みなさん、こんにちは。
真選組隊内を地味に支える縁の下の力持ち、ジミー山崎こと山崎退とは何を隠そう俺の事。
そんな俺はただ今、屯所の廊下で暖かい春の日差しに照らされながら、
撃沈しています。
「近藤さァん、アレなんですかィ」
「シッ!総悟!見ちゃいけません!」
などという会話が少し離れた廊下の角から聞こえてくるがツッコミ返す気力もない。
からりと晴れ渡った春の日向も今の俺の周りだけどんより雨マークだ。
紫を極限まで暗くしたような靄が立ち込めて、偶然通りかかった隊士たちが口々に驚きの声をあげた後に通り去って行く。
惜しむらくは全員躓くかと思わんばかりの至近距離になってから気づいてびっくりすることか。こんだけ暗いオーラ出してても俺って地味?
力なく握りしめられた俺の手には一つの携帯電話があった。
仕事用じゃなくて、プライベート用のやつ。
ディスプレイは今は暗くなっているけれど、起動ボタンを押せばまたあの忌々しいメール画面が顔を出すのだろう。
嫌だな、見たくないな、もういっそこの携帯は封印しようか。新しく別のスマホでも買っちゃおうか。そうだ、それがいい。ふふふ。
・・・きみから、あんなメールが来るなんて。
「あッ見て下せェ近藤さん。なんか出てる」
「だから総悟、あんまり見ちゃ、エクトプラズマァァァアアア!!」
完全に魂抜けかけてる感じで死んでいる俺に驚いた局長が肩を掴んでぐあんぐあんと揺らす。
そしてその横では沖田さんがパシャパシャと俺の撃墜された天使のような顔を無言で写メっていた。
ザキィィィいいい!死ぬなァ戻ってこい!
そうでさァ、面白フォトコンテストに応募していいか応えてから死ねぇー。
そんなバカみたいなやり取りを終わらせたのは、やっぱりあの人だった。
「何やってんだテメーらこんなとこで」
「トシ!」
「土方さんいいところに。早くザキにザオリクを」
「生かしたいのか殺したいのかどっちだ」
オメーら三人とも仕事しろ。オイ山崎じゃまだどけ。
ごすごすと鳩尾に容赦ない蹴りを入れてくる副長。
漆黒の闇と化していた俺の瞳に光が宿る。そして歪む。
ぶあっ。。
「副長ぉぉぉぉおお・・・!!聞いてくださいよなんか急にさァ、メールが来てさぁぁ!」
「うわっ何だお前キメェ!!足掴むな!!」
「あの誰にも心を開かなかったザキが・・・」
「流石でさァ土方さん」
「俺は保母さんか!」
「うわああああああん」
「離れろこんの情緒不安定が!」
「落ち着けそうかアレか、そういや今日お前張り込み明けだもんな!あんぱん溜まって辛かったんだな!」
「近藤さん土方さん、ソイツのケータイに女からの別れを切り出すようなメールが」
「「パスワードォォォォ」」
勝手に俺の携帯を開いてメールを発見した隊長が漏らした一大事。
お前の中だけだろとか言われそうだが、そうだよ俺の中では大事件なんだよ!
ご察しの通り、メールの主の女の子とはお付き合いをさせていただいている仲だ。
クールで静かで人見知り。あと甘いものが大嫌い(味覚的にも雰囲気的にも)な俺の可愛い恋人とは、もうかれこれ2週間もあっていない。
ソレもそのはず、この2週間俺は地獄のあんぱん生活という名の張り込みに全身全霊全精力をささげていたのだから!
やっとのことで仕事を終えて明日は非番、今夜会いに行くね。なんてメールをすれば。
『もう二度と来ないでいい』
どういうことぉぉぉおお!!(泣
すぐさま電話かけて問いただしたい気もあれど、「居留守」というリーサルウェポン最大級の拒絶が恐ろしすぎて出来やしない。
あらかじめ断らせていただくが別に俺は何もやましいことなどしていないし、そんな直ぐ振られるような綱渡り的な恋愛をしていたわけじゃない。
俺はを大事にしてたしだって少なからず親しくしてくれてた・・・はずだ。
確かにこの二週間一言どころかメールすら交わさなかったわけだけど・・・、
・・・何が起こるかわからない仕事場にプライベートの情報箱を持ち込むのは命取りだ。
そもそもドライなは向こうからメールをよこすことだってほとんどない。俺からも言うほどはないけど。
あっってのは俺の彼女ね・・・・・・たぶん、今も・・だといいな・・・。
張り込みから帰ってきてプライベートの携帯を開けば、一通だけからメールが来ていた。
内容はいたって取り留めもないことだ。「明日は雨だって」みたいな、本当にどうでもいい話。
まぁ俺が張り込みに行った初日だったから、そのメールに関して言えば2週間近く返信が遅れたことになるけど・・・
なに?!やっぱり返信が遅くなったことが悪かったの?やっぱり女の子はメール送信した直後に着信音なるくらいの高速返信テクの男の方がいいの?タイトルに「〜なう。」とかつけた方がよかった?!
あぁ、思い出したらまた胸が・・・。
「うぷ・・・俺吐きそう」
「はァァ?!ふざけろ!オイ総悟何とかしろ!」
「お安い御用でさァ。しかし俺の腕じゃ救えるのはどちらか片方のみ・・もう片方は刀のさびになってもらいやすがねィ」
「ぜんぜんお安くないんですけど!対価重すぎるんですけどォォォ!!」
「死ね土方ァァァ!」
「ターゲット一択じゃねーかァァ!」
ごとっ、
と音がして、俺の頭が屯所の廊下に転がる。
でもそれは沖田隊長が刀を抜いたわけじゃなくて、いい加減俺の寝不足の限界が来たからだ。
ボーゼンとするあたりの空気を感じながら、俺の思考はそこで途絶えた。
目を覚ますと夕暮れだった。
一応自分の部屋には放り込んでくれたようで、布団も敷いていない畳の上で横たわっていた体を起こせば節々が痛んだ。
思いのほか爆睡していたようで、きちんと睡眠をとれた脳は正常に作用している。
一応、君の家に足を向けるくらいは覚悟もできた。
君の家の前に立って、チャイムを鳴らす。
返事はない。でも家の中からはちゃんと人の気配。居留守だ。
でもまぁ、思ったほどは俺もヘコまない。ここまでこればもう完全に腹は決まっていた。
だって君がなにも無しに俺を嫌いになることなんて考えられないし。
何て言ったらまた君に「心底うっとおしいよお前超うっとおしい」ってな表情で睨まれるのかな。
何事もなかったかのように、まったく平然とした顔で俺は懐から取り出した合鍵で家の中に入った。
「こんばんは」
「こないでって、私言ったよね。帰って」
「理由聞いて納得するまで、帰らない」
「あっもしかしてホワイトデー?!ちゃんと覚えてるって!遅くなっちゃったけど、何がいいかな?イヤリングとか?ネックレスとか?」
「・・いらない」
「・・・やれやれ」
二週間ぶりに愛する恋人と交わす会話とは到底思えない。
それでも俺は君に会えて嬉しかったし、君の声を聴けて心が安らいだ。
「メール返せなかったのは悪かったって。長丁場の任務が入ってたんだよ」
「君だってこっちがメールしても何も返さないときだってあるじゃん」
「・・・・」
「・・・・二週間・・」
「ん?」
「いつもすぐ返事くるくせに・・」
「この二週間・・」
そこで俺は気づいた。君の方が震えている。
「・・・・?」
「どんだけっ・・・・心配したことか・・・」
真選組が平和な組織じゃないことは。舞い込んでくる仕事が決して安全な仕事ばかりではないことは、だって知っている。
そのせいで連絡が取りづらくなったりすることも、期間が開いてしまうことも今までもあったし、そこは理解してくれているはずだ。
でも、たまたま、たまたま自分からメールを送った返事が。いつもは直ぐ、直ぐとはいかなくてもその日か次の日の晩には必ず返ってきたメールが返ってこないと。
大怪我で入院してる時でもメールくらい返せる。生きてるのか死んでるのかわからない。
おかしくなりそうだったと彼女は言った。
「俺はそんな簡単に死なないよ」
「・・・」
「地味って意外とチートスキルなんだよ。絶体絶命でも敵が見逃してくれちゃうの」
「・・地味でいいとこ無しなんだから、メールくらい返して」
「ひどっ。わかった。じゃぁ次から張り込みにプライベート携帯も持ってくようにするわ」
「うそばっか」
そう言って目じりを軽くこすった彼女の身体を、俺はぎゅっと抱きしめた。
返事が返ってこなくて心配するのが、浮気関連じゃなくて身体の心配だなんて、それだけで彼女の気持ちは十分伝わる。
改めて「ホワイトデー何が欲しい?」と聞いたら、「イヤリングとかネックレスじゃないもの。形に残らないものがいい」なんて返ってきたので、絶対に形に残るものをプレゼントしようと決めた、今日この頃でした。
あれ?日記?
おしまい。
***
おまたせしましたタルトのお返しです。
誰だお前ら!!・・というツッコミが飛び出そうなほどバレンタインと違う二人でごめんなさい。
クールに振る舞ってても人見知りで引きこもりな彼女にボッチ危機はつらいのです、って事で。
back