今年の冬はホントに寒かった。
何十年ぶりかの大雪。麻痺する首都圏交通。
しかしそんな季節も終わりを迎え、だんだんと春の日差しが顔をのぞかせるようになってきたとある日。

たまたまシフトがかぶっていたので連れて歩いていた部下の女隊士が、ちらりと街並みのディスプレイを見やりながらぽつりとつぶやいた。


「もうすぐホワイトデーですねぇ・・・・」





え?!





「?沖田隊長?どうかされましたか」

ぴしゃーん!と体中を駆け巡ったのは電流である。
地獄の猛者どもを手玉に取り従えて、しかし変わらぬ笑顔でおねーちゃんが冥府から蘇ってきたくらいの衝撃でもって、総悟は完全に停止した。
驚愕に目を見開き、振り向いた先のメガネをわなわなと見つめながら一向に言葉を発しない沖田に、は怪訝そうに眉を寄せる。

「何ですか、興味ないって言ってたのに気にしてるのがおかしいんですか」


ちがうよ!!


沖田総悟。真選組一番隊隊長を張る男ともあろう者が、おののき体を震わせた。

蘇る記憶は一か月前のアレやコレ・・・・

アレやコレだぞ?!

お前アレでホワイトで―貰う気でいんの?!




「何買ってもらおうかなー・・」


完全に貰う気でいやがるゥ―――!!




「え?もしかしてまだ口の中にべっこう飴流し込んだこと根に持ってんですか?」
「大したことねェみたいに言ってるけどな!アレ一週間くらいまともに味もわかんなかったんだぞ?!!」

小さい男だなとでも言いたげに冷たい目で射抜くように睨み付けてくる後輩に噛みつけば、やれやれと首を振りながら、一番隊副隊長 はハァ、と溜息を吐いた。
「何度も謝ってるじゃないですか」
「テメーはもっともっと反省しろよ!!」


「だからァ、あの後特別なプレゼントだってちゃんと用意したでしょう。隊長が皆と同じじゃ拗ねるから」
「アア貰ったよ!!でっけーハートのやつ!!でもなオマエそれくれた時の事覚えてるか」
「・・・・」


でっかいハートのべっこう飴。
結局べっこう飴。
廊下で渡される前に手からすり落ちて眼下で粉々になったハートのべっこう飴。


「もう俺べっこう飴食えねえよ!!完全にトラウマだよォォ!!」


「わざとじゃないですって。手が滑ってつい」
「ついじゃねーよ!!ちょこっと盛り上がった俺のハートも一緒に木端微塵だよ!!」

「あ、じゃぁ来年からは作らなくていいのか・・よっしゃ」
「この期に及んでなんで精神攻撃コンボさせてくんの?!どんな鬼畜だよ!!」

ぐぁぁぁ・・・と頭を抱えて空を仰ぐ沖田。ドSのハートは存外に脆い。
「ハイハイ、でもリクエストに応えたのは間違いないんですから、お返しはきっちり3倍返しでお願いします」
どんなリク"S"トですか!?このやろうううう!!(全泣)




「・・で、結局どんなのがお望みだったんですか?」
「・・・・は?」

見廻りも終わり岐路へ着く。屯所の門をくぐったあたりで、が口を開いた。

「バレンタイン。そんなに夢砕かれて打ちひしがれる沖田さんが期待してたバレンタインって、どんなものなのかと思いまして」

あ、勘違いを防ぐために言っておきますと別に気になるとかかなえてあげようとかそう言うんじゃないですからね。勘違いしないでくださいね。
などと言うの言葉など沖田の耳には入らない。
沖田は瞬時に思考を巡らせる。この女がそんな可愛らしいツンデレなどないことは忠告などなくともわかりきっていよう。それよりも。

この眼鏡女・・・は、少々偏った環境で育ってきている。いや、彼女の育ちを乏しめるわけではないのだが、とりあえず恋愛面に関してはまともな知識を与えられて育ってきていないことは確かだ。
それは彼女の恋愛関係の常識の欠如を示している。つまり何が言いたいかというと、

ここで常識と偽ってあることないこと吹きこんでおけば、・・・トキが来たらやってくれるんじゃね?
「そーだなァー」

「参考程度だけどォー」
「はあ・・」
「まァ、俺っつーか世の大抵の男子の常識的な面で答えを言うとだなァ」
「はい」
「やっぱ・・・・・・チョコレート、かな」
「はい」
「チョコレートプレイ、かな」
「はい?」


やはり男と言うものは「プレゼントはわ・た・し★」的なシチュエーションにあこがれるものだ。
ええもうそれは全国共通森羅万象をつかさどる男たちの願望と言っても過言ではないだろう。
全裸・・イヤ、生まれたままの姿よりも多少の布で局部をあえて隠した方が危うさと言う名のスパイスが加わってイイ。
そんな姿でチョコでコーティングされたわが身を人肌でじんわり溶けだしたチョコレートと一緒に差し出すのだ。
「私も一緒にた・べ・て★」


「なんで一昔前のエロ漫画みたいなネタなんですか」
「馬鹿にすんなィ。一昔だけでなく現代も未来永劫このネタは続いていく間違いなく」

ハッそれに比べてテメーときたらよォ、べっこう飴とか。
チョコのように人肌で溶けるから良いのだ。人肌の温度で溶けてトロトロになるからと言う理由でチョコレート会社はバレンタインに進出したと言っても過言ではないだろう。チョコレートとろとろプレイを楽しめと言うのは全国の製菓会社の暗黙のエールなのだ。
ハッべっこう飴とか。
べっこう飴とか、かけたら、火傷するだけじゃねーか。

「分かったかィ」
「とりあえずべっこう飴の事を全力で根に持ってるという事は分かりました」
「頭の中で復唱して全文暗記しとけ。日常生活だけじゃァねェ、これは無法者をしょっ引くにあたっても必ず役にたつ」
「たたねーよ」


「良く見習いなァ、男は舐めるのも舐められるのも大好きな生き物なんでィ」
ふふん、と胸を張って言い切った沖田は内心してやったりだ。
今までは自分はまだまだ手加減してやっていたのだ。沖田総悟を敵に回すとどんな恐ろしい目に合うのか、これを機に身に刻め。

うーん・・・と腕を組んで呻っていたが「フム」と頷く。「分かりました」
えっ。

(わかりました、ってどういう意味?!)
(まさか今のを鵜呑みにっ?!どんだけバカなんだ?!)
(えっ、つーか、つーことは、やってくれるって事・・・?!)


「はい、はい・・・ええ。じゃぁ、お願いします。・・・・・・沖田隊長」
「ハイっ!・・は、何でィ?」
「沖田隊長の願望はよぉくわかりました・・・その願い叶えましょう」
「マジでか!イヤ、つーか今誰と電話してたんでィ・・」
「とある"お父さん"がホワイトデーの望みを言え言え煩かったんで・・すぐ準備を整えてこちらに向かうそうです」
「お父さん?!それって松平のとっつぁんの事?!何が?!向かうって何が向かってくんの?!」
「クレーンと鍋です」


「まず隊服が汚れると洗濯係の隊士さんが大変なので沖田隊長には全裸になっていただきます」

「そのままクレーンでつるして溶かしたチョコ鍋の中に放り込みますので、存分にチョコを浴びてください」


取り出した後は今の季節なら外気でも固まるでしょう。
チョコでコーティングされたわが身を、お望み通り差し出してください。
なに心配いりません。ちゃんとぺろぺろしてくれます。蟻が。

「ちなみに、おそらく蟻は足元から順にたかっていくと思うので、必然的にまず下半身が裸になります」
「・・・・・・・」
「ご自分がされて嬉しいことなら、まずする方の身にもなってみるのが理ですよね」
「・・・・・・・」
「私の事は大丈夫ですよ。そもそも見たくありませんし、立ち合いません」

にこっ。と、が笑う。
効果音はニコニコ聞こえてくるが冗談じゃない。目から殺気がビームだ。超怒ってる。
じわりとうっすら目に涙が浮かばせながら、ふるふる肩を震わせて青い顔で沖田総悟は微笑んだ。



「あっちなみに調理する時の溶かしたチョコレートの適温は50〜55度です。お風呂にはちょっと熱いかもしれませんね」


「まあ、べっこう飴よりはましだと思いますけど」



なんてこった。

もう、チョコも食べれない。













おわり。

え?通常営業でしょうコレが(確信)(´ワ`*)


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美緒さんありがとうございました*^^*