3月14日。
一か月前のこの日までとはいかないまでも、立派な恋人の日だ。
バレンタインに甘いチョコと甘い気持ち、甘い言葉でリア中になった男たちがそわそわしながらデパートのブランド品売り場をうろつく、そんな季節。
主にリア充になった男どもが脳内お花畑で浮かれに浮かれるしょうもない季節。
3倍返しなんて都市伝説を真に受けた馬鹿どもが無様に散財するアホらしい季節。

「なんかホワイトデーの解説に悪意が感じられるのはなぜですか銀さん」
「いやいやぱっつぁんよ、そう思ってたのは昔の俺さ。バレンタインは恋のイベント、ホワイトデーはリア充のイベントとはよく言ったもんだ。銀さん今年は違うもんね」
「じゃぁ何でそんなにそわそわしてるアルか。無様に散財する財もねーくせにエラそーに言うなヨこのマダオ」
「あああテメー神楽!んな確信突くようなことずけずけ言わないで悲しくなる!」

ここは万事屋の真ん中来客部屋。机を挟んで銀時、そして新八と神楽。
一回りも違う子供たちから先ほどからグサグサ死んだ魚の目の男にむかって永遠と、
大反省駄目出し大会が開催されていた。

はいいやつヨ。よくこんなマダオ愛想尽かさず今まで顔出してくれたアル。でももうそれもここまでネ」
「・・・・・・」
「一か月前はさんあんなに尽くしてくれたのに。自業自得の体調不良、ドタキャンを寛容な心?で赦してくれて。結局あの晩甘いもの食べに行ったんでしょう?」
「・・・・・はい」
「何かあった時のための万事屋とっておき貯金箱から特別にお金出して、可愛らしい髪留めでも買って来いって言って送り出しましたよね、僕ら」
「・・・・・」
「あの神楽ちゃんでさえ我慢して首を縦に振った結果解放された貯金箱の金で」
「そうヨ銀ちゃん」
「何買ってきたかと思えば」

二人と一人を挟むテーブルの上にぽつんと置かれていたのは、一つのパック。
「¥294(税込)」
と書かれた値札が張ってある、パチンコ屋の向かいの焼き立てパン屋さん人気商品、ガッツリカツサンドであった。
パックを止めている輪ゴムを外して一つずつそのカツサンドを手に取った新八と神楽は、ぱくりと一口頬張りつつ虫けらを見るかのような目で銀時を睨み付けた。

「ホワイトデーの女子へのプレゼントがカツサンドって、どういうことですか銀さん」
「全く救いようがないアルむぐぐ、うまっ!」
「なにさりげなく涼しい顔してオメーら食ってんの?!それ一応のなんですけどォォ!」
「は?笑わせないでくださいよ。少なくともこのカツサンド10個は買えるくらいのお金渡しましたよね?」
「・・・・・・」
「アーあ、きっと悲しむアル。なー新八」
「ねー神楽ちゃん」

密室から消えた樋口一葉殺人事件のトリックは聞かなくともわかりきっている。
文字通り消えたのだ。紙から玉になって、数十分の命。
ガラリと玄関から音がする。「ごめんくださーい!銀ちゃんあそびにきたよー」
チラリとそちらをうかがった新八神楽が視線を目の前に戻せば、ちょうど銀時がベランダの窓から緊急脱出を繰り広げる直前だった。

「「逃げた!!あのヤロー!」」




「あれぇ、旦那じゃねーですか」

かぶき町の街を疾走していれば、聞き慣れた声に呼び止められる。
ぽっけに両手を突っ込んで歩くのはチンピラ警察真選組の一番隊隊長。

「よぉ沖田君。ちゃんと見回りしてるのめずらしーじゃん」
「あー今日は残念ながら相方がコレなんで、うるせーんでさァ」

彼ほどのサボり魔が一応適当気とはいえ見回りに巡回しているのは、お目付け役で隣に控えるもう一人の隊士のおかげと見た。
眼鏡をかけたその隊士がぺこりと銀時に頭を下げる。「いつもさんがお世話になってます」
まぁいづれにせよあまり見たい顔でもない。後ろからただならぬさっきを感じて、銀時は矢継ぎ早に別れの意を述べて走り出す。
一瞬にして彼方へと消える銀髪の後姿を見送って首をひねる一番隊隊長と副隊長の目の前を、もう一つの影がものすごい勢いで通り過ぎて行った。

「アレ、いまのさんじゃ」
「何やってんだァあの人ら?」
「さぁ・・?」



「なんで逃げるの銀ちゃん!?意味わかんない!」
「おめーもなんでそんな必死に追いかけてくるワケ?!銀さん意味わかんねェ!」
「銀ちゃんが逃げるからでしょ!」

追いかけっこはまだまだ続く。
新八と神楽に「銀時を追え!」といわれてとりあえず追いかけているには事態がよく呑み込めていない。
しかしその腰に揺れる一本の長い刀を見て、銀時はぞっと背中が震えるのを感じる。
ムリムリ!この子キレたら何するかわかんないもん!恋人とか構わず切り殺してきそうだもん!

その時、走っていた銀時の方が通行人にぶつかった。
キャッ!と短い悲鳴が上がって、ぶつかった娘の腕に抱えられていた子猫がその手から離れる。

!!

突然足元に現れた猫に、走っていたはスピードを殺しきれない。
ムリに体制を変えて軌道をそらそうとした体はバランスを崩して・・・

「きゃん・・!」

大事故・・・とはならず。

「・・・・あっぶね」
「・・あれ、銀ちゃん・・・・追いかけっこはもう終わったの?」
「うるせーよ・・ったく・・」

咄嗟に方向転換して伸ばした銀時の腕が頭からつんのめりそうになったを支える。
腕の中から見あげてくるに、思わず大きなため息をついた。
「ちゃんと前見て歩けコノヤロー!」なんて猫を抱きなおした飼い主の娘はプンプンと怒っていたが、道路の向こうから誰かに呼ばれたのをきっかけに大急ぎで嬉しそうに去って行った。


「あはは!ホワイトデーに金欠だなんて、銀ちゃんカッコわるーい」

事情を聞いたは笑いだす。
大丈夫、最初から誰も銀ちゃんに期待なんてしてないよ!
なんて天使のような笑顔で氷のような釘を打ち付けてくることは忘れなかったけど。

「ほんと、悪かったよ・・・」
「いーよいーよ、気にしないで!」
「あーホラ、そんかわし金のかからねーことなら銀さん何でもやってやるから」
「ほんとー?!」

の喜びようを見て銀時も胸が暖かくなる。
ホワイトデー。なにも高級なブランドものじゃなくても、金をかけなくても彼女は喜んでくれる。
そんなが銀時の彼女であることに嬉しさと愛しさを感じじーんとしていれば、ははしゃぎ気味に銀時に抱き着いた。

「ほんとにほんとっ?じゃあ普段はできないお願いとかもしていいの?」
「おうッ、今日だけ特別だからな!」

お姫様抱っこして町内一周してやろうか!体で払ってやろうか!
まさか「ちゅーして・・?」的な甘い要求が来るとは思ってはいないが、もしもの事を思って若干期待する銀時の目の前で、アイドル顔負けのプリティーフェイスはにっこりと満面の笑みをこぼした。
あの、あのね、じゃぁね・・・


「銀ちゃんと、真剣勝負(デスマッチ)してみたいな・・・!」


真っ赤になって微笑む少女の腰元が、かちゃんと嫌な音を立てた。
・・・・・は?

「・・・え・・?イヤなにそれ、満面の笑みで言われるようなことじゃないんですけど。怖いんですけど?!え?!それってアレ?!ベッドの上のデスマッチじゃなくて?!そう言う甘い感じのもんじゃなくてガチな感じ?ガチな殺し合いの方の感じ?!」
「えへへ〜嬉しいなぁ!最近張り合いのある相手なかなかいなくてぇ。銀ちゃんには前々から一回手合せ願いたいって思ってたのぉ!」
「ガチな方の感じだよこの子ォォ!!いや待ってちょっと待って!オメー相手に真剣勝負とか俺マジ勘弁なんだけど!怪我じゃすまない感じすんだけどォォ!」

「何でもいいって言ったじゃん銀ちゃん!体で払ってやるって、命かけてやるって言ったじゃない!!」
「そこまで言ってねーよそんな危険過ぎる事?!」
「今なら誰もいないし・・・ね・・?銀ちゃん・・しよう?お願い、銀ちゃんの刀早く抜かせて・・?」
「今からでもいい!!甘いパート戻ってきてェェェェ!!」


その後、皆の万事屋さんがどうなったのかは知らない。




苺先生なら絶対要求しかねないと思ったんだ。
彼女の覚醒を止めるのもカレシの務めです(合掌)銀さんよ永遠に。

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