「よし、ここだ」
「ここもひっくり返らぁ」
「ほんとだ。はい、どうぞ」
「じゃァ俺はここでさァ」
「あれあれっ、じゃぁもしかして・・・・」

やったぁー!角とれたぁー!
ぬくい日差しの降り注ぐ縁側で、娘の嬉しそうな歓声が上がる。

「きた!これは来ましたよ」
「アララ〜やっちまったなァ」
「迂闊でしたね隊長!年上だからって舐めてかかるからこういう目見るんです」
「意味が解りやせん」
「ホラホラ沖田さんの番ですよ。角をとられた惨めな負け犬が」
「いやァ・・あんたって本当調教のし甲斐があるお人で・・と言う訳でホイ」
「あれぇ?!」

「さっきから二人して仕事サボって何やってんですかッ!」

縁側でオセロ板をはさんでいた二つの頭が声の主を振り返る。
恵まれた剣の才で危険な場所へ斬り込む真選組の剣、沖田総悟と、
むさ苦しい毎日に彩りを添える真選組の華、女中の
そんな彼らを見るからに不機嫌そうな顔でじとーっ、と睨み付けるのは、
真選組の地味、ジミー山崎である。

「イヤまてちょっとマテぇぇ!真選組の地味って何?!何で俺の説明だけそんな悪意持ってるの?!」
「うるせェぞ山崎。訳のわからねェ独り言なら余所れやれ」
「そうだよ退くん落ち着いて。そんな叫んだらストレスで胃に穴が開いちゃうよ」
「誰のせいだと思ってんだァァァ!」

叫び過ぎでぜいぜい息を乱しながら山崎はビシ、とを指差した。
オカシイ、これ絶対おかしい!なんで隊長と(一応自分の恋人の筈)が仲睦まじく縁側でお茶なんかすすりながらボードゲームをたしなむ様子を一人離れてミントンの練習しながら眺めなければいけないのか。
ていうかこの流れ前にもあったような。むしろ毎日こんなんなような?

「そもそもは屯所の奴等に誰それ構わず良い顔しすぎなんだよ!」
「おぉー男の嫉妬は醜いぜィ、ジミ崎」
「そうだよ退くん落ち着いて。ジミーがちょっとすごんだところでちっとも怖くないよ」
「腹立つ!果てしなく腹立つ!」
「ねェひとりミントンって楽しいの?」
「黙れェェェェええ!!」

このサボり組が!と声を荒げれば、二人同時に「ミントンやってる奴には言われたくない」と突っ込まれる。
仲良くハモって。仲良く。なんなんだこの腹立たしさ!
いっそすがすがしいほど、と総悟は気が合う・・というか、息が合うのは知ってるけれど、今日は。今日くらいは!
だって今日は恋人の日でしょう?!

「自分の地味を棚に上げておいて嫉妬たァ情けねぇにもほどがありまさァ。悪いこたぁ言わねェ、ああいう類いの男はよしといたほうがいいですぜ」
「えぇーでも流石に沖田さんの彼女は嫌です」
「誰も俺にしとけなんて言ってねーよあっそう」
「おぁぁぁなんということ・・角以外真っ黒とか・・・!」
「角さえ取れば勝てる、なんてなァ小学生の考えでィ」
「まるで沖田さんの腹の内のよう・・!」
「なんてこと言うんだテメェ」

ふいと総悟が山崎に視線をよこした。呆れたように目を細めてぼそりと口を開く。
「お前地味のくせに監察も向いてねーんじゃねーの」

「えっちょっとどういう意味ですか地味は置いておいて監察の仕事は俺これでも頑張ってるつもりなんですけど。今日だってあんパン生活2週間を無事乗り切った朝帰りだったんですけど!」
「それならなおさら、久しぶりに会った自分の女の変化くらい気づいてやってもいいもんだがねィ」
「あっもう、沖田さん」
「・・えっ」

総悟に言われて山崎はハッとする。
もしかして、自分ともあろうものが連日のあんぱん疲れと勘定に惑わされて、真実を見落としているとでもいうのだろうか。
といわれたって。はいたっていつも通りだ。髪を切った風でもないし、香水も春先に買ったお気に入りのままだし。
・・・はっ・・まさか・・、

「最近太りやしたァ?」
「言ってない俺言ってないから!!思ってもないから!」
「あれェ、山崎の事だからてっきりテメーの大福がますます福々してきたとか言い出すと思ったのに」
「しれっと過去に埋めた地雷を掘り起こすのやめてください隊長!つかなんでアンタがソレ根に持ってんの?!」
「いやァ衝撃的で。自分の女に向かって大福とぬかすヤローは」
「だから地雷地帯を丸腰で歩くのやめてくださいってば!」
「退くんってさ・・・あんぱんみたいだよねぇ・・」
「そしては何その例え!?どういうこと?!」

あんぱん見たいってどういう意味?!
あのあれ?みんなのヒーローあんぱんマンみたいにさがるはわたしのヒーローですってこと?!

「きしょッ。地味崎ジミ過ぎるがあんぱんマンと肩を並べようとすること自体おこがましいわ」
「きしょいww局長があんぱんマンで副長がかれーぱんマンで沖田隊長がしょくぱんマンだとしたら、ジミーなんてアレよ。あんぱんマンの顔したジャムおじさんの運転するあのアレ」
「乗り物?!生き物ですらないの?!」
「あんぱんマンらも生き物と言っていいかは定かじゃないけどね」

「えー、俺しょくぱんマンよりめろんぱんなちゃんポジがいいでさァ」
「そこ不平いうとこなの?!」
「ほらほら、早くしねーと時間切れだぜィ」

そう言って投げてよこされたのはキッチンタイマーだった。時間制限あるの?!
そこまできて山崎は気づく。が若干そわそわしてる・・・?
不安ではなくて、期待に胸ふくらませるような、山崎の出方をうかがってるような・・・・

えぇぇ?!もしかしてアレ?!ホワイトデー?!
いや確かに今日がその日なのは知ってたけど、俺があげるの?!
アレ、バレンタイン俺からチョコあげたよね?ホワイトデーもこっちからの一方通行な感じ?!俺はもらえない感じ?!
何にも準備してない、っていうか寧ろもらう気満々だったんですけど・・・!
そんな心の叫びを高らかに詠う山崎に、ふわりと温かい空気が横切った。
・・・いいにおい?

ぴぴぴぴぴぴ・・・・
タイマーが鳴る。
ぴょこんと起き上がったは傍らに畳んであったエプロンを身に着けて、山崎に手を差しだす。タイマー返して。
その指にはばんそうこうが巻かれていて。

「・・・・もしかして・・・・なんか作ってくれてるの?」
「退くん、もどってくるまで代わりにオセロやってて。負けたら承知しないからっ」

うっすら頬を赤らめて去って行くをぽかーんと見送れば、どんだけ間抜けな顔をしていたのか、
隊長に写メをとられた。(のちにばらまかれることになる)



「はい、可愛そうなジミーに私から差し入れだよ」

そう言ってカワイイあの子に目の前に差し出された物体に、図らずも一瞬ひるむ。
お皿に乗っているのはホカホカ焼き立てと思わしき・・・・・あんぱんだ。
・・・・先ほども言ったようにここ数週間山崎春のパン祭りあんぱん生活だったことか、そのせいであんパンとか見るだけで吐き気がするくらいストレスのもとになってるとか、そんなことはどうでもいい。
が、自分の彼女が。自分のために用意してくれたものならなんだって嬉しいマジ嬉しい超ハッピー。
しかしそんな心とは裏腹に体は明らかな拒絶反応を示しており、あんぱんを受け取った瞬間わずかに震える。
長袖着ててよかった。今オレ腕に鳥肌でてるよオイ。

はと言えば期待に満ち満ちた瞳でこちらをうかがっていて、その後ろで同じく興味深げに隊長が覗いている。あの人は一体何なんだろう。
勇気を出してパクリと一口かぶりついた瞬間、くちの中に広がる甘味に思わず涙が出た。
突然一筋の涙をこぼす自分に目の前の娘が「きもっ、じみっ」とか言っているが突っ込む気力もない。
ふわふわパンの中に入っていたのは、餡子じゃなくてチョコだった。
チョコパンだ。

「どうかな」
「めっちゃおいしい」

もぐもぐ夢中でパンを頬張る俺に、はにっこりと笑った。
「いやぁ本当喜んでくれてよかった。やっぱパン屋さんのパンでもあっためて食べると違うよね」


「何ソレどういう意味ィィィ?!なにコレ市販?!あのタイマー何だったの?!市販品あっためただけかよ!」
どんだけぇぇぇぇぇ!
地味高く地味の叫び声が屯所の庭に響き渡る昼下がり。
その日も真選組は平和だった。





***
おまたせしました大福のお返しです。久しぶりの出番キラーの暴走w
そして山崎さんは今日も彼女に振り回されてツッコミを冴えわたらせるのでした。
めでたしめでたしw

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