朝の陽ざしの中、はゆっくりと目を覚ました。
あれだけないないと騒がれていた就職先も無事に見つかり、この春から張れて新社会人。
「お前に一人暮らしができるわけがない」なんて、お父さんやお母さん、おじいちゃんにおばあちゃんに妹に弟、はては近所のおばさんにまで心配されてしまったが、なんのことはない。
多少の環境の変化にくらい、ちゃぁーんと対応できるようにできているのだ、人間の体ってモンは。
お母さんが「え?アンタ・・・どうしちゃったの??」なんてきょどるくらいに、学生時代は寝坊のオンパレードだった私も、きちんと一人で朝起きて、お弁当を作って、見事に社会人として毎日出社していた。


・・・は  ず  な  の  に  。


おっっっぎゃぁぁあっぁぁぁぁああああああああああ!!!!

築7年の2階建てアパートが見事に揺れた。ご近所さんごめんなさい。
本当にごめんなさい。

目覚ましが鳴らなかったんです!!

飛び起きた拍子にケータイに刺さっていた充電器が勢いよく抜けた。
慌ただしく踏み出そうとした一歩が固くて角ばったものをふんずけて、奇声を上げながらその場に崩れ落ちる。
大丈夫だ、受け身はとった。イヤ何がだよ。全然大丈夫じゃない、なんでやねん。
見ればこないだ買ったばっかりのアイシャドウの表のケースがばっきりと割れていて、嫌でもそんなんに構っている時間的余裕なんぞないと、は洗面所へと駆け出した。

一人でも起きれるようになったとか、お弁当を自分で作るようになったとか、一人暮らしを始めていろいろな多少の変化は起これども、部屋の散らかし癖は治らない。
うわあああん、お母さん掃除しに来て。働き出して一週間でこの惨状ってどうよ。
つーか一人で起きれるようにすらなってない。今日のこれは目覚ましのせいだけど、いやまごうことなき目覚ましのせいすみません私のせい私のせいです完全に自業自得です遅刻だよォォォ!!
ぶあっしゃんと勢いよくむせながら顔を洗い、歯ブラシを口に突っ込んでクローゼットのドアを開け放つ。良かったまだキレイなカッターシャツ残ってた!
ボタンをはめるのもままならないままに再び洗面所に戻ってうがいをする。
濡れたままの手で髪をまとめ上げ、就職祝いにとお母さんが買ってくれたかんざしをくるりとひねった髪の上からざっくりと刺した。
・・・・・・ざっくりと頭までいった。超痛かった。


スーツは見る分にはかっこいいけれど、着る分には全然嫌だ。動きにくいし、似合わないし。
妹に「似合わない」と大声で爆笑された嫌な思い出がちらりと脳裏によみがえる。いやいや今はそんなことを思い出してブルーになってる暇でもないんだって。
慣れないヒールのパンプスをがんがんと容赦なく地面にぶつけて履いて家を飛び出す。
そして言わんこっちゃないヒールが慣れないとか言って間もないうちからかくんとバランスを崩した。
・・・・それがまた階段の途中だったりするんですよ。昭和のお笑い番組か私は!

「ほにゃぁぁぁぁぁぁあああああ!!」
「お?おおおおおお?!」
「ふぎゃぅんっっ!」

アトラクション映画のスタントマンよろしくなモーションで階段を転げ落ちた私は、運悪く階段の下にいた人を巻き込んで大惨事・・・・なんてことにはならずに、その人の胸にポテンと当たって止まった。いや、意外と力持ちだったその人がうまく受け止めてくれたのだ。

「ちょっとちょっとおねーさん?何やってんですかィ!?」

おもいっきりダイブして頭を埋めたその人の胸からは、なんていうんだろうほら、男の人のにおい?ってのがして、そんなお約束ラブコメディー的なシチュエーションにドキッとしなかったわけじゃないけれどもそれよりも今はハラハラのほうが勝った。
あの昭和コントザッツミーな一連の流れを見ず知らずの人に見られたとか、恥ずかし過ぎて死ねる。
恐る恐る顔を上げれば、しかしながらが顔を埋めていたのは見ず知らずの人というわけではなかった。

「あ、あ!あなたは・・・・あー、あー・・・ダメだ思い出せない」

こんな時にまで自分は抜けている。恥ずかしい。もういっそ恥ずかしいを通り越して申し訳ない。
あいにく人の顔と名前を覚えるのは小さいころからずーっと苦手だったのだ。
目の前にいたのは、がまだこちらに越してきて間もないころにたまたま道を教えてくれた、幕府警察の男だった。
なんとか組のなんとかさんって・・・・だめだ、あやふやですらない。

「この間お世話になった、あの、」
「総悟でさぁ」
「総悟?そんな名前だっけ??違うよ・・あ、思い出した、沖田くんだ」
「沖田総悟でさァ、違っちゃいねェよ」

あー、下の名前だったか。イヤ下の名前を言われたってこちとら知ってるわけないだろうが。
というか今はそれどころじゃない。沖田総悟くんには悪いけれども、

「ごめんなさい、今急いでるの!この間はありがとう。今さっきもありがとう!!」
「マテマテ、んなに急いでどーした。どっかお出かけですかィ」
「お出かけっつーか見て分かって!遅刻です遅刻!いや違う、会社です!」
「・・今日日曜日なのに??」
「・・・・・・・・・・・うえ?」

・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・!(ぽんっ)


日曜だった・・・・・・・!!!orz



・・・畜生、あと少し、あと少しのところで逆転できたのに・・!
栄光のかけ橋まであと2点だったのに・・・・っっ!
あと一本、あと一本、俺があそこでスリーポイントさえ決めていればっ・・!
俺が決めてさえいれば、俺たちは甲子園に行けたのにぃぃっ・・・!!

・・・的な高校バスケ夏引退試合に敗れたキャプテンのごとくその場に崩れ落ちたは、ただ今壮大ドキュメンタリー映画の主人公の気分だ。
そんなに目の前の男は冷静に切り返す。「甲子園は野球でさ」

「うわあああああああん!恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!」
「その今上げてる叫び声は恥ずかしくないんですかィ、まったく、いい大人がみっともねェ」

痛いところをグサグサと刺しながら、それでも一番痛いところは繰り返し刺して、「甲子園は野球でさ」わかってるわかってるそこが私も一番恥ずかしい。崩れ落ちたを無視でも見るかのように冷たく見下ろしていたその男は、はぁ、と溜息を吐いた。
「こっちも暇じゃないんでねィ、さっさと起きて、話聞いてもらってもいいですかィ」
休日の、こんな朝から絶賛ブルース・リーな(気分的にもアクション的にも)だった私はげんなりとそれを見つめ返す。なんですか。絶賛アクション大作な気分の私になんですか。殺人事件の犯人なら見てませんよ。
ヘタしたら大けがをするところだったのを助けてもらったとはいえ、はこの男に協力する気はあまり起きなかった。
協力しようにもここ数日は毎日会社と自宅の往復のみで特別変わったことなど身に覚えもないし、情報も持ってない。帰ったらもう疲れて寝ちゃうんだよ。
それに、そもそも先日道を教えてもらったときだって、彼に言われた道を突き進んだら、きれーに太陽の光が反射してきらきらと輝く海に出た。港だ。私は郵便局に行きたかったのに。


「一緒に映画でもどーですかィ。アンタどーせ休日も一人寂しく引きこもってんでしょう、さん」
「それ全然暇じゃないですかァァァ!!」


全身全霊でツッコんで、くるりと回れ右をしては自分の部屋へと戻るべくもと来た(転がってきた)階段を上っていく。
あれ、この前私名乗ったっけ?とか、なんで自分の勤め先の休みの日を知ってるんだ?とか、
嫌な予感が全身を駆け巡りきる前に、後ろから結構強めの力で肩をつかまれる。

あれ、なんか、サスペンスホラーの気分。






なんか、勢いで書いた謎なものですみません。
とりあえずリアルでこうならないように頑張ります・・・・。 ブラウザをとじてでお戻りください。