真選組土方十四郎は本日も仕事に謹んでいた。
土方ら真選組が台頭してきてからは大方減ったものの、まだまだ攘夷志士らの拠点が多く存在する江戸は、場所によってはひどく治安が悪い。
全部が全部攘夷志士たちの仕業ではないだろう。最近は攘夷志士の犯行と見せかけた、攘夷志士ではない奴らの犯罪も増えている。

今回自分たちが請け負うことになったこのヤマだって、そう。
目の前には真っ赤になって動かなくなった一人の女。背中を何度も刃物で刺されている。
一人暮らしの若い娘。どうやら攘夷らとはコネクトがあった女のようなのだが・・・・突然家を襲撃され、一番奥の寝室の前の廊下で力尽きているところを発見された。
攘夷志士の犯行か、はたまた個人的な恨みを持った一般人の仕業か。
操作のためにいくつかの物品を鑑識方に回し、女の遺体はシートをかけて搬出させた。

はぁ・・・。土方は一つため息。別に人の死体を見ることが嫌なわけじゃない。
好きというわけでもないけれど。他人の死体を見て痛むような心など、とうの昔に捨ててしまった。
よって今の溜息は、純粋に、疲れである。
最近仕事が半端ない。



話は変わるが土方には女がいる。名前は
よくもまァ自分の女などという酔狂なものを嫌がらずにやってくれている物だと思う。
お察しの通り土方ら真選組は事件さえあれば休みだろうが出勤を強いられるような不安定な仕事だ。給料は安定してるけど。
その中でも自分は副長を務める男。上司も部下も問題児ばかりなので、余計に仕事がかさむ。結果会える時間なんてほとんど取れない。

一応自分は彼女に惚れているから、土方からしたらありがたいことこの上ない話なのだが。
ぱかり、と開いた携帯電話。表示される時刻と日付。
・・・・今日は、土方とが恋人になった記念日であった。

もちろんと言ってはアレだが、土方は誕生日や記念日に興味などない。大事なのはいまだ。過去を振り返るのは性に合わない。し、さして大切なものとも思わない。
が、は違うだろう。女は皆祝い事が好きな生き物。

『仕事終わってからでもいいから、一言電話してほしいなぁ・・』

そう言っていた姿が目に浮かぶ。
再び時刻を見る。23時40分。だいぶ遅い時間ではあるが・・・・・一応、まだ“今日”だ。
もしかしたらあの女の事だ、日付が変わるまで携帯の前で待機していることも想像に難しくなくて、土方は迷った末通話ボタンを押した。
今日は本当に疲れて今にも布団に倒れこみたいほどなのだが。一応。大切には思っているのだ。一応。
結局電話をかけなくても彼女は許してくれるのだが、こうやってたまに機嫌を取っておくのも悪くない、・・・し、土方も嫌ではない。
ワンコールもせずにつながった向こうから聞こえた声は、土方の聞きたい女のものとは違う声だった。

『おかけになった電話番号は、現在電波の届かないところにあるか、電源が切れているため・・・』

・・・・・・あのおんな・・・。
電話しろと要求しておいて電源を切らすとは。士道不覚悟だまったく。
そのまま無視して帰って寝てもいいのだが、なんとなく、本当になんとなく気が向いて、土方はの家へ足を向けて歩き出した。
こちとら疲れて朦朧としてんだよ。今日はこのままあいつの家に泊まろう。の家に着くころには日付も変わっていて、彼女も確実に夢の中だろうが、そんなの知るか、たたき起こしてやる・・。
そんなことを考えながらたどり着いた家の前で、土方は立ち尽くした。


扉が、半分開いている。

家の中は真っ暗だ。人ひとりいないような静けさの中、ざわざわと土方の胸がざわめく。
恐る恐る扉を開けてぎょっとする。目に飛び込んできたのは、明らかに荒らされた形跡のあるその玄関であった。

靴を脱ぐのも忘れてあわてて駆け上がる。キッチン、リビングも同様に荒らされていて、人の気配はない。
どくんどくんと心臓が嫌な音を出して暴れまわっている。昼に見た事件の部屋の様子と重なった。
この奥の、寝室の前で、が、
・・・・血まみれで倒れてるんじゃないか。
早く様子を確かめたいのに足がうまく動かない。腰の刀に手をかけて息を殺してなんとか寝室への廊下を進む。


寝室の前に、は倒れていなかった。
そのかわり。
くらりと傾きそうになる体を支えるのに必死になる。


寝室の前に、おびただしい血痕。

さーっと体中から血の気が引く。体温が急激に冷えていくのを土方は感じた。
その沈黙をさらに深いものにするようにけたたましく鳴り響く、懐の携帯電話。
目の前の惨劇から目をそらせずにゆっくりとその電話に出れば、受話器の向こうから焦ったような声が飛び込んできた。




『ごめんね土方さん!電源切れてた!今どこ?』





「あははははは。寝ぼけて彼女の家と事件現場間違えるとか、どんだけ仕事人間ですか」
「・・・・・・るせぇ・・」
「疲れてるんですよ」
「・・・そーだよ疲れてんだよ俺ァ。もう寝る」
「わっ」

そう言って、後ろからぎゅぅーと抱きしめていた体ごとベッドに横になれば、
腕の中の女はむぅ、といった後、それでもすぐに土方の体に腕を回してきてくれた。

このベッドは、血のにおいなんてしない。

「・・・一年」
「ん?」
「俺と一緒にいて、生きててくれて、・・ありがとな」
「人はそんなに簡単に死なないよう?」
「死ぬよ」

ぎゅぅ、と腕の力を強めてやれば、は苦しそうに「死ぬ死ぬ!苦しい死んじゃう!」ホレやっぱすぐ死ぬんじゃねェか。

「記念日の大切さがわかったようだね土方くん?」
「ハイハイそーだなつーわけで今夜は寝かせねェ」
「いや寝ようよ?!明日仕事でしょ」
「うっせぇ黙れよ。んでもって悟れよ」

一緒に居られるうちにとことん気のすむまでお前の声きいとかねーと、勿体ねぇだろ。
そんなことを耳元でささやけば、は真っ赤になって、
「私まだまだ生きてたいから、ちゃんと守ってね」と言ってしがみついてきた。


5分後、隣で爆睡する男に向かって不満げな顔をしながら、
ちゃっかり寝顔を写メる女がいたことは言うまでもない。





一周年記念時の拍手土方さんver.
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