情報収集と言うものは、
敵地を偵察するうえで最重点項目の一つと言っても良いくらい重要だ。
その点で言えば、やはり自分は監察に向いているのかもしれない。
そんな事を考えながら、真選組監察 山崎退は欠伸を噛み殺しながら勝手口へと足を進めていた。
例えばこれがそう、かなり大雑把なたとえだけれど、もしこれが雑談一つでも気を使いそうなこわーい鬼の副長とかだったら。
自分のイロコイにはさっぱりのくせして他人の事になるとまるで有段者かのようにノリノリでおせっかいを焼くであろう局長とかだったら。
真逆に,
どす黒いオーラと裏腹に満面の笑み(黒)を浮かべながらよからぬことを企むであろう一番隊のドSとかだったら。
・・いやゴメンなさい沖田隊長センパイとかだったら。
『今日、これから万事屋の旦那が来るらしいぜ』
情報とは扱い方に癖があって、
発信は派手な人が適任だが、受信は地味な奴が得意だ。
情報だって考えて動く。折角手に入れたネタを吐き出す相手は、人畜無害な地味な聞き上手がまさにうってつけなのである。
実際真選組のトップ人は同じ屋根の下に居ながらも隊士たちのうわさに疎い。
いい意味で群れるのが好きな局長は見かけては入りたがるが、そもそもあの男に話したらもはや噂ではなくなるし、
副長は副長でそもそも怖いし。普通の雑談ならまだしも根も葉もないうわさとか・・気に障って殴られたら痛いし。
実際、一応重要そうな噂はさりげなく報告の隙間に流し込むようにして入るが、3回に1回は殴られる。
沖田隊長だって案外疎い。と思いきやあの人は都合のいい噂は聞きつけるというか強奪していく気がするが、今は置いておく。
とりあえず何が言いたいのかと言うと、
真選組の裏事情を華麗に操る山崎さんカッケー!・・・じゃなくて。
とりあえずカシャカシャと手を動かした。
「さっすが。どこで仕入れてきたのソレ?」
いい感じに持ち上げて気持ちよく話す舞台を整えてやれば、情報と言うものは喜んでこちらを見てくれる。
真選組の華、 と万事屋のぐーたら旦那が恋仲にあるのではと言う“噂”は、一部の隊士たちの間では有名な話でだ。
先月のバレンタインでは手作りの焼き菓子をプレゼントしたとか何とかまで。
名誉のために言っておくが、俺は広めてない。
先ほどの続きではないが、都合のいい噂をイチ早くキャッチするドSが元凶である。
ちなみにその元凶による、まるで勤務時間にもかかわらずその場を見て来たかのような言いっぷりである噂話によると、
甘く焼けたその焼き菓子は無事に旦那のもとにわたったそうな。ウンよかったよかった。
あー、まあ分かりやすすぎるこんな季節に、嫌いに嫌っている真選組の門を万事屋の旦那が叩く訳は、
・・・まあ、分かりやすすぎるくらい簡単なことで。
因みに本人のは本日終日待機勤務なので屯所から出られないのである。さらに言うならば、これまた“噂”によればこのシフトは隊長権力をフルに活用した沖田隊長による所業らしい。
どんな鬼畜だよ隊長。イヤほめてねーよ。
イヤ、イヤ、話がずれた。
とにかく本日旦那がに会いに来る建前は、忘れ物のハンカチを届けに来るのだとか。
「たーのもー!」
そんな元気のいい声がして、俺は他の隊士に先を越されまいと風のように台所を飛び出した。
案内を呼びに行こうとしていた門番の隊士を引き留めて、門で待つ客人の元へと出向く。
どうでもいい時はちょこちょこ街で見かけるのだが、真選組の門の前に立つその渦巻き模様と赤いチャイナ服がやけに新鮮に感じた。
・・・と、おいちょっとマテ。
「よォジミーおはようさん」
「走って迎えに来るとは良い心がけアル!」
なにチャイナ連れてきてんだよ。
元気のいい声が聞こえたあたりからうすうす予想はしていたがこのていたらく。
オッサンにもなると彼女の家にホワイトデーを渡しに行くのにすら子供と言うダシが必要になってくるのだろうか。
全く情けない。
挙句の果てに。
「珍しいですね、旦那が真選組に来るなんて。誰かに用ですか?」
「あー、ちょっと、に・・・えーと、あ、別によばなくていいんだけどよ」
「はァ?」
「えぇ?!」
「・・いえ、続きをどうぞ」
うだうだ長かったので割愛する。
要約すると、何やら入った紙袋を差し出して、
「こないだ忘れてったハンカチを返そうと思ったが謝って犬と子供が汚してしまったのでお詫びの品も・・」と。
予想はしてましたが旦那チキンすぎです。法スレスレの怪しい仕事柄警察コワイとかの問題じゃないです。
つーかホワイトデーのお返しくらい自分で渡せよ!
・・・とまあ、これも想定済みだったので。
「まあ、さんならきっと今休憩中でしょうし、直接渡したらどうですか。お茶くらい出しますよ旦那」
「え?!えぇ、いいよ!ちょっと偶然寄っただけだし?」
チ!どんだけビビりだこのオッサン!
そんな事を思っていれば、目の前の可愛らしい女の子も同じ考えで可愛らしからぬ表情(舌打ち)をしているのが目に入る。
「・・・せっかく丁度茶菓子にチョコレートケーキがあるのになぁ・・」
「なにィ!銀ちゃん!それは休憩していくしかないアルゥ!」
「うごふ!」
刹那響き渡る地響き。哀れ怪力少女の渾身の一撃を鳩尾に食らった旦那が膝をつく瞬間であった。
「どうしたアル銀ちゃん!気分が悪いならなおさら休憩していくヨロシ!」
「寧ろ救急車呼んで欲しい気分の悪さなんだけど・・!」
気分悪そうに真っ青になる旦那の事情も“噂”で知っている。
どうやらクリスマスから派生した恋人疑惑の噂の一件があまりにも屯所で蔓延したため、副長直々にキツーイ釘を刺されたのだとか。おそらく屯所付近で噂になるような変なことするなとか。
副長もあんまりだよなあ。ピリピリは旦那を経由してさんまで感染している。
罪のない彼女が一喜一憂しているのをみるこちらの気持ちも考えてほしいものだ。
「銀さん?!」
適当に言いくるめて客間に連れてきたさんは、驚いた中にもちょっとうれしそうだった。
お茶を取りに行くためにいったん部屋をあけて、戻ってこれば、気まずそうな顔をした旦那。あとさんの前の机にはハンカチが。
・・・ハンカチだけ?
「・・旦那?」
「えっ何?あ、コレ?別にこれはいいんだよ・・ただの入れてきた袋だし」
「イヤさっきお詫びの品って」
「お詫びの品?何ですかそれ?」
「えっ!何でもない何でもない。何キミ地味すぎて何言ってるかわかんないんだけど!」
「腹立つなアンタ!」
まったく、ほんとにこの旦那は。ため息しか出てこない。
ちなみにチャイナっ娘とワンコは気を利かせてかそうじゃないのか、中庭で沖田隊長と決死のじゃれ合いを破壊の限りかましていたので、持っていた茶菓子を口の中に突っ込んで黙らせておいた。
同じように・・・こっちの旦那にも黙ってもらうことにしよう。
「うわ、今日の茶菓子なんか豪華じゃない?!いいの、私の分も」
「いいよいいよ。まあ味は保証できないけどね」
ことり、と目の前に置いたのは、お皿に切り分けたブラウニー。
甘いものは気まずさも重い空気も溶かす。食べればこの二人だってきっと。
「甘くておいしい!」
「やっぱ糖分は神だよなー」
「そりゃよかった」
「これどこのお店の?」
「秘密。それより、それ俺からのホワイトデーだから」
「え?」
「毒見でも一応貰ったもんは貰ったからね。いやぁほんとあの時は大変だったな」
「ちょ、ちょっと退くん!」
可愛らしく真っ赤になるさんの横で旦那も思考を巡らせて赤くなっていた。
あんなに一生懸命手作りチョコをさんは用意したんだ。ほんのちょっぴり程度の旦那の気まずさのせいでお返しがもらえないなんて、彼女があまりにも気の毒じゃないか。
万事屋の旦那が背中に持った小さな紙袋をぎゅっと握りしめたのを確認して、俺は部屋からおいとました。
あの袋の中身だって情報は回ってきているのだ。万事屋3人、子供も含めてわいわいしながらさんのために作ったクッキーなんだとか。彼女が喜ばないわけないのに。
とりあえず、これで最近出回っている「万事屋の旦那とが最近ぎすぎすしている」という根も葉もない噂はでまかせとなるだろう。
廊下へ出れば奥の縁側で、隊長とチャイナ娘が並んでかけて何やらにこやかに会話している風景が目に入った。
チャイナの膝には箱いっぱいの酢昆布の袋。え、何?あっちでも春が来てるの?
こちらに気づいたチャイナ娘が嬉しそうに手を振って俺を呼ぶ。
「おいジミー!さっきの美味かったアル!お代わりないアルか!」
「どうもお粗末様です。残念だけど1個しか焼いてないんだ。隊長からホワイトデー貰ったの?」
「ホワイトデー・・?なんで貰ってねー奴に返さなきゃなんねーんで。キモイ事言うな山崎キモイ」
「連呼しないでください!え、でもじゃぁそれは・・?」
「情報料ヨ。銀ちゃんの恋事情の」
「今回もいいネタいっぱい貰ったぜィ。当分困んねーな」
「何してんのアンタら?!」
「まったく・・・敵対する輩と利益がここまで一致するたァ、恐ろしいもんだねィ」
「まったくアル!」
ホントまったくだよ。つうか隊長の情報源がコレだったことに驚きだよ。
「それにテメーも、いい仕事すんじゃねーかィ」
にんまり恐ろしい笑顔に身震いした真相は後日知ることになる。
今回の一軒を面白おかしく「山崎もを狙っている」的な文句まで入れて噂されて、もみ消すのにどれだけ苦労したことか。
そして副長にも殴られた。
アレ俺確実に損じゃね?!
おわり
大変お待たせしました・・・!
半年近くたっちゃいましたけど・・ホワイトデー、お返しさせていただきます!
銀さんがヘタレすぎるww
バレンタイン有難うございましたー!
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月葉さんありがとうございました*^^*