。

「・・副長アンタ今凄い失礼なこと考えてません?」
「別に」

茶菓子の団子を一口頬張れば甘いたれが餅に絡んで口の中を満たす。

「いつもみたいにマヨネーズぶっかけないんですか?」
「アレの選んでくる菓子はいつも旨いからな」
「・・・・・・」

視線を感じてちらりと後ろを向けば、山崎が大きなため息をついていた。
怪訝に睨み返してやれば山崎は頭を掻きながら口を開く。
「土方さん」

「俺は一応あの子よりもアンタとの付き合い長いから分かりますけど」
「あぁ?」
「特にこの時期は毎年忙しいですもんね」
「何が言いたい」

「・・今日の日付わかってますか?」
「はァ?今日?3月・・・・」





そこで土方も気が付いた。
それと同時にドキリとする。
すっかり忘れてたことや、返事もお返しも何も用意していないことや、
・・・何でこいつが知ってるのかということや。

「見てりゃわかりますよ。さん副長のことすっごい贔屓してるもん」
「字だけじゃわかりませんでした?副長ともあろう人が。イヤイヤそれはないでしょう」
「つまりはそうとられてるって事ですよ。いいんですか?」

「・・・オマエ、どこまで知ってんの・・?」
「彼女が今頃自分の部屋でぐずぐず泣いてることくらいですかね」



半分残したお茶と茶菓子はそのままに早足で去って行ってしまった鬼の副長を見送って、山崎ははぁー、と廊下に転がった。
俺も彼女ほしー!

暖かい空気とともに流れ込んできた春の風が心地よい。
庭の隅でさき始めた小さな花が金平糖のように揺れていた。





***
土方さんはまず確実に忘れるね!ということで(どういうことだよ
そして山崎さんは副長相手に初めから勝負を諦めてればいい(そこで諦めんなよ!

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