白い息を吐きながら、1組の男女が真撰組屯所の門をくぐり抜けた。
「はー、珍しく真面目に見回りすっと疲れるねィ」
肩をグルグルと回しながら靴を脱ぐ沖田を背後からしらけた顔でが見ている。
「珍しくって認めるんですね。そもそも問題が起こりそうな場面を見かける度にいきなりバズーカ打ち込むのは正しい見回りなんですか」
「何事も起こってからじゃ遅ェんだよ。リスク回避ってやつでェ」
並んで廊下を歩きながら反省会が始まった。
「起こっても殴り合い程度だと思われるものを周囲ごと爆破して小規模地獄を発生させるのはリスク回避って言うんですか・・・?」
「うっせーな、俺はこういう人間だ文句あんのかィ」
「どこぞの大きなお父さんみたいな事言わないでください」
「あーあー疲れた、ほんっと疲れた」
「ああそうですか、お疲れ様です」
「疲れには甘いもんがいいらしいなァ」
「食堂に行けば砂糖くらいあると思いますけど」
「俺は蟻かっ?!」
「じゃあ何が言いたいんですか、回りくどいのは鬱陶しいんですけど」
「上司に向かって『鬱陶しい』とか言うなァァァ!!!俺隊長!お前副隊長!アーユーオッケー?!」
「はいはいすいません。涙目にならなくたっていいじゃないですか」
「なってねーし!!女子ならそこで『そういえばもうすぐバレンタインですね』くらい言えねーのか!!」
「男なら最初から『そういやもうすぐバレンタインだな』ってストレートに言えないんですか。つまりやって欲しいんですね?バレンタイン」
「ハッ、別にィ?ただ時期的にお約束な会話だから振っとこうかと思っただけでェ」
「じゃあ良かったです。私そういうイベント興味ないんで」
「いやいや嘘です、バレンタインやって下さい!一方的に顔知られてるだけのどこの誰かも知らねぇ女からじゃなくて、ちゃんとした相手から手作りチョコレートとか貰いたい!」
「チョコレート・・・じゃなきゃ駄目なんですか?私外来物はちょっと・・・・」
の顔に難色が浮かんだ。
「いや別に、チョコレートじゃなくてもいいんだけどね?どうせ見回りしてりゃそこらの女からわんさかもらうしィ?毎年毎年飽き飽きしてた所だしたまには別のもん貰ってみるのもおもしれーかなとか思ってたところだけどね?」
まったく誤魔化せていない、独り言を装った早口でまくし立てると「別のもの・・・?」とはますます考え込んでしまった。
「そーだなー例えば飴だったりとか・・・・」
「ああ、飴!飴なら作れます」
「手作りか!飴を?!」
「べっこう飴得意です!」
「どんだけ古風なお嬢さんだてめーは?!」
バレンタイン前日。
夕食も済み片付けの終わった食堂のおばちゃんも帰宅した屯所厨房には甘い匂いが漂っている。
沖田は匂いに惹かれるように食堂の奥に進んだ。ポツンと厨房に立っている後姿はもちろんだ。背後からそうっと様子を伺う。
「・・・・え、あれ、もしかして全員分作ってんのかィ」
ズラリ、という言葉では足りないくらいに並ぶ飴の大行列。
「もちろんですよ、沖田隊長に渡すならその上の副長、局長は絶対だし、他の隊長さん達もそうだし、それなら全員分も一緒ですよ」
いやいや、幹部だけと隊士全員じゃ全然一緒じゃないと思う。
「俺だけじゃねェのかよ・・・」
「あら沖田隊長ヤキモチですか?自分だけに欲しかったんですか?」
完全に独り言のつもりだったがしっかり聞かれていたらしい。
「なっ、べ、べべべ別にそんなんじゃねーよ誰が誰にヤキモチだバーローべらんめぇだコノヤロー!!」
「何言ってるのか全然意味がわかりません」
明かりがついているのは厨房だけで沖田のいる側は薄暗い。が、沖田が明らかに狼狽しているのはその中でも一目瞭然だ。
「じゃあ特別に沖田隊長は味見させてあげます、はいアーン」
「なんで上から目線だっ!!」
「いらないんですか?」
「んな事言ってねェだろ貰ってやらァ!!」
そう言ってニヤけそうになる口元の筋肉を必死で制御して口を開けた中に入ってきたのは・・・・固体ではなかった。
「アアアアッッチィィィィーーーー!!!!!!
てめぇ固まる前の飴流し込む馬鹿がどこの世界にいるんだァァ!!何プレイ?これ何プレイだよ!!!」
「え、だって沖田隊長好きでしょうこういうの。ほらロウソクとかで」
「そのイメージィィィ??!!っつか好きだけど逆だし!俺やりたいの垂らす側だからァァァァ!!!」
翌日、他の隊士と全く同じ様にシンプルにラッピングされたべっこう飴を貰ったがとても食べられる口内状況ではなかった。
ちなみに固まる前の飴・・即ち溶けた砂糖の温度は約160度である。
back
seiru 美緒さんありがとうございます*^^*