マカロンという菓子を知ってるだろうか。
中はふんわり外はさくっとした触感の焼き菓子の間に、チョコレートやらジャムやらクリームやらがサンドしてある色とりどりのお菓子。
スーパーや量販店で売っている菓子とはまた違った、ちょっぴり気取ったおしゃれなスイーツ。
名前も聞いたことあるしどんな食べ物かも知識はあったけど、実は食べたのはバレンタインのあれが初めてだった。
神楽に至っては聞いた事も無かったほど。そりゃマカロンは駄菓子屋には売っていない。
万事屋の居間。ソファに腰かけた新八の隣では、神楽が酢昆布をもっちゅもっちゅ頬張りながらTVを眺めていた。
画面の向こうでは白いブラウスを着た金髪の女の人がぱちぱちと大きく瞬きをしながら両手で口を覆っている。
その女の人の向かいには黒いジャケットの男の人が、方手のひらで床を差しながら、もう片方の手に持った小型の掃除機で床をひと撫で。
カーペットにこぼれていたコーヒーは一瞬のうちに染みごと吸い込まれピカピカになっていた。
つかなんで通販番組なんか見てんのこの子。
ハァと溜息をひとつはいて新八はいったん視線をそらす。向けたのは台所だ。
のれんの向こうで人が動いている気配しかわからなかったけど。視線を戻すと神楽がこちらを見ていた。
「どーしたアル新八ぃ。落ち着かないアルな」
「んー、まぁ、ねぇ」
「あんのマダオも見ててイライラするヨ。いい加減手くらい出せヨな。何でもない顔装っといて腹の内じゃ鼻伸ばしてるに決まってるネ」
・・・あー。神楽ちゃんもやっぱり感じ取ってはいるんだ。
「恋愛なんてみんなヤったもん勝ちアル。だらだらしてたらそのうちかっさらわれてしまうアル」なんてとんでもないことをほざく年下の女の子に若干引きつつ、新八も大きくため息をついた。
まあその焦ら焦らしい感情も、わからんでもない。
マカロンという菓子を知ってるだろうか。
中はふんわり外はさくっとした触感の焼き菓子は、その軽さが売りの代わりに持つ手に力がこもるとすぐに砕けてしまう。
そーっと、割らないように砕かないように、優しく優しくつまんでやらないと直ぐに崩れてしまうのだ。
やさしくやさしく、慎重に慎重に。まるであの二人みたいだ。じれったいにもほどがある。
あの二人とは言うまでもなく銀時と、万事屋で働く娘 のことだ。
働く、と言ってももっぱら雑用担当。だって彼女は普通の娘だ。
子供だからと言って曲がりなりにも鍛えてる新八や、戦闘民族の神楽とは違う。
ただ、危険じゃない依頼にはちょくちょく手伝ってくれるし、こうして毎日の掃除洗濯や食事の準備。
万事屋の日々の中で一番幸せを感じる時間がこの食事タイムであることは少なくとも万事屋全員が心から通じ合っている事である。
「おいしい」と伝えた時の彼女の嬉しそうにはにかむ笑顔が、万事屋の誰もが大好きだった。おそらく万事屋の主人も彼女のそう言うところに心を奪われたのだろう。
夕食の準備を始めたをいそいそと手伝いに台所に入って行った銀髪テンパを思い浮かべて、うーん・・と新八は体の前で腕組み。
「なかなか進展しないねぇあの二人」
「手繋いでるとこすら見たことないネ、どんだけヘタレアルか銀ちゃん」
「えっあの二人くっついてるんだよね?バレンタインで一応想いは伝え合ったんだよね?気のせいじゃないよね」
「二人とも奥手過ぎるアル。ここはわたし達がしっかりしなきゃヨ新八!メガネを割る覚悟はできたか」
「なんでそこで眼鏡を割る覚悟がいるワケ?!眼鏡割ってどうすんの?!」
「そりゃ新八オマエ、粉々になったメガネのピースをひとかけらずつ集めて元に戻す作業こそが、二人の初めての共同作業・・」
「ジグソーパズルでやれェェェェ!!」
「おう、ぱっつぁん」
「銀さん」
ひょこっと台所から顔をのぞかせた銀髪に新八が振り向けば、ぽいと布で出来た袋を投げ渡される。
万事屋の家計財布だ。
悪いけど醤油切れちまった。買ってきてくんね?
「いいですけど」
「銀ちゃん!今日の晩御飯は何アルか?」
「ふふん、聞いて驚け。鳥ミンチとキャベツのチーズ入り餃子だ」
「「めっちゃ美味そう!」」
「これは張り切ってお腹減らしとくのが私の使命アル」
「使命じゃねェよ。それならついでに定春も連れてけ。メタボになるぞメタボに」
「じゃぁ一緒に行こうか、神楽ちゃん」
「眼鏡を割る準備はできたか」
「できてねェよ」
「30秒で準備「しねェよ」
結局一緒に出掛けた新八と神楽は、その後もずっと銀時とをどうしたら進展させられるであろうか議論を交わした。
大江戸港から出発するでぃなーくるーじんぐにでも乗せてやれば、二人のムードも一気に変わるだろうか。通常なら向かい合う二人席をあえて横一列に並んで料理を食べながらもずっと肩を組み、夜景を見ながら「君の方がきれいだよ」「きゃっやだ銀さんったら」。お酒も入って少し涼もうとデッキへ出れば、大江戸ランドの観覧車の灯りが遠くで虹色に色を変え、また別の方角にはれいんぼーぶりっじの光が仄明るく輝く。「寒くなってきたね、そろそろ戻りましょうか」「ああいや、待って・・」そう言って男は女をそっと抱き寄せ「これなら寒くないだろ。もうちょっと・・このまま・・・」
マジでダレだオマエェェェェえええ!!(つまりマダオである)
という話になった。(そりゃそうだ)
そして、
そんな想いを込めてまわした商店街の福引では見事5等が当たり、醤油が2本に増えました。
万事屋に帰ると玄関を開けたところで鼻をくすぐるいい匂い。
「おかえり!」と言って、頬を赤らめ笑顔で出迎えてくれる。
そんな彼女を見て二人の子供たちは顔を見合わせたあと、新八はクスリと、神楽はにへっと笑みをもらした。
ムードどうこうはべつものとして、こんな笑顔をこぼすが今幸せじゃないかと言ったらあり得ない話で、
そんな彼女を見て銀時がどういう心になるのかなんて(今までを知っている)自分たちにはたやすく想像できることだ。
「、ダイスキ!銀ちゃんの代わりに私がいっぱい言ってあげるネ!」
「銀さんのこと、これからもしあわせにしてあげてくださいさん!」
「ええっ?どうしたの二人とも急に?!」
居間へ行けば銀時がお盆から湯気の立つご飯とみそ汁をそれぞれの場所へ並べているところだった。
「おー、お帰り。ちゃんと手ぇ洗えよー」なんて言われて訳もなくうれしくなる。
買ってきた醤油(2本)をに渡して洗面所に向かい戻ってこれば、すでに銀時が席についていた。
新八と神楽も席に着く。「ー?」と台所に呼びかければ、「今お醤油持ってくね」
「おう」とそっけなく返した銀時がおかしくて、二人でニヤニヤしていれば、それに気づいた銀時がはぁぁ、と大きくため息をついた。
「とんだおせっかいヤローだなオメーら」
「なんだ。悶々させてる自覚はあったんですね」
「せいぜい愛想尽かされないようにしろヨ」
「あーもう・・まったく分かってねェよオメーらはよぉ」
「何がですか手も握れないヘタレ侍が」
「・・たく、分かってねーようだから言っとくけどなァ」
「銀さんももやるコトはきっちりヤってるからね?お前らのいないとこで」
ゴトッ、
どくどくどくどく・・・・
新八も神楽も、視線は銀時の後ろにたたずむ・・・・の足元に転がった醤油のボトルである。
・・・・福引で醤油を当てて、もしかしなくともとてもラッキーだった。
***
マカロンお待たせさまでした。
これ銀時夢ってかほぼ子供たち二人しか出てねーよ。ヒロインふたことみことしかしゃべってねーよ
でもバレンタインの銀さんを見る限り、甘酸っぱい恋愛をはじけさせながらもしれっとやることはやってる感じがしたんだよ!
どうもありがとうでした!
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