「フロッキーシュー!なにコレありえなくない?ポンデリングとフレンチクルーラーをあろうことか合体させてしまうだなんて、物凄く最強じゃない・・!オールドファッション、これはもう見ただけで美味しいことがわかってしまうあーもーわかっちゃったもーん食べるまでもない!イヤ食べるけど!豆腐ドーナツというのもネーミングだけでそそられてしまうわ・・。そしてここに宝石のごとく並べられたマフィン系、なぜ今までこれらのマフィン系の存在を隠していたのか、憎い奴ら、まったくもって許しがたい。でもまぁこれは言わずともわかりきっていることだけど、ゴールデンチョコレートをはじめとする今まで食べてきた数々の選ばれしドーナツたちがこうも所狭しと陳列されているところ見るのは圧巻・・・・パないわね!」

「異三郎、これ全部食べてもいい」
「いいわけないでしょう」
「ドーナツ!!」

真っ白なトングをカチカチさせながら目を輝かせなぜか屈伸を繰り返す見廻組副長に、見廻り組局長である私は大きくため息を吐きました。
「それにこれはあなたへの報酬じゃありませんよ、信女さん」

今現在こうして片手にトレーを持って100円均一セールの列に並んでいるのも、そう言う自分の右手が肩に回された布にぶら下がっているのにもわけがあります。
1か月少々前に起きた江戸全体を揺るがす大事件。それによって受けた傷は、順調に回復してきてはいるものの浅くありません。
そんな私を横目で見ながら私のトレーに大量にドーナツを乗せまくっている信女さんは無感情な声をワザとらしく弾ませて「ドーナツ、ドーナツ」と繰り返します。
そしてそのまは見ていて大変疲労感を与えます。
丁度100均やってるからこれでいいかと並んだはいいのですが、報酬をミスドにしたのはやはり間違いだったかもしれません。
彼女がドーナツ好きなのは前からの事ですが、今の彼女の言う「ドーナツ」は含みが違うのです。

何度も言うように本来なら入院中の自分がこうやって病院を抜け出してミスドに並んでいるのはワケがあります。
本日あの病室に彼女を寄せ付けないために。イヤ今の「彼女」というのは信女さんの事ではありません。
名前も忘れましたが(今更覚える気もないですが)、実は私、しばらく前からとある娘っ子に懐かれて困っているのです。
大して大きくもないちっぽけな旗本の一人娘。再入院当日の不法侵入時に少し情けをかけてしまったばかりに、この一か月毎日顔を出して半ば強引に身の回りの世話を焼いています。

別に、彼女の存在自体は、それほど問題ではないのですが。
夢見がちな性格、その呆れるほどのポジティブ思考から時々果てしなくうっとおしいときもありますが、順応性の高いエリートな私からすればもはやあしらい方も慣れたもの。
それに一応とはいえ向こうも好意をもってこんな春休みをつぶすような真似をしてきているわけですので、よくこちらに気もつかい扱い勝手も悪くありません。まぁ、だから今まで黙認していたのですが。

今日という今日はまずい。よろしくないのです。少々言葉を荒げると「ギザヤバス」。
というのも本日はちょっとした来客のスケジュールがありまして。この来客が中々に厄介なお人なのです。
そんなわけで今日も今日とて健気にやってくるであろうあの娘を追い返すべく影武者を設置して病院を抜け出すこと半日。
来客の予定は午後からのはず。あとは依頼料をわたして影武者を穏便に放り出せばいいのみです。
そんな考えを巡らせているうちにトレーの上はいつの間にか一夜城よろしく見事なドーナツタワーが建設されており、とりあえず隣の娘の頭を一発はたきました。
やっぱりドーナツにしたのは間違いでしたか。



城下にそびえる警察病院。その最上階、自分の病室の扉に手をかけた瞬間から、嫌な予感はしていました。
広い室内に大きめのベッド。液晶テレビにパソコンに、設備は至れり尽くせりですが。そんななか響き渡るのは、二つの笑い声でした。

「ほうほう!それでっ?影武者さんっそのあと異三郎様はどうなったのですか」
「聞きたい?じゃァもう一粒な。そしたらよ・・・」
「きゃぁぁ!さすがは異三郎様です!」
「・・・・・なんですか、これは」

苦虫を噛み潰したように呻れば気づいて振り向く二つの視線。
あろうことか追い出されるどころか影武者と一緒に盛り上がっている問題児が私を見つけてぱあ、と顔をほころばせます。

「あっ異三郎様!お帰りなさいませ、今日もすてきですね!長い事外にでてお疲れではないですか?ささっ、どうぞどうぞベッドにお戻りになって。新しい看護服もご用意してますわ。それと、ご昼食はもう召し上がりなりましたか?喉は乾いていらっしゃいませんか?・・あ、心配ございません、影武者さんの男臭いぬくもりなど残さぬようすぐに新しい布団を敷きますわ!さあさ、傷口が開いたら大変です。お荷物は私が。」
「・・・・・話と違うんですが白夜叉殿?」

あまりのマシンガントークにまさにマシンガンで撃たれたような精神的ダメージを受けます。
セーラー服と機関銃。たしかに彼女は女学生だがこんなファイナルウェポンを隠し持っていただなんて。
げんなりと睨み付ければ、白髪のテンパ頭は素知らぬ顔でぼりぼりと頭を掻きながら死んだ魚のような目で笑いました。
「イヤ俺は局長殿の代わりにこの部屋で寝てろとしか言われてねーし?ごでばが対価じゃさすがに黙ってもられねーし?」
「ごでば?」と首をかしげる私の後ろから、信女さんがひょこりと顔を出します。

「ドーナツ!」
「今井副長もお帰りなさいませ、異三郎様の護衛お疲れ様です」
「ドーナツドーナツ」
「お黙りなさい信女さん」

ああもう、だから今日はこの小娘には近づいてほしくなかったのに!
今日が世間一般で言う何の日かなど、エリートである私も気づかないわけではありません。
一か月前の今日この娘から手作りドーナツをプレゼントされて以来。
信女さんの中で「ドーナツ、イコールこの犬コロ娘」の数式がその空っぽの頭に出来上がっているようで、娘を見駆けるたびに「ドーナツ、ドーナツ」と合言葉のように、私にプレッシャーを送ってくる日々が続いているのです。
もちろんこの犬コロがホワイトデーにお返しなど期待できないことは覚悟で及んだ行為であることはこちらとて百も承知。
余分な期待を持たせないよう返すつもりも返す気もないですが、いい加減うっとおしい。

しかし、ここで感情にとらわれてはいけません。
なにせ私はエリートなんですから。すぐさま代替案を考え、実行します。時間もそう残されてはいないのです。

「仕方ありませんね。とりあえず全く役に立たなかった万事屋さんはソレを持って即刻立ち去っていただきます」
「え、マジでドーナツじゃん。イヤ〜悪いねぇ〜半日寝てただけでミスドもごでばも貰っちゃって」
「だから何ですかごでばって」
「え〜!まさか知らねーの?ごでば屋と言ったら高級チョコレートの代名詞だろーがよ」

それは知ってるお(#^ω^)ピキピキ

そこで気づきました。いつもはもっとうるさい子犬がわずかにしゅんとしっぽを垂れているのを。
どうやらこの子犬、私がなにも返さないことを見越したうえで、自分で自分のホワイトデーのお返しを用意してきたのだとか。どんだけですか。
一か月分の小遣いをはたいてあえての高級チョコにしたのは、仮にもお返しを貰う(と想定する)私がエリートだからか。
エリートがスーパーのレジ付近に設置されたホワイトデーコーナーに置いてあるようなものをよこすわけがないという妄想上の強がりか。
いかんせんそのせっかく買った高級チョコレートは白夜叉殿から佐々木異三郎トークを引き出す餌として散ったわけで。
私の知ったことではないですが。

「オメーさんも高給取りならケチケチすんなよなァ。バレンタインにチョコもらえるだけありがたいと思うよォ俺は」
「ハイハイわかりましたから早く出てってください」
「ホワイトデーくらいちゃんとやれよォ自分の彼女にくらい・・・ギャァァァァァあああ!!」
「影武者さんーーーーーーーー!!」

私の知ったことじゃないですが、流石に白夜叉殿のその言葉にはイラッときたので感情に任せて体を動かすことに。
警察病院の最上階の窓から突き落とされた白夜叉殿の叫び声は直ぐに遠のいて聞こえなくなりました。
飛び降り防止のため建物の下にネットが張ってあるはずですから、たぶん大丈夫でしょう。公務員はストレスのたまる仕事ですから。


「さて、後は貴女ですね。これから大事なお客さんが来るのでしばらく寄らないで貰えますか」
「あ、はっ、はい・・」

「ドーナツ!」信女さんが何か伝えたげにこちらを睨み付けてきます。
あなた最初の長台詞以外今回「ドーナツ」しか言ってませんよ。
はぁぁ・・・大きくため息をひとつ。

さん」

覚える気はなくとも何度も関わるうちにイヤでも覚えてしまったその名前を呼んで犬コロ娘を引き留めると、
大空へ羽ばたいて行った影武者さんの残した遺留品、もとい報酬のドーナツの箱を指差してやります。

「あの中からお好きなのをひとつ持っておいきなさい」
「えっ!い、いいのですか異三郎様!」
「ごでばじゃなくて不満ですか」
「とんでもありません!ミスドさいこーです!」

コロッと態度を変えてしっぽを振る彼女の姿にやれやれと息を吐いて指差したドーナツに視線を向ければ。
「・・・・もふ?」
箱ごと腕の中に囲い込み口いっぱいにドーナツを頬張る副長の姿が目に入りました。しばらく無言の間が辺りを包みます。
私と犬コロの視線に気づいた彼女はしばらくもふもふと口を動かした後、
抱えたドーナツはそのままに窓からダイブ。あの青空に翼を広げ羽ばたいて行ってしまいました。
・・ちょ、おま、のぶたすお前なにしてんだおォォォォ。


二人病室に取り残されて、どっと一気に疲れが出ます。
本日何度目としれぬ溜息を吐いてベッドに腰をおろせば、さんが慌てて羽織をかけてくれました。

「あの、異三郎様」
「・・・なんですか」
「お客様がいらっしゃるなら、コーヒーのご用意でもしておきましょうかっ」

あーハイ、じゃぁ、お願いします。
自分の仕事を与えられて嬉しそうに、忠実な犬コロのようにせっせと働く娘を見、何も遠まわしにしなくとも最初から直接指示すれば良かったのではという考えが頭をよぎります。
今更仕方のないことではありますが。

「退院したら何か馳走しますよ、貴女が作ってくれたのよりもずーっとおいしい市販のドーナツか、それか何か他のものの方がいいですかね」
「それなら異三郎様!ポンデリングより薬指にはめるリングが良いです」
「はは、寝言は寝て言いなさい」

鼻で笑いながらふいと視線を逸らせば、丁度件の来客人が病室の扉を開けたところでした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ええそれはそれは厄介な来客人。
『一族で最も発言力を持つ大奥様』なんて可愛らしいモノじゃない、他人事に首突っ込んでそれでいて立場はあるのでそうそう発言には逆らえない。色恋好きの警察庁長官。

「やァ〜ちょっとおじさん早く着きすぎちまったかなァ?お邪魔虫は退散すらァ」
「・・・イヤ、違うんです長官殿これは、」

エリートでも血の気が引くときはあるんです。だって人間だもの。
現れたのは泣く子も黙る警察庁長官松平片栗虎・・・・と、そのお供の目つきの悪いくわえ煙草の警察官。

「・・佐々木・・・オマエ・・・・・・ロリコン・・?」
「イヤギリギリセーフだお!」

思わずツッコミを入れてしまった自分の言葉が、全ての敗因でした。





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まさかの大好きサブ様シリーズで来てくれるとはww
一番書いてて楽しかったのはのぶたすの「ドーナツ!」ですw
バレンタインデーありがとうございました!

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