カランカラーン。ドアに着けたベルが鳴る。
「いらっしゃいませー」
シックな木製のドアを開けて入って来た男に、カウンターでコーヒーカップを拭いていた女は「あ」と目を丸くした。







「なーに、冷やかしなら帰ってよ?」

入ってくるなり彼を象徴する独特なデザインの着物を脱いだ銀時は、カウンターに座りながら隣の椅子にそれを投げ置いた。
目の前にコトリとおかれた水のグラスには氷が3つ入っていて、ずれた拍子にカラン、と涼しげな音を立てる。
「ん」と一文字でお礼の意を伝えて、銀時は一気に飲み干した。

「いーじゃねーか、どーせ客なんていねぇんだ」

それにしてもあっちーね。今の季節でこれじゃ、一か月後二か月後が思いやられるぜ。
そう言いながらはふーと手団扇でパタパタ仰ぐ銀時に、は冷たい水で絞ったおしぼりを出してやった。



の店は大通りから一本中道に入ったところにある珈琲屋だ。
珈琲屋と言っても高級なブランド豆を使った本格的なコーヒーを味わうための店とはちょっと違う。
はお菓子を作るのが好きだ。そんでもってこれがなかなかうまい。
たくさん作って洋菓子屋のように並べる・・・とまではいかないまでも、手作りのスイーツを茶菓子に紅茶やコーヒーでのんびり時間を過ごそうとこの店に来る常連は少なくない。
一種の隠れ家的喫茶なのだ。

「へー。今日はイチゴのタルトかぁ、楽しみだなァ」

カウンターの隅に立てかけてある小さな黒板に書かれた「本日のすいーつ」を見やって銀時が言う。
はむすぅ、と眉にを寄せた。「食べるならお金とりますよ」

「今日は特別にご馳走してあげる〜とかねぇの」
「またそれですか。いつもそれじゃないですか。いい加減騙されませんからね」
「いーじゃん。今日は特別!」


と銀時は世で言う恋人どうしだ。
ふつーに二人で街に出かけることもあれば、夜を過ごしたことだってある。
しかし友達の延長線上に毛が生えたようなものだった。昼間はは仕事があるし、万事屋は万事屋で仕事は不定期収入は不安定。いや、安定的に低収入。
定収入だからと言っての店に糖分の補充をしにたかりに来られても困る。こっちだって決して繁盛してるというわけではないのだ。

「今日はアレだよ?俺たち会出会った記念日だよ?」
「残念でしたーそれは先月過ぎました」
「定春が子供産んだんだって」
「定春くんは男の子でしょ」
「クリスマス・・・・」
「さっき暑いとか言ってませんでしたっけ。季節が違い過ぎるだろ」

はぁ、はため息を吐き出した。
この男、何かにつけてただでケーキを食べたがる。なんて浅ましい・・・・・そんなに家計が苦しいのだろうか。
「今日、俺誕生日なんだ」なんて言われて大慌てで一番簡単に作れるケーキを焼きあげてプレゼントすれば、一週間後びっくりするくらい白々しく“本当”の誕生日を迎えた奴が再びおねだりをしてきた。「ごめん一週間間違えてたわ」自分の誕生日一週間間違える奴の気がしれない。明らかにわざとだ。
そのたびに店の商品をねだられてはたまらない。仮に彼氏だとしてもだ。
自分が焼いたスイーツを美味しそうに食べてくれる姿は嫌いじゃないのだけれども。

「なーそーいわずに大人しく祝っとけよォ。今日はすっげーめでてぇ日なんだぜ」
「あーはいはい、何がそんなにめでたいんですか」
「俺とお前の記念日だよ」
「まったくだらない記念日増やさないで下さいよ。今度は何の記念日ですか」

付き合いだした記念日は先週過ぎたし、初めてチューした記念日はもう少し先だし、彼の誕生日も私の誕生日もまだまだ遠い。
今まで作られたすべての記念日に今日が当てはまらないことを今一度確認して、はカウンター越しに銀時を促した。
祝うに値するような、納得できる記念日じゃなかったら、今日こそ絶対金をとってやる。



「結婚記念日」



「冗談で言ってねーからな」

すぃっ、と見つめあげられた瞳に、うかつにも視線をそらすタイミングを逃す。
にぃーっと口角を上げながら、銀髪の侍はへらりと笑った。「祝うに値するだろ?」

「これからは毎朝俺のためにイチゴパフェ作ってくださいっ」
「イヤ糖尿病になって死ぬから」
の作ったパフェで糖尿病になるなら俺我慢する!」
「糖分を我慢しろよ!」



ああ、無念。

どうやら今日もこの銀髪から代金を搾取するわけにはいかなさそうだ。






「それでさ、急で悪いんだが俺次の仕事でしばらくこの町離れにゃいかんのだわ」
「えっ」
「だから、さ・・・・・ついてこいよ。なぁに、楽な仕事じゃねーが、オメーに怪我は俺が絶対させねェ」
「銀さん・・・」
「仕事がてらだが、それで新婚旅行ってことで、どう?」
「どこ行くんですか?」
「えっとね、時系列的にこれから『吉原編』が始まるんだけど・・・」
「800円になりまーす!」
「ええっ、おーい!」





一周年記念時の拍手銀ちゃんver.
ブラウザをとじてでお戻りください。