冷たい風も少しずつその勢いを弱め、
柔らかい日差しとともに小鳥のさえずりなんかも聞こえちゃったりしてきちゃうような、
そんなとある季節。
春眠暁を覚えずでぐーたらするのもそれはそれは魅力的であるが、今日はそれを上回る特別な日なので朝っぱらから早起きして準備万端。朝シャンしたし普段はもっぱらしないメイクもばっちり!こないだセールで買ったおニューの春服を翻して、真選組の雑用娘と春デートなんてしちゃったりしちゃうのだ!
「みゅう〜っ!」
「おまたせちゃん!ごめんね、待った?」
「いいや、僕も今来たところさ(イイ声)。んじゃぁ出発ー!」
「ちゃんとショッピングなんて久しぶりだね、嬉しいな」
えへへとほんのり頬を染めながらはにかむみゅうに私もほんわか表情を緩める。
うんうん、相変わらずかわいーなぁかわいーなぁ。
やっぱ女の子はこうでなくっちゃぁ。
「そのショーパンかっこいいね。似合ってるよ」なんて私の格好を褒めてくれる、そう言うみゅうも春色のワンピースを着ていた。おそらくおニュー。
女子力あふるるふりふりふわふわに目がくらむ。何かの折に咄嗟に尻でも揉めないだろうか。
そんな欲望にたびたびかられながらも二人で歩くのは賑わう江戸の商店街。雑貨小物から衣類・食品、怪しげな薬まで何でもそろうショッピングの定番の通りだ。
お江戸に住んでいて何か欲しいものがあれば大体みんなここに来るような。
「ぐふふ」女の子らしからぬ笑いが漏れる。
世間ではだんだん春の訪れを感じつつある本日は、何を隠そうホワイトデー。
バレンタインに頑張った人が頑張っただけご褒美をもらえるホワイトデー!
誰が何と言おうとひねくれた私の中ではそんな違う目的の行事と化してきているこの日も、は案外嫌いじゃなかった。
しかも今年は。
一週間前から予約してキープしてあるみゅうの隣!ふははは男子どもの悔しがる顔が目に浮かぶようだわ!
さらにそうなると必然的にみゅうにホワイトデーを送ろうとやってくる男どもから自動的に私も回収できるという特殊能力発動。
この日のためにバイト代をはたいて買った新作春コスチュームで、いつもいっつも舐め腐ってくる奴等に一泡食わせてやるのだ。
『よぉみゅう。コレ、ホワイトデーのお返しな』
『ありがとう銀さん』
そこにソフトクリームを持ってさっそうと現れる一人の美女。
『おまたせみゅう。アイスどっちがいい?(キラキラ...)』
『えっ』
『ちょ、みゅう、みゅう!隣の美しい方は一体・・・?!』
『えぇ?何言ってるの銀さん?ちゃんだよ?』
『エェ?!』
『やぁ銀さん。どうか、した?(果てしなくイイ声)」
キラキラキラ...
『あのよ、・・・お前・・』
『こんなに、美人だったんだな・・』
ぷぷぷ!
んな事ありえないとは分かりきっていても妄想するのは自由である。
この日のためにお妙ちゃんとさっちゃんに必殺メイクを習っていたのもそのためよ!
「ちゃんはしゃぎ過ぎー」
うふふと微笑むみゅうはの心のうちなど微塵も知ってはいないだろう。
そんなやり取りを交わしているうちに、第一のカモを発見する。
あまりにも場違い。可愛らしい雑貨屋から出てきたのは万事屋坂田銀時だった。
みゅうに気づいてギクリと体をこわばらせた銀時は、次にその後ろのに気づいて目を丸くする。
みゅうが笑顔で手を振った。
「お、おう・・オメーらそろって買い物か。仲良いな」
「こんにちは銀さん。銀さんもお買い物ですか?」
「まーな」
普段はマダオのこの男が真選組の猫に心を寄せているのは知っている。
街で偶然会えたみゅうに多少感動しているのであろう銀時は、少ししどろもどろになりながらも嬉しそうにみゅうと会話をしていた。
・・が。何故?
せっかくみゅうとお話しているというのに、さっきから銀時の視線はちらちらとを追っている。
「?どうしたんですか銀さん」
気の付くみゅうが首を傾げた。
あー、とかうー、とか頭をぼりぼり掻いた銀時は、少しだけ気まずそうに口を開く。
「・・」
えっ?わたし?
「悪い、みゅう。ちょっと、ほんのちょっとだけ、コイツ借りてもいいか?」
ほあああああ!偉いことになってしまった。
万事屋のテンパ侍に腕を引かれて路地裏に連れ込まれるなんて、私はどんな悪夢を見ているのだろうか?!
アンタみゅうが気になってたんじゃないのか!心臓がばっくんばっくん言っている。
言葉を選ぶようにもごもごと口を動かす銀時は気まずそうに頬が真っ赤だ。ヤダ何このオッサン可愛らしい。
「あのよ、・・・」
「は、はい」
ごくりと咽を鳴らせば、同時にの目の前でぱんっ!と音がした。
ぺっこり角度は90度。深々とお辞儀をしながら頭の上で手を合わせるオッサンの姿。
「悪ぃ!一生のお願い!金貸して!!」
どごす!!
「何か凄い音したけど大丈夫ちゃん?!」
心配して慌てて様子を見に来てくれたみゅうの横を風のようにすり抜けて、は泣きながら走り去った。
うわあああん!!バカバカ銀さんの馬鹿!!
所詮私は銀さんにとって緊急時の豚さん貯金箱に他ならないんだ!
つーか従業員からたかった金で好きな子にホワイトデー買うって人としてどうよ?!
溢れる涙で前が見えないまま角を曲がれば、向こうから歩いてきていた人と正面衝突した。
流石。向こうは鍛えている警察官。がしりもちをついただけで、相手はビクともしなかったけれど。
「おっと、どうした不審人物」
「ちゃんじゃない、大丈夫?」
現れたのは真選組副長土方とそのお付きのあんぱん。
傷ついた女の子は優しくされるとコロッとなびいてしまうものなの。
大丈夫?と差し出されたあんぱんの癖に男らしい広い手にしがみつけば。
「そいやウチの猫見なかったか」
「テメーらそろってどいつもこいつも愛猫家かァ!!」
「あ、そうそう。俺も渡したいんだよね。ちなみにこっちはちゃんの分・・」
「ジミーに貰ったって嬉しくねーやい!!」
「ひどっ!」
再びその場を駆け出す。くやしいくやしい。
みゅうに罪はないのは分かっていても涙が出てくる。だって女の子だもん。
年齢も性別も国籍も一緒なのに、モテる奴とモテない奴の違いは一体何なのか。
私がモテないのはどう考えても周りが悪いとしか言いようがない。
「ぐすっ・・・リア充ばくはつしろ・・・」
結局楽しみにしていたみゅうのデートも、半分も楽しまないうちに逃げ出して迎えた夕暮れ。
わんわん泣きながら走って何度も転んだせいで服もほこりまみれ。ごしごしこすった目元はメイクも落ちて腫れぼったい瞼が覗いている。
河原の坂に腰をおろして、はキレイな夕暮れを見つめていた。
ふと、川沿いの道を向こうからのんびり歩いてくる黒い隊服が目に留まる。
真選組の、アレは隊長服だ。
「チッなんだ、沖田総悟か・・」
ずびびーっ、と鼻をすする。
こんな日に一人さびしく河原でたたずむわたしを見て、奴の事だきっと大喜びでからかってくることだろう。
そしてもしかしたら、が泣いていることにちょっと驚くかもしれない。
ぐすっ・・、くすん、(かよわく高い声)
『不細工が普段に増して不細工になってら』
『うるさいうるさいうるさいっ』
『へーへー。とにかくさっさとその鼻水拭きなせェ』
『おまえのハンカチなんてどんな仕掛けがあるか怖くて使えないっ』
『心配ねェよ。そいつァ今日買ったばっかでさァ』
『ふぇっ・・?』
『元からアンタにやる予定だったモンでィ。精出して汚しな』
慌てて顔をあげればすでにその場を立ち去ろうとしている沖田の姿。
『アンタも、たまには女らしいトコあるんですねィ』
・・・その耳は夕日に照らされて仄かに紅く見えた・・・。
コレだーーーーーー!!!
ぐしゅぐしゅと真っ赤になった鼻をこすりながら、急いでのどの調子を整える。
はかない声、はかない声。私だって泣き声くらい女の子のアレなのだ。
「ぐす・・あ、あー、んんっ、ア、アー、ふが・・・・ぶえっくしょいィべらぼーめェェ!!(※くしゃみ)」
ヤバいコレ、ついに私も花粉症かしら。
げほんげほんと咽返る自分の呼吸器。改めて、・・・・くすん、と鼻を鳴らす。
夕日を物憂げに見つめるかよわい少女をイメージして。ハァ・・・と悲しげなため息。
んんっ、
くすん、ぐすん・・・
くすん・・・
なかなか来ないな、そう思って残りの距離を測ろうとチラリと視線をあげれば。
馬鹿・・な・・・、
消えた・・だと・・?!
気をつけろ!奴ァ後ろからくるぞ・・イヤ、上・・ナナメ・・下だァァァ。
一人キョロキョロしたのちに、反対側の道の結構向こうの方にそそくさと早足で去って行く彼の姿を発見する。
完全スルーだァァァ!!!見てないことにされたァァァ!!!
確実に「チョーめんどくせー」的な感じでガチでスルーしてきやがったァァァァ!!
「ぶわぁぁぁんあの野郎おおお!!こんど会ったらみゅうの前でズボン下げてやるぅぅ・・・」
どれだけぐすぐすとぐずっていたのだろうか。
いつの間にか日も落ちてオレンジだった空も薄紫色に。
そろそろ春と言えども日暮れ後は肌寒い。ていうか今日は特に無駄に張り切って露出が高めの服だから余計に。
うう、寒いよ寂しいよ。
・・ドラえもーん・・・
「へいへいどーした、のび太くん」
「ホギャァァァァァァァ!!!」
「いっでェェェェェ!!オイ馬鹿やめろ!」
暗闇の中すぐ後ろでそんななぞの声がのんびり響いたもんだから、びっくりして咄嗟に略十字小手なんかキメちゃうのはどんな女の子でも一緒だよね。不可抗力だよね!
「ギブギブ!最近柔軟やってないから銀さん筋切れる!おい!」などとのたまう隣の不審人物がよく知ったくるくる銀髪だと解って、私は慌てて腕の力を弱めた。
「・・・ぎんしゃん」
「あぁ?・・ぶふっ!お前」
どうしてここに、そう尋ねようとすれどもその前に私の顔を覗き込んだ銀さんに爆笑される。
「あーあー、化粧べったべただなオイ。どんだけ拗ねてんだァ」
「わ、悪かったわ・・ぷ!」
「ホレ拭け拭け。全部落としちまえ」
「いやよォ!女の子がすっぴんなんてェ」
「ふざけんじゃないわよォ!オメーのすっぴんなんざ毎日見飽きとるわ」
ごしごし容赦なく私の顔の上を往復する着物の裾からはほのかにオッサン臭がしたけどそれは黙っておいた。
それより明日の新八ちゃんが不憫でならない。
何も考えず銀さんは拭いてくれてるけれどキミ、服についた化粧はなかなか落とすの大変なんだぞ。
そんな事を考えていれば「体も冷えまくりじゃねーか」と生温かいオッサンの手のひらがあらわになった太ももにぴたりとあてがわれたのでびっくりした。
ひいいセクハラは私の専売特許やでぇぇ!
「寒っ!」
「無理して生意気にも絶対領域なぞにチャレンジするからこうなるのだバカめ」
「うるさいへんたい!犯罪者!」
「ったく、おら帰るぞ。なにかじかんで動けないなら優しい銀さんがおぶってやろーかァ」
「いらないっ、一人で歩ける!」
あーあ、ここで素直におぶってもらうのが可愛い女の子なんだろうな。私には到底無理な芸当だ。
よろよろ立ち上がる私を、銀さんはずっと待っててくれた。
「・・おなかすいた」
「今日はホワイトデーだからな。ガキどもが張り切って鍋作って待ってんぞ、肉なしの」
「肉なしかよ。それもはや水と野菜と鍋きゅーぶじゃん。ホワイトデー関係ないし」
「何言ってんだ。ホワイトなうどんさんもいるわ」
ぐぅ。お腹も鳴る。
「帰りにスーパー寄って」
渦巻きの、若干オッサン臭い着物をぶかぶかに羽織る。(原付寒いとのたまったら着せてくれた)
渡されたヘルメットのベルトを締めながらぼそりと呟けば、面倒くさそうに見上げるオッサンと目があった。
「肉のない鍋なんてヤダ、から、私が買う」
「マジでか、じゃァ寄ろう」
「ホワイトデーだからね」
意味が解らん。自分で自分に突っ込みを入れる始末。
「おう、今度はちゃんと食える奴にしてくれよ」
そんなに呆れたように笑いながら、銀さんは原付のエンジンをかけた。
大変お待たせしました会社の先輩ことジャムさんへ。
思いのほか長くなってしまった。でも描きたかったことがかけて満足です*-ω-*
ぶえっくしょいべらぼーめぇぇ(くしゃみ)、は、ほんとに、衝撃的でした。(遠い目
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ジャムさんありがとうございました*^^*