お日様はだんだんと温かくなっては来ているものの、まだまだ風が寒いとある日のこと。
非番の沖田総悟は私服の袴姿にマフラーを巻いて、地域の特産からペットの首輪まで何でもそろう大型百貨店「伊勢屋」へと訪れていた。
毎年この時期はお江戸中の男性たちを悩ませる。つまるところホワイトデーのお返しだ。
思い返すのは一か月前。あまったるーいチョコレートがこれでもかと言ったほどぶっかけられた、これまたあまったるーい焼き菓子。
あんな量だけの安物なぞに本気度の高い高級返しを施してやる気などさらさらないが、いざ何を渡そうかと考えれば思いつく適当なものなどなく。
今日は偵察に来たわけだ。世のフツーな男たちがフツーの女にどんなフツーな贈り物をするのかを。
もちろんそんなフツーなものは総悟は絶対選んだりしない。お前たち(誰)はあの女を甘く見過ぎている。いや甘いのに間違いはないのだろうが。
あの女と言うのは他でもない。かぶき町の一角で小さな団子屋を構える冴えない娘の事なのだが、あやつああみえて案外腹の中はちゃっかりしている。
旦那と言うカレシを持ちながら、バレンタインデーなどと言う世の男たちが浮かれている時期を見計らってあえてメニューを増やす悪事(限定チョコ団子(一日30本限定)。
彼女を慕っている輩も少なくはないというのに振りまく笑顔。「おまけ」で茶のおともに付いてくるダース(2粒)。
一体どれだけの輩に愛想とチョコを振りまいたのだか。一か月後を計算しての事だとしたらとんでもねぇ女だ。
まあ、何が言いたいかと言うと、
その他大勢と似たり寄ったりなものを送るのは総悟のプライド的に許さないわけで。
だからといっての男でも買ってやれないような明らかな高級モンを渡せば、なんだかこちらだけ張り切っているようで格好悪い。
イヤ旦那より高級品が駄目って、それって10円ガムがボーダーラインじゃね?それ以下のほとんどの物がアウトにならね?なんて考えながら辿り着いた伊勢屋ホワイトデー特集企画「ホワイト・おぶ・でっど」売り場の一画にて、ぴたりと足を止めた。
まあ軽くあたりを見渡してみたが、財布や香水も並んではいるが、まあ菓子類が多い。
要するにバレンタインの売れ残りをパッケージを変えて男→女用にチェンジしただけが大半だ。
そんな大半の中の一つに、総悟は心を奪われた。アクリルのケースの中にだいじそーに展示された、チョコレート。
それは総悟がいつも懐に入れているキーアイテムと、同じ形をしていた。
世の中には器用な奴もいたもんだ。
ディスプレイに飾ってあったものは、チョコレートで出来た手錠だ。しかもかなり精巧に作られている。
あっちにはチョコで出来た首輪も、さらに鎖まで。鎖とかどうやってできてんだ?!
クリアケースの隅にはコック帽をかぶった男の写真。コイツが作ったというのか。コイツ、できる。
などと思いながらも、総悟の脳裏にはふと思い当たるものがあった。
団子屋の、の、言ってたチョコってのはコレの事だ。
一か月前のチョコレートの日、彼女はコレを目指して総悟を引っ張っていたと言う訳か。
まあその目的は途中のワッフルで閉ざされてしまったわけではあるのだけれども。
確かにこれは総悟に見せたくもなるかもしれない。実際仮にがあの時誘惑に負けずここまで総悟を引っ張ってきていたとしたら。
すげえ、なんて言いながらちょっと見とれていたかもしれない。
ある意味良かった。そうなってしまえば随分と寄りに持っていかれてしまっていただろうから。
ちなみに値札を見て固まった。なんで?!60円の板チョコ2枚分くらいの体積であるにも関わらず0が2つも多いという罠。
・・と、その時ふと妙案が思い浮かんだ。
ホワイトデーで、自分の方がこの首輪を彼女に送ってやったらどうだろう。
びっくり大きな目をぱちぱち瞬かせた後、あはっ、と噴出し笑うの姿が目に見えるよう。
「そうそうこれ!あははは沖田さんも見つけたのね!すごいでしょー!?」
和んだ雰囲気にかこつけて余計な要求まで。
「つーわけでアンタにやりまさあ。つけてみてくだせーよ、ここで」
「えー?イヤよ溶けちゃうもの!」
「え?溶けねー方がお望みで?仕方ねェなあ(装着済)」
そのまま嫌がるウサギを連れて市中連れまわしの刑に繰り出すのだ。ぁあ・・・なんか、イイかも。
あいにく総悟は高級取なもので、自分が面白いと思ったことに対しては出費は惜しまない。
まあ自分もバレンタインで量は貰っているわけなのだから、今回はこれくらいサービスしてやってもいいか・・
そう思いながら伸ばした総悟の手が、ぴたりと止まった。
「あー!もう、銀ちゃん。そんなきょろきょろしない!」
この自分が聞き間違うはずもない。遠くから聞こえたその声は、噂をすれば何とやら。
たった今まで自分が思いを巡らせていたおだんごウサギの声だった。
こうしちゃいられない。声の方向で大体の位置関係を掴んだ総悟は速やかに適当なディスプレイの後ろに身を隠す。
あの娘の事だ。きっと総悟がのためにプレゼントを選びに・・なんてらしくないこと、鼻で笑うに決まってる。
何度も言うがあの女相当たちが悪い。更に言うとあの女の男もたちが悪い。きっと総悟がのためにプレゼント(ry
つーかなんで旦那同伴でホワイトデー売り場に来てんだ。自分で選ぶ気か。つーか旦那にそんな金はあるのか。旦那はホワイトデーに来てまでも小娘に甘味を買ってもらうつもりなのだろうか!
普段の捕り物よりも神経を張って気配を消す。聞き耳を立てれば聞こえてくるのはこんな会話。
「なあ・・ちゃん?いい加減機嫌なおしてくんない?ホラ銀さん反省してこーやって荷物持ちやってんじゃん」
「ふんだ!コレはお金払って正当にお願いした依頼なんだから当たり前でしょ。銀ちゃんなんか知らないっ」
「ちょっとひどすぎない?!銀さんこれでも一応病み上がりなんですけどっ」
よくわからないが病み上がりの旦那とはただ今喧嘩中の様。
つーかカノジョの荷物持ちするだけでも金取ってんのかあの貧乏神がっ!
「知らないよっ!銀ちゃんなんて『やっぱ甘味は質より量だなァ』とか言って紙袋に飛び付いてお腹壊してればいいのよ!」
「悪かったって!お前のチョコより山積み紙袋に反応したのは謝るから!」
・・と思ったら原因俺だった!
てかアレほんとに食ったんかい!そして食わせたんかい。毒入ってるかもっつっただろうが!
どうやら自分も無関係じゃない模様。これはますます出くわしたら面倒なことになりそうだ。
巻いていたマフラーで鼻元まで顔を隠しこっそり退散しようとディスプレイの陰から出ようとしたところで、こちらを指差して「あ!」と声をあげたと目があった。
ヤバい、と思って再び身を隠すも時遅し。
ぱたぱたこちらに駆け寄ってくる足音にどうする俺!?とライフカードの切り方に迷う。
しかし、いつまでもが言葉を発しないのに疑問に思ってそおっと視線をあげれば、は総悟が隠れていたディスプレイの中身の方に夢中の様だった。
あり?つーかこのディスプレイって・・・・
透明なアクリルケースの中にムーディに並べられたのは、チョコレートで出来た手錠や首輪だ。
それをじーっと、大きな目で見つめるは、すでに後ろの方で取り残されている銀時のことなど眼中にない。
しばらくケースの中に夢中になっていたはすっ、とケースの隣に並べられた箱を一つ手に取り、
・・おもむろにくすり、とほほ笑んだ。
えっ・・・
なんでござるか今の表情。ま、まさか拙者の事を考えているでござるか。
思わず胡散臭い侍口調にもなるというものだ。
旦那と言う男が横に(今は後ろだけど)いるというのに、その視線に今映っているのは。
ゆるゆるに緩みきった、その嬉しそうな口の中で言葉になっている名前は。
嬉しそうに持っている箱を握りしめる、そのチョコレートの行き先は・・・まさか・・・
普段は客と店員。その枠をかたくなに守るこの娘にも、総悟のあずかり知らぬところで自分を想う時があるのだと。
「おう、どーした?」なんて銀時がの後ろからやってくる。
「うん、なんかね、このチョコレート見てると・・・」
ごくり。
総悟の喉が続きを促すように、音を立てて鳴った。
「おわ、何だこのチョコ。なんか沖田君みてぇだなァ」
(テメーが言うんかいィィ!!!)
心の中で全力で叫ぶ。テメーじゃねェェェ!!
「あっ、やっぱり?銀ちゃんもそう思う?」
「まーこれで浮かんで来ねー奴はいねェだろ」
「あぁ・・やっぱり・・」
「あ、まさかこれにまで怒んなよォ?アイツインパクト強すぎだもん、不可抗力だって」
あぁ・・って何!!やっぱりって何が!?不可抗力ってどういう事だコラァァ。
俺のアイデンティティっていったい。
「ホレそろそろいくぞ。友チョコの返しあといくつあんの」
仲睦まじく去って行くカップルを見りながら、げんなりとした気持ちで総悟は売り場を後にした。
帰ろう。うん。
そんな可愛そうなわんこをちらり振り向きながら見やって、万事屋坂田銀時はにんまり口角をあげたとさ。
バレンタインじゃ世話になったな沖田君。
「俺からのホワイトデーだ。しかとその魂で受け取るがいい」
「あー銀ちゃん!?の知らないとこでまだ誰かからもらってたのっ?!」
おわり
え、だって、こういうのをおのぞみでしょう?(確信)(´ワ`*)
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すみれさんありがとうございました*^^*