「おはようございますー」
「あっヨ!オハヨーー!」
「おうふっ・・!神楽ちゃん、おはよう」
玄関を開いた途端に奥の部屋から走ってきた神楽が飛び付いてくる。女の子にこういっちゃ失礼かもしれないが、まるで人懐こいワンちゃんだ。
の腰に飛び付いた神楽の首には淡いピンクと紫のマフラーが巻かれていて、おそろいの毛糸の帽子をかぶっている。
これからどこかお出かけ?と聞けば、神楽はぶんぶんと首を振った。違うヨ〜。
あれ、違うんだ。でもまぁ確かに、ここ万事屋は年中無休火の車(家計的な意味で)。
世間ではだんだんと春の訪れを感じる季節となろうとも、エアコンもストーブもないこの家は外の気温が室内の気温とニアリーイコールなのだ。
「前来た時からずいぶん久しぶりになっちゃったね。ちゃんとご飯食べてる?鰤大根作ってきたからお昼に出してあげるね」
「キャホー!大好き!」
「銀ちゃんは?」
「居間に居るヨ」
お邪魔しまーす、と居間へののれんをくぐる。
いつもの社長デスクではなく来客用のソファに腰かけた銀時は、真剣に一つの雑誌を見ながらもにょもにょと手を動かしていた。
なにしてるの銀ちゃん?と声をかければ、銀時は一瞬だけこちらを見て「おう、いらっしゃい」と言った。視線は再び雑誌へ。
何を読んでいるのか気になったがとりあえずまずは手持ちの鰤大根を冷蔵庫に入れるのが先決だ。
ついでにお茶でも淹れようかな、新八君今日来てないみたいだし。
「神楽ちゃんなんか飲む?」
「飲む!最近お肌の調子が悪いから牛乳に相談ヨ!」
いくつだお前は。
「銀ちゃんは?」
「んー。さんきゅ、頼むわ」
台所でお茶を2つ淹れて、別のコップに牛乳を注ぐ。
一か月前の“景品”のマシュマロが未だ残っていたのでお皿に乗せて居間へと戻ってくると、銀時は未だ熱心に雑誌と手元に夢中だった。
何読んでるの?お盆を机に置いたは銀時の隣に腰をおろす。
いつもは散歩不足の室内犬レベルに絡んでくるのに。今日はそっけなくてなんだか調子が狂う。
そんなの空気を悟ったのかそうでないのか、「あ、そーだ」とつぶやいて、銀時はソファの隅から取り出した物をの膝の上にポム、とのせて見せた。
「うわ!くまさんのぬいぐるみ!カワイイ!くれるの?」
「おう」
「ありがとう・・でも何でいきなり?今日なんかの日だっけ・・」
はっ、と、そこでは気づいた。気づいてしまった。
先ほど台所で見たマシュマロで気づくべきだった。あの悪夢から早一か月が過ぎようとは。どうしよう。マシュマロの賞味期限は、まだ大丈夫だったはず・・。
一か月前の恋人の日、がした事と言えばステージに立つ銀時を応援していたことくらいなのだが・・・。
律儀に、しかもこんな可愛らしいお返しがもらえるなんて。ちょっと悪い気もするけど、それを上回るこの嬉しさ。
ありがとう銀ちゃん!
改めてもう一度お礼を言おうと隣を振り向いたは、銀時の手元を見て大きく目を開いた。
おお・・!?
銀時の手元には、もこもこっと柔らかそうな毛糸の塊。
そこから伸びる糸と、カギ針。
・・・編み物?!
「えっ!?まさか」
「・・・これ・・・銀ちゃんが作ったの・・?」
「ん、そう。まァ大したモンじゃねーけど、よかったら持って帰ってやってくれや」
ハッと気づいて先ほど手渡されたぬいぐるみを見る。
ふわふわな毛色の毛糸できめ細やかに編み込まれたそれは、どっからどう見ても市販品だ。
だって編み目全部均一だもん!さわり心地最強だもん!もっこもこだもん!
そこでゾクリと、ゾクリとの背中が粟立った。
先ほど神楽が付けていたマフラー。ニット帽。まさかあれも?!
「いやァ〜やりだしたらコレがなかなかハマっちまってさ〜」
「全部手編み?!凄い!銀ちゃん凄いよ!何そのスキル?!」
「調子に乗っていろんなもん作っちまったよ」
「!!!定春ぅゥゥゥ!?」
今気づいたけど部屋の隅で眠っている定春は今はやりの犬用の服?みたいな毛糸のセーターを着ている。
あれも作ったの?!あんな巨大な服を?!しかもいろいろモチーフ入った高難易度のセーターですけど!?
驚愕のを差し置いて相変わらず銀時は手元のカギ針を動かしている。
「そのクマは普通のカギ針で編んだんだけどよ。今はやっぱり「ダブルフックアフガン針」だよな」
「何その上級者向けの単語?!」
「今は編み込み柄の入れ方見ててよォ。見てろ銀さんがにバッチシ似合うゆるふわニットのワンピース編んでやるからな」
「やめてェええなんか自分の女子力のなさを思い知らされるからやめてェェェ!」
そんな間にも銀時の手元ではまるで魔法のようにするすると模様付きの生地が生まれていく。なんかそこだけ別の生き物みたいで気持ち悪い。
確かに銀時は器用で割と何でもこなす節があったものの。
なんか、アレだ。どうして私は女に生まれてきてしまったのだろう。女子力ってなんだろう。
器用って怖い。
銀時の隣を立って向かいのソファに腰かけなおす。もそもそと景品のマシュマロを口に押し込んでズーンとしていると、隣でテレビを見てた神楽がちょんちょんと肩をつついてきた。
「。白髪のオッサンに女子力で負けたからってそう落ち込むなヨ!」
「ぐっさー!神楽ちゃん今の凄い刺さったんですけどっ!」
「気にすることないネ。は飯がピカイチアル!」
「銀ちゃんもね、最初は何かお菓子とかにしようとしてたんだけど、料理じゃに敵わないからってソレに逃げたアル」
「・・え?」
「コラ―神楽。余計なこと言うんじゃありません」
「うっせーアルテンパ!」
「酷ッ!」
「・・・・・・ねー、銀ちゃん」
気まずそうに手を動かす銀時に、はつとめて落ち着いた声でさりげなく尋ねる。
「あぁ?」
「・・・今日のお昼何食べたい?」
「オムライス」
「わかったー台所借りるねー・・」
立ち上がってすたすたと台所に向かうの後ろから、TVに飽きたのか神楽がとてとてと付いてくる。
シンクに向かうをちらりと見上げて、神楽は笑った。
「私が言うのもなんだけど、オマエ現金アルな」
「さぁ?なんの事かな」
「鰤大根にオムライスかヨ」
「いいのっ、銀ちゃんが食べたいって言ったんだから」
かぁぁぁぁ・・・・
頬を真っ赤にさせながらは、黙々と手を動かした。
手を動かしながら頭の隅で悶々と言い訳を考える。
・・・この時期からじゃ流石にもこもこニットは着れない。
「来年までプロポーション維持しろって事ヨ〜」
「っ無茶言わないで神楽ちゃん!人は常に縦にも横にも成長し続ける生き物なんだからッ!」
「聞いたことねーヨそんな話」
「心配ないネ!きっと銀ちゃんもその辺もわきまえて編んでるから!」
「嫌だよ!!それ逆に嫌だよ!!」
騒がしい万事屋は今日も通常運転だ。
***
無駄に女子力のありまくる坂田さんを目指してみました(何故
イメージはお察しの通り劣化万事屋さんの旦那(笑)
男の人の編み物って、絶対エロいと思う。手つきとか。
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