その昔―――
ローマの司祭であったウァレンティヌスは、結婚を禁じられた恋人たちの結婚式を強行し、処刑されたと伝えられている。
その命日である2月14日は、恋人たちの日とされ、現代のお江戸では女が男にチョコをあげちゃったりする日


「なんだってさ!」
「・・・・・」


ずるっ、とつけていた豊かなあごひげを取りながら、ドヤ顔で見下げてくるかつての戦友に。
彼の方をちらりとも見ずに、ふーっ、と長く紫煙を吐き出して、更にしばらくの沈黙の後。

「つーか喋ってたのお前かよ」







「まあ、江戸時代に住む俺達にはなんの関係も無い話だがな」
「聞けよヅラ」
「ヅラじゃない桂だ。全く、何故貴様がここに居る。リーダーともあろう者が一人でのこのこと・・器が知れるな」
「その言葉そっくりそのままお前に返そうと思う」

人気のない神社の境内に腰をおろして。
包帯で隠れていないほうの目を呆れたように細めて、高杉はため息と一緒に煙を吐き出した。
世間では名の知れたテロリストとは言え、なにも自分らも毎日そのような動きをしているわけでもない。縁と浮世は末を待て、である。
そんなとき高杉はよくこの神社へと足を運んでいた。何を期待するわけでもない。ここはいつも静かでいい。
鳥居から続く長い階段を下りればすぐそこが繁華街なのに。

しかし、今日は「いつも」通りにはいかなかったらしい。厄介な顔見知りにばったり出くわしてしまって。
真選組の追手から逃げるために神主に変装していた、と言いながら体の前でくるくると「付け髭」を回す阿呆に「ついでにその暑苦しいロン毛も脱げ」と言いたい。

「ヅラじゃない地毛だ」
「まだ言ってねえ」



・・・ふと、二人そろって会話を切る。
というのも、音がしたからだ。からんからんと石段を上る、少し急ぎ足で子供の用に転ぶのではないかと若干心配になるような、少々心もとない下駄の音。
やがて階段を上りきって鳥居の前に現れた、見知ったチョコレート色の頭に、
高杉は自分でも無意識に、微かに瞳を細める。
こちらに気づいたあちらも、まるでいい予感が当たった時のように。寒さで鼻頭の赤くなった顔をぱっと明るくさせた。

「こんにちは!」






「寒いですねえ。週末には降るらしいですよ」

そんなことを言いながら白い息を吐く娘は、ダークブラウンの髪をお団子にまとめ、着物用の羽織では物足りなかったのか洋風のコートの上からマフラーまで。さらにはもこもこの耳当てまでつけると言う防寒装備っぷり。

「あっ、こんにちは・・この神社って、神主様いらっしゃったんですね」
「フォッフォッフォッゆっくりしてゆくがよい」
などと言う会話が聞こえてきて、ちらりと嫌な予感がして振り返れば、
もさもさと蓄えた髭を撫でるロン毛の姿。
長い付き合いだからこその感じ方も、たしかにあるのかもしれないが。これで??

お天気アナウンサーにでもアドバイスされたのか、いつ降り出してもいいように持ってきたピンクの傘を拝殿の縁に控えめに立てかけて、ああでもやっぱり罰当たりかなァと地面に置いた彼女は、次に持っていた手提げをごそごそとあさりだした。
取り出したのは、片手に乗るくらいの小さな箱。

「あの、これ・・・よかったら食べてください」

持っていた煙管を横に置きその小さな箱を受け取る。
ぱかりと開いてみると猫の肉球より一回り大きい程度のチョコレートの球体が3つ、団子のように横並びに、それぞれ小さな紙の包みに乗って収まっていた。

「トリュフっていう、チョコレートのお菓子です」

「お渡しできてよかった!作ってみたんですけど・・お口に合うかどうか」
へにゃっ、とだらしなく口元をゆるめて、人見知りのない子猫はえへへと笑う。
そんな小娘を(間抜けな顔だなァと思いつつ)眺めていた視線を箱の中身のチョコ団子へ戻ししばらく眺めていれば、やがて娘が顔を引きつらせるのを感じた。

「・・・あ、もしかして・・甘いの、」
「嫌いじゃねェ」

嫌いじゃないが、どっかの糖分馬鹿みたく糖オンリーで平然としていられるほど味覚は狂っていない。
しかもチョコレートとか原料カカオと見せかけてほぼ砂糖の塊みたいなものだからね。トリュフとか言うチョコ団子ももとをただせば砂糖に砂糖をかけて砂糖でコーティングしたものにさらに砂糖を振りかけた様なものなのだ。
そんな事を考えていれば、顔に出ていたのか、どれだけ鮮明に事細かに顔に出ていたのか。

「良かったら、何か飲み物買って来ましょうか?」





「何故貴様があの娘から・・同じ攘夷浪士であるにもかかわらずこの贔屓、納得がいかん!」
「まァー俺はアレん前じゃ一般人通してるんでねェ」

その前にお前はヅラとすら思われていなかったのだが。
ギャァギャァうるさい後方を気にすることなく、箱に入っているチョコ団子を一粒頬張ってみる。
おや。思っていたほど甘ったるくもない、なかなか。
「さりげなくもらった団子を食べるんじゃない!」ばれたか。

「・・・なあ、ヅラぁ」

「ヅラじゃない、かつら・・・・」
「・・・・・・」




ぱうーーー





いつものように訂正を口にしようとしていた桂の動きが止まる。
桂は自分の目を疑った。今でこそ敵になってしまった、かつての戦友の身体が、うっすらと。


光ってる・・・・・




「テメーは・・・・女子からものをもらったりしたことって有るか?」
「えっ・・高杉?なんか・・」
「ないの?えーウソ、かわいそう」
「・・・・」

「どーしてもっていうなら、一つくれてやらねェ事もねえが?」
「は?!情けなどいらん!っていうか高杉オマエ、なんか光って・・」
「そうか?確かにあの女ァ幕府の犬だし?知らねェたァ言え過激派テロリストの首領に平気でしっぽ降ってくるような阿呆だが・・」
「・・・・」

「狙ってる男も多いしそんな中から俺にくれたってのは、まァ嬉しいが・・」

一体何が起こってるのか。急に光りだしたかと思いきや今度は鼻につく態度・・。
考えを巡らせる桂小太郎の頭に、一つの仮説が持ち上がった。もしや・・・



先ほどの娘、は、今は自分たちの敵である幕府に仕える身の女である。
仕えると言えど内容は単なる雑用仕事だが。
とにかく、酷く気に入っている娘から・・・しかもその娘の周りにはうるさい父親が多いのだ。やれヘッドハンティングしようとした程度でギャーギャーぎゃーぎゃー・・・そんな娘から、娘の方から、
もらえたという、わざわざ私に来てくれたという、優越感!!
光っているのは高杉の、優越感そのものなのではないか!!

「はッ・・まいったなァ、こんなに光ってちゃ、しばらくは派手なテロもできねェなァ」

思えば昔から厳つい男または厳つい女に囲まれまともなバレンタインなど過ごしてこなかったヤツが・・・、
この2月14日に突然(いや実際狙ってただろ)プレゼントされるというサプライズ。
それにより生まれた優越感によりこれまでため込んできたエネルギーがまさしく可視化するほどに放出されているということ・・・なのか!
そして俺は一体何を言っているのだろうか!


「久しぶりだな高杉ィ・・。全部聞かせてもらったぜ。俺もあの娘を狙う男の一人としてな・・・」
「!!」

ぽむ、と突然高杉の肩に置かれた手のひら。
そこにたたずんでいたのは、白髪テンパの侍だった。

彼もまた、攘夷戦争時代にともに戦場を駆け巡った戦友・・


「やべ、名前出てこねェ・・・」
「銀さんだよ!!!白夜叉!ここじゃ出番少ないけども一応主人公!!」

死んだ魚の目が、高杉バルス状態に目くらましを食らいながらも必死に叫んだ。



「へぇぇぇ〜〜、お前から「義理で」もらったんだァ〜〜」
しかも食ってるし?まあ?別に?アイツが誰に渡そうがカンケーねーけどね?
俺も貰える"予定"だし?アイツと知り合ってずいぶん経つからなァ〜まぁもらえて当然鴨っていうか?

「へェ、そいつァ果たして"光る"ほどか、楽しみだなァ」
「黙れ。言っとくけどお前のソレは「この醜い豚が」ってののしられてるだけだから!トリュフだけに!」
「舐めてんじゃねーぞ。そこの馬鹿じゃあるまいに、それくらいのでたらめ俺が分からねェとでも?」
「やめんか二人とも!そして俺は馬鹿じゃない桂だ!」
「分かってんじゃねーか」
「舐めるな。それくらい俺が分からないとでも?」
「舐められてんのオメーだよ」

ぱうーー、と淡い紫の光を放ちながら、不敵な笑みで余裕の表情を見せる高杉。
シリーズ中わずか数話という登場回数にもかかわらず、なんという強気・・!
屯所で働く雑用娘の愛によってこんなにも変わるとは。

「・・・ま、俺のはきちんとラッピングしてあったがな」
「なにっ」
今の高杉は優越感と言うパワーを得て高杉を超えた高杉・・・そう、


超高杉だ!!

「コイツは何を言っているんだ」
「むかつくな締め上げろ」
「ギャァァァァァァ」



「待ってぇぇぇぇぇえええ!!」


ふと、上がった甲高い声に、3人の動きがぴたりと止まる。
ぜいぜいと息を乱しながら、ギュッと目を瞑って全速力で駆けてくるのは、噂の彼女、その人だった。
ぱたぱたと駆けよってきたは脇目も振らず高杉のもとへ。
彼の持ったチョコレートの箱の上から、ぎゅうっと両手でその手を包まれる。

「はぁ、はぁ・・・あのっ、わたし、チョコ・・・たっ、食べられました・・?」


ぱうーーー!!

「キャッ!」


刹那まばゆく光りだす高杉。すさまじい優越感だ。
息を乱しながら真っ赤になって上目使い。今の顔めっさぐっと来た。
チョコ?味か?わざわざ聞くことでもないだろう・・・悪くなかったに決まっている。
そうだ、どうせならウチの奴らにも食わせてやりてェな、良かったら作りに来てくれねェか・・って、
ちょっと露骨だったかな?ねえ露骨だった?ねえ
ぱぱうぱうぱうー!
「お前ソレ何の効果音かわかって言ってんの?!」



「遅かったァァァ・・・・!!」


がっくりと膝をつく
遅かった??首を傾げる高杉に向かって、むすめはぺこぺことお辞儀を繰り返した。

「ごめんなさいごめんなさい!いまっ、今知ったんですけどなんか、昨日厨房で作ってる時に悪戯好きの隊士さんが、面白半分で材料をすりかえたらしくって・・・!」

「食べると体が光りだすムスカ星特産のムスカカオパウダーがッ・・・」
「・・・・・」


ぱうー


「・・・・・」





ぽむっ。

「ここ来る前に見てきたんだけど・・・屯所、ヤバかったぞ」

銀時の言葉に、高杉の額にじわりと嫌な汗が浮かんだ。








なぞっていうか、
誰!!!!ごめんなさい。
50%くらい改ざんされてる元ネタは、磯部磯兵衛物語です。
返ってきたピカ杉さんを無言で万斉さんが見つめてればいい。(・・晋助・・?)


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